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好きという気持ち

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 部屋の中に良い匂いが漂う。

 これは唐揚げの匂いだ。

 匂いだけで腹が減る。


 ミラが皿に盛った唐揚げ、具沢山なスープ、ドレッシングのかかったサラダを次々と持ってくる。

 俺の鼻は正しかったようだ。そしてぐるぐると鳴る腹は正直だ。

「ララニー鳥の唐揚げ、スープにサラダだよー。召し上がれ」

 グラスに紫色の液体をビンから注ぎながらミラはそう言って勧めてくる。

「いただきます」

 とりあえず唐揚げをひと口。脂が口の中で広がり少し熱いが我慢して咀嚼する。鳥の繊維がバラバラに解けるのがわかり、やがて喉を通る。

「美味い。焼き鳥もいいがやっぱり唐揚げだな」

「やっぱり唐揚げは揚げたてだよねー」

 ミラもそう言いながら唐揚げにかぶりついて幸せそうな顔をした。

「この飲み物は?」

「ああ、果実酒だよ」

 色々と嫌な予感しかしないが、いただくことにした。

 これは、葡萄酒か。肉には赤ワインって事だな。

 唐揚げにはエールが飲みたいが、流石に無いだろう。

 あの、缶に密閉するあの技術は凄いということだ。

 だが別にエールに未練はない。酒場に行けば飲めるし。


 次にスープもいただく。何の具かよくわからないが美味い。歯応えがほとんどない粘り気がある芋のようなもの。里芋みたいだな。それをメインとした豚のない豚汁のようだ。悪くない。

 更にサラダ。普通に見た目も味もキャベツの千切りだ。ドレッシングは柑橘系でさっぱり食べられる。唐揚げの付け合わせにはいい。

 俺は順番に料理を口に入れていく。途中に葡萄酒をはさむ。口の中がさっぱりとした。

「全体的にどう? 美味しい?」

「んー、そうだなあ……」

 そのセリフにミラはぐっと顔を近づけてくる。真顔で。

 俺は少し後ろに下がる。

「美味いよ。意地悪して悪かったよ」

 ミラはニッコリと上機嫌に笑う。

「肉はそれきりだけど、スープはまだあるから言ってね!」

「ありがとう。じゃあ遠慮なくいただくよ」

 俺は味わう食べ方をやめ、スピードを上げて食べ始めた。


 ほとんどの皿が空になり、一息つく。

「ご馳走さま、美味かった。洗い物はやるよ」

 俺は皿を重ねて、洗い場へと向かう。

 まだ飲みたいのでグラスは置いていった。

「最後流す時は呼んでにゃー」

 ……語尾が変わってるから、少し酔ってるな、アイツ。わかりやすいな。


 俺は皿を全て洗い、ミラを呼んだ。

 ミラは水の水晶を使い皿の泡を落とす。

 少しフラついているのはあまり気にしたら負けだ。

 しかしそこまで酔ってるわけじゃないだろう。

「あらえたにゃー!」

 ……そこまで酔ってるの?


「今日は飲むにゃ!」

「昨日も飲んだ!」

 テーブルに戻りそんなやりとりをしながら、グラスに残っている葡萄酒をあける。

 改めて葡萄酒単体で飲むと、渋みが強くて美味い。

 ワインは味わって飲むもんで、ああやってぐびぐび飲むもんじゃない……って、

「一気に飲むな!」

「好きに飲ませるにゃ!」

 ……なんか色々台無しだな。

 俺はため息を1つつき、しかしこんなやりとりを楽しんでいる自分もいることに気づいていた。


 ぎゃあぎゃあと話しながら、結局結構なペースで飲んでいたが、ミラは段々と眠そうに船を漕ぎ、やがてバーの時と同じ様に机にうつ伏せた。

 ……しょうがないな。

 俺は俗に言うお姫様ダッコをしてミラを寝室へと運ぶ。


 意外と軽いミラをベッドにそっと置いて、顔を眺める。

 茶髪のショートカットに生える耳。

 目は髪と同じ色をしてたっけ。ツリ目も可愛い。

 鼻は人間と変わりないし、口は少し小さいか。

 歯並びがいいな。八重歯が可愛い。

 全体を眺めていると、なにかこう、特別な感情が生まれるみたいだ。

 特別な感情とか曖昧な表現をするな。俺はミラを好きになっているんだ。

 いつからだろう?

 最初見た時からか、2度目に会った時からなのか。

 ……細かいことはどうでもいいか。

 明日にでもハッキリと言わないとな。もちろんシラフの時に。飲んで言うのは卑怯だからな。

 俺もベッドにそっと起こさずに入り、隣に横になる。

「おやすみ」

 微笑みを浮かべながら寝息を立てているミラに口づけして、目をつぶった。


「起きろー!」

「うわあ!」

 俺は慌てて上体を起こす。

 なんだなんだ?

 寝ぼけた頭を少し振り、記憶を呼び戻す。

 状況を思い出せ、ここはミラの店、飯食って、寝た。オーケー。

「おはよう、寝坊さん。ご飯できたよー」

 ミラはそう言いながら笑っている。

 その笑顔を、俺のものにしたい。大切にしたい。ずっとそばにいて欲しい。そんな色々な感情が込み上げた。

「ミラおはよう。好きだよ」

 ミラは予想していないその言葉に、顔を真っ赤にして尻尾を立てた。

 そして赤い顔のまま、

「僕もだよ」

 そういつもの笑顔になって言った。

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