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狐男さんは最低野郎  作者: にゃるらとほてぷ
第一章『一週間くらい引きこもる話』
3/8

2話

町に到着。


時刻は15時少し前で夕暮れ時となっております。人は多少なりとも増えてきており、森や草原へと向かっていくプレイヤー達が多数ちらほら見えていた。


死に戻りしたのかどうかは知らないがパーティ募集の声があちこちから聞こえてくる。東京エリアと違ってこちらは狩場にゆとりがあると思われ、サクサクと募集メンバーが埋まっては出発していっていた。


(こっちはそんな事より生産するか。問題は場所かぁ……)


生産拠点は作成中、夜間が終わるまでの間の一時しのぎの場所を確保する必要があった。


ギルドホールで仮眠をしようと思えば出来るが、作業がしにくいので時間が無い。


ここをキャンプ地とする!といきなり民家に押し入ったら強盗ですよ?


作物を盗む・畑を荒らすのも駄目です。


NPCには感情等のプログラムが設定されている。


犯罪行為なんてしたら現実世界とほぼ同じ、見つかったらスタァァァップ!とおまわりさんならぬ、衛兵さんが飛んでくるシステムとなっている。一応はシステム上、PC及びNPCへの殺人行為を含めた犯罪は可能である。


勿論、可能というだけで推奨されていない。タンスを調べるのもアウト、PK等の犯罪行為をしても新規のスキルが増える事は無いと公式から正式に明記されている。


PK可能なMMOの定番だが、まずプレイヤーは犯罪行為をしていない限り、PCの名前は通常はグリーンで表示される。


他のゲームとは違い、相手の名前等は常時表示形式ではないし適応はPC間のみのシステムでNPCには適応されない。


相手の名前を調べる場合でもこのVRMMOの内部環境では、相手を『調べるという行為』は必要になる。


種類はオレンジ、レッド等に犯罪者は分類され、ゲーム内部の刑法によって処罰される。刑法に応じた罰則を受けばそこで終わるのだが保釈金制度も存在している。


支払いを踏み倒す等、逃亡すれば賞金首扱いされ賞金稼ぎの対象にもなる。


結果、PK等は存在しているが美味しい賞金首としてNPCにすら狙われ即終了という扱いだ。


フレンドリーファイヤーについては、わりと寛容で……まぁ、その場合は自己責任となっている。


一応、PC間についてはそれなりに配慮はされており。一番自分に関係があるものの中で、重要なのが個人が購入した私有地に入ると最初にインフォメーションからプレイヤーへとお知らせがあり『プレイヤーの私有地に入りました。行動に注意してください。』というアナウンスが流れる。


このようにかなり現実寄りな、ある種のオープンフィールド系の箱庭RPG系に酷使した処置とも言えるが。犯罪行為は改めて言うが、許可されているわけではない。


特に悪質なモノとなるとレッドの上に「ブラック」というものがある。


過去に唯一存在したのはプレイヤースキルがやたら高く、賞金稼ぎ達を返り討ちに出来る程のプレイヤーがいた。


何度も悪質な嫌がらせやモンスタートレインというMPKと呼ばれるモンスターにプレイヤーを殺害させる行為を繰り返してきたプレイヤーで常時レッドネームである。


町に寄らず常にフィールドをねぐらにしていたプレイヤーだった。


結果としてアカウント削除の手前の処置の最後の警告として「ブラックネーム」が適応される事となった。


痛覚等の設定を強制的に100%に変更され、現実と変わらぬ「痛み」を強制的に感じるようにさせられた。さらに賞金額が桁違いに上昇した。その時点で祭り状態に突入。


次にチート級の高レベルのNPCが参戦して山狩りに突入。速攻で捕獲され、最終意思の確認―――つまり、まだ続けるか全ロストしたりと各種初期値に戻されるまでの厳しい制限である。認めますから許してくださいとなり、しかし慈悲は無い。


最初に恨みの溜まったプレイヤー達によるリンチ。その後はNPC達による裁判の結果として無期懲役。そのブラックさんはそれなりに高い地位の方を両親にお持ちのようで、激おこぷんぷん丸でモンスターペアレントな彼らは運営を訴えたんですが敗訴。


