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きょうだい

この半年ともう二ヶ月、色々なことがあった。時々遊んでいたエルネスタも段々とませてきて話す言葉が一歩大人に近付いたとか、商隊(キャラバン)が大都市に近い珍しい品を持ってやって来るなど楽しい行事が目白押し。

加えて魔法も上達したように思う。詳しく言えば、氷魔法も使えるようになった。


充実感に満ち溢れて毎日が過ぎて行ったがついにその時がやってきた。



「お父様はこちらでお待ち下さい。」


破水し、前以て呼んでいた助産師に手伝われいよいよ出産というところで、邪魔な父とそれに抱き抱えられた俺が半ば投げ出されるように部屋の外に追い出された。

父は俺を降ろし扉の前でうろうろしている。

そして何かに気が付いたように慌て出すとアイフェンドルフに行かなければと大急ぎで家を出て行った。

…そういえば俺が誕生した時もすぐ側に居なかったな。どうやらこの父は不幸体質を持っているらしい。


「きょうだい、ね…」





『…なんで、謝るんだよ!!』



独り、光の届かない場所に居るせいか前世の光景が蘇ってくる。


目の下にクマを作った弟が、世間の非難の目を掻い潜るべく目深に帽子を被って母の入院を告げに来る所。

…俺の二次被害を被って世間からの激しい非難を一身に浴びた俺の家庭は当然狂った。

父は職を失い弟は不登校になって、そして母は……

最期まで言いくるめようとする警察に無実を訴え続けた結果、『否認を続けている』=『やったことを認めない』という嫌なレッテルを貼られた俺。

偽りの正義になど屈したくないと何度殴られても謝罪や肯定などしなかったが、唯一謝った事がある。


「死刑囚の母」

「育て方が悪かったから」

という二次被害を被って精神をおかしくした母の入院を聞いてそれを告げに来た弟に謝ったのだ。


でもその行為は”悪いのは俺ではない”と一番最後まで信じてくれた弟にとって決してしてはならないことだったらしい。

逆鱗に触れ、二度と面会に来る事は無かった。

俺的には二次被害に遭わせてしまって申し訳ないという心からの謝罪だった。

だが神経をすり減らした弟には容疑を認めたと聞こえたのだ。

そんな弁明が通じる程話し合える状態でもなかったしお互い限界だったというのもある。


……なんて切り口で物事を見れるのは俺がもう死んだ後で、更に転生した後楽しく過ごしているからだ。

当時、神経を磨耗させていた俺は、そんな弟になんて答えてしまったのか……記憶があやふやで思い出せないから尚更恐ろしい。



恋人にも友人にも速攻で見捨てられて世間からの非情な正義心から来るバッシングに殺されたという過去がある分、転生後…今世でも新しい気持ちで心から笑って生きるのは、人と壁を作らずに話す事は、出来ない。

人を…いや意思ある者全てを基本的に恐ろしく感じているから。


だけど二次被害を被らせてしまった家族だけはまた意味が違って怖い。

前世でやった最低最悪の親不孝、そして特に弟を傷付けたこと、、

家庭崩壊の主な要因として忘れずに今世も生きていきたいと思っている。

今世の親に繰り返してはならないと思っているし、寧ろ大事にしていきたいと…



で、そんな俺に兄妹が出来た。


ああ、緊張する。

女の子だと助産師が祝いの言葉を母にかけている。

今世では、今世では、そんなことになりませんように。


…まあ、要は今世ではちゃんと親孝行兄妹孝行したいという一言で終わるし、生後一歳八ヶ月で何言ってんだで終了することだけど。


久々に思い出したから暗くなった。

今はまだ何も考えずに過ごして居ればいいのに。


「ヴィン、!!まだ、か!?」


「…え、うん!」


大慌てで色々な品を買って帰って来たのだろう。息を切らして駆け込んで来て塗れた汗を若干湿ったシャツで拭っている。

のでタオルを渡すとそれで頭まで拭いていた。

シャワーでも浴びたらどうだ?…ダメか。

兎に角、間に合って良かったな。





また廊下を鬱陶しく歩き回る父と、それをほぼ二歳児が使っても問題ないような言葉を選んで指摘する俺。

時間はあっという間には過ぎず、気が付けば俺も廊下を徘徊してしまっていた。


「元気な女の子です!おめでとうございます!奥様!」


歓喜の声と共に赤ん坊の元気な産声が聞こえてきた。

俺たちは緊張しながら扉を開けようとする。

…開かない。


「「なんでだよっ!!」」


締め出しを食らった父と俺はガチャガチャと音を立て鍵のかかったドアを把手が壊れるか危惧する勢いで揺さぶる。


「…あぁ、お待たせ致しました旦那様、」


「…ったく、ビーチェ!!」


またもや感動の瞬間を廊下で味わわされた父は半ば拗ねながら母の元へ駆け寄った。

俺もそれに続く。

母は汗だくになった身体を手の空いている助産師に拭われながら生まれたばかりの赤ん坊を見つめていた。


「オリ…ヴェル、、やった、わよ、私…」

「ああ…よく頑張ったな…!!」


俺の頭を撫で、息を切らしながら誇らしげに言う母。

そしてそれを涙ぐみながら褒め称える父。


「奥様は安産でしたわ。本当に良かったです。…ああ準備が出来ました。どうぞ、」


諸々を拭かれタオルに包まれた既に寝息を立てている赤ん坊を差し出す助産師。

父はそれを受け取って俺に見せてくる。



「名前はもう決めてあったんだ。えっと、女の子だから…そう、


ノエル(Noëlle)。君の妹だよ」



言い表せない感動が俺を包む。

初めて妹と会う時のために何か色々掛ける言葉を考えていたはずなのに出てこない。

ただただ、無心でいた。


「…いだっ」

「ヴィーンくん、ほら、挨拶しないと」


暫く呆然と見ていたら母が頭を叩いてきたので慌てて掛ける言葉を考える。

生まれてきてくれてありがとうとかこれからよろしくとか色々ごちゃごちゃになっている内に焦った口は


「…あっりがと、よ、よ、よrろしく」


何か色々混ざった上に盛大に噛むという失態を犯していた。

人生の中で最大級に大切な時にやらかしてしまったという自覚はある。

父が噴き出し母が頷く。…今すぐ穴を掘って地中に埋まりたい。




「それでは旦那様方、奥様の服を整えますので…」

「まだもうちょっとぉぉお!!」



そしてまた助産師によって外に放逐された俺たちは父の買ってきた品々を取り出し妹ノエルと母の為の用意をするのだった。

予告した日にちから二週間も後になってしまい本当にすみません!

いやはや日にち指定はするとロクなことが起こりませんね…


次回なのですがこれだけ後になったにも関わらずまた後になるかもしれません。

…し、書くかもしれません。

…のでちょこちょこ見て下さると嬉しいです。(逃げ



このページで原稿用紙100枚突破です。驚きです。びっくりです。皆様本当に応援して下さってありがとうございます…!!

おひまであれば感想や評価など頂けると目が潤みます。嬉しいです。

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