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生者と死者の、小さな境目  作者: 仲島香保里
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彼女と初めての・・・

もうしばらく、お付き合いください・・・

 美世は、食べるのも好きだが、料理を作るのも好きだという。それでもどちらかといえば、食べる方が好きなんだとか。それでも、華奢な体系を維持できているのは、飲み物に砂糖を入れないようにしたり、交通費の節約も兼ねて一駅分歩いたり、バスに乗らずにしているらしい。スポーツジムには行ってないの?と聞くと、走り続けたりするのは苦手だという。

 そんな日ごろから気をつけて、金をかけないダイエット方法をしている若い女の子が、今でもいるんだなと、妙に感心したのを覚えている。

 食事中、美世はずっと笑顔だった。大袈裟に笑うのではなく、静かに微笑んでいるという表現がぴったりな笑顔だった。

 普段の疲れも吹き飛ぶとは正にこのことだ。

 食事を終え、真壁が席を立つと、美世が財布を取りだした。真壁が全額支払うつもりでいたし、女性はそれが普通のことだと思っていると考えていた真壁にとって、美世のこの行動は少し驚いたのだ。いいよ、と制すると、一度は困ったように立っていたが、照れたように礼を言って財布をバッグにしまった。店を出ると、美世の方から、今日はありがとうございましたと敬語で礼を言った。

 頭二つ分くらい小さな美世の頭をくしゃくしゃと撫で、車へ戻った。

 車を発進させ、美世の自宅の最寄り駅まで送ろうとしたとき、海とポートタワーのイルミネーションが見えた。美世の方から、降りて歩きたいと言い出したので、路肩に止めて二人で歩き出す。少し肌寒いくらいの夜の海は、吸い込まれそうなほど暗く、その穴はどこまでも続く迷路のようだった。

 すぐそばに立って、海とイルミネーションを見つめる美世は、さっきまで気持ちの良い食べっぷりを見せていた彼女とは別人に思えた。

 街灯が少ないせいもあるのか、小柄な彼女がさらに小さく見え、思わず、その細い体を抱きしめていた。

 体を強ばらせ視線を彷徨わせながらも、美世は真壁の腕から抜け出そうとはしなかった。

 どれほどの時間、そうしていたのだろうか。ゆっくりと美世が顔を上げた。その顔には、いつも見ているような静かな微笑みが浮かんでいた。真壁は思わず、優しい色味で彩られた唇に、自分の唇を重ねていた。



 美世とキスをしてから、美世を最寄り駅まで送り届け、簡単な別れを告げて帰路についた。

 まだ付き合ってもいないのにキスをしてしまったことを、少なからず後悔していた。食事についてきてくれたというだけで、もしかしたら恋人がいたかもしれないし、片想いを続けている相手がいたかもしれない。だとしたら、申し訳ない――そんな気持ちで一杯になり、軽い自己嫌悪に陥ってしまったのだが、美世からのLI●Eで救われた。

 ――今日は、本当にありがとうございました。美味しいお料理とワイン、とても楽しかったです。またお時間があるときに、会っていただけますか?

 やった!

 ハンドルを強く握りしめた。ついスピードを上げてしまい、慌てて緩めたが、真壁の頭の中では既に次に行く店の候補で一杯だった。

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