運営はブラックさんの全ての行為を動画付きで保存していたらしく。逆に訴え返して運営さんは勝訴という結末に…以後、アカウント停止。罰金…とまぁ、そんな流れに。コロンビアと両手を上に上げたポーズで当時は掲示板が埋め尽くされました。


さらにもう一つ、似たようなので「シルバーネーム」も存在している。


これはシステム設定によって自分の意思で変更可能となる。


 まず最初にスキルアシストの恩恵が全てカットされてしまう。力を込めると身体がオートで動くというような感じだが、それが常時オフのみとなる。今までオートマ車を乗っていたのに急にマニュアル車を運転する感覚に近いから戸惑うだろう。慣れていれば問題は無いけど…。


 さらに感覚が全て常時100%になる。つまり、痛覚を感じた場合それがダイレクトに感じてしまう。その為、痛みによるプレイヤーの肉体に対してサポート対象外とされる。もし、ログイン中に感じた痛みでそれが本体にも影響したとしても全ての責任から運営は対象外となるという事だ。


 続いてゴア表現の解除…つまり、怪我をしたら血が出るのが見えたりと様々。嗅覚関係も100%なので血の匂いやそれに類似する悪臭も感じられてしまうし弊害は様々。よりリアルにゲームの世界を体感出来てしまう。剥ぎ取りナイフやインベントリの解体ボタンは機能も自動的にオフになってしまう。


 四つ目はログアウト中の仕様変更。安全にログアウト中は、勿論だがアバターの肉体は残らないし誰かに触られる事も無い。またログアウト中であればフィールドでも同様の結果となる。ただフィールドで安易にモンスターに囲まれる可能性は大である。それが変更となる―――ログアウト中もずっとアバターが残るのだ。安全な場所で寝ない限りは色々とされてしまう。身体が残るのだから当然だし、フィールドで( ーωー)スヤァしてたら美味しく食べられましたって事もある。


 五つ目、倫理コードの制限解除。一応、最低限の倫理処置として強姦等の犯罪行為を防止する為の特殊な処置が施されているのだが、それが全てOFFになる。つまり…モンスターに襲われてウホッ!なんて事も可能にさせられるという恐ろしいシステムだ。


 言い忘れていたが性行為関連については、PC同士の合意ならOK。ただし女性優勢なのは当たり前だろう。女性から「襲われる事」は許されているのだ…何故っていうと、開発スタッフの問題である。


『ショタキャラは襲われてこそ輝くんでしょ!』


(……どういう事だってばよ……)


強制的にシステムに食い込ませたらしい。受け攻め、カップリング抗争にも発展して、最終的に勝利を勝ち取ったのがその主任スタッフという事で隠し要素として採用されたらしい。これについては秘匿とされているとの事。


 おっと、まだシルバーネームには余力が残っております。ユーザーインターフェイスの仕様変更…具体的に今現在、網膜に映し出されている自分のHPやMPの表示ゲージが見れなくなり、それはモンスターも同様で自動的に相手のHPが見れなくなる。


 ワンモア! デスペナルティの悪化…通常であれば大体2時間でデスペナルティは緩和されているが…シルバーネームの場合は半日以上は回復せず、復活直後はギリギリ歩ける程度でまでで復帰。最終的に一日経過してようやく完全回復となる。さらに所持金は全ロスト確定。おや? まだまだ甘い。通常はアイテム1個をランダムロストですが、さらにもう一個追加です。


 こんな厳しい制限ばかりなのだから何か補正があるんでしょ?とお思いのアナタ。βからシルバーネームでプレイしていた人も居たが結局何も無かったそうです。アシストが無いから手間ばかりかかるし、スキルレベルはアシスト縛りだからそこそこ上がるが…比べて見ても体感的には同じだとか。一ヶ月程度検証した結果は平均して1~2レベル高いかなぁ?くらい。


10%の補正があるぅ?…かもしれない? でもアシスト無しで作業していたプレイヤーとほぼ同じ程度しか上がらなかったとの記録もあり。じゃあ、無理をせずにアシスト縛りだけでワンランク上の狩場とかに出向く方が遥かに効率が良いという結論に達しました。死に戻り確定でもスキルレベル上げなら効率がそっちが上という結論です。


