Cー3「古典的方法」
大賢者は紅茶を優雅に一口飲む、小指がピンッと立っている事に若干イラッとするが、聞き捨てならないセリフに意識を戻す。
「え?あの〜それってどういう事なんでしょうか・・・」
カップをソーサーにカチャリと置き、こちらを見ながら大賢者は答える
「まあ、理解できなくてもしょうがないね。でもこの樹を枯らしたり切られないように気を付けてね。じゃないと君死んじゃうから。まあ自然に枯れたり切れたりはしないけどね」
「え?ええ〜・・・ここにきてさらに重大発表ですか。え?そういう枯らそうとしたり切ったりする何かがいるって事ですか?」
「ん~まあ今のところそういうのはいないけど、人生何が起こるか分からないからね~」
「そ、そうですね」
心当たりがあり過ぎるので、苦笑しながら答える
「まあ、でもこの樹がある限り君の寿命はあってないようなもんだから」
「は、はあ、長生きできるんですね、もし俺が何かの勢いで死んだら、この樹も枯れちゃ「いや、それは大丈夫、でかさが違うしね、でかさが、全然でかさが違うしね、でかさが」
「被せ気味にきますね。しかもでかさ何回言うんだよ・・・・・はあ、でかさの問題ですか」
「・・・・・・・・・」
「なんで無視だよ!」
山田はありえない事の連続と、大賢者の支離滅裂な話にこれはやっぱり夢なんだと思い始めていた。
「やっぱりこれは、あれですね。夢って線が濃厚ですね」
夢の中で夢を夢と認識する。そういう話を聞いた事があったが、まさか自分がそういう体験をするとはな~なんて考えていると
「は~、全くなんで信じてくれないかな~・・・・・あ!そうだ!あるじゃん一発で夢かどうか判別できる古典的方法が!」
大賢者はそういうと立ち上がり、机と椅子とティーセットをどこかへ閉まった。山田は凄く嫌な予感がした。その方法に自分も思い至ったからだ。その予感が当たっているかのように大賢者はブンブンと杖をぶん回し始めた。
「なんでこんな簡単な方法思いつかなかったかな~、絵的にちょっと残酷な事になるけど、まあしょうがないよね」
「やめろおおおおおお」
山田は言うが早いか全力で逃げだす。ピピピピと足元から可愛い音がする。
「どうしたんだい?夢だと思ってるんだろ?だったらなんで逃げるんだよ」
子供の歩幅と大人の歩幅じゃ結果はしれている。しかも子供の体に慣れていない為に足がもつれてこけてしまう。
「大丈夫かい?」
大賢者が心配そうに声をかける。それはこれから起こる事に対する山田の心構えを確認するかのようだった。山田はガバっと上半身だけ起き上がり、大賢者の方を向く。右手を前に突き出し足と左手でズルズルと後退しながらその顔は恐怖に染まっていた。
「わ、わかった!し、信じる!信じるから!ほら!コケて痛かったから!コケて膝とか手とか痛かったからさ!や、やめろ!これから行われる事は、こ、これは放送できないだろ!放送事故ですよ!」
大賢者はそんな訴えを嘲笑うかのように杖を大きく振りかぶる。その口角は大きく上がっていた。
「ホームラン!」
そんな掛け声とともに、一筋の光の線が奔り、ドゴッ!!!という音が響き渡った。衝撃波で空気が震える。その音にびっくりしたのか鳥が飛び去っていく。
「いぎゃああああああああああああああああ」
山田は凄い勢いで吹き飛び、砂煙や草を撒き上げながらバウンドしている。大賢者の振りぬいた杖は見事に山田の頬をクリーンヒットしていた。
「あら~これは二塁打ってかんじだな~」
杖を肩に担ぎ、遠くを見るかのように目の上に手をあてて、残念そうに独り言ちる。100メートルほど吹き飛んだ辺りで、ようやく勢いが止まり砂煙が晴れると、頬を大きく腫らし、白目を向きピクピク痙攣しているピンク色の子供がいた。山田だ。
