C−22「体力測定」
弱肉強食が唯一のルールである太古の森においてゴブリンは明らかに弱肉である。他のモンスターのただの餌の一つに過ぎない。姉妹もまたそれは同様だった。
世界樹より離れた森の浅い場所。その日ゴブリンの姉妹はいつもの様に他のゴブリン達と餌となる木ノ実や果実、薬草や毒草等を探していた。森はそういったものが豊富で食べるのに困る事は無かったが、今日は少し採取量が少なかった。
隠れる様に暮らしているゴブリン達は、少し前に魔獣に住処を襲撃されその数を減らしていた。襲われる事に慣れてはいるが逃げる様に住処の場所を変え、同じよう住処を襲われた他のゴブリン達と合流したりして助け合いながら総出で働いていた。
先頭に自分達で作った不格好な石の斧を持ったゴブリン2匹が周囲を警戒しながら歩き、その後ろに姉妹、最後尾には曲がった木に何かの蔓を張っただけの、果たして矢をつがえても飛ぶのかというような弓と、木の棒を尖らせただけのこれまた真っ直ぐ飛ぶのかという矢が入った矢筒を背負った、合わせて5匹のゴブリン一行が並び音を立てない様静かに進んでいる。
弓矢を持ったゴブリンの腰には木をくり抜いて作ったような筒が括り付けてあり、筒には毒草で作った毒が入っている。毒が溢れないように申し訳程度に草を詰めたような蓋がしてある。
それぞれのゴブリンは草で編んだ袋の様なものを1枚ずつ持っており、時折採取しては該当する袋に入れている。姉妹は1番嵩張り重い食料を入れる袋を担当していた。
袋が一杯になったのでそろそろ巣穴へ戻ろうとしたところ先頭のゴブリンが突然消えた。生暖かいしぶきと共にビシャリと地面の方から音がする。見ると赤い液体が地面にゆっくり広がり染みになって行く。そこにドサリと採取した物を入れていた袋が落ち採取物が散らばる。
周りに繁茂している草にも赤い液体が飛び散って、緑に所々赤い色が入った草がその勢いでなのか不規則に揺れている。嗅ぎ慣れた臭いが鼻をつくと付随して望まない感情が湧き上がる。
ビシャリビシャリと落ちてくる赤い液体に逆らう様に上を見上げると、枯れた大木から生えた太い枝が血管の様に四方へと不気味に伸びている。
その太い枝の1本に、脚には産毛の様なものが生え、黒と白の縞々模様が不気味に付け根の方まで伸び、背の部分に鬼の顔の様な模様をもつ大きなクモがゴブリンを胸元まで咥え咀嚼していた。
そのゴブリンから流れ落ちる血よりも真っ赤な複眼を光らせゴブリン達をじっと見下ろしている。その無機的な眼に驚愕と恐怖に彩られたゴブリン達の顔が写る。
不慣れな新しい場所に移った事で採取量が少なく少し無理をした事で、注意していたが他の魔獣達の縄張りに入ってしまったようだ。さらにクモが擬態していた為気がつかなかった。
そして僅かに停止したその隙は命取りになった。先頭にいたゴブリンがまた消える。ゴキリと音がした方を見上げると、クモがいる反対の木にこれまた同じ様な大きさのクモがゴブリンを頭から丸噛りにしている。
「逃げるぞ」そんな声を上げようとした殿のゴブリンの顔全体に白い糸のようなものが貼り付くと一気に体が持ち上がる。さらに新しく現れた3匹目のクモの尻から粘着性の糸が飛び出て、抵抗する間も無く一瞬で引っ張り上げられ、殿のゴブリンはあっという間に糸でグルグル巻きにされた。クモは口から何か牙のような物を出しそれを刺すと、糸の中でしばらくもがき暴れていたゴブリンは静かになった。
クモがゴブリン達に夢中になっているうちに、姉は妹を庇いながら後退りする。お約束のように乾いた枝を踏みバキっと、そんなにするかという程の大きな音が響く。クモ達が一斉に姉妹へと向き糸を飛ばそうと尻を上げ、姉が妹を逃す為に突き飛ばそうとした瞬間。
