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異世界鳥獣人物戯画  作者: エンペツ
14/34

C-13「アリー」

 世界樹の枝には世界樹の花の他に山田がいた世界の様々な花が咲いたり蕾が付いている。

 山田が世界樹の周りに巡らされた結界を出て暫くした後。世界樹の花の蕾の1つがゆっくりと開く。ソフトボール程の大きさがあるその蕾の中に、膝を抱え丸まり横たわった妖精が気持ち良さそうに眠っている。

 しばらくして目を覚ました妖精は目をこすり、う~んと手足と体を伸ばすと、大きな欠伸をし、上体を起こすと気持ちよさそうにまた伸びをする。羽根の状態を確認するように小さい翼をパタパタ動かし、ふわりと浮かぶと羽根からマナがキラキラと輝く。世界樹の葉に溜まった雫で顔を洗うと、朝の運動とばかりに何度も空を円を描くようにクルクルと飛び回る。


「おはよう、お母様」


 ひと通り飛んで満足したのか、妖精は世界樹に挨拶する。世界樹の葉が揺れ、間から漏れる木漏れ日が妖精に挨拶を返している様だった。


「ええ、分かってます」


 そう言うと世界樹の幹にそっと抱きつき目を閉じる。妖精を優しく包むようにキラキラとしたマナが世界樹から溢れる。


「行ってきます」


 名残惜しそうにそう言うと、一気に結界まで飛び発つ。結界の前で一度止まり、拳を握り一度頷くと結界の外へ出る。


 妖精は始め慎重に進んでいたが、元来好奇心旺盛な性格の為か、初めて見る森に興味津々であっちへフラフラこっちへフラフラと目的の場所へと辿り着かなかった。魔物の気配のない事がそれに拍車をかけ、大胆になり油断していた。

 使命を思い出した妖精は急いで目的の場所へと向かった。不自然に広がった広場に出て、不思議な建物を見つけ不用意に近づくと、突然立ち昇った光の柱に吹き飛ばされた。



◇◇◇



 フリスビーに吹き飛ばされたあとテントの前に戻ってきた山田達。手ファンネルは戻し、横一列に金太郎達をおすわりさせて、その前を腰の後ろで手を組み足元からピッピと音を鳴らしながら行ったり来たりしている。金太郎達はそんな山田の姿を目で追っている。

