新たな始まり
大きな腕に抱えられ何かタオルのようなもので拭かれているような、そんな感覚。
開けようとしても開かずチラと開いた目はボヤけて何を映し出しているのかほとんど分からない。
手も足も動かそうとしてもほとんど動かない。
分かるのは今、大きく息を吸い込んで自分が泣き叫んでいる事とこれが産まれた瞬間だということだけだった。
一頻り泣き叫んだ後、赤ん坊特有の眠気に耐えられずに…恐らくだが寝たのだと思う。いつ寝たのかは記憶が曖昧で分からないが身体のベトベトが取れているのでその間に誰かが洗ってくれたのかな?
…流石にアレ、拭いただけじゃ不十分だよね。
出産方法は流石に他の世界であっても人間だから一緒だったらしい。良かった。
線のようにしか開かない目を無理矢理開けて先程から隣で寝息を立てている人を見る。
ボヤけてさっぱり。
&色もない。
噛み砕いて言うなら明暗は分かるけど、輪郭はボヤけてさっぱり…そして色も分からず白、黒、グレーの三色しかないまさにモノクロの世界。面白い。不思議だ。
前世の記憶を元にすれば…この隣に寝ている人は俺の新しい母親だと思うんだけど…うん、ダメだこりゃ。
そうこうしている内にまた眠くなってきた。おやすみなさい。
「………………!…?!……!!」
隣の母が寝息を立てているその部屋に、遠くの方から聞き取ることの出来ない男の声が聞こえてくる。
そういえば産まれて間もない赤ん坊って耳は遠いんだっけか。大音響でも小さく聴こえるらしい。
…そうか、これは父親だ。
大方、分娩室に入れなくて今頃子と初めて出会う…いやそれはないな。
産んだ後すぐに会えたはずだ。
ということはこの父親、興奮覚めやらずに疲れた妻が寝てるというのに大声出して部屋に飛び込んで来たクチか?
……おい、それはないだろ。
案の定誰かに引き摺られて部屋を出て行った。
そうだよな、それが懸命だ。
さて寝るか
赤ん坊生活?日目
…というのも、すぐ眠くなるし時間経過など分からないんだ。
でも多分一週間は経ってるかも。
ただいつも通りボケーっと…時々あまりに父らしき人が構ってくるのがウザくて恥を忍んで泣いてみたりして、父が怒られてすごすごと部屋から出て行くのを見てケラケラ笑って過ごしていると、据わらない首を支えながら母らしき人が俺の腋を抱えて胸に抱くと背凭れがしっかりある椅子に座り寄っかかった。
なんだ、もう食事の時間か。
おっぱいから乳を吸うのも目がほとんど機能していない状況では大変で、視点は合わないしこの間まで目が開かなかったからまだ幾分かは楽になったけど。
…本当言うと大変申し訳ないがあんまり出ないので哺乳瓶に切り替えてくれないかなとも思っていたりする。
でも我が子を慈しむような母の声を掛けられ頭を撫でられながら柔らかい胸をガシッと掴んで吸い付くというのも捨てがた…ほんとモノクロの世界だということが悔やまれるよ。
にしてもお腹が空いた。
現在進行形で吸っている状態のくせに言う言葉ではないが、やはり一番の成長期にこれは足りない。
「ぁーー……ぅー………」
少し不満そうな声をあげてみる。
哺乳瓶くれないかな、と思ったが悲しそうな顔をして何らかの言葉を掛けて撫でてくるだけ。
この世界に哺乳瓶なんて無いのか、はたまた入手出来ない程貧困なのか
…うーん、哺乳瓶なんて便利な物がないとは思えないんだけど、貧困にしては子供部屋もしっかりあるし。
そういえばエーレンは少し辺鄙な田舎に住むことになるけど、とか言っていたな。それじゃあたとえ貧困でなくても頻繁には買えないかもしれない。
どちらにしても…悪いことしたな
取り敢えずある分を吸って咀嚼してお腹一杯になったかのような声をあげた後、頑張って寝ることにした。
明くる日