ドーンと爆発したような大きな音が聞こえた気がした。驚く間も無くビリビリと大気が、地面が、木や草花、森全体が震え、森に何かとてつもない力が一瞬で現れた。
姉妹達はその力が持つ圧力のせいか地面に手と膝をつく。周りに目をやると木々やクモ達や周りの景色が何重にもブレて見えている気がする。
そんな力が現れたと思ったら消え、また現れるというのを繰り返す。
そちらに意識を持って行かれ、姉妹は近くにクモがいる事がすっかり頭から抜け落ちていた。
ドサリと、グルグル巻きにされたゴブリンが地面に落ちる。その音をきっかけに尻を上げたまま暫く固まっていたクモ達は一斉に雲の子を散らすように逃げていった。
姉妹もゴブリン達が落とした収穫物を拾い取り一目散にその場から逃げ出す。住処へ戻る為に付けた標はあるが軽いパニック状態の為目に入らず、どこをどう走っているのかも姉妹には分からなくなっていた。
暫く走ると大きな根が地面からうねり出ている大木が姉妹の目に入った。その大木と根の中間にちょうど姉妹が休めるような穴になっている部分がある。姉妹はそこによじ登り暫く身を隠しじっとしていた。採取した物を2匹で分け合いながら。
精神的にも肉体的にも疲れていたせいか、お腹が満たされるといつの間にか眠ってしまった。
少し振動を感じ姉妹は目を覚まし慌てて起きる。隙間から外を伺うと風景が変わっていた。しかも何故か姉妹たちが隠れている大木が動いている。何がどうなっているのか混乱したが考えても分からず、どうすることも出来ずにその穴に留まった。
その大木はかなりの樹齢を重ねたトレントだった。姉妹が寝てる間に動きは遅いがその大きさで森の中心の方へとかなりの距離を移動していた。
太古の森の植物やその系統の魔獣は世界樹の眷属の様なもの、突如現れた力には怖れずむしろ元気になっていた。
ある日の夜姉妹はいつもの様に警戒して隙間から外を見ていると光の柱が立ち昇るのが見えた。光が木を草を森を、穴の中を照らし、姉妹の顔を照らした。瞳に写りこんだ光の為か目に力と希望が宿った様に見えた。
姉妹はあの光の柱はきっとあの力が何かしたのだろうと思った。今の森でそんな事を出来るのはあの力しかないからと。
以前森の奥の方で強い魔獣同士の争いで光が走ったり爆発する様な光景をかなり遠目で見た事があるが遠いとわかっていても怖くて隠れた。しかしあの光の柱はそういったものでは無く不思議と愉快な感じがした。そしてそれは姉妹の場所から遠くなかった。
隙間から窺う森は驚くほど静かで、姉妹には都合が良かった。どうなるかはわからないがそれを目指し向かう事にした。だが何となく大丈夫だと思っていた。
姉妹は森の雰囲気がどこか変わった事に、森全体が明るく色鮮やかになった様に感じていた。
だから大丈夫だと。なけなしの勇気を奮い立たせて。
◇◇◇◇◇
山田は<デザイン>スキルでクリップボードに用紙を挟んだ物とペンを作り伊達眼鏡をかける。何か調査員みたいな事をしたいのだろうが、ポーズだけである。
「ふむふむ」
山田の前には向かって右から碧、琥珀、金太郎はお座りをして並んでいる。
姉妹にスキルを使って良いか聞くと好きにしてくれと返ってきたので、何の躊躇いも後ろめたさもなく、姉妹へと<鑑定>スキルを使う山田
名前ー琥珀・碧
種族ーラブリン
職業ー山田の従者
≪装備≫
<山田の体操着>
設定=自動修復・自動洗浄
<山田のハーフパンツ>
設定=自動修復・自動洗浄
<山田の靴下>
設定=自動修復・自動洗浄
<山田の運動靴>
設定=自動修復・自動洗浄・靴擦れ防止
≪スキル≫
<俊敏><怪力><健康><器用><忍耐><魅了><探索><身体強化>
≪称号≫