 そんな山田は側頭部に<デザイン>スキルで作った漫画のようなでっかいタンコブをくっつけ、頭の上には妖精のアリーが足を投げ出して座っている。


「えー皆んなが遊んでる間に先生のところへ急にこの妖精さんが現れました」


「ノンノン。超スーパーウルトラ究極アルティメット全世界が感動した最高にプリチーな妖精ね」


 チッチッチっと指を立て左右に振るアリー


「・・・・・えー皆さん想像して下さい。急に現れたのがこの、超うんこっチーな妖精さんじゃ」

「どこをどう略してんのよ!独特な略し方で個性を演出か?あんたのそのクソしょうもない脳ミソを掻き出して味噌汁作ってその辺に捨てたろか!」

「痛っ」


 山田の頭をバシっと叩くアリー


「・・・・・ゴホンッ。その現れたのがプリチーな妖精さんじゃなくて恐ろしいモンスターだったらどうですか?はい金太郎君」


「ワン」


「そう。ワンです。ってワンてなんやねん!」


「そうじゃありませんよね。それが恐ろしいモンスターだったら先生丸飲みですよ。一口でパクリとされちゃいますよ。それはもうそこだけは自信満々ですよ」


 そんなわけないだろと言った表情でみつめる金太郎達


「貴方達は確かにペットになったり眷属だったりしてますが、先生と会ってまだ数日ですよ。野生はどうしました?貴方達が警戒してないと誰がするんですか?はいヤマブキ君」


「ワン」


「そう。ワンです。ってワンてなんやねん!」


「違いますよね。警戒するのは貴方達ですよね。先生がやればいいじゃないかって?それは面倒くさいです」


何とも言えない表情でそれぞれの顔を見回す金太郎達


「ということでこのタンコブを金太郎君に贈呈します。ちゃ〜んちゃ〜ちゃちゃ〜んちゃ〜ちぇちぇちぇちぇチェケラッチョー」


 何がという事なのか、そう言うと自分の側頭部につけたタンコブを外して金太郎の頭にピタッとくっ付ける。よく分かっていなさそうな表情の金太郎


「あんた本当しょうもない事に力を使ってんのね」


 頭上からアリーの呆れた声が降ってきた


「しょうもない事って失礼な、ってお前なに人の頭の上に乗ってんだよ」


「え?いいじゃない減るもんじゃないし、さっきまで気にしてなかったじゃない」


「そういう問題じゃねー。お前さっき会ったばっかりの人間によくそんな事出来るな」


「え?そ、そんなに褒めたって何にも出ないわよ」


 山田の頭を照れ隠しにバシバシと叩くアリー。


「あいたたた叩くなよ、褒めてねーよ、何で褒められてるって思うんだよ、ポジティブ過ぎるだろ」

 

「そういえばあんた吹っ飛ばされたことには怒らないのね」


 アリーにそう言われた山田が金太郎達に視線を移すと、金太郎達は耳と尻尾をペタンとして下を向いていた。


「いや、まあ楽しそうだったしな」


 その言葉に顔を上げパッと明るい表情になった金太郎達の尻尾は大きく揺れていた。


「ふ〜ん、そうなんだ〜」


 興味が無いのかアリーの返事は素っ気なかった。


「興味なくなるの早くないか?っておい、何やってんだ?なんか髪の毛が部分的に引っ張られる感じがするぞ」


「え?落ちないように持つところ作ってるのよ」


「ちょ、お前、初対面の人の髪の毛で取っ手を編むんじゃねーよ」


「これは座って足を通して腰へベルト状にしたほうがいいかしら」


「おい!聞いてんのかよって、いててててて」


「うっさいわね〜落ちそうになるんだからしょうがないじゃない」


「だったら乗らなきゃ良いだろうが」


「ちょっと、手元が狂うからじっとしてなさいよ」


 山田が手で追い払おうとするが、アリーはその手を噛んだり引っ掻いたり殴ったり蹴ったりと激しい攻防戦が行われたが、軍配はアリーに上がり当然と言いたげにアリーはせっせと髪を編む。そんな様子を金太郎達はポカンとした表情で見ていた


「あーもう好きにしてくれ。朝飯食おうぜ朝飯、外で食おうぜ」


 山田は気を取り直す様に朝飯を外で食べようと、吹き飛んだ机や椅子をスキルで綺麗にして元の位置へと戻し、テントの中へと戻って行く。金太郎達も立ち上がり、金太郎の頭のタンコブが柔らかいのかボヨンボヨンと揺れている。ヤマブキ達がそれを見つめていると、山田がテントから金太郎達の餌入れを<作画>スキルで空中に浮かせながら出てきて、金太郎達の前に並べる。


「やっぱり朝はご飯と味噌汁と焼き鮭と納豆だよな〜」


 山田は椅子に座り、そう言うと<デザイン>スキルで茶碗に盛られたご飯、皿に乗せられた皮に箸を入れたらパリッと音がしそうな焼き目がついた焼き鮭、お椀には玉ねぎとナスが具の赤出汁の味噌汁、小鉢に入った納豆の上には刻まれたネギ、醤油差しに箸置きに置かれた箸がお盆の上に並んで出てくる。

金太郎達にはいつものドッグフードをこんもりと餌入れに出してあげる。


「いただきます」


醤油をちょろっとかけて納豆をかき混ぜると納豆が糸をひき始め、ズルズルと口に掻き込み糸をクルクルと箸で切り、茶碗を持ち上げご飯を頬張る。目を閉じ咀嚼し、鮭の切り身を崩し一気に頬張り味わう


