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RAIN~レイン  作者: 潜水艦7号
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拡散する恐怖と追い詰める狂気に

「それにしても、そんな重大な話‥‥私は初めて知りました」

司祭が大きく溜息をつく。


「うむ‥‥事が事だからね‥‥迂闊に話が広まると、それこそ教会のバッシングが再燃する恐れとてある。そのため、教会の方から固く口止めがしてあったのだ。司祭殿が知らなくても当然だよ」


司教がゆっくりと首を左右に振った。


「ま‥‥とりあえず、今夜はもうこんな時間ですから。今日のところは司教様にもごゆるりとお休みを頂き、明日にも司教様とネロさんに『白骨死体』の現認をお願いしようと思いますが?」


アクセルが提案する。


「そうですね。そうしましょう」

「へ、へぇ‥‥では、お言葉に甘えまして」


アクセルの案内で、二人は村長の家へと向かった。


その後ろ姿を。

司祭は複雑な思いで見送った。



だが、その頃。

村では、すでに此の事態は収拾のつかないところにまで燃え広がっていたのだった。


「何だって!その話は本当かい、シルバさん?!」

「ああっ!ホントだとも!あ、あっしは確かに聞いたんだ!この耳で!しっかりと!」

「何ってこった‥‥『あの噂』は本当だったんだ‥‥」


『山向うの村に魔女が出たらしい』というのは、一部の村人の間では密かに言われていた事だ。

しかし、あくまで『それ』は噂話のレベルであって確証がある話ではない。

だが、こうして『裏』が取れる形となっては‥‥


「け、けどそうなると‥‥」

「ああ、ジュゼッペ爺さんが死んだ時に、その場にいたのは『エイラと、その娘二人』だ!」

「な、なら『その三人の内の誰か』が‥‥?」

「ああ‥‥『魔女』ってぇ事になるな‥‥」


その場に居合わせた村人たちが顔を合わせる。

「放っておく事は出来ねぇぞ‥‥」


「んだ。いつ何時、その『魔女』が次に乗り代わるか分かったモンじゃぁねぇ!今の内に何とかしねぇと、こ、今度はワシらから被害者が出るぞ!」


死の恐怖。

『寿命』ではない、『殺される』という死の恐怖。


それも、かつて味わった事のない言い知れぬ『得体の知れない恐怖』に、村人たちのパニックは極限に達しようとしていた。


「今からでも構わねぇ!皆んなでエイラの家に殴り込むぞ!」

「おぉともよ、殺されて溜まるかってんだ!」

「いいか?返り討ちに遭ったらいかんからな?とにかく人数を掛けるんだ!魔女に『次の的』を絞らせんようにするんじゃ!」


家々へと伝達がなされていく。

次々に松明の明かりが集まって来る。

その顔には、一様に恐怖と怒りが綯い交ぜになった『狂気』が浮かんでいた。


「いいかっ?逃げられてはダメだ!確実に仕留めんと!角材を組んで十字架を用意するんじゃ、ええな!?ワシらは今からエイラの家に行くぞ!」

「おおっ!」


この国では周辺国からの脅威に対抗するため、国民全員が『予備兵』として戦えるよう、各家庭で『槍』や『盾』を常備している。

その『槍』を手に、エイラの家へ一斉に押しかけたのだ。


「おらぁぁぁぁっ! 出てこいっ!この、『魔女』めぇぇぇ!」


ガン!ガン!‥‥バリバリバリ‥‥

屈強な男達の突撃に、古い木製の戸は脆くも崩れた。


「なっ‥‥!何ですの!こんな夜中にっ!一体、何があったと言うんですか!」

村人たちの剣幕に、エイラが金切り声を上げる。


「うるせぇっ!『しらばっくれよう』ってのか?!それとも『お前』じゃくて、その後ろに隠れてる『二人の内のどちらか』なのかっ?!」


エリザベートとハンナは、抱き合いながらガタガタと震えている。


「おぅ!構うこたぁねぇ!三人とも引張り出しちまえ!」

怒涛の如き勢いで、村の男達がなだれ込む。


「きゃぁぁぁ!お母さぁぁぁん!」

エリザベートの悲鳴とハンナの泣き声が男達の背中越しにエイラの耳に届く。


「やめてぇぇぇ‥‥!む、娘達を離してぇぇぇ!」

悲痛な叫びが虚しく響く。


だがその想いとは裏腹に三人は外に引っ張り出され、そのまま荷車に積み込まれて広場へと連れ込まれたのたのだった。


そして、そこには。

赤々と燃え盛る松明の明かりに囲まれて、3本の十字架が用意されていた。


「吊せぇ!」

誰かが号令を掛ける。


「魔女を、魔女を逃すなっ!ここで始末しておくんだっ!」


「な、何を言ってるの?!一体、私達が何をしたと言うんですか!」

エイラが大声で叫ぶ。


「わぁぁぁぁ!」

ハンナの泣き叫ぶ声が闇夜に響く。


エリザベートは何が何だかわからなくなり、唯泣きながら呆然としていた。


「『何をした』ってぇ?!ふざけんじゃねぇ!こちとら、お前たち3人の内の『誰か』が魔女の化けた姿だと知ってんでい!さぁ、全員が殺されたくなきぁ、とっと『自分が魔女だ』と白状しやがれぇぇぇっ!」


もはや冷静な思考なぞ、求める事も許される状況では無くなっていた。



夜更けの異常に司祭が気付いたのは、すぐだった。

窓の外が急に騒がしくなり、松明の明かりがユラユラと室内を照らしている。


「な‥‥何が起こったのだ‥‥」

慌てて司祭が外に飛び出る。


「魔女だぁぁ!魔女が出たぞぉぉ!」

村人達が口々に騒ぎ立てる。


「ま‥‥まさか‥‥」

真っ青になりながら、司祭は慌てて皆んなの集まる方へと向かう。


その先に。

3本の十字架に掛けられた、エイラとその二人の娘の姿があった。

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