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狐男さんは最低野郎  作者: にゃるらとほてぷ
第一章『一週間くらい引きこもる話』
5/8

4話

 まだ夜も明けきっていない時刻、薄暗い室内に捨てられたように横たわる力の無い肢体。


ファンタジーという世界には不釣り合いな…もしくは、ある種これもファンタジーと言えるかもしれない。


今時珍しい膝丈よりも長いロングスカートに時代遅れなデザインのセーラー服姿。


古めかしい黒に近いセーラー服が闇と同化するようで、その黒が逆に肌の白さを際立たせる。


肌の白さ―――それがわかってしまうのは着衣が乱れているからだ。


艶かしくも汗の雫が肌の上に浮かび上がっており、その額にも汗がしっとりと張り付いていた。


柔らかな唇から聞こえてくる儚げな呼吸音。


捲り上げられた布地の下、起伏の乏しい胸に乗せられた小さな桜色の突起。


細い腰つきからさらに下へと誘惑に逆らえないように視線を向けてしまう。


うなされるように悩ましい程にスカートの裾から覗く健康的な脚線美、まるで誰かに見せ付けるかのように無意識のままに寝返りが行われた。


さらにチラチラと見え隠れする下腹部の奥、その奥底が淫猥に存在を露にしている。


濃密な汗と共に鼻腔を刺激する雌の臭い…これは悪い夢だ。


悪魔が見せる淫夢なのだろう。


それを見るであろう者はさらも視線を惑わされるであろう。


脚線を辿れば、引き締まった小ぶりな臀部があり。背中のラインをたどっていくと、しっとりと汗で濡れた黒髪がうなじや額に張り付いている。


薄暗い室内であるが、それでも輪郭が整っているとすぐに分かる。


欲望を剥き出しにした獣であれば、極上の生肉が血を滴らせて放置されているようなものだ。


無防備過ぎる姿で横たわっており…もし触れれば壊れてしまいそうな程に弱々しい生き物。





――――――嗜虐性を掻き立てる餌。





倒錯した考えの持ち主であれば、その弱々しい姿を見れば泣かせてみたいとも思うだろう。


欲望のままに穢れを下劣にぶちまけてしまいたいという欲求。


股座を開かせ、己の欲望の限りを尽くしてしまいたいという欲求。


もしか細い声で助けを呼んだとしても、押し倒し、押さえつけ、蹂躙の限りを尽くしたいという欲望。


朝日が姿を見せ始めると、はっきりとその姿が見え始める。


その瞳には生気が無く目尻には涙が溜まっていた。


差し込む朝日の眩しさに目を一度だけ瞑り、そして呻くようにしてか細い声が室内に響く。




「たす…け………て………」




だが、その言葉に耳を傾ける者など存在していない。


この場所は誰も助けなど訪れるはずも無いのだから。









































 聞こえてきた声は、脱水症状気味なかすれたおっさん声でした。


誰って自分に決まってるじゃないですかぁ、ご存知「ハンニバル」でぇございます。


「み……みず……」


 三日目の早朝。石豆腐ハウスの中、彼はノーズボンノーパンツという特殊なスタイルで目を―――いや、今回はちゃんと服を着ていました。サイズなんてあってないパッツンパッツンの【セーラー服】姿である。


空気取り入れ用の窓はあるけど、素材は全て石ですから。内部で焚き火をしたり風呂に入ったりすれば湿度は80%超えるし、気温もぐんぐん上昇して不愉快指数が凄いです。


えっ? 雌の臭い?セーラー服?


それならアトラク・ナクアさんの所のドロップ品の中に入っていたんですが、すっごい良い「匂い」がするんです、ムラムラしますね!


どうして着てるって…他のは全部、汚れてますからね。サイズですか? HAHAHA、パッツンパッツンでまともに着れてないっす。あと、寝相悪いんですよ自分。見えてるのもおっぱいじゃないですよ、雄っぱいです。


そもそもドロップ品にどうしてセーラー服が入っているんだという疑問もあるが、スタッフのお遊びです。理由は知っている方はお察しください。



………アトラク・ナクア………アリス……初音…う、頭がっ……



とまぁ確実に逮捕確定な姿で、ノクターン送りの刑(メンズラブ系も可)に処されるような姿のままむくりと起き上がる。


自分の親指を咥えて水魔法で水分補給しながら、ゆっくりと立ち上がってセーラー服を脱いでいった。


あ、自分の無貌の神ならぬ『無い帽子』と書いて「無帽の神」が奮起してました。はしたない…朝ですからね、許してください。


二日が飛んでましたが、イベントなんて早々ありませんよ…無かった事にしてくださいよ………。








何やかんやの二日目。


薄暗い洞窟の、しかも巨大な蜘蛛の巣の上での作業スタートとなった。


最初したのは強制的に渡された持ち物の確認である。ボスドロップ品については帰ってからじっくりと


薄暗い蜘蛛の巣の上に一人というちょっとホラーちっくな状況にて荷物整理タイム。


さて…そもそも灯油って何だよ灯油って…放火しろってか。



『《灯油缶》』


灯油とガソリンの混合液が入っているよ!

これから毎日森を焼こうぜ? 見た目と違って内容量は無制限。


制作ランク:不明




中身ぇ…あの短時間に作ったんですか?

馬鹿ですねー…少し泣かせてください。そうか…これが技術の無駄遣いですね。




『《炭鉱夫用エクスカリバー:素材不明》』


めっちゃ頑丈。24時間以内に壊れる。


残り23時間59分、破壊不可 制作ランク:不明




適当だよぉ!? でも取り出したら松明10本並に光ってますよ…ガチでエクスカリバーですか…何これ?あの毛虫馬鹿なの、死ぬの?




