C-14「怒られて」
山田の髪型は何かの実験に失敗したのかという位にアフロになっていた。くすぶっているのかアフロから煙りが綺麗に一本立ち登り、焦げ臭い匂いがする。服も少し汚れている
「このクソピンクが調子に乗りやがって、分かってんのか?おう?こら」
広場にアリーの怒声が響く。小さい体のどこからこんなに大きな声を出しているのか、正座をさせられている山田の顔の前でチンピラの様に睨みつけまくし立てるアリー。何故か金太郎達も山田の後ろに座らされている。
「・・・はい、すみませんでした」
「てめ〜も初めての異世界でテンション上がってたのはわかる、わかるよ。でもな、こんな可愛い妖精を吹き飛ばしたらあかんやろうがあ〜ん?挙げ句の果てにあないな気持ちの悪いもん出しくさりやがって、赤鉛筆がわりにお前の血で髪の毛のハイライトを修正したろか!?」
手足をぶん回し暴れるアリーは興奮のあまりエセ関西弁になっている。
「いや、悪かったと思うよ、でも不可抗力と言いますか。というかなんで俺が初めての異世界ってわかるんだ?それに、赤鉛筆でハイライトって」
「言い訳すんなやごらああああ、人が説教しとんのに何を何個も質問ぶっこいとるんじゃごらああああ!てめーの額にタップ穴開けてタップねじ込んで顔の前で紙をパラパラしたろか」
山田の疑問に被せ気味でブチ切れ眼前まで迫るアリー。
「近っ!ってタップ穴って言ったか?」
「あ?」
「いや今タップって」
「あ?」
「いや今」
「あ?」
「いえ、すみません」
なぜタップの事も知っているのかと思ったが、アリーの取り付く島のなさと圧力に思わず謝ってしまった山田。
「そら色々やらかしとるお前がフリスビーで吹き飛ばされても怒らんわな、怒ったら自分の事棚上げやもんな!!」
眉間にこれでもかと皺を寄せて睨んでいるアリーの説教が続く中、山田はどうしようかと考えていた
『うっわ~めっちゃキレてるな~さっき会ったばかりの奴に良くここまでぶちギレられるな〜こりゃ落ち着くまで待ってた方が良いかな・・・・・そういや俺がこんなに怒った事ってあったっけ?最後に怒ったのって何時だったか・・・・・もっと怒ってるんだってアピールした方が良いなんて言われたこともあるけど、怒るのってエネルギー使うもんな~・・・・・こいつちっちゃいのにどこにそんなエネルギーがあるんだ?・・・・・・・・あれ?どうやって怒るんだっけ?・・・まあいいか、しかし疲れないのかな~こりゃ怒ることでテンション上がって行ってる感じだな~・・・・・え?ひゃ~すげ~動き。うわ~1回転したよ。なんか体がねじれてるし、すげ~』
体全部を使って怒りを表現するアリー。アリーは生まれたばかりで強い感情の抑制が上手く行っていなかった。
山田はアリーの目を盗み後ろに座らされている金太郎達をチラッと見ると、どうしたらいいのか困った表情をしていた。なんか付き合わせて申し訳ないな~と思いながら、アリーに視線を戻すと動きがもっと激しくなっていた。
『え?少し目を離した隙に?いや~すんげ―動き、ひゃ~、え?そんなところ曲がるの?え?まじで、羽根どうなってんのよそれ・・・・・いや~すんごい癇癪だな~癇癪パーティーだな~一人癇癪パーティーだな。しっかし、まだまだ全然収まりそうにもないし、これもうなんか俺の事関係なくないか?このままアリーの動き見てても良いけど・・・・・どうしようかな~止めようとしても、止まりそうにないし・・・・・一人でしり取りでもするか~、リス、スイカ、カラス、スルメ、メダカ、柿、キンタマ・・・って一人でやっててもぜんぜん面白くないな』
出そうになるため息をなんとか押しとどめ、ふと思いつく。
『こいつのステータスってどうなってるんだ?良しちょっと鑑定してやろう』
いまだ怒りが収まらず暴れまわるアリーへと山田が鑑定スキルを使った瞬間。
「うぎゃああああああああああああ」
強烈な光が山田の目を襲った。
「目が目がああああああああああああああ」
某ム〇カ大佐のような叫び声を上げながら、目を抑え地面を転げまわる山田。驚き避ける金太郎達
「あんた人が説教してる時に何やってるのよ!」
山田の顔に大の字でビタリとくっつき鼻を齧るアリー
「ぎゃあああああああいっだああああああああ」
◇◇◇
少し落ち着いた一同。眩しさも収まり、山田は頭から立ち上っていた煙を消し、鼻の歯型も消し服も綺麗にしているが、アリーの「アフロ残しね」という言葉でアフロのまま椅子に座り、食べている途中だった朝飯を食べていた。その周りで金太郎達も食べかけだったご飯を食べている。
