C-11「いただきます・ごちそうさま」
夜。それは特定の魔獣や魔物が活発になる時間。目を爛々と輝かせたモンスターが獲物を求めて徘徊する。それはこの太古の森でも同じ。だがここ数日太古の森は、何かの様子を伺うかの様に、しんと静まり返っていた。
そんな暗闇の中、我関せずと佇む木々の間を裂く様に金色の帯が流れる。<疾走>スキルを使い金太郎が獲物を求め走っている。が、獲物はまだ1匹も狩れていなかった。<嗅覚›と<気配察知>を使っても本当に生き物がいるのかと思うほど辺りは静かだった。何とか1匹だけでもと感覚を研ぎ澄ませるが全く獲物の気配がなかった。あまり主人から離れてもと金太郎は仕方なくトボトボとテントへ戻っていった。
金太郎が出て行った後、スキルで出したアイスコーヒーをずずずと飲みながら、魔狼達がじゃれ合ったりしている様子をぼ〜っと見ていた山田だが、大賢者が最後っ屁みたいに残した言葉がふと頭をよぎる
「そういえば大賢者がステイタスがあるって言ってたのに、何で名前やスキルとかしかでないんだ?」
自分のステイタス画面を見るがやはりHPやMP、レベルや能力値等といったものは出ていない
「うーん、分からねー、ステイタスってそういう事じゃないのかな。ただ単にステイタス画面みたいなものが見えるって事なのかね。まあ、凄まじくバグってたし、大賢者が適当言ったって事にしておこう」
無意識に大賢者に殴られた方の頬を撫でながら、目の前の囲炉裏の様な物に目を移す。
「この囲炉裏みたいなの使えんのか?まあダメだったら、その時はその時だな」
昼間回収した程よい大きさの燃やしても大丈夫そうな木を道具袋から取り出し、<作画>スキルで囲炉裏の上に浮かせたまま適当な大きさ加工する。囲炉裏で使うには少し多いので適当に道具袋へ戻し、残りを<修正>スキルで乾燥した木に修正する。隣でヤマブキが何をするのかと不思議そうにしている。
「こんなもんか、囲炉裏ってそのまま木を燃やしていいのか?・・・・・まあ、いいか」
囲炉裏の上に木を適当に組み。ヤマブキが囲炉裏に雑然と組まれた木へ首を伸ばしクンクンと匂いを嗅いでいる。
「おい、火を点けるから危ないぞ〜」
ヤマブキが首を戻したところで、<デザイン>スキルで火を生み出し<作画>スキルで木まで運ぶ。そのうちにパチパチと音を立てて木が燃え始める。火が大きくなり過ぎないようスキルでコントロールし程良い大きさに固定する。煙が上がるが<修正>スキルで消し様子を見る。
「なんか大丈夫そうかね、はあ〜落ち着くなぁ〜、火って何かボーッと見ちゃうよな〜まあ、寒い訳じゃないんだけど、気持ちの問題ね気持ちの」
手を前にかざし火の暖かさを感じる。そうこうしていると金太郎が申し訳なさそうに帰ってきた。
「おかえりー、早かったな。何?獲物が全く見当たらなかったって?まあそういう日もあるだろうさ、また頑張れよ」
そう言いながらスキルで金太郎のリュックを外す。山田のその言葉に何か言いたそうな表情をした金太郎だったが山田は気が付かなかった。
「まあ、修行するのに魔物や魔獣を狩るってどうなんだって感じだしな。そのうち俺がスキルの確認も兼ねて修行を付けてやるよ、まかせておきたまえ。どうやるかしらんけど。はっはっはっはっは~」
ドンと胸を1つ叩く。ぐううううと誰からともなく腹の鳴る音がした。
「良し!じゃあ飯にするか」
そう言うと金太郎達は囲炉裏を挟んで横一列に整列する。<デザイン>スキルで大型犬用の餌皿と水入れ用の皿を作り<作画>スキルでそれぞれの前に置く。皿がひとりでにフヨフヨと浮きながら自分の前にやってくる光景に驚く事もなくお座りをして大人しく待っている。
「じゃあ、今回も前回好評をはくした、骨付きの特大肉です」
<デザイン>スキルで餌皿からはみ出すほどのこんがりと焼かれた特大骨付き肉を、それぞれの餌皿へ一気に出す。湯気が上がり肉の焼けた美味しそうな匂いが辺りに広がる。水皿に水が湧き出て丁度いい量で止まる。山田が何も言わずとも食べだしたりせずに皆んなちゃんと待っているがよだれが止まらない。
「俺は何を食おうかな〜・・・カレー・・・はやめておくか」
自分の足元へと自然に目がいってしまう。嫌なイメージから頭を振り払い
「良し!決めた。チャーハンと餃子に・・・・・ラーメンは無茶しすぎだな」
そう言うと<デザイン>スキルで皿に盛られ、レンゲが付いたチャーハンと餃子1人前、餃子のタレ、ラー油と小皿、箸が目の前の囲炉裏の縁に出てくる。
「便利なスキルだな」
全員に行き渡ったのを確認しようと視線を移すと、金太郎達が早く食わせろと言わんばかりに山田を凝視している。これは早くしないと山田は胸の前で手を合わせる。
「それでは。いただきます」
言うと同時に一斉に食べ始める。金太郎達はその美味さに尻尾を振りながら夢中でがっついている。
山田は、ご飯、チャーシュー、ネギ、玉子をバランスよくレンゲで救ったチャーハンをゆっくりと口元へ運ぶ、大きく口を開けレンゲごと口の中へ、口を閉じ、目を閉じて、ゆっくりとレンゲだけ外へ出し、ゆっくり咀嚼し飲み込む。
