第2 源実朝暗殺事件
本能寺の変の件は前回で終わりにして、源実朝暗殺事件について述べます。
私が無知なだけかもしれませんが、未だに黒幕が存在したとされる日本史上最大の暗殺事件なのではないか、と私は勘繰ってしまいます。
源実朝暗殺事件について、実行犯は、源実朝の甥、より細かく言うと源実朝の兄の源頼家の子、公暁なのはほぼ異論がないところだと思います。
ですが、その公暁の背後には、云々の黒幕の存在の主張が未だに絶えない暗殺事件でもあります。
私の知る限りですが、その黒幕として主に挙げられている存在は、下記の通りです。
1、北条義時。
2、三浦義村。
3.北条義時及び三浦義村等、鎌倉幕府御家人の総意。
4、後鳥羽上皇。
まず、北条義時ですが、バカも休み休み言え、というのが私の見解です。
北条義時黒幕説は、基本的に源実朝と公暁を共に殺すことで、源頼朝の子孫を抹殺し、北条家が幕府を牛耳ろうとした、というのが大前提です。
それが、本当なら、何故に北条義時は、源実朝の死後、鎌倉幕府の将軍にならなかったのでしょう?
それに対しては、北条家が将軍になるのには、血筋等の面で欠陥があり、成れなかったから、と反論されますが、それなら、いわゆる後釜の将軍を準備した上で、北条義時は、源実朝を暗殺すべきでしょう。
史実を調べる限り、源実朝が暗殺された後、北条義時は、源実朝の後釜になる後継の将軍選出、具体的には、いわゆる摂家将軍である藤原頼経選出に多大な苦労をしたようにしか思えません。
そのあたりも、わざと後鳥羽上皇を油断させて、承久の乱を起こさせるための北条義時による謀略だ、とまで言われては、凄い謀略家にも程がありますね、北条義時は神様並みの予知能力の持ち主ですね、と私は冷笑しながら言わざるを得ません。
そんなに何もかも先が読める人間がこの世にいるものでしょうか。
三浦義村説にも重大な難点があります。
確かに公暁の乳母の夫が、三浦義村という縁があり、更に、北条義時が殺された場合、鎌倉幕府を握ることが出来る最有力者は、三浦義村です。
そう言ったことから考えれば、動機は充分にありそうです。
しかし、しかしです。
その前に行われた、いわゆる和田合戦で和田義盛を裏切り、北条義時に味方したのは誰でしょう?
また、この後の承久の乱でも、実弟の三浦胤義の誘いを蹴って、北条義時に味方したのは誰でしょう?
そういったことから考えると、三浦義村が、この時だけ野心を露わにして云々、と言われると、それは勘繰り過ぎもいい所では、と私には思われてならないのです。
また、本当に三浦義村が背後にいたのなら、北条義時は、それを理由に三浦義村を粛清するのが筋ではないでしょうか?
和田義盛等、北条義時は、疑惑がある段階でも難癖をつけて、粛清を必要とあらばしているのです。
三浦義村には北条義時が温情を掛けたのだ、というのは、私には変に思われてなりません。
そういった疑問等から、黒幕として北条義時と三浦義村が結託していた、または、後鳥羽上皇が黒幕だ、という私から見れば結論ありきの珍説が出てくる気がします。
私としては、当時、いわゆる鎌倉幕府、北条氏と朝廷が、そもそも対立関係にあった、というのが後述しますが、おかしいのでは、と思われてなりません。
その論拠ですが、まず、源頼朝の死後、その娘である乙姫の入内を、鎌倉幕府、つまり北条氏はそのまま進めているのです。
結果的には源頼朝の死後、後を追う様に乙姫が病死したことから、それは実りませんでした。
それに、源実朝の後継者、養子に皇族を迎えようとする工作に、北条政子自ら、京に赴く等、北条氏が反対していたとは思えないのです。
これらのことを素直に考えると、少なくとも北条氏の側からは、朝廷を敵視していたとは、私にはとても思えないのです。
単純に公暁が、このままでは源実朝の養子に皇族が迎えられ、自分が俗世に戻れることは無くなる。
皇族が源実朝の養子になる前の今ならば、源頼朝の孫として、源実朝の死後に自分が将軍になって、天下を取れる可能性がある。
それに、源実朝と北条義時を殺せば、自分の乳母の夫の三浦義村は、当然に自分の味方になるだろう。
そうなったら、自分が当然に将軍に即位できる。
そんな甘い考えから公暁は、源実朝暗殺の単独犯行を起こした、と考えて、特に矛盾はない、と私には思えてなりません。
大体、暗殺事件なり、殺人事件なりを起こす人間で、起こす前に自分が捕まるとか、失敗するとかまで考えが回るような人間は、そんなことは基本的にしないと私には思えます。
他人なら失敗するかもしれないが、自分ならば暗殺なり殺人なりに成功して、その後も全てが上手くいくだろう、と考えるから、暗殺犯や殺人犯は、犯行を決行するのではないでしょうか。
そんなふうに犯罪を犯す人の考えまで推測していくならば、尚更、源実朝暗殺事件については、公暁の単独犯行で、黒幕は不在と私には思えるのです。
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