「う〜!まぁ〜!い〜!ぞおおおおおおお!」


 カッ!と目を開いた山田がそう叫ぶと、金太郎達はビクッと身構える。

 山田はまた懲りずに某味の皇様の様に目と口を光らせながらグルグルと回転すると、なぜか山田の後ろに岩にぶつかった様な波が立ち上がり消えると襖が現れた。その襖が開くと、畳と屏風が現れ山田程の大きさの、手足が生え目と口が付いたでっかい米粒と、シャケの切り身と豆が着物を着て、屏風の前で日本舞踊の様なものを踊っていた。


「ふ〜、やっと終わったわ、これで安心ね」


 アリーはちょうど山田の髪を編み終わったのか、半円状に編んだ髪の毛の穴に足を突っ込み、ベルトの様に腰に来るように座り具合を確かめていた。音がするので顔を上げ背後へ振り返えりそれを見た瞬間アリーの目が大きく開かれ釣り上がり、白目になり、鼻と眉間の間に皺が刻まれ、犬歯を剥き出しにし、まるで親の仇にあったかの如く凄い勢いで飛び出した。ブチブチと山田の髪の毛が抜ける音がする。


「「うぎゃあああああ」」


 山田とアリーの叫び声が重なる。


「ぎもち悪いいいいいいいい!ぎもち悪い!ぎもち悪いいいい!」


 アリーは狂ったように叫びながらその米粒や切り身や豆をボコボコにしていく、山田は髪がごっそり抜けた痛みで頭を抱えながら地面を転げ回っていたが、ちらっと目に映ったその光景に痛みも忘れ


「や、やめろおおおおおお!やめてくれええええええ!」


 見るからにボロボロになっていく米粒達に山田が叫ぶが、アリーのラッシュは止まらない。ドスっドゴっと言った重低音が響く中、米粒達が足元から消えていく。キラキラと足元から登っていくマナの光がまるで米粒達の涙の様に見えた


「に、逃げろ!逃げろお前ら!」


 米粒達はその叫びに、山田の方を見つめ笑顔でサムズアップすると一気に消えた。


「う、ううううう、どうして、どうしてなんだ、あいつらが何をしたっていうんだ」


 はあ、はあ、とアリーは肩で大きく息をしながら、山田の方へとゆっくり振り向く


「思い出したわ」


「え?」


「今の怒りで思い出したわ色々と」


 アリーの顔には影がかかり表情が読めないが声には怒りがこもっている


「そんな怒りで目覚めたサイヤ人みたいな、思い出すの早くない?」


「あんただったのね」


「え?な、何がですか?」


 山田はアリーが何を言おうとしているのか察しがついた。目から煙が出るんじゃないかと思うほどに目が泳ぐ


「あの光の柱」


 山田はゆっくりと起き上がり、立ち上がる。アリーの体からオーラが迸りゆっくりと左右に体を揺らしながら山田の方へ向かう


「テメ〜の血は何色だああああああ!」


 アリーはそう叫ぶと、山田へと急襲する。山田はとっさに<作画>スキルを使ってアリーの動きを止めようとする。アリーの体からマナを弾いたかのようにマナがキラキラとはぜる


「んなもんが効くかああああ!なまっちょろいわああああ!」


 アリーは全く止まらなかった。山田は動揺したが気を取り直しもう一度使おうとするが、アリーは山田の懐へ一瞬で入ると右拳を握りしめて、腰だめにする。体のオーラが右拳に集まり、眩しい光を発する


「歯を食いしばれやあああああ」


 そう言ってふり上げられた拳は山田の顎にクリーンヒットし、顎の砕ける音を残して衝撃波と共に山田を空高く吹き飛ばした。アリーの拳からは煙が立ち上っている


「我が拳に砕けぬものなし」


 アリーはそう呟き天高く上げた拳を振り降ろした勢いと共に振り向くと、後方に山田がドサっと落ちてきた。


「成敗!」


 アリーが決め台詞のようにそう言うと、山田が落ちた場所でドーン!と大きな爆発が起きた。その爆風で金太郎達の毛と頭のたんこぶが揺れる。





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