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RAIN~レイン  作者: 潜水艦7号
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逡巡する心と『私』の正体

「うぅ‥‥あんたが‥‥」

村人達が言葉を失った。


「そうよっ!私が『魔女』よっ!これでハッキリしたでしょっ?!だから『殺す』のなら、私を殺せばいい!そして‥‥っ!早く私の子供を降ろしなさい!」

エイラが声を張り上げる。


「な‥‥お母さん‥‥?」

隣で十字架に縛り付けられている長女のエリザベートが、呆然とエイラを見つめる。


エイラは『それ』に気づくと視線を愛娘の方に向け、ふっ‥‥と悲しそうに、だが優しく微笑んだ。


そうか‥‥何という事を‥‥!

『私』は、そのエイラが見せた一瞬の表情に隠された『意図』に気付いた。


エイラは、自分を犠牲にすることで『二人の娘』を助けるつもりなのだ‥‥と。


だが、『その告白』は真実ではなかった。

そう、『私』が宿っているのはエイラではない。

全くの別人なのだ。


  違う。

  違う‥

  そうじゃ無い!

 『魔女』はエイラじゃぁ無い!

  魔女は‥‥魔女の正体は‥‥っ!!


身体がガタガタと震えるのが分かる。

『私』は自分に問いかけた。

いいのか?このままで良いのか?本当に良いのか?


此のままエイラが『魔女』として殺されれば、確かにそれで場は収まって『私』は死なずに済むかも知れない。


だが、それで本当に良いのか!?

『私』はそれを善しするのか?


『私』は真実を告白すべきではないのか?!そう、『あの時』逡巡したようにっ!

けど‥‥けど‥‥真実は尚も恐ろしい。


村人が真実を知れば、『私』は間違いなく殺されるだろう。それでいいのか?死んでしまうんだぞ?


このまま『黙って』さえいれば、『私』は助かるのだぞ?死なずに済むではないのか?


ああ、分かっているとも!

それでも、『私』は真実を告白するべきなのだ!


しかし‥‥

『私』に‥‥その覚悟と勇気はあるのか‥‥


涙が。止めどもなく涙が溢れ出てくる。


ポツリ‥‥ポツリ‥‥

雨が降り始めた。


この世に『神』なる者が居るかどうか、『私』は知らない。

しかし。


嗚呼、全能にして敬愛する我が『神』よ。今だけはアナタの御名に頼らせてください。

この『私』に‥‥!

この無力で、卑怯で、意気地の無い、ただ震えて泣く事しか出来ずに立ち尽くす『私』に、どうか勇気をお与えください!


おお、そして『私』よ。


嘆くがよい、この卑怯者めが!

見るがいい、そのエイラの気高さを!


無実の身でありながら、我が娘を救わんとして己の生命を捨てる覚悟の、何と尊くも神々しい姿であることかっ!

『私』よ、自分自身に問うが良い!お前にあのエイラの半分も『生きる値打ち』のあろうものかと!


その時だった。

昂る感情の内に突如として『天啓』が降りてきた。

或いは、それは『悟り』と称すべきかもしれないが。


そうだ‥‥生きる者は何時か必ず死ぬものだ。


そして。死ぬべき時に死ねない命に、『生きる価値』なぞ有りはしない。

エイラが、『それ』を教えてくれた。


‥‥ああ、そうなのだ。きっとそうなのだ。

まさに『今日』が『私の死ぬべき日』なのだろう。


不意に、ふっ‥‥と肩の力が抜ける気がした。


「き‥‥聞いたか、村の衆!つ、ついに白状したぞ!エ、エイラだ!エイラが魔女だ!」

村人たちが再び叫びだす。


「だったら!」

何処かで大声が聞こえる。


「さっさとヤっちまえ!生かしておいたら、また誰かが『犠牲』になるぞ!そうなる前に早くっ!」


‥‥天国から見ているかい?『あの時』の娘達よ。


済まなかった。

本当に済まなかった。如何にして謝罪しようと、もはや救う事の出来ない生命よ。それでも『私』は今、心から詫びよう。


きっと『これ』は『罰』なのだろう。

保身のために、あなた達を見殺しにした『罰』なのだ。


ならば、その『罰』を甘んじて受けるのが『私』の責務であろう。

いや‥‥責務ではない。

これは‥‥『権利』なのだ。

『私』が、この世の理不尽や不条理と戦うために手にした『権利』なのだ!


ジャリ‥‥

自然と、足が一歩前に出た。


ああそうか。

『勇気』とは、こんなにも簡単なものだったのか。


何で気づかなかったのだろう。

こんな事なら、もっと早くに『この一歩』を踏み出せば良かった。


「殺せぇぇぇ!」

その絶叫に後押しされるように、槍を構えた村人がエイラを襲おうとしている。


エイラは十字架に磔られたまま、静かに眼を閉じていた。


「やめろぉぉぉぉ!」

『私』は思わず、今にも槍を突き刺さんとする村人を突き飛ばした。


「な‥‥何をするんです‥‥」

村人が呆気にとられて『私』を見ている。


「何をって‥‥?決まってるだろう!彼女達を守るためだ!」


「何故ですか!何故『あなた』がそんな真似を!彼女は『魔女』なんですぞ!」


『私』は三人の前へ仁王立ちになり、大きく両手を広げた。



「関係ないっ!例え私が『司祭』であろうとも!何故なら‥‥私が本物の『魔女』だからだ!」

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