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狐男さんは最低野郎  作者: にゃるらとほてぷ
第一章『一週間くらい引きこもる話』
7/8

6話

ちょっと短い?

 世界樹。FGOの世界観でも神秘性については他のゲームや物語と大差は無い、具体的なイメージはとにかく巨大な樹である。


品種は広葉樹で国内では指で数える程しか無いが各地に生えており、管理しているのはエルフ種族が大半で、世界樹の存在する周囲にはエルフの多くが集落を作っている。


世界樹のある場所はある種の聖域となる。魔物を遠ざけ、空気を清浄化させ、土地と精霊達を活性化させる。


特に精霊魔法と繋がりの深いとされるNPCのエルフ種族からしてみると、世界樹の近くというのは非常に居心地が良いそうだ。エルフ達からしてみたらまさに御神木であろう。


エルフ・ダークエルフ問わず、両種族共に神聖視されている。


開発スタッフからのコメントは都市を発展させる為のランドマーク。


都市作成シミュレーションゲームをプレイした事があるユーザーなら何となく分かるかもしれない。植えれば、あとは勝手に成長して周囲の土地の効果を上昇させるシステムだ。


入手した苗木については、世界樹が寿命を迎える際に残す己の子供である。


寿命を迎えると言っても、すぐに死滅するわけでは無い。苗木を残してから大体十数年以内という時間の猶予はある。


「でもなぁ…」


まさに『金のなる木』だ。エルフの秘法と呼ばれるのに相応しい経済的な効果は計り知れない。そんな物をプレイヤー個人が正規ルートで入手する事はまず不可能。入手したとしても簡単に扱う事は普通は出来ない。


口約束だけであり、死人に口無し。アイテムの所有権については彼女の死後は自分の物となっている。どう扱われようと文句は言われないが。


「これは…いらねぇ。」


世界樹そのものには素材としての価値は高いのだが…設置場所に困る。


家の敷地にいきなりビルを建てられるようなもんだ。


邪魔だし、周囲に影響を及ぼすという事は自分だけに有益とはならない。


自分の幸福、蜜の味。他人の幸福、毒の味。


あっても邪魔なだけだし、彼女との約束もあるので返す予定はあるが、これをどう返すかが問題になる。


先程のダークエルフの彼女の話から察するに、エルフの里でのごたごたである。


アウラ・ノイシュヴァンシュタイン


先程の彼女の名前、ノイシュヴァンシュタインという姓も問題になる。こんな長ったらしい小難しい苗字のエルフとなれば、確実に貴族が王族の関係者である。


だって、こういうドイツ系の小ネタを考えるのは開発が好きそうだから。世界樹の根元にまで近づける身分ともなれば公爵家に近い身分だろう。


おそらく、名前の間にフォンが入っていたはずだろうが…おそらく自分で名乗らなかった可能性が高い。


死んでいたエルフの姫様っぽいのと、残りのエルフはそれなりに実力を伴った家柄の護衛エルフなのだろう。


エルフ・ダークエルフは基本的に友好関係を築いている。そっちはともかく、エルフ種族の連中の性格はややプライド高めという基本設定となっている。ダークエルフの方がやや他種族に友好的というくらいだろう。