『《大型カッターナイフ:素材不明》』


鋭い切れ味と交換を必要としない耐久性を持つカッターナイフ。

替刃セットもあるが、切れ味が鋭すぎてプラモ作成には向かなかった。


ATK+500 破壊不可 制作ランク:不明



普通だ。これ、普通のやつだ。作業用としては便利。戦闘用としては使用現場を見られたら他のプレイヤーの妬みを買うので使えない。これは……便利か? いや、刃渡りは13cmくらいなので戦闘向きじゃないなぁ…。解体用ナイフの代わりにはなるから渡されたのだろう。



『《注射器:素材不明》』


内容物:スキル《変化》


備考:自身の身体の部位に該当する部分の《変化(へんげ)》、MPの消費による物質の《変化(へんか)

補足1:変化(へんげ)するには体内に変化したい素材を調理せずに取り込む事。

補足2:取り込みが適応されるのは摂取量÷2=となり、身体を変化させる事が出来る。

補足3:身体を変化させるには対象のソロプレイでの撃破が制限を開放する条件である。

補足4:物質の形状変化には秒間1%ゲージの消費を必要とする。レベルの上昇によってそれは緩和される。

補足5:スキル導入中はポーション類の回復率は半減する。


契約事項:使用後、肉体や精神の影響が出た場合。一切の保証は出来ない。


制作ランク:不明



「………あ、これ一番駄目なヤツじゃね?」


チートだと思うでしょ? だがこれはチートに偽装した罠である。


能力としてはチートに思われる。使い方次第では無双くらいは出来る可能性もある。制限はあるが、旨みは大いにあるように見える見える詐欺です。オレオレ級の胡散臭さですよ。


美味しいように見えるでしょ?


でもね…これ、単独撃破が開放条件って………MMOですよ? パーティプレイ推奨のゲームでソロって……でも無理じゃないですよ。


でもね、ソロで倒せるって事はそれ以上の実力を本人はつけているだろうし。自分を強化出来るっぽいけど、それには色々な『操作の慣れ』も必要となる。


結果……美味しいように見える微妙スキルです。


そもそもこのスキルの根本的な問題――――――それは……


「楽しい人体実験タイムじゃないですか…」


説明を読み終わり、ようやく『思い出して』思わず空を仰ぎ見るように呻いた。



人間の身体というのは異物を受け入れるように出来ていない。


他人とは違う血液を入れるだけで人は簡単に拒絶反応を起こす。


VR内では各種様々な実験や検証が行われてきたがまだまだ開発段階である。


VRの『素敵』なお話は今度にするとして、この能力の問題を話そう。


まずはイメージの具体化。魔法にはアシストは別として、システムとしての最低限のサポートがある。日常生活レベルの簡単な動作から戦闘で使用する技も含まれる。ではこれはどうかと尋ねられたら―――そんなのねぇ! だから自分に試させるのである。


ともかく細かい設定は自分で出来るのでコツコツ弄って組み立てていくしかない。このゲーム内では制限はあるが自分で技や魔法を作る事も出来る。まぁ、他と違って設定を0から作るしか無いので厳しい。だからオートで楽々変化とか無理です。


まだ問題はある。自分の爪を武器のように伸ばそうとしても正直きっつい。イメージを武器として固定化、伸びた爪が壊れれば多分ダメージを受ける。感覚も通っているので痛みもある。分かりやすく言うと生爪を剥がされるより痛い。


人間の脆弱性は此処で終わらない。自分の身体には本来『無い部分』を意識して長時間使用すれば、目眩、吐き気、嘔吐、微熱等の症状も出る。VR酔いとも呼ばれるものである、脳が疲れてしまうのだ。人間の脳味噌は都合良く高性能には出来ていない。


他にも異物による拒否反応が存在している。獣人の話になるが獣の耳、獣の尻尾…それは普通の人間には存在してない。耳と尻尾を脳機能に連動させる方法については、実験材料となる哺乳類系統の動物は普通に存在していたのでどうにでもなったらしい。


これが人間や動物の遺伝子以外、それも常識外となると脳処理が異物として勝手に判断されて拒絶反応を示す。感覚設定を低く設定する等すれば緩和されるが、VR内での動作に問題が出てくる。


具体例は人間には昆虫のような複数の関節は存在していないという事だ。VRから生身へと復帰した場合でも、とっさには人間としての動きを脳がVR内の設定のまま『勘違い』し、すぐには動けない場合が多い。


解決策として出来たのはプレイヤーのアバターの肉体との感覚を分け、身体は身体、耳と尻尾は耳と尻尾という具合に『着ぐるみ』のように設定する等の制限する事で解決した。耳も尻尾はあくまでも基本はファッションである。


これがこの能力の一番駄目な理由。


外側のファッションとは違う、『内側』からの変化。


初期テストでは内側から変化すると皮膚が裏返るような感覚を味わえた。首が180度回転し、関節が真逆に動き、腰が半回転してにょきにょき手足が腹から背中から出てくる―――被験者の半数以上が嘔吐し、中には脳機能に悪影響が出て人間として正常に歩けなくなった者もいた。


唯一まともだったのは自分くらいなもので。変身願望もあったので色々と楽しめたが、それでも軽い吐き気くらいはあった。


完全な動物に変化する事や、半獣半人のような姿への実装は遅れるという話は昨年聞いた事があった。


実験の方は細々とそれでも続けられ、せいぜい変なポーズをしている程度の感覚にまで感覚のフィールドバックは抑えられたという話は聞いていたが、最終実験ですか…お仕事ですからね。早々、うまい話は無いもんだ。


『食べる等』の行為を伴う必要があるのは、『それになる』『なりたい』という変化を体内に取り込む事によってより意識的に行えるからだろう。鳥を食べたからといって人間は空を飛べないが、栄養素は取り込む事が出来る。


宗教儀礼や、他の要素も多々考えさせられるものがあるが……気にしたら負けである。開発が設定したのなら「こういうのはこういうもの」として納得するのが一番だ。


渡されたアイテムはこれで終わりかなと思っていたら…変なのが混じってた。




『《アイテムコンテナ:素材不明》』


内容量:制限解除・破壊不可  制作ランク:不明




「………え?」


気になって取り出してみると、10cm程度の四角い銀色の箱だった。名前には聞き覚えがあり、開発スタッフ等…GM用に支給される魔法の鞄よりも上の最上位のアイテム収納箱。もしかして、あの毛虫…いや、神がこんな大サービスまでしてくれたのか。そう考えると暖かな気持ちになってきた。


「手紙もついてる……」


『アイテムの保存にぜひ使って欲しい。ゲームの中で実験をしていた時のアイテム等、中身が多少入っているが気にしないでほしい。』


何だよ山本さん…やっぱり神でしたか。


チートはあまり好きじゃないが、これは良い…許すん!


