自由時間増やしたくて2
放課後、決戦のときが訪れた。
「先生」
智也は、所属している部活の顧問の教諭に退部届をそっと差し出す。
顧問は職員室の入り口付近の机に不機嫌そうに座っている。
「おい、何だこれは。ふざけてるのか」
「退部届です。私は今、きわめて真面目ですが」
「あん?」
にらみつける顧問。
顧問の高圧的な態度が智也は以前から苦手だった。きついことを言われる度に怖気づいてしまっていた。
しかし、今日の彼は引き下がるつもりは毛頭ない。それにここまでくれば、ミッションは完了したも同然だった。
「それでは、失礼します」
「おい!ちょ、待てよ!」
智也は挨拶だけ述べると、振り返り、そのまま駆け出した。
とあるアイドルグループメンバーのようなセリフが聞こえるが、気にすることはない。
職員室を出て、とにかく廊下を全力で走る。一先ず、校舎の外に出なくては。
心臓が狂乱し、息を荒げながら、なんとか下駄箱までたどり着いた。恐怖心に囚われているときは体力の減少も速い。
「大丈夫、か?」
後ろを振り返り確認すると、顧問は追いかけてきていないようだ。
下駄箱から靴を取り出し、外へ出る。
ふう、これでまたしても自由時間を増やすことになる。どうして部活なぞに入ってしまったのだろうか。
過去の自分が憎いと智也は思う。しかし、これでもう部活に行かなくていい。顧問は快く感じていないだろうが、部活に今後顔を出さなければ、勝ちだ。
もし、強制的に部活に連れていかれそうになっても、それはパワハラになる。然るべき機関に訴えればいいだろう。こちらにも部活をやめる権利はある。このご時世だ、いくらあの顧問といえども、そのような自分を不利にするような行動に出るとは思えない。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
思わず、高笑いをあげてしまう。
「はっはっはっはっはっ、オヨイヨイホイホイハー」
智也はこれからの放課後の自由時間のことを考えたら笑いが止まらなくなった。
体が嘘のように軽い。背中から天使の羽が生えたようだ。
吹奏楽部の演奏練習の音が聞こえてくる。
まるで、智也の勝利を祝福しているようだった。