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RAIN~レイン  作者: 潜水艦7号
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露見する仔細と崩れる目論見


「『あえて』というか‥‥それでも、その話をするという事は余程の確証が?」

司祭が尋ねる。


「うむ‥‥何しろ、ここからが『ネロさんの話』なのだ」

司教が、ネロの方に向き直る。


「話をしてくれ給え」


「へ、へぇ」

ペコペコと頭を下げながら、ネロが語り始める。


「じ、実は6年前のことでさぁ。あっしの村に『ローゼ』ってぇ名前の少女が居やした。髪の長い可愛らしい娘さんでやした。

そんで、事件が起きたのは6年前なんで。『その日』、その(ローゼ)が『暴れ馬に後ろ足で蹴られる』という事故が起きたんで」


「‥‥それは大変でしたね。馬の後ろ足で蹴られるのは、生命とて関わる事故ですから」

司祭が顔をしかめる。


「で、ですが『その時』はそれほどの怪我では無かったんで。確かに腹ぁ蹴られたんで『呼吸が苦しかっただろう』たぁ思いやすが、骨や(はらわた)がヤられるほどの外傷じゃぁ無かったですわ。ところが‥‥」


ネロは、一呼吸置いてから続けた。


「皆が駆けつけてすぐに、ローゼは『呆気なく死んでしまった』んで。だもんで、皆して『ショックが大きかったんだろうか?』と首ぃ捻ってたんですわ。ところが、それから『おかしな事』が起きた始めたんで!」


ネロの眼は、まるで救いを求めるかのように怯えていた。


「おかしな事‥‥ですか?」

司祭が尋ねる。


「へえ、ローゼが『死んだ』時に皆と一緒に居た『ヘーゼル』てぇ若い女が『変になった』って噂になって」


「変‥‥?とは」


「信じられねぇことに『自分の家を間違えて、ローゼの家に帰ってしまう』とか、自分(ヘーゼル)の親の名前が言えないとか‥‥み、皆んな『気味が悪い』と言い出して‥‥」


司祭は、背中に冷たい物が走るのを覚えた。

「まさか‥‥」


「ま、『魔女は不死だ』と言いやすが、良く考えてもみなせぇ。誰だって歳ぃ取って容姿が衰え、そして最後は死んじまうもんでさぁ。そんな中で『一人だけ』が歳も取らず、死ぬ事もなかったら?そんなヤツぁ『目立って』仕方ねぇや!

けど、『乗り移る』んだとしたら?『死ぬ時に他人へ乗り移ってしまう』んだったら?そいつぁ永遠に『死なない』ことになるってモンで!」


先程までのオドオドした様子とは異なり、ネロは一気呵成に喋り続ける。


「け、けども『記憶だけぁ上手く引き継げない』ンだとすれば『辻褄が合う』ってもんでさぁね!」


まさか‥‥そんな事が‥‥

司祭が横を見ると、アクセル保安官も真っ青な顔をしている。


「つまり最初の娘(ローゼ)の身体を乗っ取っていた『魔女』が、馬に蹴られた勢いで慌てて次の娘(ヘーゼル)に乗り移ったってぇことになるんじゃねぇのか?と噂になって!」


俗に『人の口に戸は建てられない』という。

まして、それほどの『大きな話』となれば村人の間で『あっという間に広まった』としても不思議はあるまい。


「‥‥で、その『ヘーゼル』とか言う女性はどうなったのかね?」

慎重に、アクセルが聞く。


「そ、そんでもって皆んなで『本人に問いただそう』ってぇ事になりやした!最初の内こそ『ヘーゼル』も『知らぬ存ぜぬ』で誤魔化してやしたが、どうにも『本来のヘーゼル』の記憶が出てこないモンでやすからね?追求の手も厳しくなる一方で、ついに‥‥」


ゴクッと、ネロが唾を飲み込む。


「最後には『自分は魔女だ』と認めやした」


足が震える。

全身に鳥肌が立つのがわかる。

うまく言葉が口から出ない。


司祭は自分がどうして良いのか分からなくなり、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

「し‥‥信じられません‥‥」


「それで‥‥、その女性(ヘーゼル)はその後、どうなったんだね?」

アクセルが重ねて問いただす。


「それが‥‥言い難い話なんですが、皆んな『魔女を生かしておいたら、次はオレ達が乗っ取られて殺される番だ!』ってパニックになっちまって‥‥槍を持ち出して追い回しやした。その‥‥かなり手傷を負わせたと思いやす。そのまま『魔女(ヘーゼル)』は山奥深くに逃げたんで」


気づけば、ネロはまたハンチング帽を両手で強く握りしめていた。


「それがつまり‥‥」

司祭が唸った。


「へぇ、恐らくその『白骨死体』ってのが、魔女(ヘーゼル)なんじゃねぇかと。何しろ相当な深手を負ってた筈なんで」


いやしかし、だとするとだ。

そこには大きな問題が残る。


何しろ魔女(ヘーゼル)は山小屋脇の地中深くに埋まっていたのだ。


では誰がヘーゼルを『埋めた』のだ?

そう、山小屋の主だった『ジュゼッペ爺さん』が『埋めた』と考えるのが自然だろう。


だがジュゼッペ爺さんは『その事』について何も語っていない。

であれば、『魔女』はヘーゼルからジュゼッペ爺さんの身体へ『乗り移った』と見てよかろう。『自分の正体』を隠すためには『喋る』訳にはいかないからだ。


だが、当のジュゼッペ爺さんはすでに病死して、この世にはいない。


‥‥では、ジュゼッペ爺さんに乗り移っていた『魔女』は何処へ行ったのだ?

ジュゼッペ爺さんが『死んだ時』に、その周りに居たのは‥‥?


「うぅっ‥‥!」

司祭が言葉を失う。


ジュゼッペ爺さんが死んだ時、その近くには自分の他には『エイラと2人の娘』が居たはずだ。


「う、迂闊な事は、い、言えませんが‥‥!」

司祭自身も声が上ずるのが分かる。


そんな司祭をジロリと睨むと、司教が口に人差し指を立てた。


「そう、拙速はならんぞ?だが上手くして、その『魔女』とやらを捕まえる事が出来たなら、我々は50年前の恥辱を濯ぐ事とて出来るかもしれん。何しろ教会の『正当性』を証明出来る訳だからな‥‥」



その時。

窓の外でひっそりと聞き耳を立てている人物が居る事を。

司祭は、気づくことが出来なかった。

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