多分、スキルテストの報酬の先払いの意味もあるのかも。山本神様とこれからお呼びせねばなるまい。


でも中身は何が入っているのだろうか…ワクテカワクテカ。


アイテムコンテナの箱を手にしてウィンドウを開き、さっそく中身の確認を………


【使用済み注射器】【使用済みのビーカー】【使用済みのフラスコ】

【硫酸の入った試験管】【未使用の白衣】【アルコールランプ】


ん? まぁ、これは洗えば錬金で使う…から良いのか?


【割れた試験管】【割れたビーカー】【使い古しの定規】

【汚れたジャージ】【洗ってない食器】【染みのついた座布団】


…………う、うん?


【汚れた割り箸】【何かの薬品を拭いた布】【赤○ジ○ンプ】

【食べ残しの弁当】【食べかけの弁当】【割れた眼鏡】


ゴミ箱ですか? ゴミ箱ですよねこれ!?


【作りかけのプラモデル】【切り離しに失敗したパーツ】

【腐ったバナナ】【ペ○ングの残り】【コーラのビン】

【カップヌードルの残り汁】【くそみそテクニッ○】

【鼻水のついたティッシュ】【使用済ウェットティッシュ】

【腐敗臭のする生ゴミの袋】【洗ってない白衣】【汚れた白衣】

【腐った白衣】【割れた液晶テレビ】【床に落とした液晶テレビ】

【臭いタオル】【床に落とした生卵】【醤油の入っていた入れ物】

【ご飯粒が残っている茶碗】【冷えたカレーライスの入った皿】

【未使用の割り箸】【タッチペン】【LO 11月号】【燃2弾4鋼11】

【五本指の使用済み靴下】【壊れたファービー】【石仮面】

【マスター○ール】【オキ○ジェン○ストロイヤー】

【ボトルシップ】【赤い全身タイツ】【サイコガ○】



「やっぱりゴミ箱じゃねぇか!?」


上から下まで開いた画面をスクロールして軽く目を通すとどれもこれも似たような……というかゴミ箱ですよねこれ!? 開発さんはそりゃあアイテムをぽんぽんと、ゲームの中ならまさに神のように作れるが……その結果がこれだよ!


指で画面を上からスクロールしていくのだが、そのスクロール画面が徐々に更新が遅れているような曖昧な反応をしだす。


空中に浮かんでいるウィンドウ画面の上に追加される砂時計と処理時間の表示。


最新の処理速度を誇るゲーム内で、こんな反応を見せるだなんて―――30分待てって…


「どんだけゴミを貯めてたんだよ…何年分だこれ?」


ふと気になって手紙を見ると続きがあった…





『 m9(^Д^) 』





「毛虫ぃぃぃ!!!!」


手紙を真っ二つに引き裂いて絶叫した。


ガチでゴミ箱を押し付けおった…もう許すまじ。


「………えっと動画サイトのアドレスは…これだな…ふふふっ、まだアニメは見ている途中だったはずだな。『魔術師、還らず』の予告を知るが良い。」


見ている途中のアニメのネタバレ、まさに鬼畜外道の所業。先に小説を読んでいるから被害は少なめだろうが、重罪ものである。途中で動画を見るのを止めれば被害は少ないが、それでも見ずにはいられない衝動にかられてしまう罠であった。


ちょっと溜飲が下がったので、ようやく作業に取り掛かる事が出来る。


何をするにしても、まずはアイテムコンテナの中身を整理せねば始まらない。


アトラク・ナクアの巣の上の端っこまで移動すると、検索キーワードで【弁当】の項目を探す。ヒット件数「9855」って多いなっ!? 【壊れた】【ゴミ】ヒット件数「25648」 ストックされてないアイテム多すぎじゃね?


このゲームには捨てる事は出来ても『削除』は基本的に存在してない。ゴミを燃やしても灰が残るのと同じである。一応はギルドホールに近くにあるゴミ収集箱には完全削除機能が備わっていて、それを利用するのが一般的。


アイテムコンテナの中身が酷い事になっているのは、こういう特殊なアイテムボックス等の場合はアイテムに触れずに落ちている物等、近くにある指定した物体を回収出来るから掃除機として便利だったのだろう。


ゴミ箱として考えると非常に便利である、溜まったらゴミとしてアイテムコンテナもろとも捨てれば良いのだ。プレイヤー側からしてみると贅沢過ぎる使い方だが。


処理が重くなっていた原因の一つはアイテムが一つ一つ、独自のデータとして保存されているせいもあったと思う。ストック出来るアイテムなら同種のアイテムとして処理が出来ただろうが。個別に分類されると、一個一個のデータとして扱う必要があったからだ。


アイテムコンテナを手にして、一気に指定したアイテムを外へと取り出していくと―――


「……汚ねぇ滝だな。」


ドバババババババっとアイテムが一気に外へと溢れ出ていった。


1m程度離れた空間から滝のように溢れ出てくるゴミ。それらは分別もリサイクルとして処理されずに深淵の谷底へと不法投棄されていった。


―――――――――長いな…って、まだ続いてる。


アイテム欄の中身が軽くなっていくのだが、不法投棄という罪悪感を感じてしまう。


ペットボトルはちゃんと蓋を外せ! プラスチック容器はちゃんと洗え!


秒間10個以上の単位のゴミが溢れ出して落下していく光景をしばし眺め……いや、まだ終わらない。


重いの、軽いの、臭いの、色々だ。


ジャンル検索の機能もあるので、今度は必要なさそうなのを色々と探していく。次々と【片方だけ残っている靴下】とか【一個だけ残っている~】という食べ残し系とか、飲み会とかに行ったら皿の上に唐揚げが一個だけ残る法則か!?


