住んでる所と離乳食
三ヶ月経った。
この世界の両親の口元が見え、表情が判別出来るように。
俺が笑うと母の口元も弧の字を描く。
楽しい。
モノクロだった世界も段々と色が付き始めた。
赤が分かるようになって。
そして知った。
母の目が緋い事。
この間までグレーの目だったのに、正直かなり驚いた。
変わっていく世界に踊らされて、結構毎日が楽しい。
そして大事なのは離乳食の準備が始められたこと。
とは言えまだ最初はほんの少し。さじ一杯程度のドロドロスープ。
ミルクばかりで飽きてきた口に丁度良い。
うん、美味しい。
これでさえ嫌がる子供が居ると言うが、俺はそんな手のかかる子になるつもりはないし。
「ぁー♪」
気分良さげな声を出してみる。
あ、ホッとしてやんの。
良かったな。
あれ?哺乳瓶もくれんの?
もらうもらう。
そして四ヶ月が過ぎた。
首が段々座ってきた。
全てのものがボヤけ、何も分からなかった視界は少し解消されてる。
ボヤけた父と母が大喜びしていたのを視覚と聴覚が伝えてくれる。
なんか俺も嬉しい。
そして長くこの世界に居た事で片言だけどある程度の単語は分かるようになり、やっと状況を理解することができた。
人間大陸の最北端ディースターヴェーク、通称麗氷の街。
街から馬車を乗り継ぎし、ほぼ半日掛かって着く美しい滝とオーロラ、星空と流氷が有名な観光業で栄える町、ライヒェンバッハ
そこからは一気に過疎化して馬車を使っても道路が凍って、途中から何時間も歩くしかなくなる辺鄙なド田舎、
だが流氷が更に近いからと懸命に来る物好きは来る町、レーヴェンヒェルム
そしてそこからはもはや馬車すら通っていない、冬になると道なき道と化す舗装のなってない道を何時間と休み無く歩いて(長く休むと凍死する)やっと着く、最早何故そこに住んだし状態の辺境の地、アイヒェンドルフの村
…まで行くのにちょっとした丘を降らなければならない丘の上に一つポツンと建った家。←イマココ
美化するなら自然を愛しむ両親が誰も居ない二人だけの住まいを追い求めて建てた家とでも言えようか。
…まず一言いいかな。
凍死でもしたいの?
てっきり、俺が産まれたの秋だと思ってたけど、実は夏だったんだね。
アレが最高気温だったんだ?
涼しかったけど。
どうして人類の最果ての地に家を建てるかな?
その理由は後に分かるんだけど。
それは一旦横に置いて、本題だ。
どうやら哺乳瓶は都会のライヒェンバッハまで買いに行かなければならないらしく、結構大変なので早く俺には離乳して欲しいんだとか。
特にこれから冬に入る。
道路が雪で埋もれてしまう為、道を熟知しているアイヒェンドルフの村までしか行く事が出来ない。
となれば当然哺乳瓶を買いには行けないし。
冬と言えばこの辺の産業が盛んな時だけどあまりに最果ての地過ぎてアイヒェンドルフから先には関係がない。
村でも一応家畜は居るが、どさんこみたいな一回りも大きな馬とトナカイのような雪でも走り回れる動物ばかりで、とてもミルクを期待してはいけない。
まあ生後4カ月、そろそろ頃合いかな。
一月前から離乳準備は進められていたけどいよいよか。
単なるドロドロのスープと違い、ちゃんと舌でこね回さなければならないごはんが出てきた。
さじ一杯分だけど。
ごはん、その次はパン、その次はジャガイモのようなもの。
成る程、デンプンから慣れさせるのか…この世界にデンプンがあるかわからないけど。
加熱された野菜に豆腐モドキ、うーんなんか素朴な味。
もうちょっと味が欲しいかもしれない。中身が大人だからかな…
固ゆでた卵黄に…これは白身魚かな?割といける。
チーズとヨーグルトか!これはいいね!
あっ、勿論これ1日でではないよ?
毎日ひと匙ずつ慣らす戦法らしい。
「ぅーぁーぁぁー♪」
気持ちを表す。
中身が大人だから心底シュールだけど生後4カ月が話せたら気持ち悪いので我慢だ我慢。
父の紹介と母の紹介は次で…!
すみません!それより地名の方が話に関係していたので…
ライヒェンバッハとアイヒェンドルフのルビが離れているのはルビの字数制限でこうやるしかなかったです。気にしないでください。
余談。
ヒェンってなんか寒そうな感じがして。
三つも入れちゃいました。