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エルネスタ

この世界に転生して一年が経過した。

誕生日を祝う慣習などはないらしく若干楽しみにしてた俺を裏切ってあっという間に過ぎていった。

未だ雪深いが最盛期は終え、あと2カ月程度の期間で春がやって来るだろう。


「ヴィンくん、今日はアイフェン(Eichen)ドルフ(dorff)にお泊まりしに行くからね」


父と母が意味深な顔をしそそくさと準備を始めた。

荷物はオムツや赤ちゃん用の飯…俺のばかりで両親のは一つもない。どうやら俺だけ一泊なするらしい。


「ヴィンくん行くよー」


父に抱き抱えられ母と共にアイフェンドルフまで行く。商隊(キャラバン)以来のお出かけだ。

数刻後、アイフェンドルフに着いた時に着いた先は一軒の家だった。


アデーレ(Adele)さん、本当にごめんなさいね」


母がこの家に来る前に買っていた馬肉を持ち出し申し訳なさそうに渡している。


「いいけどビーちゃん、仕方ないとはいえこの多感な時期に人に長い時間預けたりなんかして…あたしはヴィンフリートくんが大丈夫か心配でしょうがないわ、寂しくて泣いちゃったらどうするのよ」


……それはないから安心して欲しい。


「そうね…でも夜にヴィンくんが居ると…ね、世話も出来ないし……。それでも何としてでも1日で終わらせるわ、私もヴィンくんが心配だもの。」


「1日で終わらせるってのもおかしいけどね。」


この恰幅のいい女性はアデーレと言うらしく母と親しげに話している。そういえば商人と会う前に少しだけ話していたような。

…それにしても、どうしても手の掛かる1歳児が夜に邪魔で、友人の家に頼み込み預けるというこの状況。

なんか引っかかるのは俺だけか?

とはいえ一泊など意味が分からないので放置しておく。


父は俺を降ろすと一人の幼い少女を指差して言った。


「アデーレさんの娘さんに挨拶しようか」


名はエルネスタ(Ernesta)

小さなポニーテールにした燃えるような赤髪と銀の目がチャームポイントでまだ3歳で元気に走り回る無邪気な子だ。


「ヴィンフリート、よろしくね!」


これから一泊二日、このガキの面倒を見ないといけないというのか…大人と話すよりかは余程マシだが、一つしか歳の離れていなかった嘗ての弟の2歳時なんて覚えているわけもなく、結局家庭を持たないまま前世を終えた俺にとって赤ちゃんの世話は未知数だ。

3歳児の世話、かなり……不安。


「おねーちゃんの言う事聞きなさいよ?!」


前言撤回。

俺まだ1歳児だったわ。

高圧的に物言ってくるどう考えても幼稚園入園直前、或いは年少のおねーちゃんを危険のないようにいい感じにはしゃがせてあげる…1歳児のクソガキ。

ダメだ、難易度ルナティックで出来る気がしない。


……取り敢えず魔法はアウトだな。


「ヴィン、魔法練習は今日はダメだぞ」


真剣な表情でエルネスタねーちゃんに聴こえないようにひそひそと忠告してくる父オリヴェル。


分かってるよ!!






父と母はエルネスタと話す俺を見て安心したようで、明日には帰ってくるから!!待っててね!!と再三言い含めた後アデーレ宅を出て行った。


「うふふふふ〜〜ヴィン、おいで!」


何やらゾッとするような気色悪い、もとい楽しそうな声をあげてこちらを手招くエルネスタ。

牛歩作戦を敢行し中々近寄らない俺にむくれるエルネスタを見てアデーレさんは言う。


「エルネ、あなた恐がられてるわよ〜?弟出来たってはしゃぐのもいいけど…もっと優しくしてあげて!普通のお姉ちゃんならそうするわよ!」


齢3の子供に何を怖じ気付いているのだという心のツッコミは痛い程解るが、それはあくまでも自分がそれより年上だった場合だ。

身長も俺よりかなり成長してる、故に目線もかなり上、弟を持ったことがないことから来るはしゃぎっぷり。俺という珍しいおもちゃを振り回して遊ぼうという魂胆が目に見えている…こんな怪獣の元に自ら走り寄りたいなど誰が考えるのか。

いや考えなければならない、そういう使命があるのは分かっているが正直、水魔法(ヴァッセァ)をぶっ放したくなる程嫌だ。


「むーーむむむ…。ヴィン、こっち。ほーら、ほら、ね?怖くなーい怖くなーい」


不機嫌になった顔に無理矢理笑みを作って呼びかけるエルネスタ。

目が笑っていないところに若干引くが、それはもう言っても始まらないと駆けて行く。


「ゆーこと効かないの、メッ」


「うぐっ」


軽く(はた)いた積りらしいが結構な衝撃が1歳児の柔らかい頭の骨にアタックされた。

…いや、仮にも女の子であるエルネスタねーちゃんをこれ以上怪獣呼ばわりしてはいけないな。


「あ、…そぼ、」


ここは男の俺が、勇気を出して誘うべきだ。…語尾が震えてるとか言った奴は黙ろう。


「キャハハーー!!遊ぶ!!遊ぼ!!遊ぼう!!!」


いや、黙ってないで助けてくれ。

エルネスタは俺の右手を掴み振り回してきた。どうやら俺の誘いが嬉しいらしい。

それはいいのだが1歳児の手をそんな風に乱暴に扱ったら脱臼…す、したッッ!



