誰にも知られないこと
どうぞ。
雨が降ると、目の前の景色が4割はよくなって見えた。
眼前を覆う雨粒に、水を浴びてきらきらする草、花、家々のレンガ。
何よりも都合がいいのは、雨を嫌う人々が外にはいなかったこと。
独りの時間、きれいな雨音に様々な思いを馳せながら、引きこもりの少女ラインは傘も持たずに散歩する。
町の上の丘のあたりまでのぼると、辞めた宿舎が見えた。
傘をさして家に帰る小さな人たちを眺めていると、なんだか自分がひどくみじめなものに思えてきた。
ずっとここにいるのが嫌になって、丘から近くの森まで歩いた。
森の入り口当たりにある木につくと、ふと、申し合わせたように泣き始めた。
「ああッ!!アーーーーーーーーー―ッ!」
少女の声は、誰にも聞かれず響く。
「なんでッ!?なんで私なのッ!!これじゃあ私は人形と同じじゃない!」
響く。
「役に立ちたいのにッ!なんで誰も助けてくれないの!?」
響く。
「私はただ、きれいなものが見たかっただけなのにッ!」
響く。
「わたしは、笑顔が見たくて、それだけ、だったのに」
響く。
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この世界には知らないことがたくさんある。
それは、学問に関しても、人の気持ちに関しても、もちろん一人の少女に関しても同じこと。
もちろん、とある地底についても明確に言えるものはいない。
ここ、とある地底にも一人の少女がいた。
ちなみに、その少女には翼がある。わっかもある。
その少女の正体に関して、何も隠す必要はないので告げておく。
少女は天使である。主である神様から、とある任務を課せられた。
とある地底に妙な場所があるらしい。魂とは少し異なる「思念」のようなものが、ここに
寄り集まっているそうだ。必要であれば対処せよとのことだったが・・・
「なにもないけど・・?」
周り一帯を見回すが、ただの洞窟にしか見えない。
神様の気まぐれかと思い、その天使は帰ろうと上を見た。
ポツポツ、ポツポツと水滴の滴る音が聞こえる。と、
周りの雰囲気が一気に変わり、きずいた時には、天使は滂沱と押し寄せる雨水に体を流されていた。
「ここは?」天使は周りを見渡す。
気のせいか、視界が灰色っぽいものにあふれている。
先に進むと、天使は愕然とした。
「何?ここ・・・」
目の前に、灰色の町があった。
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ラインは泣き疲れて、木の下で眠っている。
しあわせになりたい
と、寝言で言っていたことも、きっと誰にも聞こえなかったのだろう。
最後までお読みいただきありがとうございます。