エンカウント
6
スライム。
イメージしてるゲームのかわいい奴なんかじゃない。
丸いのは丸いが、色が紺色で濁っている。
敵だとはわかるので、腰につけた剣を抜き、構える。
これでこいつが人間です、ってなれば即地獄行きなんだよな。など、つまらない事を考えてると、目標としたスライムがこちらへ寄ってきた。
ゆっくりとしたスピードだと思った次の瞬間、視界から消える。
上から来る!
反応が遅れ、スライムの体当たりを顔面に受けてしまう。
俺は仰け反り、それでも剣を適当に振った。
軽く一撃当たった感覚があったが、浅い。
態勢を立て直すために三歩下がり、いつのまにか止めていた息を吐いた。
スライムはダメージを感じさせない動きをしている。
まあ、弱った動きがどういうものかもわからないが。
エンカウントしてからどれぐらい経ったのだろう。数分か、数時間か。
俺の上段からの斬りかかりをスライムは左に避ける。
これで何度斬りかかったかなんて覚えていない。
逆に体当たりは4回食らった。
最初の顔面、腹に3発だ。
ダメージは大したことは無いが、そろそろ呼吸がやばい。
剣を振るたびに力が入る。その時に息を止めているため、かなり呼吸が苦しい。
深く息を2回吐く。
呼吸は吐くのを意識した方が楽だというのを聞いた事があったが、本当のようだ。
いい加減に決めないとまずいな。
一か八か、剣を中段の構えから、バットを持つように半身に構える。
スライムは俺の左脇腹を狙い体当たりしてきた。狙い通り。
「それを待ってたんだよ!」
俺は、半歩左斜め前に進み、剣を振る。
内角低めのストレート、フルスイングだ!
スライムはスイングの威力で2つに分かれ、消えた。
高校3年間、野球に費やした時間は無駄じゃなかったな。
もちろん強豪校でも何でもない、名も知られていない弱小校だったけど。
息を整えて、スライムの居た場所を見る。魔物は倒すと綺麗に消えるんだな。
更によく見ると、何かが落ちていた。綺麗な水色の……ガラス玉?
気になるので『鑑定』を使い調べてみた。
俺は水の水晶、を手に入れたようだ。
「何に使うんだこれ?」
後で誰かに聞けばわかるか……
俺は『収納』を唱え、そこに水晶を放り込んだ。
次を連続で相手にするのは少しやばめか。
床に座り込み、少し休憩する事にした。
塔内に走る風が気持ちいい。
久々に運動したな。
2年はベッドに縛り付けられていたから、運動したという事実だけで充実感が凄い。
ふと上を見上げる。
天井は見えない程に高い。
今、外はどれぐらいの時間が経っているんだろうか?
昼までまだ時間はありそうだ。
もう1戦行ってみるか。
そう思って立ち上がる。
幾分か体力が戻っている感じがした。
行けそうだな。
手のひらを握ったり広げたりしながら、握力の落ちていない事を確かめた。
2匹目はすぐに見つかった。
『鑑定』結果も同じ、スライムだ。
ならばさっきの手を使おうか。
……しかし今度はこちらにまだ気がついてない様子だ。こちらに近寄る気配がない。
チャンスだ。
ゆっくりと近付きながら、剣を構え、思いっきり振り下ろした。
縦に真っ二つになり、スライムは消えた。
後に残るのは水の水晶。
それと液体入りの小瓶だった。
さっきは落とさなかったけど、何だろう?
早速、『鑑定』を使う。
スライムオイル、らしい。
アイテム鑑定には名前だけで詳しい効果等は出ないんだろうか?
これも、水晶と一緒に『収納』した。
それから3回程スライムと戦い、入口へと戻る。戦利品は水晶5個と、オイルは1個だ。
そろそろ昼メシの時間だろう。
何を食べようか?そもそも料理の名前と実物が一致しないし、味がわからないんだよなあ……
入口は相変わらず人が多かった。
そこにフワッとなにか美味そうな匂いが漂ってきた。
これは、焼き鳥か?
釣られるように匂いの方へ引き寄せられた。
匂いの先には、屋台のような、屋台にしてはもっとしっかりとした店があった。
そこには、犬型の獣人が丁寧にうちわで串焼きを扇いでいた。
「ララニー鳥の串焼き、15ポイントだよ」
近寄ると獣人はそう言った。
150円ぐらいか。高くはないな。
ララニー鳥がよくわからないが、ニワトリと大差ないだろう。
「3本くれないか?」
「わかった、45ポイントだ」
支払いを済ませると、焼いていた串をもう一度タレに付けて焼く。ニンニクのような匂いがたまらない。
焼き終えた串を、小さな紙袋に入れて渡してくれた。
「お待ちどう様。お客さん、新人かい?」
「ああ、そうなんだ。何か教えてくれないか?」
「そうだな……組合には行ったかい?」
「組合?」
「そう。塔の近くにある神殿みたいな建物さ。そこにはクエストなんかも受注できるから、塔で稼ぐのがより効率的になるぞ」
「そうか、ありがとう」
これ以上聞くと商売の邪魔になると思い、その場を退散する。
何より串が美味そうで早く食いたいんだ。
いつもありがとうございます。