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 こんな気持ちも久しぶりだ。

 俺はクジラ亭の毎度の部屋のベッドで、天井を見上げながらそう思った。

 外はもう暗い。やる事も無いし寝るだけだ。

 色々考えるには良い夜だな。

 俺はここ数日を振り返る。


 死んだ。そして、何故か生きてる。

 瀕死になるとカネ、この世界ではポイントと言われるものを払って生き返るらしい。

 そのポイントは色々な生活で使われる。

 そして貯めれば天国へ。無くなれば地獄行き、だ。


 あとは、色々不思議な力が使える。

 契約に強制力を持たせる『約束』や物を調べる『鑑定』。

 そういえば……

「『念話』なんてのもあったっけ……」

『なーにー?』

「うわあ!」

 突然の声にびっくりして声を出してしまった。

『うわあとか失礼だなあ。僕だよ、ミラ』

 無意識でミラを思い浮かべていたようだ。思春期か、俺は。

『何か用?』

「いや、特に用は無かった。能力を色々試していたんだよ」

『そうなんだ。ちょっと残念』

「ん?」

『なんでもない。そうだ、折角だから飲みに行かない?』

「いいね。行こうか」

『じゃあお店に来てね、待ってる』

「了解した」

 俺はベッドから起き上がった。


 受付で鍵を預けて、ミラの店へ向かう。

 今回は慌てず歩いて行こう。


 店について、声をかける。

「もうすぐ出るよー」

 そう聞こえてきたので、空を見上げながらミラを待った。

 空にはたくさんの星が見えた。

 しかし星座配列は知らない形だったし、月は2つ見えた。

 別世界なんだ、この辺も……


「おまたせ」

 店の入り口からミラが現れる。

 いつもとは違う服だ。

「可愛いな」

「えへへ、ありがとう」

 思わず出た感想に、ミラは照れてそう言った。

「食事は摂った?」

「ああ、クジラ亭で」

「そっか、じゃあとりあえず僕の行きつけのバーに行こうよ」

 そう言って俺の手を取ってミラは歩き出した。

 ここまで来ると美人局も少し疑うよ……詐欺のないこの世界ではあり得ない事だけど。

 俺は頭を少しかいて、ミラに従った。


 飲屋街らしき街並みの中、一軒の店へとミラは案内した。

 間接照明が照らし雰囲気のいいバーだ。

 テーブル席が3つとカウンターの狭すぎない店、バーテンダーは2人いるようだ。

 俺とミラはカウンターに座る。

「いらっしゃいませ」

 アメリカ人風のバーテンダーがコースターを置きながらそう言う。

「僕はアレ、スクリュードライバー」

「カクテルがあるのか。ならキールとか出来る?」

「かしこまりました。ただ、そちらのお客様、地球の方ですよね? 完璧なキールの味には出来ませんが……よろしいですか?」

「構わないよ。で、いくらだい?」

「両方で100ポイントになります」

 俺はバーテンダーにポイントを支払う。

「あ! ちょっと!」

「良いから。少しは格好つけさせろ」

 その言葉にミラが照れた顔になる。

 ほんとに表情がコロコロと変わる子だ。

「それなら奢られちゃおうかな?」

 にしし、とミラは笑った。


 バーテンダーがコースターへドリンクを置く。

 酒の色は生きていた頃と同じだ。オレンジと紫色の液体。

 俺は1口、紫の液体を口にする。

 美味い、確かにキールだ。良く飲んだ酒だから覚えている。しかしあえて言うなら……

「若干グレープが渋めですかね。こちらの果物を使いますから、味がやはり変わります」

「しかし言われなければわからないだろう。見事です」

「ありがとうございます」

 バーテンダーは深々と頭を下げる。


「へえ、シロウはこういうとこよく来てたんだ」

 ミラを見ると、既に半分ほど酒を空けている。

「あのなあミラ、こういうとこでの酒はゆっくり味わってだな……」

「いいじゃないかー。僕はこういう飲み方なんだよ。ねー、マスター?」

「お客様が楽しければ。それが飲み方ですよ」

 さっきのバーテンダーさんはマスターだったのか。なるほど酒の味に詳しい訳だ。

「だがなあ……まあいい。マスター、つまむものもくれないか?」

「わかりました。チーズに似たものでしたらご用意出来ますが」

「それを貰います」

 俺はマスターの言い値を払い、またキールに口をつけた。


「こちら、盛り合わせです」

 マスターが出した皿には確かにチーズのようなものが並ぶ。

 これもまた1口。

 味も匂いもそのままだ。

「美味いよ。やっぱりワインベースにはチーズは合うね」

「そうですね、チーズにワインは王道だと私も思ってます。……ミラさんは次、何か飲まれますか?」

「おかわりにゃ!」

「お前もう飲んだのか! ……にゃ?」

 俺はミラに聞き返す。

 もしかして……

「あのー、ミラさん、酔ってます?」

「まだまだ序の口にゃ! あと、さん付けやめるにゃ!」

 獣人の子がみんなそうなのか、ミラが特別なのかしらないが、酔うと語尾ににゃ、が付くらしい。

 まあ、楽しそうだからいいか。

「マスター! 早くくれにゃ!」

 俺はマスターにポイントを払い、おかわりを注文してやった。


 3杯目空けた所でミラが寝た。

 早すぎるだろ……。

 カウンターに器用にうつ伏せになっているため、態勢は安定している。

 俺はこの1杯を飲んだら帰ろうか、と考えていた。


「ミラさん、最近お疲れのようですね」

 マスターがミラに毛布を掛けながらそう言った。

「でも昨日いらした時はとても上機嫌でしたよ。多分誰かのおかげですかね?」

 そう言ってマスターは俺に微笑みかけた。

 俺は恥ずかしくなり、残りの酒をあおった。


 ミラを負ぶって店を出る。

 いい店だ。またゆっくり来よう。

 1人でくるのも悪くない、がミラが怒るだろうか?

 そう考えながらミラの店へ向かった。


 ミラの店に着く。

 ミラは全く起きる気配が無いようだ。

 仕方がないから店へ入り、2階に上がる。

 2階が居住スペースの様だ。寝室はどこだろう?

 適当に部屋を開けると、そこにベッドがある部屋があった。

 ここか?

 俺はミラをベッドに下ろした。

 その瞬間、首にミラが手を回し、俺をベッドへと倒した。

 ミラは馬乗りになり、

「つかまえたにゃー!」

 と言った。


 ……あ、今夜もこのパターンか。

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