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魔法練習開始

「ヴィン。」


母が家事をしている間に俺の部屋へ来た父。

神妙な顔で手にした本を俺の方へと向けてくる。


「これは…初級魔法の教本だ。分かるか?」


流石に教本らしく、まだ8カ月しかこの世に居ない俺には分からない文字もあって所々読めない。

それをペラペラと見せるように捲る。


「全く、0歳児に何を教えようとしてんだろうな僕たちは。……ヴィンを前にすると教えられる自信が無くなってくるよ。

なぁ、本当に……魔法やりたい?」


頭を掻き毟りながら項垂れる父。

その気持ち、凄く分かる。

俺だって教えようとは思わないよ。

だが、


「…やり、たい!」


満面の笑みで答える。

だってそうだ、魔法だもん。


「……そうか、そっか、そっか。。…はぁ、吸血鬼(ヴァンピール)の子って凄いなぁ、いやヴィンが凄いのかなぁ、もうどうでもいいけど、、泣いても喚いても辞めないから覚悟しろよ?」


「うん!」


「じゃあ、取り敢えず基本から始めよう。普通、こういうのは失敗しても大した害はない水魔法(ヴァッセァ)風魔法(ヴィント)それから…そうだな、うん、僕ならすぐ直せるし土魔法(テール)だと相場が決まっているんだ。どれから始めようか……」


闇魔法(オプスキュリテ)はビーチェの方が遥かに上手だし、光魔法(リュミエール)は…まだ早いよね。…ってそれ言っちゃったらおしまいなんだけど……」


土魔法(テール)は地味だから…ヴィンは喜ばないかな…?無難で目に見えて効果の分かる魔法…うーん、やっぱり」


光魔法(リュミエール)は習得が絶対遅いと分かりきっているから出来れば他のから覚えたいのだけど。

1人でぶつぶつ呟き悩み始めた父を他所に俺はある疑問をぶつけてみる。


無属性魔法(ニヒツ)、は?」


「……なんで知ってるんだ…」


「…あ。ほ、本、本読んだ。で、使ってた!」


全くの嘘だ。

ただ、魔力を放出するだけの魔法なら一番楽に覚えられそうだと思っただけ。


「ああ、…勇者が使ってたのかな?人気ないけど…ヴィン、無属性魔法(ニヒツ)は魔力を放出するというちょっと変わった魔法でね、無属性魔法(ニヒツ)が出来たからといって他の魔法も上手くなるというわけでも無ければ…威嚇と魔物をおびき寄せる時位にしか使えない全くもって無能な魔法なんだ。

魔力弾はそれなりの威力を持ってるけど…そんな魔力あったらその10倍大きい火の玉出せるしね。

って、こんな説明じゃ分かんないか。兎に角、初級でやる魔法でも無ければ使えもしない、ってことだよ。誰も習おうとは思わないのさ。」


ああ、普通の0歳児じゃ絶対分かんないな。

とツッコミを入れつつ考える。

『威嚇と魔物をおびき寄せる時に使える』

『誰も習おうとは思わない』

そして、さらに思い浮かぶエーレンが言ってくれた説明。

無属性魔法(ニヒツ)を打ち消せるのは無属性魔法(ニヒツ)だけ。』


…寧ろ穴場なのではないかと思うが……兎に角父は教える気が無さそうだし、何かの拍子に機会があれば習ってみるのもいいかもしれない。


まず、取り敢えずやりたい魔法は、


「へえー、分かった。……ねえ、」


「うん?」


「あれ、やりたい。えと…氷剣(グラースサーブル)、あれ、出したい!」


俺の原点はやはりそこだ。

手から出てくるカッコイイ氷の剣。

あれを出した父は格好良かったのだ。


「男の子だなぁ…分かるよ、その気持ち。よし、じゃあまず水魔法(ヴァッセァ)をやろう。」


笑い、頷くとそのページを探し始めた。

そして、


「魔法なら外!水魔法(ヴァッセァ)じゃ部屋が濡れちゃうわ。」


お叱りの言葉と共に母が現れ、俺たちは寒い冬空へと繰り出すのであった。






両肩に手を入れられ外までぶらぶらと移動させられると父は俺を大人の腰くらいまで降り積もった雪の上に座らせた。


「やるから見ててね。…こう、手にひらに意識を集中させて…水球を”出している自分”を想像し、唱えるんだ。

水魔法(ヴァッセァ) 水球(オーブ)


外の雪を踏みしめながら両手を出して唱える父。

するとその手の上に小さな紋様の入った魔法陣が浮かぶ。

そして、瞬く間に直径15cmくらいの水球(オーブ)が出来た。


「ほら、ヴィンもやってみて」


「え、と、しゅーちゅーしゅーちゅー」


集中した途端に騒ぎ出す何か。

多分これが魔力なのだろう。

身体の中にあった魔力を集める手が少し震える。


「ヴィンは魔力を使うのが初めてだからね、突然使われて魔力もびっくりしてるんだよ。段々慣れるから。ほら、水の球を出している自分を想像するんだ、僕の出したやつを。」


直径15cmくらいの水球。

これをこの手の上に出す自分を想像する。

……よし、


水魔法(ヴァッセァ) 水球(オーブ)