今日はこのまま採掘も出来ないまま終わってしまうのかと思うくらいにごみ捨ては続けられ………長いよぉ、大体整理するのに1時間以上って…確かにゴミ箱でした。


途中で作業を中断。中に入っていたコスプレグッズも容赦なく処分し終わり、蜘蛛の巣の解体作業をスタートする。


とは言っても足場も兼ねているので、解体出来るのは蜘蛛の巣の上にある『蜘蛛の繭』のみとなる。中身は多分、ご想像通りとなるはず。


蜘蛛の繭は蜘蛛の巣の上に球体上に転がっている。切り離しはカッターナイフでどうにかなるのだが、足場を破壊するので足元注意。



『《蜘蛛の繭:アトラク・ナクアの糸》』×6


極めて頑丈なアトラク・ナクアの糸で編まれた蜘蛛の繭。

アトラク・ナクアの糸を回収出来れば、素材としては超一級品の品質である。

だが繭の内部には中身が入っているらしく非常に重い。

生まれるのは深淵の神性たる子蜘蛛か、生贄か…それとも、己自身の死だろうか?


制作ランク:不明



採取出来た数はきっちり6個。説明文からして危険度高めっぽい。繭をくぱぁしたら中から子蜘蛛が大量に出てきて………あ、駄目だこれ。


ホラーな絵が想像出来たので考えるのは後回し。蜘蛛の巣を解体する作業は足場が無くなってしまうのでこれで終了。


蜘蛛の糸で出来た橋を渡り、ツァトゥグァの居る分かれ道となっている場所へと移動していく。


魔結晶と呼ばれる素材で洞穴全体が覆われて、淡く光っているが…やっぱり暗い。観光ツアーのように一度は来た事はあったが、じっくりとは観察してなかった。物は試しと、洞穴の壁に触れてみると―――触れた場所の光が強くなる。


うむ、実にファンタジーな素材である。


ファンタジーですねー、現実の観光地とは違ってファンタジーな幻想的な光景ですよー。


現実には見られない実に素敵な光景だが、そんなの関係ねぇ! 環境破壊待った無し。


景観美の保護は他の人に御願いします。ヒャッハー、掘るぜぇ!超掘るぜぇ!


魔結晶は素材としての価値、利用方法、加工に必要な道具等…こっちは低レベルの素人でも条件をクリアする事は可能である。リアルに比重のあるこのゲーム内、ファンタジーのみで許されているような要素についてはゆるい部分がある。


採掘にしてもゲームとして公平にする必要があるので、一定の法則が存在している。採掘ポイントに指定されている場所は壁に裂け目が出来ている。この裂け目にピッケルなりツルハシなりで鉱石を採掘するのだ。無論、割れ目を広げる事は基本無理である。


[ナデナデシデ、モット、オネガ]


ダンジョン内部での採掘に関しては難しい作業は実はあまり設定されていない。そもそも本来は壊されないように設定されており、採掘ポイントは普通は壁の裂け目という風に指定されている。


普通に採掘したのでは時間がいくらあっても足りない。時間短縮に一番効率が良いのはやはり爆発物である。


あ、でもゲーム内では火薬の製造は設定的に色々と制限されてます。


ニトロを含めた爆発物は大抵のはファンタジー素材に変換されており、硝石を採取しても反応はかなり悪いです。


やだなー、当たり前でしょ? 日本の法律では爆発物を作るだなんて認められていませんよ?


このVRの中はリアル寄りになっているので、製法も技術も学ばれるとかなり問題になるので。そういう事は制限されております。銃火器? 魔法っぽいので一応は代用可能ですが、まだ普及していません。


[アハヒャ、モト、アヒァヒァ]


代用品は勿論ある。そっちも初期での入手は事実上不可能に近い。


けれど、今回はゴミの中に色々と素敵な物がありました。


【C4爆薬】【雷管】【電気ケーブル】【スイッチ】


データを取るために作ってみて、それが終わったのでゴミ箱行きになったって感じです。ゴミはちゃんと処理しないと駄目ですよね? じゃあ、使いましょう。


使い方はとても簡単。


まずはどこのご家庭にもある【C4爆薬】を用意します。それに【雷管】をブッ刺して【電気ケーブル】と結びます。この時に静電気等に注意してくださいね? 爆死しますから。


お手元にある爆薬を手にして採掘ポイントの割れ目の一番奥へと押し込ます。次に電気ケーブルを手にして安全な距離まで離れましょう。最後に電気ケーブルと【スイッチ】を結びます。


[ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-]


おっと、ここで大事な作業を忘れていました。


【壊れたフ○ービー人形】で割れ目に蓋をしておきましょう。


採掘作業も出来る上に荷物整理も出来て一石二鳥ですね!


これで全ての準備は完了しました。


おっと、忘れずに【超高級耳栓】とかいうのがゴミ箱にあったので使っておきます。


……………………あのスタッフ連中は一体、何をしていたんだろうか…一体、何と戦っていたんだ?


[オネガーイ、モット、モット、モット、モット、モット、、、、ア゛ーーーーーーー!!!!!!]


うっさいわ!


うむ…音が完全に聞こえない。よし、これで音は完全にシャットアウト。


「ぶっ飛べっ――――――ポチっとな。」


カチカチカチっとスイッチを連打。


――――――――――――――――――――――――!!!!!!!


音が無いと残るのは完全に衝撃だけである。


足元を揺らす程の衝撃で、目も閉じて口も半開きにしていたが…凄まじいの一言に尽きる。


衝撃によって刺激が加わり、洞窟内部が一気に光り。それはそれは綺麗だがそんなの関係ねぇ。爆破した割れ目の方へと移動し、割れ目が横穴程度にまで破壊出来た結果に思わずにっこり笑顔となった。


「うん……これ、近くに居たら死ぬね!」


破壊はまず無理なんですよ!? この洞窟って普通は破壊出来ないようにプログラムとして設定されてるんですよ……それが、3mくらいの大きさの横穴が空くとか…おっかないわぁ。


「でも採取はするんですけどね!」


ボロボロと次々に足元へと落ちてくる鉱石をアイテムコンテナの中へと収納していくと、どれも【未鑑定:鉱石】とだけ表示される。


簡単な素材であったり、ボスモンスターからのドロップであれば表示されるが。こういう複数の素材が混じり合っているような鉱石であれば別である。


まぁ、そもそも《鍛冶》スキルが低いから分からないんですけどね。


プレイヤー本人は何となーくは知っていても、アバターにはそういう知識が蓄積されていないと判断されて分からないわけです。


話はそれましたがこの魔結晶と呼ばれる様々な素材へと使用出来る万能系素材がボロボロと落ちてくる。


オリハルコン、ミスリル等の鉱石…こっちは………今は倉庫の肥やしにしかならないけど確保しておく。現状の鍛冶スキルでは加工出来ないからである。本当に美味しい話って無いですね。オリハルコンやミスリル製の武器なんて、ドワーフさん達の使う高熱に対応している炉が無ければまず無理。


人間さんの鍛冶師では鉄を溶かせる炉がギリギリですよ?


