アイキャッチa「南田カナの受難」
騎士の様な者達を下がらせた老魔術師姿の南田カナは、どうやって元の姿に戻るのかと一瞬悩んだが、元の姿に戻りたいと思った瞬間に元の姿に戻った。
「あれ?メイド長の時は服脱いだんだっけ?まあどっちでもいけるんでしょ」
元の姿に戻ると老魔術師の姿の時はあれだけ落ち着いていた心が、恐怖や焦り不安や心細さといった気持ちに騒めき始める。
部屋の隅にある椅子にドサリと崩れ落ちるように座ると、目を閉じ胸に手を置き深呼吸を何度か繰り返す。
最後に大きく息を吐くと落ち着きを取り戻した南田カナは現状把握に努めた。という事もなく、だらしなく背もたれにもたれ掛かり放心した様にボーッと何処かを何かを見ることも無しにボーッとしていた。心が追いつかないのか暫くそうしていると段々と回復してきた。
「何とか誤魔化せたけど、どうしよう。幸いと言って良いのか、断片的で朧げだったりするけどあのお爺ちゃんの記憶も残るみたいね。しかしとんでもない人ね、それによって気持ちが凹むよ」
嫌な記憶や気持ちを吐き出すように溜息のような息を1つ吐き、頭を振ったカナの視線の先に先程変身した自作のコスプレ衣装が目に入る。
「しかし今もさっきもびっくりしたなー、まさか本当にキャラクターや違う人になっちゃうなんて。メイクで似せてるなんてもんじゃないね、姿形も声もそのものだもの。しかも思考も記憶も影響受けるし」
カナはそう独言ると椅子から立ち上がり、床に脱ぎっぱなしの衣装を拾いに向かう。
「うーん。そういえばもう一度変身出来なかったな〜。一度着て脱いだらもうダメなのかな〜、それとも冷却時間みたいなのがあって時間が経てばまた大丈夫なのかな〜」
服を拾い上げパサパサと汚れを払い胸の前で広げて確認するように眺める。一通り眺めて満足すると大事そうに畳み近くの机の上に置いていく。
「色々確認する前に、はあ〜、やっとかないとダメだよね。あれ?私こんなに猫背だったっけ?って位気が重いわ〜」
召喚されてから何度目かのため息をつき動き出す。
「なんだかこのローブも薬品みたいな匂いがするし、匂い移らないわよね、本当最悪」
すんすんとローブの匂いを嗅ぎながら、老魔術師の記憶から目的の物がある場所へ向かう。
木箱の中に無造作に入れられている皮製のシンプルなショルダーバッグを持つと南田カナは魔法陣がある部屋へ戻ろうと恐る恐る扉を開ける。
「ひっ!怖!」
老魔術師の死体が腰巻き1つで横たわっている。カナはその目が自分を見た様な気がして声を上げた。
服を剥ぎ取った時にうつ伏せだった老魔術師を仰向けにした為、その様子がよく分かる。
何か苦しむ様に大きく開かれた目と口、ざんばらな白髪が頬にへばり付き、肋骨が浮き出た痩せ細った身体と、節くれだった枯れ枝の様な手足。老人特有のカサカサとした肌に深く刻まれた皺や濃い染みが、現世に強い未練を残したまま死んでしまったような怖さ不気味さを際立たせる。
「うう〜やっぱり消えてるわけないよね、ちょっぴり期待したけど。むしろ消えてた方が怖いよね、じゃあ良かったわ、いや良くは無いわね」
恐怖や不安からか訳の分からない思考になるカナ。
「服ひっぺがして腰巻き一つにしといて申し訳ないんだけど、気持ち悪いな〜」
暫く観察して動かないことを確認するとそんな軽口を叩き、カナはまた老魔術師の姿へと戻る
「ああ良かったまた変身できたわ。ってあんまりなりたい姿じゃ無いけど。やっぱり冷却時間みたいなのがあるのかしら」
自分の声、手を見て、顔を触ってみて確認したカナは、老魔術師の死体の横にショルダーバッグを寝かせて置き、ボタンにかかっている輪っか状の紐を外し閉じている蓋を開ける。
『回収』と心で老魔術師の死体を指定するだけで、その袋の中に老魔術師の死体は一瞬で吸い込まれた。
それはマジックバッグであり中は時間が止まった状態。感じる重さもバッグの分だけ。
このバッグや道具の知識は老魔術師の姿になった時に手に入れたもので、何かセキュリティーがかかっているのか老魔術師の姿じゃないと使えないみたいだった。
「うう、マジックバッグの中とか酷いとは思いますけど、化けて出ないで下さいね。そのうちちゃんと供養しますから。そもそもそっちが勝手に召喚したんですからね。ナンマンダブ、マダムマンダム、ナンミョウホウレン、ほうれん草にチンゲンサイ、アーメン、ソーメンワンタンメン、かしこみかしこみ、カチコミかけるぞ〜」
と意味があるのかバッグの前で手を合わせ珍妙な文言を唱えるカナは元の姿に戻っていた。しっかりと蓋を閉じボタンに輪っか状の紐をかけると、何か汚い物を持つかの様に人差し指と親指で肩にかける部分をゆっくりと持ち上げる。
隣の部屋へと戻りショルダーバッグを部屋の角にそーっと置くと、カナは椅子に座り机へと突っ伏する。
「はあー、疲れた〜」
南田カナの受難は続く。
なんだかな〜