そんな連中の複雑な問題を抱えたお家事情に首を突っ込みたいとは思わない。


残りの死体になっているのが実行犯と主犯格かも。


補足しておくが、開発スタッフに頼るのも無駄である。


犯人を調べれる事くらいはバックログから探れば余裕だろう。


自分個人を『弄る』程度なら問題は無い、だがNPCに関わる事については話が別である。


よっぽど地域完全破壊フラグかワールド崩壊クラスにならないとNPCには干渉しない。


世界樹が無くなれば確かにエルフ族連中は困るだろう。でも死ぬわけでは無い。


運営サイドからしてみると、せいぜいでかいランドマークが消える程度の問題である。


装備をじっくりと見聞すれば何か分かるかもしれないが…現在の予想ではテイマー職が居たのだと思う。


エルフという種族は天性の狩人だ。魔法に高い適正を持ち、弓を得意とする器用さ、精霊との親和性による精霊魔法への特化。森の中での索敵能力に隠蔽能力。


そんな連中を相手にするのはかなり困難だ。


簡単な予想はエルフ側の内通者の存在に、上位テイマー職の存在。



『《モンスターの食べ残し》』×12


様々なモンスターのブラウンベア【人食い】の食べ残し。


制作ランク:不明



こいつだ。


予想ではエルフの六人パーティと犯人六人とその他モンスターとの戦い。エルフ連中は精鋭だったろうし、姫の所持していた武器は強力だったはず。


結果はほぼ相討ちとなっていた所にブラウンベア【人食い】が出現。


最終的にみんな熊さんのご飯となりましたというのが結末の可能性が高い。じゃなければエルフの秘法はすでに回収されていただろう。


犯人側となっている買い手に売りつけるという手段もある。


世界樹の苗木の用途を考えると…それを欲しがる連中は山程居る。そっちの連中と付き合うのはデメリットが多いし、約束を違えるのも心苦しいので今回はやめておく。


これ以上の厄介事の処理は面倒過ぎる。うん、余計な事は無視だ。


襲撃とその他の可能性を考え、万が一に備えて準備だけはしておく。


こういう厄介事というのは次から次へと招かれざる物を背負い込む事になるもんだ。



『《特殊耐性ポーション入り注射器:素材不明》』


24時間限定で自身の肉体に猛毒・麻痺・強酸等に対して完全耐性が付与される。


破壊不可 制作ランク:不明



まずはこれ。


もしもの可能性に備えて自分の二の腕に注射しておく。


精神系の耐性もと考えたが、どうやら貰ったポーションの中には睡眠とアッパー系の精神安定系の薬品も若干含まれているというのをメールで確認したのでそっち方面については心配なさそうだ。


………うん、何か違う意味で安心出来なくなった。


次は一気にスキル獲得。


《殴り》《蹴り》《投げ》を三つ獲得すると


『《格闘術》のスキル条件が開放されました。』


はい、待ってました。《格闘術》も獲得、これだけは消費が15と高めです。能力が統合されているような扱いだから仕方ないのかな? 最後に《短剣》と《交渉》も獲得して消費SPは合計40です。おまけで《投擲》も取得しておきますので消費は45になりました。




 スキル12/12


 《変化Lv42》《尻尾Lv3》《初級短剣Lv1》《交渉入門Lv1》

 《MP最大値上昇Lv30》《危機察知Lv4》


 《身体能力強化Lv4》《隠蔽入門Lv3》《演技入門Lv2》《初級投擲Lv1》

 《初級水魔法Lv3》《中級土魔法Lv1》


 スキル控え


 《料理入門Lv1》《初級死霊魔法Lv1》《錬金術入門Lv1》《初級槌Lv3》

 《初級火魔法Lv1》《鍛冶入門Lv1》《木工入門Lv3》

 《殴り入門Lv1》《蹴り入門Lv1》《投げ入門Lv1》《格闘術入門Lv1》

 《農業入門Lv2》《林業入門Lv5》《石工入門Lv2》《初級斧Lv3》


 SP 69



スキル構成もこんな感じです。楽しくなって来ましたね~。


装備に不満はありますが、多少はこれでどうにかなると思う。


武器の方は…これが最強か。いや、不満は無いんだけど…距離的な不安がどうしても拭えない。


建物の内部ならこれで良いが…無い物強請りをしても無意味か。



『《コンバットナイフ:素材不明》』


刃渡り20cmのオリハルコンさえ切断する鋭い切れ味を持つ軍用ナイフ。

戦闘にも使えるが、扱いには慣れが必要。


ATK+600 破壊不可 制作ランク:不明



最後にゴミ箱は尻尾の内側へと収納しておく。収納とは言ったものの、これだけは少々特殊らしく。《変化》による取り込みが不可能だった。その為に、多少の違和感は残るが九尾の尻尾の根元部分へと飲み込んだままの状態となっている。


「忘れ物は無いな。鞄も持ったし…良し。」


準備完了、街の方へと歩き出す。


昼前の11時という時間帯だと街へと到着すれば人の気配もそれなりにある。五月のGWに合わせた販売なのだから、朝も早くからプレイヤーの姿を見かけるのも不思議ではない。


白衣という姿は多少独特に思われるかもしれないが、このゲーム内には医師の役割をするNPCも居るし。白という衣装はわりと多い。


装備としての布製品は別だが、普段着程度の布製品に関しては初日から裁縫系に特化したスキルを上げているプレイヤーも居るので……うん、コスプレっぽいのもゲートを潜っていったのがチラっと見えた。あまり奇抜では無い限り、悪目立ちするって事にはならない。


