酒
11
こんな気持ちも久しぶりだ。
俺はクジラ亭の毎度の部屋のベッドで、天井を見上げながらそう思った。
外はもう暗い。やる事も無いし寝るだけだ。
色々考えるには良い夜だな。
俺はここ数日を振り返る。
死んだ。そして、何故か生きてる。
瀕死になるとカネ、この世界ではポイントと言われるものを払って生き返るらしい。
そのポイントは色々な生活で使われる。
そして貯めれば天国へ。無くなれば地獄行き、だ。
あとは、色々不思議な力が使える。
契約に強制力を持たせる『約束』や物を調べる『鑑定』。
そういえば……
「『念話』なんてのもあったっけ……」
『なーにー?』
「うわあ!」
突然の声にびっくりして声を出してしまった。
『うわあとか失礼だなあ。僕だよ、ミラ』
無意識でミラを思い浮かべていたようだ。思春期か、俺は。
『何か用?』
「いや、特に用は無かった。能力を色々試していたんだよ」
『そうなんだ。ちょっと残念』
「ん?」
『なんでもない。そうだ、折角だから飲みに行かない?』
「いいね。行こうか」
『じゃあお店に来てね、待ってる』
「了解した」
俺はベッドから起き上がった。
受付で鍵を預けて、ミラの店へ向かう。
今回は慌てず歩いて行こう。
店について、声をかける。
「もうすぐ出るよー」
そう聞こえてきたので、空を見上げながらミラを待った。
空にはたくさんの星が見えた。
しかし星座配列は知らない形だったし、月は2つ見えた。
別世界なんだ、この辺も……
「おまたせ」
店の入り口からミラが現れる。
いつもとは違う服だ。
「可愛いな」
「えへへ、ありがとう」
思わず出た感想に、ミラは照れてそう言った。
「食事は摂った?」
「ああ、クジラ亭で」
「そっか、じゃあとりあえず僕の行きつけのバーに行こうよ」
そう言って俺の手を取ってミラは歩き出した。
ここまで来ると美人局も少し疑うよ……詐欺のないこの世界ではあり得ない事だけど。
俺は頭を少しかいて、ミラに従った。
飲屋街らしき街並みの中、一軒の店へとミラは案内した。
間接照明が照らし雰囲気のいいバーだ。
テーブル席が3つとカウンターの狭すぎない店、バーテンダーは2人いるようだ。
俺とミラはカウンターに座る。
「いらっしゃいませ」
アメリカ人風のバーテンダーがコースターを置きながらそう言う。
「僕はアレ、スクリュードライバー」
「カクテルがあるのか。ならキールとか出来る?」
「かしこまりました。ただ、そちらのお客様、地球の方ですよね? 完璧なキールの味には出来ませんが……よろしいですか?」
「構わないよ。で、いくらだい?」
「両方で100ポイントになります」
俺はバーテンダーにポイントを支払う。
「あ! ちょっと!」
「良いから。少しは格好つけさせろ」
その言葉にミラが照れた顔になる。
ほんとに表情がコロコロと変わる子だ。
「それなら奢られちゃおうかな?」
にしし、とミラは笑った。
バーテンダーがコースターへドリンクを置く。
酒の色は生きていた頃と同じだ。オレンジと紫色の液体。
俺は1口、紫の液体を口にする。
美味い、確かにキールだ。良く飲んだ酒だから覚えている。しかしあえて言うなら……
「若干グレープが渋めですかね。こちらの果物を使いますから、味がやはり変わります」
「しかし言われなければわからないだろう。見事です」
「ありがとうございます」
バーテンダーは深々と頭を下げる。
「へえ、シロウはこういうとこよく来てたんだ」
ミラを見ると、既に半分ほど酒を空けている。
「あのなあミラ、こういうとこでの酒はゆっくり味わってだな……」
「いいじゃないかー。僕はこういう飲み方なんだよ。ねー、マスター?」
「お客様が楽しければ。それが飲み方ですよ」
さっきのバーテンダーさんはマスターだったのか。なるほど酒の味に詳しい訳だ。
「だがなあ……まあいい。マスター、つまむものもくれないか?」
「わかりました。チーズに似たものでしたらご用意出来ますが」
「それを貰います」
俺はマスターの言い値を払い、またキールに口をつけた。
「こちら、盛り合わせです」
マスターが出した皿には確かにチーズのようなものが並ぶ。
これもまた1口。
味も匂いもそのままだ。
「美味いよ。やっぱりワインベースにはチーズは合うね」
「そうですね、チーズにワインは王道だと私も思ってます。……ミラさんは次、何か飲まれますか?」
「おかわりにゃ!」
「お前もう飲んだのか! ……にゃ?」
俺はミラに聞き返す。
もしかして……
「あのー、ミラさん、酔ってます?」
「まだまだ序の口にゃ! あと、さん付けやめるにゃ!」
獣人の子がみんなそうなのか、ミラが特別なのかしらないが、酔うと語尾ににゃ、が付くらしい。
まあ、楽しそうだからいいか。
「マスター! 早くくれにゃ!」
俺はマスターにポイントを払い、おかわりを注文してやった。
3杯目空けた所でミラが寝た。
早すぎるだろ……。
カウンターに器用にうつ伏せになっているため、態勢は安定している。
俺はこの1杯を飲んだら帰ろうか、と考えていた。
「ミラさん、最近お疲れのようですね」
マスターがミラに毛布を掛けながらそう言った。
「でも昨日いらした時はとても上機嫌でしたよ。多分誰かのおかげですかね?」
そう言ってマスターは俺に微笑みかけた。
俺は恥ずかしくなり、残りの酒をあおった。
ミラを負ぶって店を出る。
いい店だ。またゆっくり来よう。
1人でくるのも悪くない、がミラが怒るだろうか?
そう考えながらミラの店へ向かった。
ミラの店に着く。
ミラは全く起きる気配が無いようだ。
仕方がないから店へ入り、2階に上がる。
2階が居住スペースの様だ。寝室はどこだろう?
適当に部屋を開けると、そこにベッドがある部屋があった。
ここか?
俺はミラをベッドに下ろした。
その瞬間、首にミラが手を回し、俺をベッドへと倒した。
ミラは馬乗りになり、
「つかまえたにゃー!」
と言った。
……あ、今夜もこのパターンか。