転職
18
塔の前は今日も賑やかだ。
物売りが冒険者達にアイテムを勧め交渉していたり、パーティを募集しているものもいる。
俺のレベルは9。転職まであと一歩だ。
今日は無理せずに2階でレベルを確認しながら戦う、これが目標だ。
転移装置で2階に行く。
前回の悪夢が蘇るが、不思議と前ほどの恐怖は感じない。
これが慣れというやつなのだろうか。
わからないが、油断はしないでおこう。
新しい武器である棍棒は、攻撃力としては下がるものの、ララニー鳥との対戦では抜群の相性を見せた。
今日だけで4本はヒットを打っている。まあ、ホームランを打ってしまうと戦利品をとるのにめんどくさい事になるが。
スライムにはロングソード、鳥には棍棒と使い分け、合計で10匹狩った所でレベルを確認すると、初級者レベルが10になっていた。カンストだ。ここからは敵に見つからないように戻ろう。
さっさと塔から出ると、職業変更場へ向かう。組合の隣にある、こちらも立派な建物だ。
中に入ると沢山の人が並んでいる。
そうか、レベルは据え置かれるという事だから、攻略によって変えているんだろう。
並ぼうと前をよく見ると、初級者用のカウンターもあるようだ。
そこには誰もいない。俺は迷わず向かった。
「あら、初級者がここに来るなんて久しぶりですね。ようこそ職業変更場へ。説明は聞きますか?」
カウンターの女性はそう言うと、メガネを軽く上げる。
その名前の通り、職業を変えられる場なんだろう。問題は、
「どんな職業があるのか、知りたい」
ということだ。
「職業には色々なものがあります。街人から商人、武器屋、防具屋、薬剤師などの生産系職業。戦士、盗賊、魔法使い、回復職などの戦闘職などです。こういったものになりたい、と仰っていただけましたら、それに近い職業を選んで、就けて差し上げます。なお、転職はここでしか行えないので注意をしてください。あと1点。どんな職に就かれましても、ひとつだけ違う職業のスキルを使う事が出来ます。最初でしたら、初級者の『手当て』を付けるのをお勧めします」
早口に、一気にそう言われ、少し慌てる。
そこまで考えてなかった。さて、どうしようか。
「余談ですが、もう初級者、には戻れませんので。まあカンストしてますし、戻る意味はありませんが」
「わかった。そうだな、無難に戦闘職、1人で戦えるやつを頼むよ。スキルは『手当て』で」
「それですと、防御の強い騎士。攻撃の強い重戦士。バランス型の戦士あたりがオススメです」
この中ならば、俺は、
「ならば騎士になりたい」
ミラを守れる強さが欲しい。
「わかりました」
受付は早口になにやら呪文を唱える。
俺の足元から頭の方まで光の輪が走る。
するとどうだろう。力がみなぎる。皮鎧が軽い。
「おめでとうございます。騎士の職業に変更致しました。初期スキルの『鉄壁』を覚えているはずです。こちらは一定時間、攻撃力を下げ、防御力が上がります。使用制限、その他のデメリット等はありません」
「どれぐらいの幅が出る?」
「攻撃力は約半分、防御力は1.5倍程と言われていますが、レベルや個人差によりますので正確なところはわかりません」
「なるほど、ありがとう。とりあえず戦ってみるよ」
「合わなければまたお越しください。今度はあちらに並ぶ事になりますが」
受付は長蛇の列を指差す。俺は軽く目眩がした。
「では、良い旅を」
「ありがとう」
俺は軽く頭を下げてその場を離れた。
さて、どうする?こういう場合のゲームの基本は何だっけ……?
そうだ、装備の充実だ。
武器はいいとして、防具をレベルアップさせよう。
俺はミラの元へ帰った。
「いらっしゃい……シロウかあ、おかえりー」
笑顔でミラは俺を迎えてくれた。
「早いじゃん。もう今日は終わり?」
「塔の探索はしないかな。それより防具を見繕って欲しい」
「まさか、転職出来たの!? おめでとう!」
まるで自分のことのように喜んでくれるミラを見て、少し照れる。
「ありがとう。騎士になってみた」
「そうかー。なら皮鎧は弱いね。鉄鎧なんかどうかな?」
「ああ、良さそうなのを頼む」
「うん、ならば取って置きの……鉄鎧+1にしよう」
ミラは『収納』から鎧を取り出す。
「上手くいった品は『収納』してるんだ。シロウにお祝いとしてプレゼントするね」
「いや、悪いだろ。受け取れないよ」
「受け取ってくれないの?」
ミラは泣くふりをしている。
「ありがとう、大事に使うよ」
その言葉にミラは笑顔で抱きついてきた。
ついでに鉄の盾を見繕ってもらい、この日の行動を終えた。
店を早めに締めて、夕食は外で食べる。
ミラの手料理も美味いが、オススメの店で食べる夕食も中々のものだった。
帰り道に、騎士になった理由を聞かれたので答えたら、
「もっとレベルを上げて、早く守ってね!」
と言われた。
一時どん底まで落ちたやる気がまた、復活したのは言うまでもない。
月は2つ、とても美しく輝いていた。