天使だった君へ。
なんであいつが悪者にならないといけなかったんですか。
あんたに、何が言えるんですか。
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幸坂ツバメには、妹がいました。
可愛い子でした。
言動も無邪気そのもので、まったく汚れていない。
お兄ちゃんによく懐いていて、いつも甘えていました。
確か名前は・・ああそうだ。
テルちゃん、でしたね。
でも、その子はもうこの世にはいません。
子供の頃に、病気で死んでしまいました。
中学生のツバメはその頃のことをよく覚えている。
泣き叫ぶ両親と、寂しそうにしてた看護師さんたち。
そのころ、「何もできず、両親と一緒に泣いた少年」はいませんでした。
ああ、きっと泣くところを人に見られたくないんだろう。
みんなそう思っていました。
ところが、待っても待っても彼は戻ってきませんでした。
幸坂ツバメは泣いていませんでした。
「・・・・・・」
病院からの帰り道、夜中に俺は町中を歩きまわっていた。
感情がわいてくれない。
端的に言えば、「感情が高揚しない」というといいのか。
他人がなんで笑っているのかわからない。
極度に冷静なまんまで、泣こうと思えない。
テルが苦しんでいた。けど何もできなかった。
それだけ。
なんて薄情な人間なんだろう。
そう思ったから、「あの場」から逃げた。
幸坂ツバメのこのころを知るものは限られるが、
彼の人生を形容する言葉はすぐに思い浮かぶ。
「恐怖」
彼はいつも怯えていた。
他人が怖いのではない。言葉が怖いのだ。
それでも彼は自分が生きていくための術は知っていた。
「演技」。
他人の真似。
人が笑うと笑い、悲しそうな顔をすれば、自分も泣きそうな顔をして見せた。
「お前は人形みたいだな」
もう顔も思い出せない父親から言われた言葉だ。
幼いながらにツバメが周りの世界に対して抱いていた感情は
「どうでもいい」だった。
泣こうが、喚こうが、笑おうが、どうしてたってわからないんだもの。
だから何を言われても仕方ない。
これが彼の人生観だった。
そんな中、父親が再婚して。
テルに出会った。
義理の母方の娘で自分と2つしか年が違わない。
「無邪気」を絵にかいたような女の子。
彼女に対して最初に抱いた感情は
「可愛いな。」だったよ。
ん?ああ、そうだ。言い忘れていたけれど、
俺は別に人間じゃないわけじゃない。だから、ちゃんとした
感情はある。「自分だけの」ね。
テルは俺と同じ学校に入った。
それからすぐに、彼女のことを何もわかっていなかったことに気づいた。
時折変な行動が目立った。
なんていうんだろう?
何かの裏返しのような。
「内側で抑えていた、『爆発的な』感情」
時々、テルの言動は「過剰な演技」っぽくなっていたのだ。
「えへへ~、おにいちゃん。わたし今日ねー?」
「・・・どうしたんだ?」
「すっごく楽しいこと見つけちゃったんだー。」
「何?」
「あのねえ、うーん言葉でいいづらいんだよなー。要するにさ!」
テルは一呼吸おいて
「わたしはわたしが大好きになったの!!」
・・劇団?
「・・・・はあ?」
もうそういうしかなかった。
「あ、もちろんおにいちゃんも大好きだよー!」
「・・・ああ、俺も愛してるぜ。」
「反応がきもいよっ!!??」
酷くない?ねえ。
周りから、急に「変わったなあ」って言われることが増えた。
俺は、、いや僕は人間になっているのか?
気づかないうちに、僕も。
・・あいつのせいかな・・・。
いつも通り、家に帰る途中、
テルが泣いているのを見た。
「・・おい?どうし、た・・は?」
テルの脚がはたから見てもわかるほどにあざだらけになっていた。
頭が沸騰したように熱くなった。
「誰が、そんなことを」
テルは、
「自分でやったよ。」
と言った。
その日からだ。幸坂テルという人間が「怪物」に見え始めたのは。
言葉の裏、行動のプロセス。何もかもが「他の意思」によって
動いているように見えた。
怖かった。
幸坂テルはいじめられていた。
他を顧みない言動、気取った性格。何より「分」を弁えなかった。
彼女は理想を語った。
「どうして、みんなわかってくれないの?
わたしはただ、みんなにも楽しんで生きてほしいって思ってるだけなのよ?
なのになんで、わからないの?」
テルの心はピュアだった。
だから、「みんなが汚い」ように見えていた。
ただ、悲しいかな「そんな」まやかしの考えでは
この世の中で生きてくなんて無理だった。絶対に。
心がきれいすぎた。
このあとの結果は、ある意味当然だった。
白色は汚れやすいんだ。
いつか嫌いだった人間の言葉、意地汚い仕草、品のない行動。
そんなものを彼女は受け入れてしまうようになった。
テルは、そんな風にして
自分のことを嫌いになった。
誰にも理解されないまま、時間が過ぎ、
テルは唐突に死んだ。
「寂しいよなあ、一人って。」
ツバメは空を見上げていた。冬のことだった。
いつも、テルだけが自分に「大好き」と言ってくれていた。
生きる意味をたくさん、もらったのに。
僕は結局、怯えていただけだった。
もらうだけで何もあげられなかった。
助けてやれなかった。
行き場のない気持ちは自分に当たった。
だから。驚いた。
道端で泣いている独りの少女が、
テルに重なって見えたから。
そうして、僕はそいつを。
雨好きの変わった女を「幸せ」にしてやろう、と
心で、思った。
所々、まとまっていませんが大目に見てくださいネ。