あ、ちゃんとファンタジー要素たっぷりにドワーフさんは鍛冶師職が多め設定です。農家もいらしゃるんですけどね、だって鍛冶師だけじゃ生活出来ないっすから。


おっと、放置している間にもダイソ○並の吸引力でボロボロと落ちてくる鉱石を吸い込み続けるアイテムコンテナ。


洞窟の壁には当然のように他のフィールドよりも高く自己修復機能が設定されているので、もし放置してしまえばすぐに崩れた魔結晶で穴は塞がれ、最後は壁の表面から一体化して一時間もすれば元に戻ってしまうはずだ。


つまりは表面さえどうにかしてしまえばどうにでもなる。


見た目的に落盤するかのようにボロボロと上から左右からサイズ大きめの鉱石の塊が落ちてきて、最終的に採取できないように塞がってしまうのだが―――便利すぎじゃね、アイテムコンテナ?


通常の予定では、洞窟の壁を『内側』から掘り。魔法の鞄の中にどんどん詰め込んで回収するつもりだったので似たようなもんであるが、こっちの場合は自動的に収納してくれるのですっごい便利である。


シルバーネームには制限のある四次元ポケットが使えないので、その代わりとすれば…まぁ、良いかと自分で納得する。


でも暇になるんですよ。範囲内の鉱石を壊れたカジノのスロット台のようにフィーバーしっぱなしでボロボロと落ちてくる鉱石を自動収集していく。


ドル箱に直で回収している気分になるので見ていてホクホク顔になるけど…


「機械がおらの仕事を奪う………これが工業化かぁ。」


本来の予定は数ヶ月から年単位で裏側からこっそりと採取し続ける予定だったので、それだけの時間が短縮出来ると考えれば最良だろう。


最良でも楽しくない!


もっとこう…穴を掘る時はね誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……



と、ここで時間を無駄にするのも勿体無い。


大きく空いた穴の手前にアイテムコンテナを置いて、こっちは洞窟内を散歩します。


回収速度が先程のゴミを逆に吸うくらいの勢いのスピードで鉱石の塊を次々と採取していくので、仕事が無いでござる。


暇をしている間に《変化》スキルの入った注射器でドーピング……しょ、消毒用アルコールとか無いかな……無いですか………


トントンと肘の内側を指で刺激して血管を浮き出させ、注射…あんまり好きじゃないんですよね。感覚設定が100%なんで普通にチクっとしました。


スキル構成の画面をチェックしてみると確かに増えていた。


《変化Lv1》


これだけです。他に何も記述が無いスキルは大抵レベル99で終了となるか、上位スキルへと進化出来るが。これはその他の扱いという感じなので、おそらくは99で終わりだと思う。


「んー……ん~?」


体内への取り込みとなると、食べるという事にイメージが先行してしまう。なら、別の方法はどうだろうか?


だったらスライムを最初に取り込んで―――と、考える頭の良い人もいらっしゃいますよね。一番楽な方法っぽいですが即却下です。


スライムを食う? 冗談を言ってはならない。スライムを取り込めれば、身体を変化させて消化吸収だなんて楽な方法を思いつくのは当然だろうと思うんですが…ファンタジーなめてますね。


スライムについて皆様誤解してらっしゃいませんか?


あれは身体の内側に取り込んで体内で消化吸収する―――つまり殆どのスライムは強酸性です。食べる・飲む……そんな事したら死にますよ? ブルーハワイ味じゃないですよ? テストさせられましたがゲロ味ですよゲロ。それを食えとか無理です。口の中が溶けます。


結局、口からの摂取が基本なので。安全なやつから試すしか無い。


「今あるのだと、生肉は気分的にもきっついな。」


兎も狼も…生で食べたくないなぁ。


逆の発想で、鉱石系はどうなのだろうと思う……無理かも。無理なら他からしたら何処かの雑技団のびっくり人間とかそういう扱いになるだけである。


口の中に魔法で生成した水を含み、薬を飲むように地面に落ちていた小さな赤い宝石っぽい鉱石を手にして…結構大きい…飴玉サイズだ。赤い宝石っぽいのに鉄っぽい鉱石がついてる。


南無三と祈るようにそれを強引に飲んで…飲みにくい…。



※注意:このプレイヤーは特殊な指導を受けていますので、絶対にマネしないでください。



「んぐっ………これ無理―――じゃないな、消えた感じがした。」


実験スタート。喉の奥へと強引に流し込み、食道を通り抜けて胃へと落下していくのも分かる。胃の中に残るのかと思ったら、異物感というのがそういうのが一瞬に消え去ったので成功と言えるだろう。


「意識を集中して…おっ?」


できました。爪がスカーレットニードルですよ。


聖闘士○矢世代にはワクテカな感じです。人差し指の爪が赤い宝石に変化しましたが…変換効率が半分なので微妙であった。


いや、これ以上は無理ですよ? びっくり人間とか鉄の玉を飲むおじさんとかじゃないんだよ私は? お腹壊したらどうするの?