アリーはテーブルの上に山田がスキルで出した、アリーのサイズに合わせたテーブルと椅子に背中の羽根を上手く仕舞ってちょこんと座り、山田がご機嫌取りにスキルで出した何個目かのイチゴのショートケーキを美味しそうに食べている。ケーキの知識はあるようだったが初めてケーキを食べたアリーは芸人顔負けのリアクションで、今は可愛いティーセットで小指をちょこんと立て自分では優雅に紅茶を飲んでいるつもりみたいだが、その名残りか口の周りにべっとり付いたクリームが微笑ましかった。
「う~ひどい目にあった」
左手に茶碗、右手に箸を持った山田は目の状態を確認する様に、瞼をしばしばして遠くを見たり近くをみたりしていた。アリーはティーカップを受け皿へカチャリと置き呆れ顔で
「レディーの秘密を覗き見ようとするからそういう目に合うのよ。人が怒ってる時に随分なはしゃぎっぷりだったじゃない」
「なんなんだよあれ、めっちゃくちゃ眩しくて痛かったぞ」
山田はまだ少し視界が悪いのか目を細めてアリーを見るが、睨んでいるようにも見える。
「当り前じゃない、ステータスの隠蔽もカウンターも必須よ、鑑定スキルを持ってる人自体稀だけど、あんたみたいな覗き魔がどこにいるかわからないんだからね」
「覗き魔って」
茶碗を置き目頭を抑えながら瞼をギュッと瞑る山田。
「勝手に他人のステータスを覗こうとするなんてマナー違反のエチケット違反よ。そんなやつは覗き魔で十分よ」
「金太郎達のはすんなり見れたのにな~」
金太郎に視線を移すと何度も中断された所為か一心不乱に食べている。
「そりゃ眷属だからね。まあ、圧倒的な力の前では隠蔽もカウンターもへったくれも無いけどね〜」
アリーはスプーンを振りながら答える
「そうなのか、随分物知りなんだな、ああ~だいぶ目が良くなってきた。そういえばお前は俺のスキルもなんか効かなかったもんな・・・何でだ?」
アリーはケーキをパクリと一口食べ、目を閉じてゆっくり味わってから
「そんなの決まってるじゃない、あたしはお母様から生れたのよ、あんたのスキルが効くわけないじゃない」
「何が決まってんだよ、てかお母様って誰だよ」
山田はお椀を手に取り一口味噌汁をすする。
「そんなの決まってるじゃない世界樹よ」
お椀をテーブルに置きながら首をかしげる
「俺は今、はてながいっぱいだぞ」
「そう?世の中ってのは不思議がいっぱいなのよ」
「いやもうちょっと説明してくれよ。説明不足はどっかの大賢者みたいだな、世界樹って妖精を産む?妖精がなるのか?ただの樹じゃないとは思っていたけど」
山田は茶碗を持ち上げながら世界樹の事を思い出すが、自分の影響でおかしな事になったんだっけ、色々凄く咲いてたもんな〜、まさか妖精が生まれるのも俺の影響?そんな訳ないよな、異世界だしそういう事もあるのかもと1人納得していた。
アリーを見るとその話にはもう答える気が無いとでも言うかの様にティーカップを傾けていて、山田はご飯を一口食べ咀嚼し、はてなと一緒に飲み込む。
「そういえば俺が初めての異世界とか言ってたな、何で分かるんだよ」
アリーはまたケーキを一口美味しそうに食べると、山田に顔を向け
「あたしはお母様に必要な知識を分け与えて貰ってるのよ。お母様は何でもご存知なのよ」
スプーンを振り振り得意げに語るアリーの口の周りにはまだクリームが付いている。
「どうやって色んな事を知り得て蓄えているのかは置いておいて、ハイライトやらタップやら言ってたけど、なんでそんな特定の職業の知識があるんだ?」
「そりゃ向こうの世界であんたが覚えた知識もチラッと見ただけのような覚えていない事も、お母様はあんたから全部取り込んでいるからね。勿論あたしもお母様が蓄えている知識にアクセス出来るのよ」
「え?まじかよ」
「まじよ、まじまじのアルマジローラモよ。あんたの隠したいあ~んな事も恥ずかしいこ〜んな事もバレバレなんだから」
山田は急にゴホゴホとせき込み咽せ、お茶を飲み落ち着く。
「まあ、あんたが何をしようと勝手にどうぞって感じだけど、私やお母様に迷惑かけたら超くらわすかんね」
と言ってげんこつを作り山田へと向けるアリー。可愛い妖精が口にクリームを付けたままでは迫力に欠けるが、山田は出そうになるため息をまたお茶で流し込む。