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生者と死者の、小さな境目  作者: 仲島香保里
7/9

少女の正体

 真壁は珍しく、絶対に譲らないという意思表示をするように、強めの口調で言った。

 「どうして?」

 「確かにに俺も見たよ、その子。赤いセーターきて、青っぽいズボン穿いてて、手を振ってた子だろ?あの子には関わるな」

 「え……どうして?」

 美世は心底不思議そうな顔をしている。無理もない。普段の真壁は、授業中でない限り口調を強めることはないし。付き合いだしてからの二年間、喧嘩はおろか、苛立った口調での会話さえ一度もなかったのだ。

 「さっきの子な、指先を下に向けて手を振ってただろ?普通、手を振るとき、美世ならどうする?」

 「えっと……普通なら、手のひらというか、指先は上向きだよね?」

 「だろ?なのにあの子は指先を下にして、手のひらを自分側に向けて手を振っていた。あれはわざとじゃないんだ。ああしかできないんだ」

 「……なんで?怪我――とか?」

 「いいや。あの子は、既に死んでいる子なんだ」

 「うそ」

 信じられない、という言葉が続きそうだった。ちらっと美世を見ると、僅かに顔が青ざめている。

 「あの子、せいぜい四歳とか五歳くらいだっただろ?あれくらい小さい子供だと、生きている人間、死んでいる人間関係なく寄り付こうとする。悪意があるわけじゃないんだ。ただ、寂しいからなんだろうな。よく聞かない?水子の霊って。あれは亡くなった赤ちゃんの霊なんだけど、赤ちゃんは悪意も善意もないぶん、真っ直ぐすぎるんだ。だから、自分と合うと思った人間についてしまう」

 「合うって……何が?」

 「わかりやすく言うと、気が合うっていうのかな。美世だって、この人とは気が合うけど、こっちの人とはどうも合わないなって思うことがあるだろ?それは赤ちゃんも同じなんだ。亡くなった赤ちゃんは、直感に近い形で、気――波が合う人間を探す。生きていたら可愛がってくれるだろうと思う相手をね。虐待されてなくなった赤ちゃんなんて尚更らしい。可愛がってくれるはずの母親に愛されなかったから、その変わりに可愛がってくれる大人を探すんだ」

 「虐待されて死んだ子が……さっきの手を振っていた子なの?」

 「それはわからない。事故だったのかもしれないし、何か病気だったのかもしれない。いずれにしても、あの子が死んでいるのは間違いない。死者と生者の見分け方、というほどでもないけど、亡くなった人は年齢に関係なく、生きている人間とは逆の行動をするんだ」

 美世はしばらく自分の足元を見つめ、聞こうかどうか迷っているようだった。

 「なんで、死んでしまっているのに、手を振ったり、人を探そうとしてるんだろ?」

 「悪意があって人に憑こうとしている霊だとわからないけど、ほとんどの霊――特に、亡くなった直後って、自分が死んでいることに気付いていないケースがあるらしい。亡くなった日に待ち合わせしていれば待ち合わせ場所に行ったり、家に帰る途中であれば家に帰ろうとするらしい。場合によっては死んだとに気付かない本人以外の人も、その死んだはずの人の姿が見えることもあるらしいな」

 「としくん、詳しいね。オカルトなんて信じてないって言ってたのに」

 「いや、今でもそこまで信じてないよ。ただ、受け持ちの生徒に心霊スポットとかポルターガイストとか、オカルトオタクがいてね、質問に来るたびに蘊蓄を垂れていくくらいなんだ」

 「本当に好きみたいだね、その子」

 「まぁ、受験勉強を真面目にやってくれればそれでいいんだけどね」

 「ねね、他にも何かないの?オカルト知識」

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