防具屋ミラ
4
大通りを歩く。
沢山の人が行き交っている。
よく見たら、人間だけでは無いな。
不思議とそれを当たり前に眺めた。
だが、いきなり話しかけるのも、失礼だし、ジロジロ見るのも、な。
あまり気にせずに、とりあえず塔を目指しながら進んでいった。
ふと、右手の方に防具屋が見つかった。
鎧がディスプレイしてあるので、すぐにわかった。
俺は迷わず防具屋へ入っていった。
「いらっしゃい! お、新人さんだね? とりあえず服を選んでくれよ。どんなのがいい?」
店に入るなり、ショートカットのツリ目の女の子がそう言った。
今着ているのはスーツだからなあ……そうだな、言う通りにしようか。
「そうだな、動きやすいのを頼んでいいか?」
「了解! ちょっと待ってくれよ!」
そう言って彼女はクルリと服の方へ向かった。
……ん?尻尾?
よく見れば長い猫のような尻尾が彼女には生えている。更によく見れば、頭にも猫のような耳が。
さっきも通りでみたな……ついでに聞いてみようかな。
視線に気がついた店員は、笑顔でふりむく。
「なんだい? やっぱお客さんの世界だと獣人は珍しいかい?」
「ああ、初めて見たよ。俺はシロウ。よく見ても良いかな?」
「僕はミラだよ。良いよ。ただ尻尾は触らないでくれよ?」
マジマジと耳や尻尾を見た。本当に生えてるんだ……
「あんまり見られると照れるなあ」
おっと……そう言われて半歩下がる。
……ん?
「ミラさんは……」
「ミラで良いよ、シロウ」
「そっか。ミラは女なのか?」
ミラは大袈裟に態勢を崩した。
「どう見たって僕は女だろ!」
尻尾をピンと立ててミラは怒ったふりをしている。……可愛いな。
「すまなかった。お詫びと言っては何だが、この世界の情報を売ってくれないか? そうだな、防具代に50ポイント上乗せでどうだい?」
タクミに聞いてない事も聞けるかもしれないし、詫びにもなる。一石二鳥だ。
「いいよ。まあ『プロミス』も要らないよねー?」
……ん?
今、『プロミス』って言ったな。
聞き間違いか?
「今、『プロミス』って言ったか? 『約束』では無いのか?」
「ああ、簡単な事は教えてもらってるんだね。そうだよ、呪文は種族によって違うんだ。でも僕が『約束』って言っても発動するし、シロウが『プロミス』って言っても大丈夫だからね。大きな違いは無いよ、言いやすい方を使うといいよ」
そうなのか。咄嗟の時にどちらが出ても大丈夫なのは助かるな。
「あ、これとかどうかな、ちょっと着てみてよ」
「あ、ああ」
渡してきた服を持ち、試着室らしきものの中へ入る。
服の素材は生前のものと変わらない感じ、少し柔らかいか。
色合いは薄い茶色か。問題ないな。
着ていたスーツを脱いでいく。
「着ていたスーツは下取りするよ。現世の物は価値が高いんだよ。どうする?」
「ああ、もう着ないし頼むよ」
「了解だよ。着心地はどうだい? サイズは大きめにしといたけど」
新しい服に着替えた。
不思議と体が軽い。
「一応その服は筋力アップの効果があるんだ。体が軽いだろ?」
「服にはそんな効果があるのか?」
「そうだよ。他にも知力アップとか、スキル効果アップとかもあるよ。『鑑定』でわかるからね」
着替え終わって試着室を出る。
「うん、似合ってるよ!」
ミラが笑顔で迎えてくれた。
「これにするよ。あと、身体を守るものはあるかい?」
「そうだね……まあ、皮鎧と盾かな。ちょっと待ってね」
ミラは店の奥に行った。
飾ってある鉄鎧はダメなのかな?
しばらくすると両手に防具を抱えてミラが出てきた。
「付け方は簡単だからすぐに慣れるよ。こことここを留めて……」
ごそごそと鎧を着せてくれるミラ。
ちょっと恥ずかしいな。
「これでよし。うん、かっこいいよ!」
思ったよりも動きやすい。
これも装備の効果なのかな。
「これにも筋力アップが付いてる。あと敏捷アップもね」
少し素早く動けるのは助かるな。
「あとは軽い盾を一つ。気休めだけどね」
ミラは笑顔でそう言った。
「で、他に聞きたい事は何だい?」
「何だろう?」
また大袈裟にミラは態勢を崩した。
「そうか、新人だもんね。わからないことがわからない、か。なら、さっきの情報代はいらないよ。また買いに来てくれたらそれで良いや!」
「色々すまないな。じゃあこれのお代は幾らになるんだ?」
「スーツが2000買取の、防具代3000、しめて1000ポイントでいいよ」
俺はタクミに教えてもらった方法で、ミラにポイントを支払った。
「ところでシロウ、今日泊まる場所は決まっているのかい?」
そういえば考えてなかった。
「まだ考えてないな」
「ならこの先のクジラ亭に泊まるといいよ。僕の名前を出せば一品ぐらい食事が良くなるんじゃないかな?」
にしし、と聞こえるような顔でミラはそう言った。
「ありがとう、行ってみるよ」
俺はミラに手を振り、クジラ亭へ向けて歩き出した。