立ち回り
19
この塔の景色もだいぶ慣れてきた。
前と違うのは、俺の職業とレベルだ。今日は色々と試す日にしよう。
まずは1階。スライム相手にどのように戦えるかを試してみよう。
早速1匹を見つける。
向こうはまだ気がついていないようだが、あえて正面から戦ってみよう。
俺はロングソードを鉄楯にあて音を立てる。
気がついたようだ。スライムはゆっくりと近付いてくる。独特の間合いに入り込み、飛び上がるように体当たりをしてきた。
流石に動きは見切っているので、それをあえて盾で受ける。少しの隙が出来たところにロングソードを振り下ろす。
スライムは一撃で真っ二つになり、消滅した。
明らかに攻撃力は上がっているのが実感できる。
更に1匹。
こいつは正面から攻撃を受けてみた。
鉄鎧のおかげもあり、衝撃もほぼない。
離れた瞬間を狙い、軽くコイツも倒した。
攻撃、防御の確認は終えた。俺は今、十分に強い。
油断は禁物だが、1階は流石に手応えが無さすぎるだろう。
俺は入口に戻り2階へ進む。
次はララニー鳥だ。力試しには丁度いい。
早々と見つけたので、同じ方法で挑発すると、簡単にのってきた。
初めの体当たりを鎧で受ける。衝撃は耐えられない程でもない。
間合いを取られる前に一撃。確かな手ごたえはあったが、倒しきれてない。
ララニー鳥は少しふらつきながらもスキルを使う為に更に間合いを取ろうとする。
それも読んでいた俺はそれを阻止するために前へ進み、剣を振り下ろした。
ララニー鳥相手だと、攻撃力の低下が実感出来る。
こいつを一撃で倒せるまで、2階を探索するのが良いだろう。
俺は次の獲物を探しに歩き始めた。
塔から出ると、もう夕方になっていた。
新しい力を手に入れるとやはり楽しい。そして時間を忘れてしまう。
でも無理はしないで進む。これだけは忘れずにやっていこう。
さあ、ミラが待ってる。帰ろうか。
「お、騎士様のお帰りだね」
帰るとミラがそう言って出迎えてくれた。
「どう? 新しい職業は。使いやすい?」
「ああ、防御重視なのはやっぱりいい。自分に合ってる気がするよ。新しい装備もしっくりきてる。ありがとう」
「そかそか、それは防具屋冥利に尽きるね。うん、それじゃ僕はご飯の準備をするね」
そう言いながら最後の閉店処理を行い台所へと向かうミラ。
俺はとりあえず寝室に行き防具を外し、『収納』した。
食事、風呂まで終えた俺たちは、軽く酒を飲みながら会話をする。
何となくミラの限度はわかってきたので、その前におひらきにする予定だ。
「結局今日はレベルいくつになったの?」
「そういえば……レベル3だな。少し上がり難い感じか?」
「そうだね、初級者よりは上がり難いね」
「その分、1匹の処理は早かったよ」
「騎士は防御してから、怯んだところに一撃、がソロの基本だね。パーティだと魔物の攻撃を集める盾になるよ。魔物の注意を集めるのが大変だね」
「ソロは大体そんな感じで戦ってるな。パーティの場合、どうやって注意を引けばいい?」
「多分『鉄壁』を使えるよね? 騎士のスキルには注意を引く効果があるから、最初はそれを使うと良いよ。レベル上がったらもっと色々スキル使えるようになるから、敵の攻撃の固定もしやすくなるよ」
「攻撃は?」
「強い攻撃や大きい回復とかは確かに注意を引きやすいから、それ以上に騎士はスキルを連発しないとね。『残時間』の呪文でスキルの再使用時間が表示出来るよ」
「なるほど。立ち回りはわかった。あとは、実践だな」
「そうだねー。んー……」
ミラは軽く頭をひねる。
「どうした?」
「いや、なんでもないよー」
その割に少しニヤけるミラ。何かたくらんでるのか?
まあいいや。俺は残りの酒を飲んだ。
裸で天井を見上げている。
隣には腕を枕にしてミラが寝ている。
なんか毎日、してるなあ……
全く嫌いじゃない、むしろ好きだし、ミラは大好きだから問題はないんだが、この幸せはそのうちバチが当たりそうで怖いな。
まあこの世界にいる事が罰ゲームの様なものだからあまり気にするのはやめよう。
それより今後の指針だけど……どうしようか、ポイント稼ぎ。それが問題だ。
今は細かく鶏肉とオイルで増えているが、これではやはり足りない。
どこかで大きく稼ぎたいが、レベルもまだまだ足りないから塔の上に行けない。
どこかでパーティを組む必要があるだろう。
その為、一度、練習しておかないとな……
俺はそこまで考えて、睡魔に襲われていった。
「おはよう、シロウ。朝ご飯出来てるよー!」
何時ものミラの声が聞こえる。
今日も元気だな、ミラは……ん?
俺は目を凝らしてもう一度見た。
ミラは……白いローブを着て俺を見ていた。
「今日は僕とパーティ組むよ!」
「……は?」