八話
それは突然だった。いつも通り足りないものを創造して、終わったら体を動かして暇を持て余しているときだった。北側の門の監視所が黄色く光り、サイレンが鳴り響いた。
「なっなんだ!?急に光ったぞ!」
「落ち着け!前にも説明があっただろう?あれは何かあったことを知らせる合図だって。」
「何かあったのか!?それはやばいやつなんじゃないのか!?」
「でも黄色だからそこまでのことではないはずだぞ。」
突然の音と光に国民たちは混乱していた。
その中の一人が俺を見つけて聞いてくる。
「テノン様!何があったんですか!?」
「落ち着けって。さっきの奴が言った通り黄色はそこまで緊急ではない。」
ガヤガヤガヤガヤ
混乱してきているな……。まぁそれは警備部の連中に任せておくか。
「それじゃあもういいか?俺は壁まで行かないといけないからな。」
「おっお気をつけて!」
俺は『身体能力向上』を付与して、急いで壁に走る。
----------
着くとそこにはガントを含めた警備部の連中がいた。装備の多さとトラックが側にあることから偵察中に何かあったのだろう。
「何があったんだ?ゾンビか?人か?」
「おうテノン様じゃねぇですか。えぇ実はこいつらが偵察中に人間に襲われたらしいんですわ。しかもその人間ってのがいつぞやのあの連中なんですわ。詳細をテノン様に教えてやれ。」
「僕たちが偵察に出ていたら突然近くの森から奴らが現れてきて矢を放ってきたんです。幸い全員トラックの中だったんで被害はありませんでした。」
ちっあの連中か……。手を出すなとは釘を刺していたがついにやりやがったか。
「どうしますか?確か奴らの住処は特定済みって話でしたが。」
「今回は実害がないから放置。でも次に何かしたらマジで許さん。」
「では放置ということですか。俺としては今すぐ奴らを叩き潰してやりてぇんですが、一応偵察に出るやつには警戒を強めるように伝えておきますわ。」
ガントも今回のことは相当頭にきてるらしい。
「あぁ頼むわ。お前らも襲われて大変だったろう。ガントー。こいつの偵察チームには明日一日休暇を与えてやってくれ。」
俺は偵察に出ていた男にそう言ってやった。怪我はなかったものの襲われたんだから相当疲労はたまっているだろうり
「わかりやした。お前らは明日ゆっくり休んどけ。」
「ありがとうございます!!」
とは言っても今のこの国に娯楽といえば酒と暇つぶし用に創造したトランプくらいだ。これは娯楽についても考えないとな。
「あと国民たちに事情の説明も頼む。これはマークが適任かな?」
「それでしたら俺が後で報告ついでにマークさんに伝えておきます。」
「任せだぞ。んじゃ解散〜。」
----------
そこは森の中を切り拓いて作られたコミュニティだ。およそ300人ほどの集団でこの世界のコミュニティの中では上位に入るであろう規模だ。
「頭!襲撃に失敗しました……。」
頭と呼ばれた男は目の前の男を殴る。
「ガハッ」
「奴らが外に出るときは数人程度だから簡単だって言ったのは誰だ!?ちっもしもあいつが来たらどうするんだ!」
「すっすいません。奴ら馬のない馬車に乗っていたんですが、その馬車がまさか矢を弾くなんて。」
さらに地面に座り込んでる男の腹に蹴りを入れる。
蹴られた男は気絶する。
「おい!こいつを連れてけ!!くそっこのままじゃあ本当にあいつが来ちまう……。何も出来ないまま俺らは殺されちまうのか?」
すると近くに控えていた男が声を掛ける。
「俺らが全員でかかればあんな奴なんてことないっすよ!頭はあいつに殺されかけたからびびっちまってるだけっすよ!頭と俺らにかかればあんな奴殺せますよ!」
「ほんとうか?でも今回は失敗したぞ?」
「それはあいつが無能なのと、そもそも人数が少ないんですよ!前回みたいに男全員で行って、あとはあの門のために破壊筒を作ればあんな見せかけの壁くらい簡単に破れますよ!それにあいつらは相当のお人好しらしくて次々と人々を保護してるとか。それなら俺たちもそれにつけ込んで今回ヘマしたやつの女を使うのはどうです?それが出来たらもっと簡単になりますよ!」
「そっそうだよな!へっ俺様にとっちゃあんなもの屁でもないぜ!」