何も無ければそれで良い―――――――無かったら無かったで、平和に済ませるだけだ。




ギルドホールへと到着してすぐにカウンターへと移動する。


自分が選ぶのはそりゃあ、安定の色白美肌の黒髪ロングストレートの巨乳美少女ギルドの受付嬢。


他のは却下だ。今は視線に潤いが欲しいのです。


一応は眼鏡だけは外し、裸眼の白衣の姿にチェンジしております。


「ようこそいらっしゃいました。ハンニバル様、ブラウンベア【人食い】の討伐報酬の受け取りですか?」


どうやら話は衛兵さんの方から通っていたらしく、受け渡しは実にスムーズでした。


牙を渡し報奨金を受け取る。


ブラウンベア【人食い】の討伐報酬は1万ゴールドだった。


今回はパーティー扱いという事でこの報酬らしいが、素材の引き取りは無しでこの値段なら文句は無い。


もっとも…


「ハンニバル様。ギルドマスターがお呼びしておりますので、お手数ですが二階にある執務室にお越しくださいますか?」


嫌な予感というのは大体は当たるもんだ。


「では、案内しま「予定がありますから、13時までに行くとお伝えください。」………えっ?」


当たり前である。行く事確定とか何様のつもりだ? 事前にアポイントメントを取れ。


「あ、あの…実はさる高貴な「予定があると申し上げました。ですから13時には出向きます。」」


はいはい貴族貴族。もう大体今ので分かりますよ。


慌てるギルド嬢に言葉を被せていった。駄目だな、このギルド嬢…見た目は良いがおっさんの方が不測の事態への対応は慣れていたというのに。


「えっ!? ちょ、待ってくださいっ!!」


金は受け取りアイテムコンテナの中に収納済みである。もう用は無いと速やかに立ち去り、追って来られる隙見せずに逃げたので、まずはゲートをくぐり東京エリアに移動する。


ゲートをくぐり、東京エリアへとやってくる―――すぐにまた道東エリアへと引き返す。


スキルが低くて分からないが、尾行の可能性はある…ならばと、逆に元の場所へと戻り。近くの服屋へと移動していく。


「やっぱ面倒事になってるな…」


ウィンドウを起動させフレンドリストから『月牙』をフレンドコールする。鳴り響くのは古めかしい黒電話の音。


一度、二度……無理かな?


『おはようございます。ハンニバルさんですか? 昨日から連絡が取れませんでしたけど、メールの方は見ましたか。』


お、繋がった。サウンドオンリーの電話方式なので相手の顔は見えません。


「おはようございます。すいません。ちょっと昨日から連絡が取れない場所にいたものでしたから。」


歩きつつも、会話をしながらメール画面を確認。えっと……あった。『件名:ブラウンベア【人食い】について』これか。


『実は昨日、ギルドに報告しに行って話をしてたら妙な事になったんですよ。』


「……ひょっとして、エルフに絡まれたとか?」


『もうギルドに行かれましたか?』


大当たりだった。何というか、高圧的というかそういう連中が多めなのだ。反面、身内にはこうフレンドリー。


だが基本的に許さぬ、イケメン種族は滅びろ。


ちょっと良いかなーと思っていた女子がイケメンに食われてしまう現象を目撃した気分を味わった事があるので、私のヘイト値(主成分:嫉妬)は急上昇です。


「いや、何か揉め事になりそうな感じがしたから逃げてきまして。」


『そうだったんですか…今、時間が宜しければ説明しますけど大丈夫ですか。』


「助かります。そうそう、後でドロップアイテムの方を渡しますので。ギルドの方の話が終わってからで宜しいでしょうか?」


『それなら大丈夫です。実はその件についての話だったんですよ…ハンニバルさん、苗木とかご存知ありませんか?』


予感的中。やっぱりそうなったか…


「ありますね。」


『やっぱりそうでしたか。実は最初はあのボスに手を出すつもりは無かったんですよ。ただ、最初にボスに挑んでいたパーティーがあるように見えまして。それで疲れているなら行けるかなって事で、メンバーがちょっかいを出したのが始まりでして…』


「実はその最初に戦っていたと思ったパーティーはNPCのエルフだったと?」


『はい、その通りです。それも大切な物を取り返す為に盗賊と戦っていたらしく、こっちのメンバーがボスと遭遇したのは、その連中がボスに負けた後だったという事でした。』


予想的中。外れて欲しかった…


『探索に来ていた方はこっちの後に探しに来たけど、そこには何も無かったらしくて…でも昨日になって俺らが報告に行ったら、色々と事情を話す事になって。そこで知ったんですけど、ブラウンベア【人食い】の習性として、死体を持ち帰るというのがあるそうなんですよ。それでもしかしたらという事に』


服屋さんに到着。お目当てはYシャツとジーンズとかそういうの…あるかな?


「事情は大体分かりました。苗木に関してのそちらの報酬はどうされます?」


後になって請求されると面倒なのでちゃんと確認しておきますよ。


『ああ、それなら大丈夫ですよ。情報料込みって事で追加で一人頭5万ゴールドもらってますから。』


向こう側からホクホクしている声が聞こえてくる。


「そういう事なら遠慮無く。」


ならこっちも稼がせてもらわないとね。あ、今自分。きっとすっごい悪い顔してますよ?