「痛ッッ!!!っつ、ちょっ、離せ!!!」


思わず本気で振り解くとエルネスタは少し動揺し無表情になった。

反省したか…いや構っていられない。割と本気(ガチ)で痛い。

えーっと、アレだ、脱臼だ、肘のやつだ、から、えと、えと、痛い、…じゃなくて、そう、入れよう。


上腕を動かさないようにして右の手首を持って心臓の所まであげて…手の平が上を向くまで捻じ切る。

入んねーし痛い、、

もう一回、捻ねる。


コクッ


「っ、入った」


そんな感触がしたので恐る恐るだが動かしてみる。よし、問題ない…!

ふう、一時はどうなることかと思ったけど…良かった、前世の簡単な知識はこの世界にも通用する。魔法の世界で魔法使わずに治すなんてな…治癒魔法は難しいからまだ覚えてないし。


「ごっ、ごごご、ごごごごご」


さて、蒼ざめて狼狽えているこいつをどうにかしなくちゃ。今にも泣きそうに目を潤しているが泣きたいのはこっちだ。

大丈夫、と目でアイズを送る。すると


「ごごごごごごっめんね?だ、だいじょぶ?!?」


先程から思っていたがアデーレさんはさっきエルネスタに注意をしたあとからこの中庭には居ないらしくこれだけ騒いでも駆け付ける様子は見えなかった。

人様の子、てか1歳児から目離しちゃダメだろ…とのツッコミはしていいはずだ。

俺は少しムクれた顔をして右肘を分かりやすくさすった。


「……いたかった、なー?」


プイと顔を背けながら分かりやすく批難する。前世なら大層キモかろうが今は1歳児。これくらい許されて然るべきだ。というか理屈を盾に怒っても違和感の生じる1歳児の身体で、しかも理解出来なさげなじゃじゃ馬子相手ならこれくらいしか出来ない。


「ごめんね!あの、あの、お菓子あげる!ごめんね!」


前ならブンブンと振り回してきた手が今は壊れ物を触る位に優しく触れてくる。

そうだな、1歳児相手ならそれくらいが丁度良い。

正解を導き出したエルネスタからは遠慮なくお菓子…俺が食べて消化出来るのか判断出来ないから即刻食べはしないが、を徴収した。


「二人ともー!ごはんにするよー」


おい、お前が居ない間に一事件起きたぞと告げ口したい気持ちはないでもないが本人が反省しているので何も無かった事にした。




夜。

俺らは二人雑魚寝にされ、消灯して本来ならば寝ているはず…なのだが。


「ヴィン、明日…帰る、んだね」

「うん」

「帰っちゃう、だね」

「うん」

「その、帰っっちゃう、んだね?」

「……うん」


面倒臭いが暖かいやり取りと後ろから抱き締められているというか羽交い締め一歩手前というかで睡眠を阻害されている。

何も見えなかった頃から目が随分と慣れ、かなり見えてきてしまっている。

あーこの睡眠時間の大切な時に寝られない。


「……寝よ?」

「ヤダ」


提案を一蹴され心の中で溜息を吐く俺。


「だって…だってさ、ってさ寝たら、明日になっちゃう、よ?帰るの、早くなっちゃうんだよ?」

「…うん」


寝ても寝なくても朝にはなるし、てかもう眠い…なんて思うがそれは少し、というかかなり達観した子供だよな、と反省する。

エルネスタにとってはそれが正常の理論だ。

……どうしようか。


「…でも…また、来るし。」

「ほんと?」

「うん。家、近……いし」


言い詰まったのは歩いて数刻を近いと言っていいのか迷ったから。

だけどまあ、これからもアイヒェンドルフには来るよな。一番近い店そこだし。


「ほんと?やくそく、やくそくだよ?」

「……う、…ん、約………そ……く………」





翌朝。

途中で寝落ちてしまったようで、エルネスタは大丈夫だったかと不安になるも朝ケロリとしていたエルネスタを見て安心する。

父と母はまだかと待っているとエルネスタが少し寂しそうな顔をしてこちらを見てきた。


「ね、やくそく。覚えてる?また来て。」


「うん」


「絶対だよ?ぜーったい!忘れないで!」


「うん、忘れない」


オーバーリアクションで訴えかけてくるエルネスタ。だが昨日のような乱暴はもう働かない。出来ればこのまま優しいおねーさんになってくれると嬉しいんだけど。


「キャハっ!イイコイイコ!ヴィンいいこ!」


ねーわ。

テンションが上がると色々乱暴になるようで頭をガシャガシャと撫で…それなりにセットした髪を台無しにしやがった。




「ヴィーン、いい子にしてたか?」


父と母がやってくる。心なしかどちらも酷く疲れているような気がした。



「うん!ヴィンはいい子!走って遊んだの!」


笑顔でエルネスタが答え、それを見て父がホッとしたような表情を浮かべた。

なんだよ、俺が普通の人間の子供の(魔法練習はまだ早い)エルネスタの前で練習するとでも?

母もアデーレさんと色々話し終えたようで父が俺を抱き抱え、帰りの時間が近付く。


「ばい……ばい!!」


涙を堪えたような声で健気に踏ん張るおねーさん。

うん、まあ……楽しかったよ。


「ばいばい!」










……それから8ヶ月後。

大体予想出来ていた真相を告げられた。


「ヴィンくん、あのね……きょうだいが出来たよ。」

諸事情につき10/6(火曜)まで更新をお休みさせて頂きます。

ネット使えないのって辛いですね…!

早くヴィンフリートのきょうだい登場させたいです。ほんとに。


ちゃんと更新しますので…存在忘れないで下さい!泣

心よりお願い申し上げます!!!





……まさかの寝落ち。

すみません今日こそは。

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