「うー!まー!いー!ぞー!」
カッ!と目を開け、顔を上に向けそう叫んだ山田の目と口から光の柱が迸る。テントを吹き飛ばしその衝撃で火が激しく揺れ、テントに固定したランプの灯りも消える。夜空を突き刺す様な光の柱がそびえ立つ。山田から放たれたその光は右目から「う」が、左目から「ま」が、口から「い」の平仮名がそれぞれ飛び出していった。日本人がそれらを見たらおそらく「うまい」と読んだだろう。山田が<デザイン>スキルと<作画>スキルを使い某味の皇様みたいに美味さを表現したのだ。
金太郎達は光の柱を見上げびっくりしたまま固まっていた。金太郎の口から骨つき肉がドサっと落ちた。
吹き飛ばされたテントが空中をゆっくりと舞っていたが離れた位置に音を立てて落ちると、光の柱は消えていた。
その暗闇を割く様な光の柱は変な文字と共に世界の各地で確認された。
「いや〜めんご、めんご、めんゴリラ、何かやりたくなっちゃってさ、まあ初回はこんなもんでしょ。気にせず食ってていいぞ」
しばらく固まっていた金太郎たちだが、軽い感じで謝る山田にしょうがないかという感じでまた食べだした。が、まだ山田が何かするんじゃないかとチラチラ山田の方を伺っている。食べる速度も上がっている。
「いや、悪かったって、もう今夜はやらないから、気にせずゆっくり食べな」
そう言って、立ち上がりテントを回収に向かう、その様子に警戒して目を離さない金太郎達。
「えーと、どこに飛んでった?暗くて見えないな」
ふと空を見上げると夜空一面に星の絨毯がキラキラと瞬いている。
「ひゃー星とか久しぶりに見たなー、都会じゃ全く見えなくて、上京してから時々見たくなったけど、こりゃ〜凄いな、田舎だと当たり前だったから気にもしなかったんだけど、都会に出てからの方が空を見上げてたきがするよ。まあここは異世界らしいけど」
視線を移すと赤い月と青い月が2つ浮かんでいた。
「おお、異世界感がパネ〜な」
しばらくボーッと見上げていたがやる事を思い出し回収に向かう。手ファンネルを2個出し、LED的なランタンを<デザイン>スキルで生み出しそれを持たせて点灯する。
「わーあっかるーい。で、どの辺に落ちたかねー」
キョロキョロと山田が向く方に合わせて手ファンネルが照らす。
「お、あったあった」
そう言うと<作画>スキルを使ってテントを浮かせて運ぶ。元の位置に戻し<修正>スキルを使って直しランタンを灯す。直ったのを確認し手ファンネルとLED的なランタンを道具袋へ戻し座椅子にドカリと胡座をかいて座りなおす
「さ、食い直すか」
その言葉に食べるのを中断して山田を見つめる金太郎達、チャーハンを掬い口元へ持って行く動きに注視し、口の中へ運ばれると身構える。山田が食べる様子を暫く見ていたが特に何も起こらずホッとした金太郎達は少し安心して、また食べ始める。
「しかしこのチャーハン、ハチャメチャに美味いな~押し寄せてくるな~、スキルで出すと美味くなるのか?てことは餃子も美味いのか?」
小皿に餃子のタレとラー油を入れ箸で混ぜてタレに餃子をつけ一口頬張る。パリッとした皮に溢れる肉汁、餡は肉のジューシーさと野菜の甘さが口の中に溶け出し、ニラとニンニクのパンチが効いている
「これは肉汁の何かどっかの滝や〜餃子の滝や〜」
目を閉じて味わっていると視線を感じ、ふと金太郎達を見ると皆んな身構えていた。
「いや、そんな身構えんでも味の皇様ごっこは今夜はもうやりませんがな」
そう言ってもあまり信用してもらえずちらちらと山田を伺いながら食べる金太郎達
◇◇◇◇
「ごちそうさまでした」
胸の前で合わせていた手を戻し、座椅子の背もたれに体を預ける。
「ぷふぅ~、いや~食ったな~」
ぷっくりと膨らんだお腹をさすり、ポンポンと叩きながら金太郎達を見る。金太郎達はとっくに食べ終わり各々自由にして山田が食べ終わるのを待っていた。骨まで綺麗に食べ皆満足そうだ。
「さてと、片づけるか、水はそのまま出しとくか」
山田は<修正>スキルで自分の食べ終わった食器とエサ皿を綺麗にしてから、<作画>スキルを使って道具袋をしまい水皿をテントの端へと移動させる。
「食ったら眠くなってきたな~、大賢者は食事も排泄も睡眠もいらない体って言ってたけど、排泄以外は全然だな。仕事のスケジュールがやばい時とか食事も排泄も睡眠もしなくていい体になりたいと思ったことがあったけど・・・・・ふぁぁ~、食ってすぐ寝ると逆流性なんとかになるんだっけ?いや、そもそも胃とかあるのか?・・・・・まあいいや」
おもむろに座椅子から立ち上がりベッドへと向かい布団へ入る。それを見た金太郎はベッドへ飛び乗り山田の足元でまるまる。ヤマブキも同じようにし、魔狼達はそれぞれ好きなところでまるまる。
「あ、歯磨き・・・・おやすみ~」
山田はまた一つ大きなあくびをしてから<修正>スキルでランタンと囲炉裏の火を消すと意識を手放した。
数値化って難しいです。