昨日不満そうな声をあげてしまった俺の元で父と母が何やら真面目なトーンで話し込んでいる。
相変わらず聴こえるのに聞き取れない。
そして相変わらずよく見えない。
バッチリ開けても凝視しても見えないのでウンウン唸っていると父親が気付いて顔を近づけ柔かに笑ってみせたように思えた。
…その時に黒くて見えやすい生え際を見てしまった俺は悪くない。
なんか小馬鹿にしたようにコホン我が子をあやすように言葉を掛けると母と二言三言話し、その後二人とも部屋を出た。
そして少し経った後、母が再び子供部屋を訪れ俺を抱き抱えて部屋を出て、廊下を突き抜けて、そして玄関から外へ出た。
外へ出たのは初めてだな…と思いながら辺りを見回す。…と言っても据わらず筋肉も発達していない首は向きたい方向に捻ることも叶わないし目も焦点が合っていないので限度があり過ぎるが。
うん、やっぱ限度があり過ぎて分からないや。
匙を投げた所で父が何やら大きなリュックサック…っぽいものを背負っていることに気が付いた。
母が俺を連れて外まで見送りに来たってことはこの父親どこかに行くのか?
もしかして、昨日の哺乳瓶、まさか買ってきてくれるのか?
辺鄙な田舎だからいいのに、とは思うけど無しでやっていける程出るわけではないから…
ここは子供心全開で応援しよう。
せめてものお礼として柔かに笑ってあげた。
顔の輪郭すらまだ認識出来ない父親に自分の顔もまだ見た事のない俺が笑う光景。
一体どんなものなのか想像出来ないけどそれを見て父親は心底喜んだ…気がしたので良しとしておく。
産まれてから二週間くらい経ったかな?
段々と目の焦点も合うようになり50cm先までなら両目で見られるくらいには成長…いや、まだ人の形も分からない程だけど。
今絶賛特訓中だ。
モノクロの世界は変わらない、けど日々成長している。
さて、いつも通り母が俺の出した物を取り替えるという羞恥プレイに晒されているとチャイムが鳴った。
母は俺に素早く新しいオムツを履かせると抱き抱えて玄関まで行った。
そこで見たのは大きなパンパンのリュックサックを背負って立つボヤけた男…父親だ。
…嘘だろ?五日くらい掛かったと思ったんだけど、街に行って帰ってくるのにそんな掛かるの?
父親は俺ごと母を抱き締めて、しばらくそのままでいた。
久々に感じた人の温もりは優しく包んでくれるようなもので、何も考えずにただ、受け止めていた。
父の買ってきたものはやはり俺に関するものだったらしい。
…別に俺の前で荷物を広げたわけじゃないけど解る。
だって、この人生で初めて、あれに巡りあったのだから!
いつもの通り足りない乳を頑張って飲む俺、そろそろ本当に限界が近付いてきて赤子の本能に従って泣いてしまったり色々あった。
その度に母は申し訳なさそうな声を出して俺を揺すってあやしてきた。
でもそんな日々も今日で終わる。
母は満タンに入っている人肌に温められた哺乳瓶を取り出して俺の口元に持ってきた。
思い切って咥えて吸うと…あ、結構美味しい
日本の哺乳瓶は中の栄養にもかなり気を使った代物が出ていたけどこちらはどうなのかな?まあ美味しいからそんな些細な事は気にしないでおこう。
兎に角、気に入って飲みまくる俺に安心したような母の声が聞こえてきて良かったと思った。
次回はいよいよ父と母の紹介とかーですかね
いやはや…赤子で文章考えるのって大変ですね、主人公なんも出来んし、、でも楽しい。
あと他の作者さん凄い。
一つ愚痴っていいですか。
次回書いてたのに全部パーになりました。(号泣)
もっかい最初から書き直しです。書き直しますよもおおおお!!。・゜・(ノД`)・゜・。
以上!
読んで下さってありがとうございます!
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