C-20「名付けと」
「まあ何だかんだ権力闘争があって何だかんだこうなりましたと、そう言うわけですな」
「ざっくりしてるわね」
そんなざっくりした山田の耳にバリボリとお菓子を食べる音が入って来る。というか音はずっとしていたが山田の意識には入ってこなかった。アリーとの話から引き戻された音の方、姉妹の方に山田は向く。
「いや〜ごめんごめん。お待たせ。なんだったけ、あ〜そうそう、まさか新種族とか、そういう変わりかたするとは思わなくて、いやー、容姿に関しては概ねイメージ通りなんだけど、あれだったら元に戻すけど、どうする?種族やスキルは元に戻るか分からないけど」
山田は顔の前で手を合わせて謝っているが友人同士の待ち合わせに5分ほど遅れた時のような軽さがある。
「あんた何か軽いわね」
あれだけケーキを食べておいてなお、その小さい体のどこに入るのか、食べていたポテチを片手に呆れた様に指摘するアリー。
「で、どうする?」
「元に戻せるんですか?でも、どっちでも良いです」
「いいです」
山田に気を使っているわけでもなく、本当にどうでもよさそうに好きにしてくれと、なんの迷いもなく答える姉妹。
「え?あ、そうなの?」
「まあ、魔獣や魔物はあんまり外見を気にしないんでしょうね」
「そんなもんか、じゃあこのままで良いかな、前のはちょっとあれだったし」
「あ、やっぱビビってたわね」
「ビビってね〜し」
「いんや、ビビってたわね。そういえば見た目が怖いとか言ってたわよね」
「ビビってね〜し、怖いとかそれはむしろ逆にあれだし」
「あれってなによ、何でこっちに目線合わせないのよ」
「あれはあれだし、別におれは見たいところを見るだけだし」
不毛なやり取りを交わす山田とアリーに恐る恐る声をかけるラブリン姉妹。
「あ、あの、お好きにして下さい」
「下さい」
山田は一つ咳払いして姉妹の方へ向きなおり
「まあそうは言いつつ、一応自分の姿形の確認はしておいた方が良いだろ」
山田はそう言うと椅子から降りて、テーブルから少し離れた場所へ移動する、姉妹も椅子から降りてテーブルに持っていたコップを置きついて行く。
また跪きそうになる姉妹をなだめ、自分の身長が彼女達より低いのがいけないのかもと<作画>スキルを使い、彼女達より少し高くなる様に、手を後ろ手に腰に置き空中に浮く山田。
道具袋から以前作った姿見を取り出し、姉妹の前へと出し作画スキルで固定する。姿見に写る自分の姿を確認する姉妹。
「こ、これは私ですか?」
「ですか?」
鏡自体が不思議なのか、自分の顔や身体を触ったりクルクル回り確認する姉妹。
「そうだよ、君達だ。これは鏡って言うんだけど・・・多分ゴブリンの社会にはない物だろ、伝わるのか?」
アリーへと向き疑問を口にする山田
「大丈夫よあんたの眷属になった時点である程度の知識や言葉は共有されてるわ」
「ほえー、じゃあ翻訳されてるわけじゃないのか」
「そうよ」
「じゃあ金太郎達もそうなのか?だったら人語理解とか要らなかったか」
「そうね、まあ別にいいんじゃないの、あんたの言葉は理解出来るって事だし、この先もしかしたら必要になるかもしれないわよ」
姉妹は暫く鏡を見て不思議そうにしていたが、顔を手で挟んだり変な顔をして2人してクスクス笑っている。
「今まで自分達の姿とかって見たことあるのか?」
その声に姿を確認するのを止めて山田の方を向く姉妹。妹の方は変な顔の途中だったのかそのまま向いてしまい慌てて直し、少し顔が赤くなった。そんな様子に優しく微笑む山田。
