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生者と死者の、小さな境目  作者: 仲島香保里
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人身事故(2)

 「ねね、さっき、ここに来るまでの道ががすっごい渋滞してたじゃん?あれって、G駅で起きた人身事故が原因らしいよ」


 ボリュームが抑えてあるのだろうが、響きやすい声質なのだろう、衝立を隔てた隣のテーブルから女性の声が聞こえてきた。おそらく一緒にいるのは男性なのだろうが、その声はこもっていてこちらには聞こえてこない。

 「G駅で撥ねられた人の体が、近くを通っていたあの道路まで飛んじゃったんだって」

 ――そんなことがあるのか。

 「ホントなんだって!実際に車を運転してたっぽい人がフイッターに上げてんだもん!まぁさすがに写真はないけどね」

 ――そんな写真を上げる人間がおかしいんだ。

 「自殺とかじゃないらしいよ。ニュースでも言ってたけど、すっごい混んでたんだって、ホームが。で、線路ギリギリのところ歩いていたときに何かに躓いたんだって」

 ――そんなタイミングで躓くなんて、不幸としか……

 真壁の心の問いかけに答えるように、顔も見えない女が答えを教えてくれる。


 ひろくん、と名前を呼ばれた。目の前に美世がいるのに、隣の席の女の声に耳を傾けていたようだ。

 「いや、なんでもない。それより、お腹一杯になったか?」

 飛び切りの笑顔で美世は頷いた。それならよかった。食後のドルチェも気に入ってもらえたようだ。

 この後は、真壁の家へ行き、コーヒーでも飲もうと決まった。金曜日の仕事終わりのデートなので、時間がたっぷりとないのも難点だ。それでも文句の一つも言わない美世には、感謝しかない。

 これから家に行こうと車に乗り、ふと夜空を見上げると、秋晴れのまま夜になったような天気で、微かだが星が瞬いていた。ドライブを美世に提案すると、快く受け入れてくれた。

 そのドライブでも、時々美世への違和感は拭えなかった。

 やはり、何かが、どこかがおかしいのだ。これはもう直感としか言えない。二年ほど付き合っているからこそわかる違和感。二年しか付き合っていないからこそわからない、その違和感の正体。

 行き交う車の少ない中途半端な都会道を目的地も定めずに走る。途中、いろいろな話に花が咲いた。最近の美世の企画の仕事、新しく入社した後輩のこと、入れ替わりで寿退職をした先輩のこと。入社以来世話になっている上司に孫ができたこと。真壁の受け持ちのクラスのムードメーカーの男子生徒のこと、お調子ものだが嫌っている子は少ない、第一印象は不良の女子生徒のこと、受験勉強そっちのけで心霊スポットに度々行くというオタクと呼ばれている男子生徒のこと――



 「あれ?ね、ちょっと止めて」

 美世は、車の窓から外を見て声を上げた。

 「どうした?」

 「さっきね、小さい女の子が道端に立ってたの。こんな時間に一人で。迷子かな?こっちに向かって手を振ってたでしょ?」

 「あぁ。いたね」

 「でしょ?行ってあげよ?交番とかに連れて行ってあげないと」

 「だめ。行かない方がいい」

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