……っ!」


内側の魔力が手の表面、詳しくは手の上に出来た魔法陣に吸い取られる感覚。

少しだけ身震いする。

この寒気は寒いからなのか魔法を使ったからなのか、恐らく後者だろう。だとしたらこの感覚に慣れなければならないのかと唇を噛み締める。


「で、きた!できた!できた!」


「お、やったな、上手いじゃないか!」


重力に逆らった水の球。

どうしてペシャらないのかと考えていると、


「あ、……」


ものの数秒でペシャった。

しまった、考えなければ良かった。

これ、もしかしてずっと集中していないと持続しないのかとの疑念に父が答えてくれた。


「長く維持するにはそれ相応魔力の練度、即ち質を高め、かつ……って何を書いてるんだこの教本は。難し過ぎだろ子供に教える気が感じられない。」


うん、俺もそう思う。

でも子供ではない俺は解った。

要はあの寒気のする魔力をもっと込めればいいという話だろう。

…15cmでもっと必要なのか、結構込めたと思ったんだけどな。巨大な水球とか、魔力使い切ってしまうのではなかろうか。

中々…不便だな。


「発想の転換よヴィンくん。」


「ビーチェ!」


粗方家事を終えたようで先程までしていたエプロンを外した母が庭にやってきた。


「いい?ヴィンくん。ただ、水球を出す自分を想像するのではなく、”自分が壊したいと思った時に壊せる自由自在に動かせる水球を出す自分”を想像するの。思う通りになる水の球、をね!

水魔法(ヴァッセァ) 水球(オーブ)


そして手馴れたように30cmくらいの水球を出すと、


「そーおれっ!」


乱暴に、掴めないはずの水球を掴んで投げた。

するとベアトリーチェの思う通りに投げられた水球が宙を舞い、地に落下せずに空中で八の字を描いている。


「ね?アレも今ああして、と私が思っているから八の字を描いているの。思えばこんなことも出来るのよ!はい、分裂して!」


手を叩いた刹那二つに分裂した水球。

今度はくるくると回っている。

何でもあり、だな。


「勿論あれだけやるにはそれ相応の魔力は使うけど…でも兎に角命令は大体こんな感じよ。特に水球は崩れやすいからね。

…んもう、教えるの下手過ぎよ、オリヴェルーそんなんで大丈夫?」


「ビーチェだって自由自在とか難しい言葉使ってたじゃないか〜…あれで分かった?ヴィン」


くだらない事で言い争う両親を余所に、俺はまた集中して、


水魔法(ヴァッセァ) 水球(オーブ)


持ってけドロボー!

身体の震えを抑え込み、自由自在に動かせたり壊せたりする直径15cmの水球という確りとした想像をし、魔力を与える。

物作りには明確な指令書(想像)盤石な地盤(魔力)が必要だということがよく分かった。

想像がダメなら根本から崩れるに決まってるよ。


「……やった!」


それ相応に取られて0歳児の魔力はカツカツだ、冷や汗もかいている、だがくるくると動かしてもなんの問題もない事に素直に喜んでいると…いつの間にか夫婦喧嘩は止んでいたようだ。


「…ごはんにしますか!」


魔力消費で疲れた身体を癒す為、一旦休憩に入る俺たちだった。


………魔力は(無限)なのに何故カツカツなんだろうという疑問を抱きながら。





「それはね、最初から(無限)に創ってしまうと飽きてしまうんじゃないかと思った僕が、君が母の胎内に居て覚醒する前に慌てて創り直したからだよ」


「エーレン、」


食事だと言われ子供用椅子に座らされた俺が何故ここ、邪龍エーレンフリートの部屋に居るのか…


「やあ、久しぶりだね。やっと魔法を使えるようになったか、待ち草臥れちゃったよ。」


「俺、何でここに居るんだ?さっきまで…」


「ああ、丁度うたた寝してたからね。意識だけこっちに連れてきたのさ。ご飯の支度が出来るまでだからあまり長い時間は居られないけど。」


「そっか。…それはそうとひどいじゃないか、もっと呼べって言っただろ?」


「今、自分の姿を見てみなよ。」


「え?あ…」


「ヒトダマじゃないだろう?器が死んでいないからね。器の姿が反映されるんだよ。つまり半ば幽体離脱。産まれたばかりの未完成な器の中身を長い時間こちらに飛ばすと元々不安定だから器が死んでしまう恐れもあってね。無駄に家族を悲しませるのも気がひけるから遠慮しておいたのさ。今だってまだ微妙だし。」


「そうか……」


「安心してくれ、成長したらもう少し長く話せるようになる。……ただ、これは寝たのに休息していないことになるからあまり頻繁に繰り返すと君が倒れてしまう。寝るの意味は魔力回復だけでなく心身ともに休めるということなんだから。そこら辺は気を付けないと。……さあ、そろそろ時間だ。」


「待って!…えっと…いい家族、ありがと」


「…ああ、君が美女の母見てデレッデレになってるの見たよ。」


「っな!あれは不可抗力…じゃなくて、ああもう茶化さないでくれ。本当に転生して良かったと思ってるんだ。」


「……なら、良かったよ。でもまだ始まったばかりだからね?」


礼を言うと肩を竦めて笑う。

相変わらずだ。


「分かってるよ、これからが楽しみだ。」


「そうだね、僕も楽しませてもらうよ。……それじゃ、また。」


「ああ。また。」


名残惜しそうに言うとエーレンはこの世界に俺を転送したあのレバーをまた下に降ろした。

意識が沈んでいく。

画して8ヶ月振りの対面は終わりを告げたのだった。


「……ィンくん、ヴィンくーん、疲れちゃったかな?起きてヴィンくん、まんまだよ?」


「……ぅ…ん……あ。」


沈んでいた意識が揺すり起こされたことで覚醒する。

目の前には顔を覗き込んでくる母とご飯があった。


「ああ、起きた。食べる?まんま。」


「……うん!」


俺はたらふく食べた。食後も魔法の練習をする為に。

ふぅーどうにか今日中の更新。

休み明けると更新大変ですねー。


さて、やっっっと魔法入りました!!

長かった。これもう私の言葉ですよ!

やっとなろうっぽくなれて良かったです、本当に。

これからもよろしくお願い申し上げます。

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