実験、その二。


不純物の排出。爪になっている宝石の純度は高めっぽく見える。体内には残りのカスがあるはずなので、どうにか分離出来ないかの挑戦。


「……粉って事は、成功?」


掌の上に粉が浮かび上がってきた。分離には成功。パラパラと水分も感じ無い粉っぽいのが出来たのでそれを捨てる。続いて、爪を元に戻してから赤い宝石を丸いイメージで掌の上に排出する。


「できたけど、効率悪いなこれ。」


掌に排出されたのは半分程のサイズになった小さく丸い赤い宝石のような魔結晶鉱石。


時間優先ならこっちの方が便利である。しかし…高価な素材が半減してしまうとなると、代価としてはかなり大きすぎる。


そもそも食べるなり取り入れるなりするって、かなり厳しい。


実験、その三。


掌に排出された金平糖よりも大きなサイズのそれをまた飲み込む。


「駄目か…一度出したら、やっぱり小さくなるよな。」


体内に取り込んだそれでもう一度、爪を魔結晶化させてみるとサイズはきっちりと半分になっていた。


実験、その四。


「の前に、確認しなきゃ…」


個人連絡用のウィンドウ画面を開き、リストの中から『開発スタッフ:里中』の名前を指でタップする。


アナログな電子コール音が数度響き…


『もしもし、どうかなさいましたか?』


先程まで会話していたケモナーの里中さん…背後から、卒業式とかそういうので聞き覚えのある『歓○の歌』が聞こえてくるがスルーしておいた。


「ちょっと《変化》スキルでお聞きしたい事が…」(提督! ヤン提督が~!)


うん…スルーしておこう。


『早速試されているですね。』


「説明には無かったんですが、武器とか防具を取り込む事は可能ですか? 鉱石とかは試してみたんですが、武器とは試す前に確認しておこうかと。」


一拍の間があり、すぐにクスクスという笑い声が聞こえてきた。


『食が基本なのに、そういうのはまず普通は考えつかないんですが、システム上では可能ですね。本来は《噛み付き》等の複数のスキルを併用するのが実装予定している構成の基本です。武器は流石に取り込むのってまず無理ですからね…鉱石だってまさかって感じですよ?』


ですよねー。自分自身がモンスター並に強くなるっていうのが前提ですよね! いきなり、飲むとか無いですよねー…うん、そう言われれば納得。


『システム上では、外傷を伴わないのであれば可能です。最初に他人の所有物は不可能です、次に自分で刺す等のダメージを伴うのも不可能です。』


納得である。そうじゃないと武器攻撃吸収系の無敵ちゃんが完成してしまう。


『武器を取り込んだとしても切れ味等の攻撃的な部分はともかく、武器サイズは基本的に半減しますね。重量の変化や素材の縮小化、それに伴う威力低下はあります。体内に武器を宿して攻撃とかも無理ですね。プログラム上では外に出さないと効果は発揮されません。』


そもそもスキルとしての操作が難しいので背中から槍を無数に出してウニ!とか不可能に近い。


「腕を蛇にして丸呑みとかはどうですか?」


『可能です。ただ、完全に丸呑みにするっていうのが条件ですよ? ……そもそも蛇にしても生で…となると厳しいですからね。このスキルのテストをしてくれる人がいなくて…』


大型武器はどうにもならないという事なのか、この結論については保留しておこう。


「確かに。蛇にしても蜘蛛にしても…誰もやりたがらないですよね。」


VRMMOですよ? 見た目も完全に蜘蛛や蛇ですよ? 食べれますか? タランチュラより馬鹿でっかい蜘蛛とか、蛇とか…厳しいでしょ? そりゃあ、いないわ。


『……バナナとかリンゴ味ならいけそうな―――』


何だろう、変な間があった。けど、脊髄反射でツッコミを入れてしまう。


「いけませんよ!? 見た目でアウトでしょ!?」


『新鮮なアトラク・ナクア フレッシュなリンゴ味とかいけそうな気がしません?』


「何が!?」


ツッコミを入れてすぐ、ズシンという音が響く。何事かと思い背後を振り返ると巨大な蜘蛛が――――


「ぎゃあああああっ!!! 何で―――って、おい…」


思わず叫びますよそりゃ! いきなり蜘蛛が背後に出てきたら何事かと思います。でも動かないボス…あっ(察し)


「リンゴか、リンゴ味なのか!?」


『バナナ味か、バナナ味も欲しいのか卑しん坊め!』


聞こえてきた声は先程まで会話をしていた里中さんではなく女性の声だった。


「山本さん!?」


やべ、毛虫が復活してきた。


『主食がパンとか、おうおう。なめてるだろ? 栄養が足りてないだろ。三つか? 三つも欲しいのか? アイテムコンテナに入れておいてやったぞ――――――ロット単位でな!』


「発注を間違えたドジっ子コンビニ店長か!?」


アイテムコンテナを調べてみると確かにありましたよ…300体


想像してごらん…アイテム欄に蜘蛛の死体がぎっしりと詰まっているんですよ?


さん、はい「ぎゃああああああああっ!!?」悲鳴もあげますよ。絶望しかねぇ!


『仕事だぞぉ。残さず食えよ!』


「おおおいぃ!!?」


現実は非情である。上司に恵まれない時ってどこに電話すれば良いのですか!?


『…あ~、本当にすいません。でも昆虫系への人体の適応を調べる意味では、多少データが不足しておりまして。』


言うだけ言って帰っていったらしい。あ、違う。まだ後ろで歌ってやがる。


でもダメージから立ち直れずにorzという崩れ落ちた体勢のままですよこっちは。


仕事って…蜘蛛食えって…ブラック企業よりも鬼じゃね?


想像してごらん…ゲテモノだけを食べ続ける食生活を………


想像してごらん…ゲテモノ食いを強要させれるお仕事を……


想像してごらん…もう私のライフはゼロなんですよ…………


「じゃ、じゃあ…昆虫系とか蛇とか優先で今後はいけと?」


ギリギリで鉱石ですよ? ゲテモノはノーサンキューなんですが。


『助かるって点で言えば…急ぎませんので、おねがいできますか?』


「せ…せめて、食べやすいように……どうか、慈悲をください…それにほら、切れないでしょ? ほら食べれないですって、無理ですよ無理。」


『えっと…アトラク・ナクアは猛毒に強酸、麻痺……データにあるナイフを送ります。それに丸一日耐性の出来るポーションで宜しいですか?』


毒もありますよねー、そうですよねー。


知ってますか? VRの感覚100%って危ないんですよー、毒に麻痺に強酸とか死ねって事ですよね? 死ねって事ですよね!?



