叫び
わたしは、あなた?ーーーーー
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さて、そろそろ「僕」のことも書いておこう。
と、いってもまあ所詮は僕のことだから。
簡単にしとくね。
僕の名前は、幸坂ツバメ。どうもよろしく。
好きなものはゲーム。
嫌いなものは雨だ。
ちなみに、ライン・ガードナーは元クラスメイト。
僕は僕で、「障害者」って呼ばれてた。
味方はいないが敵もいない。
そして、惨めな帰宅部だ。
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雨を浴びたいという人間が雨を浴びることはあるのだろうけども、
雨を毛嫌いしている人間が雨を浴びることはないだろう。
僕は学校が嫌いだった。
勉強も会話も運動も、みんな嫌いだ。
僕という人間が満足するには他人は必要ない。
なにもかも、じぶんが良ければそれでいい。
ラインがクラスで「悪目立ち」していたならば、
僕は「空気」だった。
誰とも関係を持っていない。
毎日を鬱々と、過ごしていた。
「レコルド地方一位入賞作品が絵か?」
いつも通りこの町、グリーンバレーを散歩してると張り紙を見つけた。
このあたりは人口がそれほど多くはなく、しかも
山一つ隔てて他の町と距離があるためにこの町だけで
たいていの行事を行う。
例の「作品コンクール」は音楽、美術なんでもを審査する。
小さな町だからたまに倫理的におかしなものも出てくる。
そのために「いつも」は彫刻とかがえらばれるのに。
「なんの絵なんだ?気になる。」
僕は絵が好きなんだ。
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「これは」
作品名『慟哭』
縦2メートル、横70センチの大作。
「オオカミか?これ。」
絵の中でいくつもの色がひしめき合い、
オオカミに見える獣が涙を流している。
叫びながら。
ふと作者が気になって下を見ると、
百瀬 准 17歳。
「えっ!!」
まさか。
あの「百瀬さん」か!?
翌日、百瀬さんに会いに行った。
「すいませーん。ツバメでーす。」
玄関の前で待っていると、扉が開き
雪みたいに白い肌の
すこし青みがかった髪の
そして。
「・・・・・うぜえよ、鳥頭。」
敵意丸出しの細目の女性が顔を出した。
「・・・・」
「・・なんだよ?」
「いやあ、相変わらずお綺麗で。安心しましたよ。」
「・・・デ?」
ちょっと怖くなってきた。
「ええっと、あの絵見ましたよ。」
「・・ふうん、どうだった」
「はい、なんだか・・・」
ちゃんと考えて話さないと。
今度こそは。
「あなたらしいなって思いました。」
素直に答えた。
「・・・・・・・フウン」
ちょっと俯いて彼女は可愛らしい声を出す。
「・・・入れよ。」
百瀬さんは学校に行っていない。
本人曰く「行く必要が無いから行かない」らしい。
「最近はどうですか?楽しいですか?ごはん食べてますか?
ちゃんと食べんと駄目ですよ。元気の素ですからね。」
「わかってるよ。」
リビングの写真を見る。
「・・まだ、見つかりませんね。」
「うん。」
百瀬さんの両親は3年前から行方不明になっている。
今は彼女の叔母さんがここに住んでいる。
「寂しくないですか?」
「全然。まったく。これっぽちも。」
「はは・・・。」
話しながら彼女を見る。
華奢な手足にきれいな髪の毛がかかる。
困る。
すごく困る。
きれいすぎて困る。
「百瀬さん、あのー」
「ん?」
「結婚しませんか?」
ブーっと飲んでた紅茶を吐き出す。
「ごほっごほっ!・・・・なんだ藪から棒に。
・・・おまえ馬鹿なのか」
「鳥頭なもんで」
てへっとおどける。
「おまえなあ・・・・・!」
少し顔が赤い。やったやった。
「てかさお前、ラインはどうしたんだよ?」
「・・・ラインは」
いいかけてのどに詰まる。
「もういいんです。疲れました。」
急に空気が重くなる。
「・・・・『疲れた』か。」
機嫌が悪そうに外を見る。
「あたしには理解できんよ。幸坂のことは、全然わからん。」
「・・そういうと思いました。」
「ラインはガキだしさ。人のことに介入もできない。」
「・・・・」
「あたしには」
「何もわからない。」
そうだ、この人は優しい。
こうして話しててもわかる。
知ったかぶりを悪とみなし、「自分」を抑えている。
まったく。
あなたも。
独りになっちゃうよ。
「・・・僕の恋人になってください。
そして、味方になってください。」
「・・なんねえよ。なっちゃだめだ。」
「あいつの叫びは、お前がきけよ。クソツバメ。」
小さく言った。