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ハワイでの告知

告知


 翌朝 左胸は一面真っ青に内出血していた。

まだズキズキと痛む。もしも癌だったらこんな真ん中に針を刺して広がったりしないんだろうか?と心配になる。 


 アポイントメントは午後だった。名前を呼ばれて、息子も一緒に病室へ連れて行こうとした。するとナースはちょっと困った顔になり

「息子さんはここで待ってたほうが良いわ」と言った。 夫の顔色が変わった。この一言で、もう乳がんが決定したようなものだ。


 長い廊下に緑色で進路のテープが貼ってあった。


 まるで死刑台への道標のようだ。迎えに来た看護婦は死神に見える。

トボトボと後ろをついて歩きながら、嫌な空気の部屋に入っていく。 


「残念ですが、乳がんです。3箇所あります。 一番大きい物は4センチを超えています。リンパ腺にも転移している可能性があります」と言われた。

胸の塊は大きな脂肪ではなく、大きな癌だったのだ。


 あまりのショックで頭が真っ白になり、半分以上何を言っているのか聞き取れなかった。 実際に知らない単語もあった。

キモセラピーもします。と言われなんだろうと思ったら抗癌剤の化学治療の事だった。


乳房を取る手術をする。

形成手術はできる。

抗癌剤をする。

放射線治療をする。


 おおまかに覚えているのはこれくらいで、いろいろ説明をしていたが、ぼんやりと何を言っているんだろうか?と考えていた。


 この時のことは、あまり良く覚えていない。頭のなかで(ブレストキャンサー)という言葉がグルグル回っていた。


「やっぱりそうだった。そうじゃないと信じたかったのに、ねえどうしよう、これからどうしたらいいの」と廊下で号泣した。

 

 夫も私も泣いたが、待合室に戻る前に涙を拭いた。


「長いよ!ママもダッドも一緒に行っちゃって!」とふくれる息子に

「ごめん、ごめん。じゃあこれからどこか行こうか? 水族館好きでしょう?」

「わ~やった~!」


 ゲーム機をぱたんと閉じて、椅子からぴょんと飛び降りた。床に足さえついていないのだ。まだこんなに小さいのだ。


 まだ何も知らない息子をワイキキの小さい水族館に連れて行った。

喜ぶ息子の顔を見て涙がでる。

まだ小さい、もみじのような手を握って涙がでる。息子の手はまだこんなに小さいんだ。 


 かわいい子供を残して死ねないと思う。一日中助かるのかどうかばかり考えていた。

すごく元気で具合も悪くないのに、そんな恐ろしい病気にかかっているとは。


 治療が終わったら同じ病気で苦しんでいる人のために何かをしたいと思った。


 絶望の淵からでも人は立ち直れるのだと信じたかった。


 告知の日、この時が一番つらく苦しい日だと思っていた。


 でもそれはまだ始まりにすぎなかったのだ。



挿絵(By みてみん)

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