『《コンバットナイフ:素材不明》』


刃渡り20cmのオリハルコンさえ切断する鋭い切れ味を持つ軍用ナイフ。

戦闘にも使えるが、扱いには慣れが必要。


ATK+600 破壊不可 制作ランク:不明



『《特殊耐性ポーション入り注射器:素材不明》』


24時間限定で自身の肉体に猛毒・麻痺・強酸等に対して完全耐性が付与される。


破壊不可 制作ランク:不明




救いがねぇ!ナイフ300本、ポーション3000本って…またロット単位か!?


ナイフ便利でしょ? すっごいポーションだと思うでしょ? でもね、これ食事用なんですよ~


HAHAHA…やったね、今日から食事の心配はしなくて良いよ―――昆虫食えよ!


あれ……なんだろう………MMOが稼働して一週間とか、やる事も多いし色々といっぱい楽しい事もあるはずのなのに涙が止らない…。


アイテムも素材もいっぱいでインフレ気味なのに…嬉しくないぉ…


『で、では頑張ってください。』


通話が終わり。ぽつんと一人と死体1が残る。BGMは鉱石が崩れ落ち続ける雑音。


心がぴょんぴょんしないんじゃ…人生詰んだ詰んだと脳内で一時的に流行したアニソンの空耳が流れだしていた。


ちくせぅ…


くぅくぅ おなかが すきました。


半裸のおじさんだって生きてるんですよ…食べなきゃ死ぬんですよ……


ご丁寧にもアイテムとして所持していた食料は全てボッシュートされておりました。


残るのは目の前に鎮座する人間サイズ級にでかい蜘蛛の死体が一匹。


唯一の救いですか? 甲殻って感じの蜘蛛なので、毛がもさぁっとなっているタイプじゃないというのが救いですかね。



さぁ、食レポするぞぉ! 飯テロするぞぉー、被害者は多い方が良いでしょ?


注意してくださいよー、本当にテロですよー


気力を振り絞って立ち上がり、まずは耐性ポーションの入った注射器を自分に刺す。


「ワーイ、トテモ オイシソウデース」


この時、彼の姿を見る人間がいたとしたら…あまりに人間としての感情を失っている姿を見て涙を流したかもしれません。


コンバットナイフを手に…ど、どこから手をつけようか…何処をやっても被害が出そうですが、まずは右前脚の先端からいってみましょう。


「……臭いは………何で爽やかなリンゴ風味になってるんだよ!」


完全に罰ゲーム用です。本当にありがとうございました。


鋭い前足の第一関節部分…それをサクっと―――切れたよ!? 何このナイフの切れ味。ツッコミが追いつかないから自重してくださいよ!?


ずっしりと中身が詰まった、見た目には黒い鉄杭に見える。中身は蛍光グリーンの汁と果肉たっぷりですよ? あ、一応は視覚衛生上、残りの蜘蛛の部分はアイテムコンテナに保存しておきます。


「ふふふっ、どうせ死ぬなら……南無阿弥陀仏。」


ファイト~! 一発と、ゴクリと甲殻の縁に唇を当てて健康に明らかに悪い蛍光グリーンの汁を………


あらいやだ。シュワシュワっとした炭酸とリンゴのさっぱりとした後味。


「リアクションに困る味じゃねぇか馬鹿野郎!!?」


見た目最悪で喉越し爽やかな炭酸リンゴジュースという感じだった。


やめて!? リアクションどうしろと!? 私にどうしろと!? 好みの味だとか本気で自重してくださいっ!


精神的な疲労を感じながら、前脚部分をナイフで切り分けていく。味噌汁を作る時に豆腐を手の上で切り分けたりする人も居るが、そんな感じでサイコロ状の1cm角にしていく。


甲殻部分は噛まずに飲む用に。果肉部分も…噛み切れるかと言われればきっと無理なので、こちらも同じである。


まずは一口……黒い甲殻の部分。噛み切れない…けど、何となくリンゴ風味な感じがする。続いて果肉部分、舌の上で転がしてみると噛み切れないこんにゃくとか…そんな食感。


「こんな楽しくない食レポって……新手の拷問ですか。畜生…りんごだから畜生っ!」


サイコロ状の甲殻と肉を二口、三口、四口。ここまで噛まずに飲み込み、今度は噛む為にイメージを構築していく。


「最初はやっぱり歯からか。顎の筋肉とか、内部は…いけぬ?」


実験、再会。


鏡が無いので分からないが、イメージは自分の歯を蜘蛛の甲殻に置き換える。次に顎の筋肉を薄く置き換えるように…歯が頑丈になっても顎の筋力が足りなければ意味が無いですからね。


運命の五口目。


奥歯で軽く、肉を噛んでみる…くっちゃくっちゃと行儀悪く噛み、噛み切れる事が出来て普通に飲み込めた。


次は固い甲殻にチャレンジ。いやー本当に楽しくない食レポですね! 軽く噛み締め…少しだけ押し潰せるかなと思ったら、一気にサクっといけた………おや?


こうなると食が進む…進みたくねぇ……食べれば食べる程、そりゃあ食べるペースは進みますよ。


そろそろ泣き叫んで良いですか?


まず歯の素材が甲殻に変化し頑丈になる。咬合力は肉を食べれば筋力が上がる。


当然、意識して体内の筋繊維と置き換えるイメージをしなくてはならず。食べながら筋繊維がはっきりと見えるタイプの人体模型を見ながら、イメージを高めて食べていく……食欲出ない…でも食べなきゃ…


まずは20cm以上のエビフライを食べたと…思わせて、思わせてください御願いだから。


前足を少し切断したばかりのアトラク・ナクアを取り出し、また前足を少し切断して収納し。ナイフでサイコロ状に切り分けて食べていく。


彼の脳内では少しジューシーなアップルパイを食べているように、妄想しながら…妄想させてくれよぉ…食べていきます。どんどん食べていきます。


おや? 蛍光グリーンの汁が服についたらジュって溶けましたよ?


「蜘蛛がシャッキリポンと舌の上で踊るよ! 濃厚で刺激的な味! これ一口食べただけで死ぬよね!!」


多分、薬物投与が無かったら死んでるね!


不思議と食べても食べても満腹になりません…どういう原理なんでしょうね?