「最後に、エルフについてですが―――」




_________________________



ギルドホールの執務室。


その主たるギルドマスターの表情は実に重苦しい。


「来てないとはどういう事だ!?」


怒鳴り声が執務室に響く。激しく机を叩き、怒りに声を荒げたのは外見から見れば年齢にして20代のダークエルフの男だった。外装は黒一色の黒騎士という姿。その身から漂う威圧感はとても素人では受け止め切れるものでは無い。


「落ち着けカール。それで…そのハンニバルとやらは13時になったら来ると?」


それを諌めるのは18歳前後の外見をした長い金髪を煌びやかに靡かせたエルフ族の少女。白に塗装されたミスリル製の騎士鎧を身に纏った凛とした立ち姿をしていた。


もっともそれを諌めた当人ですら殺気を隠せぬというように眼光が鋭さを増していた。


「は、はひっ! よよ予定があると言って、その…」


ギルド嬢であるルルは緊張に呂律も回らず直立不動という状態だった。


緊張するなと言われる方が無茶な話だ。


相手は王族であり、町長の娘という立場からしても雲の上の存在である。それがエルフという種族を代表する次期女王候補ともなれば無理も無い。


感じる威圧感もさる事ながら。まず、圧倒されるのはその美貌である。ダークエルフの男性にしろ、エルフの女性にしろ、ギルド嬢として数多くの人種に接する事があったが今まで出会った事が無いような類である。


そんな美貌からは考えられない程に殺気立つ彼らを前に萎縮していた。


「大丈夫ですよ~、ハンニバルって人はカール君の部下の人が追跡してるみたいですから。すぐに連れてくるかと~。」


二人に間延びした声をかけるのはおっとりとした雰囲気の女性だった。こちらもエルフで外見だけなら20歳前後のふわふわとした緑色の長い髪の女性。


その女性の方は神官風の姿をしているが怪我をしており、左腕には痛々しい包帯が巻かれていた。それだけではなく、見えない箇所にも怪我を負っているようで動きはどこか鈍い。


「だそうだ…ルル、君は下がっていなさい。」


そんな三人とはまた違った巨巌のような男は執務室にある机の椅子に座したまま重厚な低い声をあげた。


「わ、わかりましました。失礼しますっ!」


ギルド受付嬢はその声に反応し逃げるように立ち去っていく。


この道東エリアにおけるギルドマスターの地位を持つ男、グスタフ・カールセン。身長2mにもなる人間種族の元冒険者で、癖のある茶髪に顔中にヒゲの生えた風格のある容貌を持つ40歳後半の男である。


その彼の背後に控えているのはギルドのサブマスター、カリーナ・レイライン。25歳の美人秘書風のハーフエルフで、長い青髪を頭の後ろでまとめている。服装はスーツ姿の出来る女という姿なのだが、今はただ沈黙を守っていた。


「だがその男が苗木を持っているとして、誰かに売ったりでもすればどうするというのだ!?」


苛立ちを隠さぬままにダークエルフのカールと呼ばれた男はギルドマスターをきつく睨む。流石にこれにはギルドマスターとて言葉を詰まらせた。それに助け舟を出すのは騎士姿の女エルフ。


「売り払われたとて簡単に誰かに扱える物では無い、あれにはエルフの守護が施されている。例え同族であったとしても王位継承権を持つ王族か巫女にしか解除は出来んよ。それに我々の手元にはもう一本の世界樹の枝がある。例え見失ったとしても探し出すのにはそいつが精霊魔法を我々以上に極めてなければ難しくは無い。」


「楽観視は出来ませんが、もうすでに事件は終わっているのと同じです……犠牲は出ましたが…もう少しだけ待ちましょう?」


怪我を負っている女エルフの方は悲しげに表情を曇らせながらも力無く微笑みを浮かべてみせた。そんな表情を見て、辛そうに視線を逸らすダークエルフの男。


「くっ…! そうだな…すまない………もう終わってるんだ。苗木を取り戻したら里に帰ろう、飛竜便の手配は済ませているからすぐに帰れる。」


「そうだな。アウラの事は残念だったよカール……だが、我々は生きねばならんのだ。アウラの分も…クリスの分もだ。」


そっとカールと呼んだダークエルフの肩へと手を乗せて慰めの言葉をかける女エルフ―――名をヒルデガルド・エルブンシア・シャルロッテンブルク。エルフ族の王族にして王位継承権『現』第一位。