<山田の眷属> <山田の加護> <作り直されし者> <アイドル> <新種族> <祖先> <勤勉> <忠誠> <ちっぽけな勇気>
「やっぱり琥珀も碧も一緒か。さてそれでは、スキルを使わない普通の状態でどれぐらい動けるのか見ていきましょうか」
メガネをクイッと上げ、レンズを<作画>スキルでキラリと光らす。
「「分かりました」」
手を上げ元気よく返事をする姉妹
「あ、金太郎。やる気を出してるところごめんね。ちょっと思いついちゃった事があるからさ〜、少し待っててね」
金太郎は少し気勢を削がれたが何をするのか気になるようで尻尾を振っている。
山田は<デザイン>スキルで、形はアナログバージョンだが500キロまで測れ、円盤状の部分にきりりとした眉と表情の顔をくっ付け、100キロごとにその口から音声で教えてくれる設定を付けた、琥珀の手に合った握力計を1つ作り、やり方を教えて渡す。申し訳程度に付けた顔にはたいして意味はない
所謂体力測定を行うようだ。
「じゃあまずは琥珀さん、お願いします」
山田の合図に琥珀が「えい」と力を入れて握ると、バキリと音がして円盤部分に付いている目と眉が曲がって弾け飛び、握る場所がもげると同時に
『ひゃぎゃぐぶじゃっしゅ』
と握力計が変な声を出し、口も弾け飛び壊れる
「あ?え?壊れた?てか弾けた?」
「も、申し訳ありません」
自分の手にある壊れた握力計を見た後、顔面蒼白になり、土下座しようとする琥珀を山田は慌てて止める
「いやいや、大丈夫だから、気にすんな。あれかな〜造りが甘かったかな〜」
山田は琥珀からその壊れた握力計を受け取り、<修正>スキルで更に倍測れる様に作り直し、逆の手でやる様にと渡すが、同じ事になる。
「す、すみません」
「いやいや、大丈夫だって、どんどん壊して行こう。スキル使ってないよね?」
「はい、使ってません」
「ひゃ〜凄いな〜、身体能力が凄いのか?いや多分<怪力>ってスキルだよな、そのスキルがゲームで言うところのパッシブってやつなのか?いやパッシブでありアクティブって事もあるか?」
碧にも渡してやらせると同じ事になった。
「さっきの木を吹き飛ばしてた事といい、これって俺なんてすぐ潰されちゃうんじゃないか?ちょっと握手とかしたらグシャって」
「大丈夫よ」
ソファーからいつの間にか山田の近くに飛んで来ていたアリーが答える。
「本当か?」
「ええ、ちょっと握手してみなさいよ」
「じゃ、じゃあ、琥珀ちょっと握手してくれ。そっとなそっと、そっとだぞ、いきなり握るなよ」
「分かりました」
持っていたクリップボードを左脇に挟み、恐怖からかゴクリと喉を鳴らし、そろそろと慎重に手を出す山田。お互いのプニプニとした柔らかい子供の手が合わさり自然と握り込む。
「ぎゃああああああああああああ、って大丈夫だ」
「しょうもないお約束ね。そりゃそうよ、てかコップやお菓子を潰さずに食べてたでしょ、それぐらいの事は大丈夫よ、しかも器用ってスキルを持ってるんだから」
「あ、そ、そうか」
やれやれとアリーはソファーの方へと戻って行く。琥珀と碧は不思議そうにしている。
「ま、まあ握力はもういいや、アクティブの時も気になるけど、じゃあ次は・・・・・・体力測定って何をやってたっけな、背筋を測るやつは最近やってないんだっけ?まあやらせてみるか、上体反らしと、前屈、反復横跳び、あと垂直に飛ぶのとか幅跳びは違ったか?まいいや、50m走と、なんかハンドボールみたいなの投げたよな、あんまり覚えてないけどこんなもんだろ、あとパンチ力とかキック力もか」
山田はそう独言ながらクリップボードに挟まれた紙にサラサラとペンを走らせた。
何時も無理矢理です。
いやースキルとかレア度とか自分の様な馬鹿がやるもんじゃないな〜