顎の筋肉も疲れ知らずで、ジャンボふがしでも食べている気分で一気に一本食いしますよ―――蜘蛛の脚をな!



そして二時間後…着衣もすっかりと溶けてほぼ全裸ズタボロのレイプ目な彼が洞窟の中で倒れておりました。


何かを得るためには同等の対価が必要になるって言葉がありましたね………うん、何か色んな物を対価以上に捨てている気分ですが、何とか彼は持ち直します。


そう…此処まで来たら夢も希望もありますよ。


「脚、三本分なら…いけるよね?」


先にグー○ル先生で『地獄○生』を画像検索します。そう…もうお分かりですね?


立ち上がり、画像を見ながら左手をイメージ通りにアトラク・ナクアの筋繊維と甲殻で構築していく。


「鬼の手ならぬ、蜘蛛の手か…強いはず。強いはずだ…多分。」


中二心をくすぐる見た目です。ちょっと気力が回復してきました。


早速、実験である。


レッスン1、壁に向かって貫手をしてみよう。


「秘技、モツ抜き!」


腰を低く落とし、構えて貫手を突き出す―――するとどうでしょう…「グギャ!」という音がしました。


「………………のおおおおおおおおおおっ!!!!」



※暫くの間、七転八倒しておりますので綺麗な画像と音楽でも検索してお待ちください。



結果は壁にはそこそこ刺さった。でも指四本同時突き指ですよ? 回復用のポーションだって使いますよそりゃ。


「きょ、今日はこれくらいで勘弁してやるか…」


片手を抑えながら震え声でそう言いました。突き指四本同時とか普通は無いでしょ? やる気なんて出ませんよもう。


此処からさらに一時間経過…動画サイトを見ながら、ようやくテンションが上がってきました。痛みは引いたもののまだ気分的に左手が痛いので、今度は右手で挑戦してみる。


レッスン2、握力はどれくらい?


「落ちている石は…おおおっ?」


グシャっといけました。掌よりも大きな石があっさりと砕けました。やっぱり強いじゃないですか。


レッスン3、筋力はどれくらい?


洞窟の壁の指が引っかかるポイントを探し、そこを掴んで懸垂をしてみる。


「やっばいわー 懸垂100回くらい いけそうだわー」


軽くウザくなってしまうくらいに余裕。ほぼ肘から上の筋力だけで楽々だった。何だ、使えるじゃないの。でも第三者視点で見るとどう見ても壁オ○ニーしている変態です。本当にありがとうございました。


レッスン4、どうにかインチキできんのか!?


まずはお腹からくぱぁ!……何か、怖い……死ぬかもしれぬ。うん、ちょっと怖いから止めよう。他に何か手段は無いかと考えると、無難なのはワーム系である。


まずは自分の尻尾を一本だけ両手に持ち、ワームで検索した画像を見つめながらイメージを構築していく。


もし自分の腕をワームに変化させようとしたら、多分それだけでVRに不慣れなプレイヤーなら吐く。自分の腕が感覚を持った状態で異形へと姿を変えるという事には凄まじい嫌悪感もあるだろうし、まず脳が処理に追いつかずに拒絶してしまう。急成長、急変化…それに人間は普通はすぐに適応出来ないからだ。


ならワンクッションあれば―――そう、尻尾である。


こっちは外装としての処理が施されているので脳への負担は軽減される仕組みになっている。この軽減を利用していく…まず触った感触は100%の感覚設定でもやや薄い。


「いける………いける……いけたかな?」


尻尾の形がアトラク・ナクアの甲殻を備えた円筒形の形へと姿を変えれた。


内側は…特に何も無い。


実験スタート。アトラク・ナクアの脚の一本を半分にして中に入れてみる。


消化とかは無理でも、内側に入り込めばどうなるか―――尻尾ワームの口部分を閉じてみる。変化は感じ無い………次にゆっくりと尻尾を元に戻していく。


「お? おお?」


内側でするっと消えた感じがした。


もう一度、尻尾を同じ形に変化させてみるとサイズが少し大きくなっている。


成功だ。も、もう一度試してみよう。脚の残りと、さらに一本を切断してから半分にする。また同じで尻尾ワームの口から閉じて元に戻してく。


「おおおおおっ!?」


せ、成功した…レア武器を手に入れた時よりも嬉しいのは何故なんでしょう。次は二本同時に尻尾ワームへとINさせていく。最後に残った一本も尻尾ワームで吸収。


「ドラゴソボー○のセ○の気持ちが分かるわー、これ良い。」


自分がじわじわと強化されていくって嬉しいですよね。レベル上げって大好きなんですが、《尻尾》も《変化》もスキルレベルが上昇していない…尻尾は別として、変化のレベルアップ条件って完全に一匹吸収が条件か?


さて……大物が残っている。頭と胸に該当する部分と胴体。まず、普通には食べれません。


だって、今にもキシャー!とか言い出しそうなフォルムですよ?


ほら、複眼のつぶらな瞳をじーっと見てください……SAN値がゴリゴリ削られますね!


蛍光グリーンの体液が零れるのを最小限に作業し、コンバットナイフでまずは胴体とも言える腹部の部分と、頭と胸に該当する部分を切断する。尻尾ワームのサイズはすでに2mを超えていたので取り込みは……ギリギリだったがいけた。


「よっしゃぁあああっ!」



『《変化Lv1》のレベルが上がりました』



両手を上げてガッツポーズ。




二日目……彼が何か人として大切なモノを失ってしまって、まだ数時間しか経過してません。

 スキル12/12


 《農業入門Lv2》《林業入門Lv5》《石工入門Lv2》《変化Lv2↑1UP》

 《MP最大値上昇Lv30》《危機察知Lv2》


 《身体能力強化Lv4》《隠蔽入門Lv3》《初級斧Lv3》《尻尾Lv1》

 《初級水魔法Lv3》《初級土魔法Lv30》


 スキル控え


 《料理入門Lv1》《初級死霊魔法Lv1》《錬金術入門Lv1》《初級槌Lv3》

 《初級火魔法Lv1》《演技入門Lv2》《鍛冶入門Lv1》《木工入門Lv3》


 SP 101

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