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その3

 人類と妖人との戦闘は既に半世紀以上続いていた。

 ここ数年で、3四半世紀に近付きつつあった。


 妖人の出現は日本全国で平均してみると、1日に1回程度の頻度だった。

 つまり、極端に多くはないが、日常的に起こる出来事になっていた。


 妖人は日本中の航空機、船舶などは破壊尽くした。

 その反面、核融合発電所や道路、鉄道などのインフラに攻撃を仕掛けることは無かった。

 それは軍需工場以外の生産施設に対しても同じだった。


 まるで、逃がさないが、人類が生き延びることが出来るように配慮がなされているようだった。


 兵器は銃や軍事用車両などの最小自衛のものしかなく、妖人に対してはほとんど無力だった。


 妖人の出現は自然災害が起きるような扱いだった。

 普段は日常生活を送り、妖人が現れたら避難するという感じだった。


 したがって、気にしない訳にはいかないが、完全に生活に支障を来す訳ではなかった。

 今のところ、日常生活は21世紀の日本とほとんど変わりがなかった。


 美緖達は休暇として街に遊びに出掛けていた。

 勿論、攻撃対象になっていない鉄道を使っていた。


 そして、移動中に気が付いたのだが、人生で初めて自分達だけで街に繰り出したのだった。


 また、鉄道の中で、気にはなっていたのだが、多くの視線を美緖は感じていた。


 最初は軍服のせいだと思っていた。

 軍服を着た人はそれほど多くはないが、途中何人かいた。

 しかし、他の軍人にはほとんど視線は集中していないようだった。


 駅を出て、街中を歩いて行くと、すれ違うたびにほとんどの人がこちらを向いているのに気が付いた。

 これで自分達が注目されていることを美緖達は確信した。


 そんな中、耐え切れなくなったのか、美希が他の3人に隠れるように後ろに回った。


「美希ちゃん、どうしたのだ?」

 美紅が美希の方を振り返って、美希の行動を尋ねてきた。


「視線が痛いのです」

 美希は美緖の服を掴んでいた。


「確かに見られているって感じよね」

 美緖は困った顔をして同意した。


「何かぁ、私達ぃ、変なんでしょうかぁ?」

 美佳は首を傾げてそう言った。


 美佳に言われて、美緖は自分の格好をチェックしてみたが、変な所は見当たらなかった。

 軍服もいつも通りに着ているし、余計な物を持っている訳ではなかった。

 他の3人にも指摘されていないので、顔に何かが付いているという訳でもなかった。


 4人は困った顔でお互い顔を見合わせるしかなかった。


「まあ、折角来たんだし、まずはあの店に入ってみない?」

 美緖は近くのオシャレそうな服が飾ってある店を指差した。


「いいですよぉ」

 美佳はすぐに同意した。


 美希は黙って頷いた。


 美紅は何も言わずに指差された店へとすんなり歩き出していた。


 その美紅の後を慌てて他の3人が追った。


 4人が店に入ると、店員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」

 店員は明るく愛想良い笑顔で美緖達に声を掛けてきた。


 しかし、美緖達を見るや否や、笑顔が引きつり、そそくさと奥へと引っ込んでいった。


 美緖達はそれを見て何だか寂しい気になった。


 美佳と美希も同じような顔をしていた。


 美紅だけは目の前にある服を次々に手に取ってみていた。

 しかし、やがて遠巻きに見ている店員や他の客たちに気付くと、服を手に取るのを止めてしまった。


 遠巻きに見ている人達はこちらをチラチラ見ながらヒソヒソやっていた。


 特戦隊員の軍服と一般兵の軍服は特に違いがなかったので、軍服から特戦隊員だと気付かれる事はまずなかった。


 ただし、同じ顔が4人、しかも、かなりの美少女が並んでいるとなると目立たない訳はなかった。


 特戦隊員はゲノム編集されて誕生したことを広く知られていた。

 また、年ごとに誕生する隊員達は全て同じ顔をしていると言う事も周知の事実だった。


 徴兵期間があり、一般市民でも男女問わずに軍に所属した経験がほとんどであった。

 したがって、美緖達のような特戦隊員達を間近に見た経験がある者も多いはずだった。


 しかし、軍内部でも特戦隊員達への差別が少なからずある事から、一般市民にも差別があって不思議ではなかった。


「出よっか……」

 美緖は店に居づらくなったので他の3人にそう言った。


 他の3人も美緖と同じ思いだったので、何も言わずに黙って頷いた。


 その後、2軒ほど店に入ったが、同じような対応だった。

 美緖達はその時点で心が折れてしまった。


「何か、喉渇いのだ……」

 いつも元気な美紅が沈んだ声でそう言った。


「そうね……」

 美緖も同意した。


 だが、辺りにはカフェやレストランがあったが、とても入る勇気はなかった。


 仕方がなく、見つけた自販機でジュースを買うと、その場で飲む事にした。


 ただ、飲んでいる間も通行人にジロジロと異質物を見るように見られていた。


 美希が耐えられなくなったのか、美緖の服の裾を掴んだ。


「帰りましょうかぁ……」

 美希の様子を見て、美佳がやはり沈んだ声でそう言った。


 他の3人は黙って頷いた。


 そして、4人はまだジュースを飲みきってはなかったが、その場を離れて帰路についた。

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