生きるとは
16
……しばらくうたた寝していたようだ。
気絶に近いかもしれない。
少し震えが落ち着いた。これなら歩ける。
よし、とりあえず、ミラに会いに行こう…….
弱みは見せたくないが、今、誰かに会いたい。
膝に力を入れて立ち上がった。
普段ならばそこまで遠くない道も、今日はとても遠く感じる。
脚が重い、体全体の力が抜けている。
賑やかな街と反比例して、また段々と気分が落ちていく。
やっと店に着くと、異変に気がついたミラが駆け寄ってきた。
「大丈夫なの? とりあえず中へ!」
「だ、大丈夫……大丈夫……」
「大丈夫じゃない! さあ早く!」
ミラは俺の肩を担ぎ、寝室へと運ぶ。
ベッドへと運ばれて、横にされた。
「何があったの? 無理には話さなくていいけど……」
ミラが心配そうに尋ねてくる。
「塔の2階で、デカイララニー鳥と戦って、負けた。死にはしなかったけど、死への恐怖が襲いかかってきて、身体の震えが止まらなくなったんだ……今もまた、だめだ……」
言い終わると同時ぐらいにまた身体が勝手に震えだす。脈拍が上がり、視界が狭くなりぼやけて見える。
「シロウ! 息を吸って! 2、3、4、止めて! 2、3、4、吐いて! 2、3、4、止めて! 2、3、4……」
ミラはカウントをしながら俺と呼吸を合わせるように促す。
段々と呼吸が楽になり、視界がクリアになって行く。脈も震えも落ち着いて行く。
「ゆっくり続けてね、シロウ。これはね『4カウント呼吸法』って言うんだよ。パニックになった時に今の感じで呼吸を繰り返すと、落ち着いて行くから。次も何かショックな事があったら試してみて」
ミラはそっと毛布を掛けた後、俺の手を握る。
「大丈夫? 落ち着いた?」
あれだけ焦っていたのが嘘みたいに今は落ち着いている。
「ああ、ありがとう。まだ頭が痛いけど、これぐらいなら大丈夫だよ」
「……よかった」
ミラは少し涙目になっている。
「心配かけて、ごめんな」
「いいんだよ、ゆっくり休んでね? ちょっと店じまいしてくるよ」
そう言ってミラは涙を拭い、店の方へ戻って行った。
心配かけてしまったなあ……
俺は目をつぶり、そのまま、意識がなくなっていった。
ひとまわり大きい、アイツ。変わらぬスピードでこちらへと飛んでくる。
今回は躱せない。
腹に嘴が刺さる。
大量の出血と同時にくる激しい痛み。
熱いものが込み上げ、堪らず嘔吐する。
身体が勢いでくの字に曲がり、その場に倒れこむ。
追撃とばかりに頭を脚で捕まれ、肩口に嘴がまた突き刺さる。
「ぐはっ!」
痛みで息が出来ない。
死ぬ……のか……
「はあ!!……はぁ……はぁ……」
荒い呼吸、大量の汗。嘴で抉られた傷は、無い……夢か……
周りを見渡す。
ここは、ミラの部屋か……
隣にミラが寝息をたてている。
良かった……俺は生きてる。
そう確認してまた、ベッドに倒れこんだ。
大丈夫、生きてるんだ。
翌朝、いつものように朝食を出してくれたミラ。余所余所しい所はない。
少し不思議に思う。あれだけ取り乱した俺を冷静に対処できるのは何故だ?
隠し事はあまり好きじゃない俺は、理由を聞いてみた。
「あー。僕も前は塔を攻略してたんだよ。そこではやっぱりパーティを組んだりする事もあったんだ。そこで無理する奴はやっぱり居てね、瀕死の仲間にそうやって助けてきたんだよ」
「なるほどね。昨日はありがとう」
「シロウだから余計に心配したよ。もう大丈夫ぽいね!」
「ああ、大丈夫だよ」
俺は軽く胸を張る。
「ところでアイツは何だ? 恐ろしく強かったが」
「多分、ユニークモンスターだね」
「ユニークモンスター?」
「そう、たまに現れる段違いに強いモンスターだよ。2階だから、ララニーラ鳥だと思うよ。今のシロウのレベルでは歯が立たないから、逃げた方がいい」
「わかった。見つからないようにするよ」
「うん、それがいいよ。ところで今日も塔に行くの?」
「正直、迷ってる」
「ならさ! 遊びに行こうよ!」
「え?」
ミラの突然の提案に、俺は軽く面食らう。
「一体どこへ?」
「そうだなあ……とりあえず準備しよう!」
ミラは着替えを取りに行くー!と言い、店の方へ向かった。
しばらくすると、腕いっぱいに服を抱えて戻ってくる。
「さ、どれが良いかなー? これなんか似合いそうだし、こっちも良いかも!」
ミラは次々と服を俺に当てて、嬉しそうに選んでいる。
女子はこうなると止められないのを知っている俺は、大人しくミラの言う事を聞いた。
大通りをミラと歩く。
そういえば観光の様な感じでこうやって歩いた事は無かった。
アクセサリーなどが並ぶ店や、果物が並ぶ店、肉屋、八百屋に、武器屋、防具屋など色々とある。
それらを眺めながら、時には買い物しながら歩いた。
アクセサリー屋では、2人分の指輪を買って、ミラに1つ渡した。
「ありがとう……大事にするね」
「あー、ミラの生きていた世界でも、指輪の交換というか、同じ様な形の指輪を指にはめる、みたいなのはあるのか?」
「あるよ! ……だから嬉しいよ」
ミラはニコニコと指輪を眺めていた。