その2
美緖達が官舎を出ようとすると、後ろから声を掛けられた。
「あれ?そんな格好して、休暇はどうしたの?」
声の主の方に美緖達は振り向くと、和香だった。
和香は美緖達と同じく軍服で書類ケースを片手にこちらに近付いてきた。
「これから出掛ける所ですが……」
美緖はちょっと遠慮がちに言った。
「軍服で?」
和香は怪訝そうな顔をした。
「隊長さん、私達、着ていく服がないので、この格好で遊びに行く事になったのだ」
美紅はいつもの屈託のない笑顔でそう答えた。
聞こえてきた言葉の内容は悲惨だったのだが、美紅の笑顔のお陰で、和香は混乱した。
あれ?笑顔になる所なのと和香は思っていた。
だが、他の3人に目を向けると、ばつの悪そうな表情をしていたので、和香は自分の解釈が間違っていない事を確信した。
「えっと……、それじゃあ、まずは服を買いに行くのね?」
和香は何とも言えない不思議な感じになっていた。
「そういう事になります」
美緖は恥じ入る感じになっていた。
和香はそんな美緖を見て、美佳、美希、美紅と視線を移していった。
オシャレもしたい年頃だろうに……と思いながら、和香は不憫に思った。
妙な沈黙が流れてしまったので、美緖・美佳・美希は居心地が悪い思いをしていた。
美紅は相変わらずのマイペースだったが。
「そうね」
和香は納得したようにそう言った。
その言葉を聞いて、美緖・美佳・美希は何が?と言う顔をした。
「あなた達、今日一日、目一杯楽しんで来なさい」
和香は力一杯力説するような感じだった。
そう言われて、美緖・美佳・美希は益々困った顔になった。
「わっかたのだ!」
美紅は3人と違って、素直に和香にそう答えた。
和香はそんな美紅を見て、うんうんと頷いてしみじみとしていた。
そんな和香を見て、美緖・美佳・美希は自分達を応援してくれているんだとようやく思えた。
「それでは、気を付けて行ってきなさい」
和香は美緖達にそう言った。
「行ってきます」
美緖達は口々にそう言うと、官舎を後にした。
その光景を和香は温かい目で見守ったのであった。