世界樹と各種特殊な森林エリアを統治している国家【エルブンシア】


エルフ・ダークエルフ族が中心となった世界樹を神樹として信仰する王政国家。


各地に存在している世界樹等を中心に、それぞれの部族が点在しているが王都として定められているのは現在は北海道エリアの一角、現実では屈斜路湖と呼ばれた湖を中心とした周辺のエリアが王都として扱われている。


そう―――信仰の対象とされる世界樹の苗木の盗難。


苗木そのものにも価値があり、世界樹の新たな苗木と共に次期女王の宣託儀式が行われる予定である。


世界樹とは神樹である共に、世界樹こそがエルフ達にとっての国である。



これは後世にも伝わるエルフの歴史に残る重大事件となった。



道東エリアに存在する唯一の世界樹、現地名に置き換えると屈斜路湖と呼ばれる湖の中央の島にそれは植えられていた。通常、結界が張られてた聖域には貴族か王族以外の出入りは不可能である。


世界樹はエルフ・ダークエルフ共通の財産であり、世界樹の苗木ともなれば厳重に守られていた。


まさかそれが内側から破られる事になると、一体誰が予想しただろうか。


犯人とされたのは当時の森番を勤めていたダークエルフ、アウラ・フォン・ノイシュヴァンシュタイン。


森番とは周囲に広がる森の治安を守るのが役割であり、それには世界樹も当然ながら含まれる。世界樹を守るとなれば人選は限られ、能力が優秀であると同時に本人の家柄も考慮された人選となる。


ダークエルフの王族にして、王位継承権二位の公爵家の長女。精霊魔法の使い手としても有望視されており、それがどうしてと当時の人々は首を傾げた。


世界樹の苗木が同族の手によって盗まれたという事が事だけに、公爵家の不祥事という事も考慮され、大規模な山狩りをするわけにもいかず。また、迅速な行動が求められた為に少数精鋭によって追跡班が組織された。


追跡班は代表として王位継承権を持つ三人、ヒルデガルド・エルブンシア・シャルロッテンブルクは王位継承権『第二位』でありながら、実力はエルフ族随一であると同時にアウラ・フォン・ノイシュヴァンシュタインが友人であった為、友として責任を果たすために自主参加。


また彼女の妹であるクリスティアーネ・エルブンシア・シャルロッテンブルク、王位継承権『第一位』にして次期女王候補の筆頭。さらに世界樹を祀る巫女として、世界樹の苗木をもっとも感知出来るという事で参加。


最後にフリーデリンデ・フォン・ツェツィーリエン、王位継承権第三位にして公爵家の長女。彼女の方はエルフ族の中でも回復や弓等の支援に長けており、巫女としての技能も兼ね備えている為に参加。


その他に護衛として十数名、いずれもエルフ・ダークエルフ族の中では精鋭揃いである。


また同行者としてダークエルフからは代表としてカール・フォン・シュタインベルク、ダークエルフ族の貴族にして伯爵家の長男。実力もダークエルフ族の中ではトップクラスであり、元アウラ・フォン・ノイシュヴァンシュタインの許嫁として、貴族としての義務を果たすべく同行が認められていた。


彼らは精鋭だったが、探索は困難を極めた。


ダークエルフは隠密行動に優れた能力を発揮する種族であった事と、アウラ自身が優秀だった結果である。


道中では幾度も魔物に襲われ、追跡班が彼女に追いつく頃にはすっかり疲弊しきっていた。


ようやく道東エリアの釧路地区方面まで追い詰めたのだが、そこで追跡班を待ち受けていたのは予想してない出来事であった。


アウラ自身はそれまで逃げるばかりで何もしてこなかった。だが、それが唐突に牙を剥いてきた。


時刻はプレイヤー達の初日にして15時頃の時刻。


そろそろ街が近く、もしゲートに逃げ込まれたら厄介であるとしてパーティーメンバーを分ける事となった。ヒルデガルドとカールと護衛達はそれぞれ半数は夜間に突入する前に街へ先行。


追跡班として残留したのはクリスティアーネとフリーデリンデとそちらの護衛達である。そして、同時刻…戦いは唐突に始まった。


まず仕掛けてきたのは明らかに操られていると思わしきモンスターの集団、そして人間や獣人、ドワーフ、エルフも含む等の人種に統一性の無い者達とアウラ・フォン・ノイシュヴァンシュタイン本人。


どうやらアウラ本人も操られている様子で、主犯格と思われる顔を隠した男が何らかの魔法で操っている様子だった。


クリスティアーネはアウラの手によって死亡。だが、突如それが引き金になったのか呪縛から開放されたらしく。最後は謝罪の言葉を口にしながら火精霊を暴走させ、主犯格と共にこの世から去っていった。


