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生者と死者の、小さな境目  作者: 仲島香保里
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日常の風景

久しぶりに投稿します。

知人から聞いた話を飛躍させて書いてみました。


ご感想等ございましたら、ぜひお聞かせください。

 二週間ぶりのデートだ。やっとまともな時間に帰ることができた。暑あつくもなく寒くもない、十月上旬というデートにも誘いやすいこの時期の金曜の夜に、早く帰ることができたのは幸運としか言いようがない。

 塾の講師として働く真壁俊大まかべとしひろ は、ここ最近の仕事の忙しさから、ずっと彼女に会えずにいた。

 なかなか会えなかった彼女に詫びの連絡を入れ、今日の夜から明日の昼過ぎまでの短いデートに、しかも水曜日に誘ったのだ。あまりにも急だったので断られるかと思ったのだが、彼女は嬉しそうに応じてくれた。

 忙しいね、と気遣ってくれる彼女の言葉が背中をじんわりと包んでくれる。

 大人びてはいるが、少し寂しがりやの彼女は、月に二、三度しか会えないことを不満に思っているはずだ。

 ただ、この時期はどうしても仕方がない。十月というこの季節、高校受験を控えている中学生を受け持っている真壁は、連日講義以外の時間も、生徒たちからの質問対応に追われていた。真壁の教科担当は数学だ。学年によってカラーがあるというかムラがあるというか、たまたま今回受け持った中学三年生の二クラスは数学が苦手な生徒が多い。

 受験や、学校のテストにも役立てるようにと、毎日遅くまで何冊もの参考書や過去問と睨めっこを続け、テストを作成してはやり直しやり直し。問題を作ろうとするには、直観と閃きが必要不可欠だった。いわゆる「降りてこない」以上、机に向かっても一向に進まない。一度でも「降りて」くれれば後は早い。自分でも驚くくらいのスピードでテストを作ることができる。もちろん、問題を作って、それで終わるわけではない。回答用紙も作らなければいけないし、模範解答がちゃんと生徒たちに伝わるかシミュレーションしなければならない。

 講師としての仕事はそれだけではない。他の講師も全員がしていることではないらしいが、真壁は自分用のスマホと、インターネットには接続できない代わりに基本料金が格段に安い仕事用のスマホの二つを持っている。自分が受け持っている生徒には仕事用のスマホのメールアドレスと電話番号を教えている。数学が苦手とはいえ、真面目に勉強している生徒が多い。そんな生徒は、塾が開いていない日にメールでわからない問題を質問してきたり、電話で聞いてくることもある。着信があった生徒には折り返しかけ直すようにしているおかげか、少しずつではあるが、数学の成績が上がってきているように思う。

 採点をしていもそれは実感する。

 講師にとって、これほど嬉しい瞬間はない。

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