その4
酷く落ち込み、悲しい思いで美緖達は官舎への帰途をトボトボ歩いていた。
それはもう端から見ても分かるぐらいだった。
「あなた達、街に遊びに行ったのではなかったの?」
美緖達4人に後ろから声を掛けたのは和香だった。
和香はいるはずのない人間を見るかのようにびっくりしていた。
その後ろには、中隊指揮車の女性陣の面々、麻衣、千香、悦子、そして、中隊の事務仕事を取り仕切る宮下真奈伍長が立っていた。
宮下真奈伍長は21歳。
一般高校から軍の事務官試験をパスして、今年の4月から東京117中隊の事務官として着任。
中隊の事務手続き全般を取り仕切っている。
美緖達は和香達の方を振り向いたが、無言でうなだれているだけだった。
そんな美緖達を見て、和香は大いに同情した。
何か嫌な事があった事はすぐに分かったからだ。
「私達、これからお昼を食べに行くのだけど、一緒にどう?」
和香は美緖達にそう聞いた。
その誘いの言葉を聞いて美緖達はお互い顔を見合わせた。
食事という気分ではなかったからだ。
「行っくのだ!」
ただ美紅だけは和香の誘いに手を上げて素直に元気よく答えた。
ご飯という言葉にメンタルが急速に回復したようだった。
「それじゃあ、行きましょう」
和香はニッコリしてそう言った。
和香達一行は美緖達を追い越すような形で食堂に向かって歩き出した。
その後を、美紅がニコニコ顔で追った。
しかし、美緖・美佳・美希はその場で立ち竦んでいた。
美紅は3人が来ないのにすぐに気が付いて、立ち止まって振り返った。
「ご飯に行くのだ!みんな」
美紅は他の3人にそう呼び掛けた。
3人は美紅の呼び掛けに反応しなかった。
美紅ほどすぐにメンタルが回復する訳ではなかった。
美紅の声に、和香達一行も立ち止まり、美緖達の方を振り返った。
「ダメなのだ、ちゃんとご飯食べないといけないのだ」
反応がなかった3人の方に美紅はそう言いながら走り寄った。
それでも3人は反応がなかった。
しかし、美紅はそれでも諦める様子はなく、3人の後ろに回り込んだ。
「行くのだ!美緖ちゃん、美佳ちゃん、美希ちゃん」
美紅はそう言いながら3人を後ろから押し始めた。
これは美紅なりの気遣いだった。
その気遣いが分かった美緖・美佳・美希の3人は無言だったが、ゆっくりと歩き出した。
それを見た和香は安心した表情になった。
「行きましょうか」
和香はそう言うと、再び食堂へと向かい始めた。
その和香を追って、他の者も食堂へ向かった。