モンスターの集団も含め、もはや生き残りはフリーデリンデのみとなり。苗木を回収しようとしたが、そこに突如出現したのは血の臭いに惹かれてやってきたブラウンベア【人食い】だった。


何とか倒そうとしたが、すでに満身創痍でどうにもならない状況で対処出来なかったらしく。気力を振り絞り魔法で結界を生成し防御したが魔力がそこで途絶え、魔力枯渇により意識を消失してしまったとの事。


意識を取り戻したが、その時には冒険者らしき集団がブラウンベア【人食い】と逃げながら何処かへと去っていった後の話で、モンスターがいなくなった事に安心し自分の回復をして立ち上がり、苗木を回収しようとしたが周囲から死体が消えている事に気がつく。


ブラウンベア【人食い】はその習性として、死体を持ち帰って保存食とする事から。アウラが所持していたと思われる苗木と共に持ち去られた可能性が高く。慌てて街に戻り、先に街に先行していた二人に状況を説明。


起こってしまった悲劇に涙を拭う間もなく。すぐに探索に彼らは向かったが、それと入れ違いで街の近くにブラウンベアが出没し、それを衛兵と共に冒険者が倒したという情報を仕入れたのはハンニバルが石豆腐ハウスへと引き篭もりに向かった時だった。


さらに運が悪い事に、ブラウンベア【人食い】の所持していたアイテムをハンニバル自身が開封せずにそのままにしていた事から。魔法の鞄、ランダムアイテム扱いの状況、アウラの所持という三重の防壁とも言える障害が発生する事となり。その冒険者の足取りを掴む事が出来なかった。


プレイヤー「月牙」達が翌日になって報告に訪れるまでの間はフリーデリンデの怪我の治療、周辺の探索と目撃者の捜索等に忙殺され、半数の仲間を失った事もあってか探索の手がハンニバル自身へ届くのに一歩足りなかった。


不運はさらに続く。


精神的にも追い詰められていた彼らは月牙達を脅迫するように問い詰めかけた、そのせいで月牙らの心象は悪くなり。数名はログアウトして情報を得る事が出来ず、他のメンバーもまた喧嘩腰の会話が続き。ハンニバルの元へと到達するまでに安くはない出費と時間を浪費する。


結果はハンニバルの情報を得て、探索の手は彼へと伸びたのだが連絡を取る事も出来ず。また、ハンニバルの拠点と思われる場所を突き止めたのだが人の気配は存在しなかった。その頃には地下に彼は居たのでエルフの精鋭とはいえど気配を掴めなかったのだ。


小さな窓から内部を覗き見ても、とても人が住めるような環境では無い事から、すでに彼は別の場所に移動したのだろうと判断し。二名の護衛を残し、残りはゲートを転々と移動して情報収集を。残りは飛竜便と呼ばれる飼い慣らしたワイバーン種の、所謂 空飛ぶタクシーとでも考えれば良いが。それの手配に時間をとられる。


結局…その日一日は何の成果も得る事も出来ず。月牙達の話からも討伐報酬を換金するという事はわかっていたので、ギルドにて待機する事となる。


事件が事件であるだけに、連日のように王族の対応をしなければならないギルドマスターの心痛は計り知れない。そうして、ようやくハンニバルが姿を現したという報告を受け―――だが、予定があると告げて止める間も無く立ち去っていった―――と、ギルド嬢のルルからの報告に怒り心頭とカールが語気を荒げたのも無理からぬ事である。


そして、ギルド嬢のルルと入れ替わるように数十分後に訪れる事となったエルフの精鋭達からの「見失った」という報告を受けた時。


ギルドマスターの執務室の外にまで若い男女の怒号が響いたという。


_________________________



「釣りはいらない…とっとい「ぴったりですよ?」」


被せて言わないでください。


服って以外と高いですよね…財布の中からゴールドさんが一気に逃げていきましたよ。


服屋さんの内部は思ったよりもオシャンテー。


文明はヨーロッパ程度の基準とは言えども、裁縫関連のデザインは以外と手縫いでいけるらしいです。


そりゃあ、ヨーロッパ時代はあんなドレスがミシンも無しにあったんだから当然かも。


ただ少しお高いですよ?