薄れ行く意識の中、山田は昔の事を思い出していた。飛び交う監督の怒号、イライラしている作監や演出。スタッフ総出の徹夜しての総力戦。スケジュールが差し迫った作品の修羅場だ。
はっ!ガバッと起き上がる山田。嫌な汗をかいていた。自分の状況を確認してみると、あれだけ吹き飛んだのに服は綺麗なもの、体に傷も付いていない、ただ左の頬だけは真っ赤に腫れていた。
イテテテと左の頬を抑えながら、吹き飛ばされてきた方を見る。大賢者が手を振りながらゆっくりと歩いて来る。先ほどの恐怖がぶり返すがすぐに立ち直る。
「夢じゃないのか」
ボソリと呟いた言葉は、現実感を持って山田に突き刺さった。
「いや〜良かったよ〜信じてもらえて〜」
ぐうううううう
夢じゃないと感じた途端に、腹が鳴った。
「あれ?おっかしいなー、その体食事しなくても大丈夫なようにしてあるんだけどなー。マナだけ取り込んでれば大丈夫な様にしてあるのに。もちろん睡眠も排泄もしなくて大丈夫にしてあるしさ」
「え?」
そういうと山田は立ち上がり、ズボンを開けて自分の下半身を確認する。確かに突起も穴も何も付いていなかった。
山田はここに来て衝撃的な事実に動転しそうになり、劣化してるかなんだか知らないけど、もうちょっと色々順序立てて説明してくれよ。でも人生って得てしてそういうものなのかもなー、てか、さっき睡魔におそわれたよな。なんてツルツルの下半身を見ながら、現実逃避しかけていると
「あ、やっベー」
「え?」
大賢者は、初出勤の日に目覚ましを見たら、1時間も過ぎている事に気づいたみたいに呟く。また何かあるのかと身構えながら大賢者へ顔を上げる。
「いや、そろそろ時間みたい、ちょっと遊びすぎたね」
「え?時間ですか?」
すると大賢者の足元が砂のようにサラサラと、光りながら、風に飛ばされるように消えて行く。それがどんどん上へ上へと上がっていく。
「もうちょっと説明してあげたかったけど、ごめんねー。まあ色々試して見なよ」
「いや、困りますよ。今居なくなられてもどうすればいいのか、分からない事だらけですよ」
「なんでもかんでも教えてたら面白くないでしょ。この世界を楽しみなよ。その為に君に善意で、善意で体を用意したんだからさ。子供の姿になっちゃったけど」
面白い面白くないじゃねーよ。しかもなんで善意二回言うんだよ。子供の姿って悪意があるわ。と思うが、余計な事で流れを止めてはいけないんだろうと口を噤む山田。
「生前の僕が色々やったと思うから、この世界にもあっちの世界との共通点もあるとおもうし。あんまり深く考えずに、好きにしなよ。そういうのを日本語で何ていうんだっけ・・・・・そう!やりたい放題!」
大賢者は空に向けて両手を広げて、感極まったかのように叫ぶ。山田は大賢者が上半身まで消えている気持ち悪さと、どんどんと消えていってるのに何を言ってんだと、眉を顰めて見ていた。
「おっともう首元まで来ちゃったか。では月並みだけどこの言葉を」
大賢者は山田の方へ視線を向ける。空中に浮かんでいる生首に見られる気持ち悪さと、怖さをなんとか堪える。
「旅人よ!良き旅を!」
そう言うと大賢者は消えて言った。風が強く吹き、最後の光る粒子がこの世界を見納めとばかりに空に舞い上がり、しばらくすると空に溶けていった。それを目で追いながら、なんだか凄く短い付き合いだったけど、一抹の寂しさと心細さに佇んでいると
「あ、そうそう、ステータス確認できるから」
と風に乗って聞こえてきた。
締まらないなーと思いながら、山田は樹を見上げる。そこには大賢者との別れを惜しむかの様に枝葉が揺れていた。
思いつきでやってます。なので色々齟齬が生じると思いますが、昔懐かし少年漫画のように、そういうものだと思ってください。そうです言い訳です。