先ほどとは打って変わって強気になる男。自分が一度死にかけた恐怖、認識不可能な遠距離攻撃。たった数ヶ月で忘れてしまうほどのバカだからこそ成せる技だ。
----------
「ふー今日も異常なしだな。」
俺は最近こっちに来たばかりだ。今回は監視業務で監視所に詰めている。
「どうだ?少しは慣れたか?」
俺より先にこっちに来ていて、今回はこいつが同じシフトのやつだ。
「おう、ここじゃあゾンビの危険なんてゼロだしな。それにこうやってお茶を飲みながら仕事を出来る余裕すらある。」
おれはコップを持ち上げながら言う。
本当にテノン様様だ。水に関してもテノン様のおかげで蛇口をひねると出てくるし、食料も生産部の連中だけで回るようになってきたらしく順調だと生産部にいる嫁と娘が言っていた。
「それに俺たちにはこんなすげー防具とこの銃。本当に生きてて良かったわ。」
「テノン様がここに国を興さなかったらどうなってたか。」
二人で笑いながら監視業務の時間を過ごしていく。
「ゾンビが出てきたな。片付けておくか。」
俺らの監視業務ではゾンビの殲滅も含まれている。見つけ次第即倒すというのが仕事だ。俺らは監視所の外に出る。
「当てれるか?結構離れてるぞ。」
「俺はお前よりも長くガントさんにしごかれてるんだよ。」
部門長のガントさんはとんでもなく訓練の時は厳しいが、それ以外の時は基本的にフレンドリーな人だ。夜になるとみんなで酒を飲んで馬鹿騒ぎしてカルラさんに怒られるのが最近の日課だったりもする。
「トリガーをマガジンにセットして、あとは銃口を向けて………よし当たった。」
視線の先では頭を撃ち抜かれたゾンビが倒れていた。
「さすがだな。結構離れていたのに一発でか。」
「あんくらいは出来て当然だって。んじゃとっと中に戻ろうぜ。風が強くて………ア?」
戻ろうとした時だった。突然壁の向こう側から矢が飛んできて、二人揃って矢が刺さってしまった。俺らはその時監視業務だったので防具をつけていなかった。そのため矢は俺は腕に。あいつは脚に刺さってしまった。
「ぐぉぉぉぉぉくそぉぉぉぉぉいてぇぇぇぇ!!」
俺は大声でうめき声をあげる。矢を使ってくるということは人間の敵襲か?一体誰が?
「くっそぉ……脚をやられちまった…。おい、お前監視所まで行けるか!?行って赤のボタンを押してきてくれ!俺は敵がどこか見ておく!」
俺は痛み堪えなんとか立ち上がる。あいつは脚をやられてるから動けないから俺が行くしかないだろう。痛みによる脂汗が額を伝って行くのを感じながら走る。俺が走っているとすぐ顔の側を矢が掠める。危なかった、少しでも横にずれていたら死んでたな……。
俺はなんとか監視所について、すぐさまマニュアル通り、サイレンのボタンと赤の緊急自体のボタンを押す。
「こっこれでいいはずだ………。」
俺は痛みでその場に気絶してしまった。
----------
ウーーーーーー
「赤のサイレンだ!!」
「国民の皆さん!今すぐ内政部の建物に避難してください!」
「そこ押さない!」「お母さんーー!」「ゾンビなのか!?」
警備部と内政部の者たちが避難誘導をしているが、なかなか大変な状態に陥っている。
「マークさん!もうめちゃくちゃです!」
内政部の一人が私に現状を報告する。
「落ち着きなさい。あなたたちが慌てるとみんなそれを見て慌てているんです。皆にそれを徹底させなさい。」
私は建物の外に立ち、大声で声をかける。
「国民の皆さん!落ち着いてください。現在テノン様と警備部が対処に当たられています。ですからどうか焦らずに落ち着いて行動してください。」
私の言葉と内政部の者たちが落ち着きを取り戻したことで多少混乱は収まったようですね。
「マークさん!内政部での受け入れは限界に近いです!」
人口増加の影響で内政部の建物で受け入れられる人数では足りなかったらしい。こちらについてもテノン様に報告しなくては。
「では、テノン様の御家にある避難所での受け入れを開始してください。何人か警備部の者たちも連れて行ってください。」
「わっわかりました!」
こちらは何とかなりそうですね。
あとはテノン様とガノンに任せるとしましょう。




