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 目が覚めた。

 窓の外はもう明るい。朝だ。

 昨夜は確か……いかん、思い出してはいけない、恥ずかしくなる。

 ミラはもういなかった。朝早く出て行ったようだ。

 ふと机の上に書き置きがあるのを見つける。

『ありがとう。昨日はごめんね。とりあえず御礼のポイントは受け取って!』


 は?

 俺はすぐに『残高』を確認した。

 昨日の夜より3000ポイント増えている。

 ……あの馬鹿野郎。

 すぐに着替えて追いかけないとな。


 支度を済ませて鍵を返し、クジラ亭を出る。

 ミラの防具屋は比較的近い。

 俺はダッシュで店に向かった。


「いらっしゃ……あ!」

 ミラは俺を見るなり、カウンターの裏に隠れた。バレバレだっての。

「ミラ、聞かせてもらおうか?」

「あー……はい」

 ミラは叱られる前の子供のように肩を落としてカウンターから出てきた。耳まで伏せている。


 申し訳なさそうにミラは口を開いた。

「あのう……発情期、でして……」

 ああ、獣人にもそういうのあるんだ。

「それは、うん、俺もミラは嫌いじゃないし、全然構わないよ、問題はそこじゃ……」

「じゃあ問題なかったね!」

「大ありだわい!」

 笑顔に戻るミラに釘をさす。

「俺みたいなおっさん、そんな大事な相手に決めるな!」

 顔が赤いのが自分でもわかる。

 そういうとミラはきょとんとした顔で、

「若いじゃん。死んだ歳でいうなら、あたし130歳超えてたのよ? 何よりシロウ、あなたが好みだったからね」

 俺の顔が限界になりそうだ。

「それにこんな事にポイントを使うな!」

 何より問題はそこだった。

「むしろ俺が払うべきじゃないのか、こういう時は」

「それは違う。僕が誘った訳だし」

 真顔でそう言われて面食らう。

「そこは無理にしてもらったんだから、対価は払うべきだよ」

 ミラは少し寂しそうな笑顔でそう言った。


「ダメだ。それはいけない。俺も……嬉しかった。だからこれは返す」

 半ば無理矢理気味にポイントを返した。

「でも……」

「だったら今度、返してくれ。ポイントじゃなくて、気持ちで。『約束』だ」

「優しいね、シロウ。『プロミス』」

 ミラは少し涙目になっていた。

 2人を青い光が包んだ。


「じゃあ俺は行くよ」

 ミラにそういうと防具屋を後にした。

「本当にありがとう、シロウ!」

 ミラはいつまでもさっきとは違う、とても嬉しそうな笑顔で手を振っていた。

 ありがとう、はこっちのセリフなのにな。


 さて。

 なんか調子が狂ったが、今日も塔の探索がメインだ。

 とりあえず目指すのは初級者レベル10。出来れば2階にも行ってみたい。

 今日のノルマはスライム12匹以上だ!

 そう自分に言い聞かせて塔へと向かって歩いた。


 何とかかんとか、4匹目のスライムを真っ二つに切り裂いたところで、呼吸調整で座り込む。

 ……へたり込むの方が正しいかもしれない。

 まだ戦闘時の息遣いがよくわかっていない。

 間合いは何となく読めてきたが、不規則なスライムの動きに対応できない時がある。

 課題はまだ多いが、どうやらレベルは1つまた上がったようだ。

 ……よし、次だ。

 深く息を吐き、立ち上がる。

 あと8匹、まだ先は長い。


 塔から出ると、まだ外は明るかった。

 ノルマ達成の充実感はたまらない。

 真上には太陽が無いことから、昼を過ぎたところだろうか?

 今回の戦利品はスライムオイル1個と水の水晶12個。

 俺は例の焼き鳥をまた買って、それをほうばりながら、次の行動について考える。

 職業変更場に行っても転職にはまだ早いし、組合に行ってクエスト見てみるか。


 組合は相変わらず人で賑わっている。

 掲示板に目を移す。

 特に目立ったクエストは無いな。

 他にやる事もないし、軽く飲んで行こうか?


 テーブルに着きウェイターを呼ぶ。

「注文ですか?」

 ウェイターはトカゲのような獣人だ。ゲームとかのイメージではリザードマンだな。

「ビールのようなものはあるか?」

「エールなら」

「それを頼む。あと簡単なツマミを」

「わかりました」


 しばらくすると小さい樽のような木でできたジョッキに入ったエールと、何か野菜の漬物、ソーセージのようなものが来た。

 エールを一口飲む。

 口の中を独特の苦味と炭酸が襲いかかる。

 美味い。久しぶりのこの味だ。

 しかもここのはとてもフルーティで、生前飲んでいた発泡酒とは比べ物にならない。

 その勢いで漬物をつまむ。

 浅漬けだな、塩がよく効いてサッパリとしている。キュウリのような味だ。

 エールで流し込む。これはクセになる。

 続けてソーセージ。こちらは皮がパリッと焼き上がっていて美味い。脂が口の中にひろがる。贅沢を言えばケチャップとマスタードが欲しいな。


 3杯目のエールを開けたあたりで、組合から出た。

 軽く視界がぼやけるぐらいの酔い加減。とても良い気分だ。

 このまま今日は風呂を済ませて寝よう。

 俺はクジラ亭に向かい歩き始めた。


 いつものように宿を取り、いつもの部屋で気を休める。

 なんか長い1日だった……振り返るだけでかなり濃いな……

 特にミラがあんな感じだったとは思わなかったな……


 さあ、明日も早い、さっさと休もう。

 俺はベッドに潜り込む。

 記憶が無くなるまでの時間はそんなに長くはなかった。

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