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RAIN~レイン  作者: 潜水艦7号
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遥か昔の『禁忌』と向き合わんとす

『何としてでも、この危機を乗り切らなくては』


その思いこそは有るものの、歯がゆいかな『私』自身には祈る事しか出来ないのだ。

だが、事態は『私』の願いを嘲笑うかの如くに突き進もうとしていた。



それは、白骨死体が発見されてから1週間後の夜だった。


「おや‥‥?庭に馬車が来てるな‥‥それも良い造りの馬車だ」

馬の(いなな)きに気づき、司祭が窓から外を見る。


こんな田舎では、かくも豪奢な馬車に乗る者なぞあろう筈もない。だとすれば、中央からの使者か‥‥?

暫く見ていると馬車の扉が開き、中からアクセル保安官が出てきた。案内役なのであろう。


そして、その後からハンチング帽を両手で握りしめてオドオドした様子の男が降りて来て、最後に身なりの良い『知った顔』の男が悠然と出てきた。


「あっ‥‥!あの御方は!」

慌てて入り口に走り、急いで扉を開ける。


「し、司教様でしたか!」

『知った顔の男』は、地区全体を束ねる司教だった。


「うむ‥‥司祭殿、久しぶりですな」

司教が軽く手を上げる。


「ささ、どうぞ中へ。こんな片田舎の教会であります故、失礼はご容赦頂きとうございますが、とりあえずは中へ!」

司祭が中へと案内する。


「‥‥失敬する」

司教とハンチング帽の男、それとアクセルが続いて教会の中へと入って行った。


「どうぞ、お掛けください。長旅でさぞお疲れのことでございましょう。ただいまお茶などご用意を‥‥」


「いや、構わなくて結構」

司教は長椅子に腰掛けると、司祭を手で制した。


「説教に来た訳では無いのでな‥‥」

そう言って、視線をアクセル保安官の方に向ける。


「ああ、では私から説明いたしましょう。‥‥実は例の『白骨死体』の件なのだ。中央の総監部に身元の照会をしていたのだが‥‥『心当たりがある』という話が出てね。しかし、これがチト『厄介』な話なのだよ」


アクセルが眉を潜める。


「い‥‥如何いたしましたか?」


「確証がある訳では無いので『恐らく』という前提で聞いて欲しいが、どうやら『遺体』は山向うの村人『だった』可能性が高いのだ。‥‥背格好や衣類の特徴が合致したのでな」


アクセルはチラリとハンチング帽の男の方を見やる。

気のせいか、男は小刻みに震えているようにも見えた。


「では‥‥その亡くなられた方は山を超えて、こちらの村に?何があったのでしょうか?」

おずおずと、司祭が尋ねる。


「うむ‥‥『あった』のだよ。それも、とんでもない事がね。話が出来るかね?ネロさん」

司教が話をハンチング帽の男に振る。


どうやら、小鼠のように震えるハンチング帽の男は『ネロ』というらしい。

山向うの村から、司教に連れられて来たという。


「は‥‥はい。本当にお、恐ろしいことで‥‥」

ネロが口を開いた。


「そ、その『遺体』がアッシらの『心当たり』だとしたら、ですがね?そ、そいつぁ、ま、『魔女』なんで!」


「ま‥‥『魔女』‥‥とは‥‥?」

思わず司祭が聞き返す


「まさか‥‥『そんな者』が居るのですか?この世の中に‥‥いや、というか『その話』は‥‥」

思わず司祭は口ごもった。


何故なら『魔女』の話は、教会の中では言わば『タブー中のタブー』とされるからだ。


「‥‥無論、『それ』が安易に口にして良い話でないのは私としても‥‥いや、教会全体としても充分に理解しているところだよ?だからこそ、私が直接に乗り出す事になったのだ」


司教は座ったまま、視線を祭壇の方に向けていた。



それは、今から50年近くも前のことだった。


当時、とある村で『魔女騒動』が起きた。

『恐るべき魔女』は完璧なほど人間に擬態するとされ、外見や仕草から『それ』を見分ける事は誰にも出来なかったという。


そのため唯一、古来より『魔女の特徴』とされた『不死であること』を確かめる他、手立ては無いと判断されたのだ。


これが、悲劇を生んだ。


強烈な疑念と猜疑心に駆られた村人たちは、『魔女の疑いあり』とされた娘達を片っ端から磔にし、『火炙り』にして惨殺したのだった。

即ち『死ねば無罪』で『魔女なら正体を現すだろう』という、今にして思えば無茶苦茶な理屈だが、一度発生した『集団ヒステリー』の暴走は誰にも止められなかった。


当然、この事件は司法の知る処となり、当時の政府も調査に乗り出したのだが‥‥その調査過程で『火炙り』を主導したのが地元教会の司祭職である事が判明したのだ。


当時から教会と政府の間には少なからず権力の対立があった事もあり、調査報告書には

『この忌まわしき虐殺は、教会の迷信と暴走が発端である』

という結論が記されることになった。


本来は人々を幸福と安寧に導くのが役目である筈が『虐殺を主導した』という事実に世間からの猛烈なバッシングと浴びることとなり、教会はその権威を著しく失墜させてしまった経緯がある。


そのため、教会の中では今でも『魔女の話』は絶対のタブー扱いなのだ。


だが。

今、あえてそれでも『そのタブー』に切り込むというのは‥‥


「これは‥‥大変な事になるぞ‥‥」

司祭は、戦慄を覚えた。

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