今回のコーディネートは上から灰色のYシャツに紫色のネクタイ。


下は黒系のスラックスにサスペンダー。


白い手袋と足元は黒い革靴。


ネクタイピンとカフスボタン、中身のTシャツとパンツ。


お値段は2万ゴールドきっちり―――――1万ゴールドくらいの魔結晶を追加し、さらに土下座してどうにかしてもらいました。


うん……お金ね………足りなかったの………お金無いの………で、でも…ようやく人並みに見られる姿になりましたよ? あ、ギリギリ昼食代だけは許してもらいました! プライドよりも飯です。


服屋さんのお姉さんはとっても美人だなー(棒)


ゴミ箱の中に入っていた櫛で髪の毛の両サイドを後ろへと撫で付けて準備完了、少しだけ下がっていた眼鏡のブリッジを中指でクイっと押し上げる。うん、かっこいいだろ? でも無一文でドヤ顔しているんだぜ。


おいたんお金無いの…だから、稼ぎに行くのだ。


服屋の中で月牙さんとフレンド通話で会話も終了し、大体の事情も把握した所で昼食となる。


今回選ぶお店はギルドホールの『内部にある』小洒落たカフェスペース。


灯台下暗しとはよく言ったものです。


今回は白衣をコートのように持って魔法の鞄も目立たないようにゴミ箱収納。


獣の耳も尻尾も消して、完璧に人間偽装しております。


印象が変わると人って案外気がつかないものですよ?


遠くからギルド嬢のルルが顔をやや青く、気分悪そうにしながらもプレイヤー対応に忙しくしているのを横目にカフェスペースへと移動。


堂々としているとバレないもんです。


まぁそんなのは無視無視。


ああ、ようやくまともなご飯が食べれる……こんな嬉しい事は無い。


お冷はタダでも、お腹は膨れない。ウェイトレスさんに速攻で注文です。


「トーストとベーコン、スクランブルエッグにコーヒーか……朝食ランチプレートを御願いします。」


「え? 今は昼「御願いします。」」


「ですから、今はひ「御願いします。」」


「……はい。」


昼だけど朝食ですよ……だって、朝食用のメニューじゃないとお金が足りないんですよ……お金欲しいぉ。


注文終了、出前迅速という具合に料理が運ばれてくるのは早かった。


彼の全所持金が消え去ってしまうまでの時間も早かった。




【孤独のハンニバルさん・製品版、初めての外食編】


(うん、良いじゃないか…こういうのだよ。)


カリカリに焼きあがった四角い薄っぺらなトースト、でもしっとりとバターで濡れていた。ベーコンはやや肉厚で油っけがあり、塩と胡椒で化粧がされている。


スクランブルエッグは綺麗な半熟よりも若干完熟加減でぷるぷるとした黄色も鮮やか。その真横にはケチャップの赤が彩となっている。その後ろに控えめに添えられているレタスの緑色も嬉しい。


最後にコーヒー…安物のインスタントかと思いきや、香りは専門店と遜色無い仕上がり。


おっと、予想外のデザートにヨーグルトまで。これは嬉しい。


(これだよこれ、男の子っていうのはこういうシンプルなので良いんだよ。)


まずはトーストを一口、サクっと良い音がした。口の中で小麦の味とバターの風味の相性が良い具合だ。


次にベーコン…ナイフとフォークで切り分けて口の中に入れる。


(おお、肉だ。口の中に肉汁が充填されていく…)


もう二度と貧乏な食事なんかするもんかと心に誓いながら、今度はスクランブルエッグをフォークでケチャップと混ぜて口へ。


(甘い。そして、トマトケチャップの塩味と実に合ってる。)


