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生者と死者の、小さな境目  作者: 仲島香保里
3/9

彼女の過去

 LI●Eのやりとりで、美世はワインが好きだと知ったので、そこにしたのだ。

 日曜日ということもあって、予約をしておいたのがよかった。住宅街にあるレストランではないのだが、交通の便が良いおかげで、二人でレストランの中へ入ったときには八割方の席が埋まっていた。

 予約をしていたということが、美世には嬉しかったようだ。真壁にとっては、そんなことで喜んでくれる美世の態度が嬉しかった。

 軽いタパスと赤ワインのボトルを注文し、薄いワイングラスを重ねる。

 もともと、そういう顔立ちなのだろうか、少し恥ずかしそうにしている美世は、塾で見るときよりも大人っぽく、同時に幼く見えた。

 やや小さめな手でフォークを持ち、タパスを摘んでワインを飲む動作が、色っぽくも見える。

 華奢で色白な美世は、予想していた以上に酒に強かった。ボトルワインの半分以上は美世が飲んだのではないだろうか。そのことに気付いた本人は、さらに恥ずかしそうな顔をした。加えて、酒の強さ以上に予想外だったのは、小食だとばかり思っていた美世が、結構食べるという点だった。

 真壁は、ダイエットだと言って、注文したものを途中で残すような女が嫌いだった。残されたものが汚らしいし、そういう女に限ってケーキなどの甘いものは残さない。その時点で矛盾していると思うし、運動もしない。残すなら最初から量を考えて注文しろと言いたくなる。

 美世は、目の前に並んだ料理を、どれも美味しそうに食べるのだ。食べ方も綺麗で、見ていてこちらまでどんどん腹が減ってくる。

 料理もワインも、両方贅沢に味わいたいという思いが滲み出ているようにさえ思う。おそらく、外食というよりも食べること自体が好きなのだろう。

 食事の間、美世に色々と聞いてしまった。休日の過ごし方や、好きな料理は何か、前の職場での出来事……

 今時、会社を半年で退職する人間に対する社会の風当たりは強い。次の就職先を見つける汚点扱いになってしまう。美世の前職でのことを聞いていると、本人に非が見受けられないような場合でも、社会は仕事を求めている人間を苦しめるのだと実感した。

 美世の受けたセクハラは、裁判に持っていけそうなものだと思った。他の社員もいる中で、トイレに立つ回数や、トイレにかかった時間をカウントされ、全員に聞こえるような声でわざわざ伝えてくるのだという。それだけでも十分裁判沙汰になり得るできごとなのに、美世の元上司は、毎日のように下着の色を聞いてきたり、必要もないのに肩などに触ってくるということを繰り返していたらしい。

 噂によると、美世が退職した後すぐに、別の女子社員にも同じようなことを行っていたらしいのだが、その社員は美世のようにおとなしく、大事にしたくないと願うタイプではなかったようで、見事に裁判になったという。その社員も、裁判に持ち込むからには勝ちたいと思ったのだろう。毎日ICレコーダーを使ってセクハラ上司からの言葉を全て録音し、細かく日記をつけていたようだ。その甲斐あって、裁判は全面勝訴し、セクハラ上司には多額の賠償金の支払いが命じられ、左遷させられたらしい。

 美世の在職中に、この結果が得られれば、美世は体調を崩すこともなく、元気に働けていたかもしれないと悔やまれる。

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