「え?あ、はい、川等に行った時に見た事はあります。こんなにはっきりとは見えませんでしたが」
「です」
「へ〜そうなんだ〜。しっかし何か喋り方も随分変わったな〜。なんか賢くなってる気がするし」
そんな姉妹の様子を腕を組み見つめながら山田はふと思いだす。
「そう言えば君ら名前がなかったな、なんて呼べば良いんだ?」
「お好きにお呼び下さい」
「ください」
山田は少し考える。姉妹はじっと山田の事を見つめる
「そっか、じゃあ〜、姉のほうが琥珀で妹の方が碧な」
「瞳の色からってのも安易ね」
「い、良いだろ別に」
煎餅を片手に持ったアリーからの指摘に、図星だったのか少し慌てる山田
「よく無いわよ、あんたの名付けによってそれぞれ特性が出ちゃうんだからね」
「え?どういう事?」
アリーは持っていた煎餅を1つバリリと豪快に食べ割り、コップに入ったコーラをストローを使わずにゴクリゴクリと喉を豪快に鳴らし流し込むと、ドンッと机にコップを置き、プハーと息を吐き腕で口元を拭う。
「お前、なんか上品そうにしてたけど、止めたのか?」
そんな指摘は聞こえないとばかりに話を進めるアリー
「例えば金太郎ね」
「あ、続けるのね。まあいいけど」
「金太郎は獣系の魔獣や魔物に強くなって、相撲が強くなってるわ。がっぷりよつね。あ、あと熊系を馬の様に使えるわ」
「何じゃそりゃ。金太郎が熊系や相撲に強いってやっぱ、まさかり担いだあれだよな、まあ相撲って言っても前足は着いちゃってるし、自分で走った方が速そうだよな。マサカリでも咥えさせたら強くなんのか?」
「ヤマブキは金運が上がってるわよ、あとそこはかとない気品があるわね」
「金運ってやっぱ小判的なあれだよな」
「あんたの名付けはそういう意味が出ちゃうから気を付けなさい」
山田は金太郎の方へ視線を移すがまだまだ腹を出したまま寝ている。ヤマブキを見ると前足を重ねて伏せスッと首が伸びている。言われてみたらなんだか気品がありそうな気がしてくる。
「まじか〜、お前そんな事まで分かるんだな。って、言われてもな〜金太郎は分かりやすいけど、どんな名前付けたらどんな事になるとか分かんないもんな〜まさか精神的なものまでがらっと変わっちゃうとかか?」
「まあ流石にそこまで変質をさせるものじゃないけどね、補正がかかるって感じかしら。まあ眷属になるって事は少なからずあんたの影響を受けちゃうんだから、精神の変容だなんだって言ったところで今更よね」
「そうなのか、なんか重要っぽい事をさらっと言うな」
「生き物はお互いに影響され合って成長していくものよ」
「なんか時々含蓄あるっぽい言葉が出るな」
山田は自分では意識していなかったとはいえ、姿を変えてしまっただけではなく、自分が適当につけた名前で金太郎達が元とは全く違う物になっていない事に少しホッとする。といっても山田はそこまで深く考えず、まあいいか、あんまり考えない様にしようと気持ちを切り替えていた。
そんなやり取りは関係ないと姉妹は自分達の名前を噛みしめる。
「こはく」
「あお」
「ちなみに琥珀と碧は・・・」
「いや、いいよ言わなくても、気軽に名付けとか出来なくなりそうだし」
「そう?まああんたが良いなら良いけど」
山田は姉妹へと向き直り、ステータスやスキル等の確認をした方が良いだろうと提案する。
「いや〜なんかもう全然違う生き物になっちゃったから色々確認しといたほうがいいだろ」
「あんたも自分のスキル確認しておきなさいよ、ある程度しかやってないでしょ、普通は色々確認するでしょ」
「そうなのか?」
返事がわりか、バリっとアリーが煎餅を食べ割る音が響く。