ここでコーヒーですよ。最初はブラックで香りと苦味を楽しみます。


「ふぅ……」


思わず声に出てしまった、Stay Aloneとはまさにこの事。


一人で味わう至福の時間。BGMに周囲の声に耳を傾ければ―――ほら。



「…そろそろ、ギルドマスターの所にコーヒーを……」

「五つ? それに軽食…護衛の人にも…」



こんな楽しい話が聞こえてきますよ。


運ばれていくコーヒーの数は5と3に軽食付き…いや、軽食セットは中止ですか。もう少し食事と向き合い、楽しい時間を過ごしたいというのに忙しくなりそうです。


最後に急いでヨーグルトを口の中へと流し込み―――って、酸っぱい…微妙にヨーグルトだけはハズレでした。


ギルドホールのカフェスペース…甘め評価で80点です。




_________________________




この日のギルド受付嬢、ルルの運勢は間違いなく最低評価だった。


ギルドホールに勤めてもう一年を経過している。


仕事は有能だし、性格も良好。受付嬢として人気もある。


町長の娘ではあるが、はっきり言って裕福な暮らしが出来ているとは言い難い。


機会があるならもっと大きく羽ばたきたいと常々願っており、ギルドの受付嬢として働いている理由も小遣い稼ぎと、はっきり言えば『男漁り』であった。


わざわざボロい服を着て男達の視線を誘うような姿をしているのも『そういう理由』からだ。


こんな辺鄙な町で一生を終えるつもりはさらさら無く。


金になりそうな男がいれば迷わずアタックをかけていく女、それが彼女である。


ただ……残念な事に、金になりそうな男は殆どいない。


※最初の時点ではハンニバルさんは空気程度の扱い。


以前は多少なりとも居たが、最近は殆ど見かけもしない。


ようやく『美形』『貴族』『金持ち』の三拍子揃ったエルフ族御一行様がやってきたが、そんな空気に出来る様子では無かった。


「はぁ……」


大きくため息を吐きだした彼女の様子を心配そうに同僚が見つめるが、彼女は同僚を手で制して仕事を続けてもらう。


今日は彼女にとって厄日である。


先日、彼女が登録をしたハンニバルとかいうフォクシー族を案内するように言われていたにも関わらず、さっさと逃げられてしまい。


エルフ族御一行からは殺気立った目で睨まれ怒鳴られ、後になってギルドサブマスターからはやんわりとお叱りの言葉まで頂いてしまった。


彼女自信は詳しい理由は知らないが、彼は別に何か問題を起こすタイプには見えなかったからだ。


善良そうな笑顔をしていたし、先程出会った時は全てを知っていて、だから立ち去ったという雰囲気だったので追いかけれる隙も無い。


ギルドマスターに呼ばれてるだけであって、あくまでも任意。だから強制力は存在しないのでああも言われれば捕まえておく事なんて出来やしない。


(まだ、お昼を過ぎたばっかりだし…はやく時間が過ぎないかな。)


約束を守りそうなタイプだったので彼は13時にはやってくるのだろう。出来ればその前に帰りたい、帰って今日はもうゆっくりしたいと彼女は業務をこなしながら考えていた。


「次の方、どうぞー。」


一瞬、何か違和感を感じただけで声をかけられてもすぐに彼女は気がつかなったと後に語る。


「こんにちは、ルルさん。」


「はい、こんにち………えっ?」


服装が違う。眼鏡をかけている。髪型がちゃんと整っている。


顔だけで言えば前からでも他と比べても合格基準であった。


先程は随分とみすぼらしい服装だったのだが、それが着替えただけでこうも印象が違う。


「あっ……――っ!?」


開いた口が塞がらないとはまさにこの事である。


逃げられてから一時間ちょっとが経過していたが、ようやく肩の荷が降りると安心し。椅子から立ち上がって報告―――と、思った矢先。


彼女は動けなかった。


名状し難い威圧感。


目の前に居る彼の笑みが怖かった。


真っ赤な目を光らせて、三日月みたいに笑う男。


身体が動かなかった。


町長の娘として人と会う事もある。


ギルドの受付嬢として人と多く接しても居る。


人物を観察する事に関しては自信があった。


だが、コレはナンだろう?


人を人として見ていない。


獣よりももっと怖いイキモノだ。


エルフよりも弱いのに、このイキモノの方が怖い。


彼女は身動きも出来ず、ただ彼から目が離さないでいた。


「予定を早めさせていただきました。」


「は……いっ…」


コワイ、コワイ、きっと逆らったら食べられてしまう。


あの目はヨクナイ、人の目じゃない。


「その前に、実はちょっと御願いがあります。」


逃げちゃダメ、逆らってもダメ。


まるで蜘蛛の巣に捕らえられたように彼女は身体が動かせない。


赤い瞳が怖い。


食べないでくださいと泣き叫びたい衝動を堪えていた。。


「宜しいですね?」


毒のように耳に言葉が染み込んでくる。


コワイ、逃げたい。


でも逆らったら食べられる。


「…わかり……ました………」


返事を返すまでに、ゆっくり数秒の時間が経過した。


重々しい空気を肺の奥底から吐き出しながら返事をするのが、彼女にはやっとだった。


 頭:普通の眼鏡

 上:白衣の下に灰色のYシャツ、ネクタイは紫色。

 下:黒系のスラックスとサスペンダー。

 手:白い手袋

 足:黒い革靴

 


 スキル12/12


 《変化Lv42》《尻尾Lv3》《短剣入門Lv1》《交渉Lv1》《格闘術入門Lv1》

 《MP最大値上昇Lv30》《危機察知Lv4》


 《身体能力強化Lv4》《隠蔽入門Lv3》《演技入門Lv2》

 《初級水魔法Lv3》《中級土魔法Lv1》


 スキル控え


 《料理入門Lv1》《初級死霊魔法Lv1》《錬金術入門Lv1》《初級槌Lv3》

 《初級火魔法Lv1》《鍛冶入門Lv1》《木工入門Lv3》

 《蹴り入門Lv1》《投げ入門Lv1》《殴り入門Lv1》

 《農業入門Lv2》《林業入門Lv5》《石工入門Lv2》《初級斧Lv3》


 SP 84


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