――――――と、ここまでがシルバーネームの『β時代のデータ』 製品版ではさらに新しいシステムが公式から追加されております。


1、汚れシステムの追加。『共通』


【 着衣をずっと同じままにしておくと汚れますよね? 耐久度も減りますし臭います。じゃあ洗ってください。勿論、全裸で町を歩いたら犯罪扱いになりますよ。これに関してはシルバーカラー関係無しに適応しますから注意してください。制限としてスキルレベルが平均10を超えたプレイヤーから採用させていただきます。ただし、『シルバーカラー』を選択した場合は最初からです。 】



2、インベントリの廃止『シルバーカラー限定』



【 普通の人間は四次元ポケットなんて持ってませんよね…。魔法の鞄もあるんで廃止します。せめてもの慈悲としてシルバーカラーを適応したプレイヤーはインベントリの使用が不可能になります。


※魔法の鞄には耐久力があるので、モンスターに破壊されたら物が溢れ出したりと大惨事です。修理するには魔力を定期的に注いだり、見た目的にボロになっている箇所は縫う必要があります。 】



3、デスペナルティの廃止『シルバーカラー限定』


【 普通、人間って死んだらそれっきりですよね? 生きる自由を楽しむならデスペナルティなんてシステムは無い方が良いので廃止します。ええ、廃止してハードコアとしてリメイクしました☆ 死んだらそれでおしまいです。死体は死体のままです。


※ハードコアシステムを採用しました。死んだらそのPCはそこで終了となります。キャラを作り直してください。復活出来ません。ゾンビとかアンデットとかで蘇りません。慈悲は無い。一度でも『シルバーカラー』に設定した場合。最低でも一ヶ月は『シルバーカラー』からの設定変更は出来ません、生きろ。 ただし決闘や特別なイベントの場合は適応外となりますので安心してください。】



違う意味でデス・ゲームになるじゃないですかいやだー



4、身体能力の低下『シルバーカラー限定』


【 このFGOの世界では身体能力に関してはそれぞれ、通常の人間よりも種族による違いはありますが平均よりも高く設定してあります。それを『シルバーカラー限定』で通常の平均値に戻しました。スキルレベルUPによる補正はそのままですが、ゲーム序盤ではかなりシビアな体験が出来るはずです。】



悪化してるぅ……………もうお腹いっぱいです。


難易度がどう考えてもMMOじゃなくて据え置きゲームのレベルです。



5、スキル経験値の獲得量上昇等について『シルバーカラー限定』



 そう…こういう使用変更を待っていたんですよ。でもね…デメリット多すぎじゃないでしょうか? 無理ゲーですよこれ…



【 βテストの際に一時的に導入しましたが、仕様変更を致します。まず常時上昇をしておりましたがそれを変更させて頂きます。 その一、ログインからログアウトまでの累計時間に応じてスキル経験値獲得量の増加。 その二、SP獲得の追加。累計ログイン時間・モンスターの一定討伐数をカウントしますと追加されていきます。 その三、ログインからログアウトまでの累計時間に応じてレアドロップの確立上昇。 ※途中で『シルバー』が変更された場合、カウントがリセットされます。】



公式チ…チ………チー…ト…にはならんなこれ。バランス的に限界までログインして30%くらいアップか?


そりゃあ、夢を見る方が馬鹿ですよねー。ハードコアモードって事を考えると許容範囲内なのだろう。生産者や廃人プレイヤーへの優遇処置に見えるが――――


「罠か地雷か…いや、ちょっとした記録狙いとかかな?」


自分の様な生産もする廃人プレイヤーには夢溢れる救済措置であるが…色んな意味で怖い。生きれば良いのだという事なのだろう。パーティープレイ推奨なのがMMOというゲームなので、ありと言えばありか。ギルドホール前の広場までやってくるとチラチラとシルバーネームのプレイヤーが居るのが見える。


「男は度胸 ! 何でもためしてみるのさ……ポッチとな。」


『シルバーカラーに変更します。本当に宜しいですか?』


ずらーっと取り扱い説明書みたいな長文が同時に表示され、一番下までスクロールすると同意のチェックボタンがある。ポチっと押して…YESです、YES。


『後戻りは出来ません。シルバーカラーに変更します。本当に宜しいですか?』


こういうの止めてほしい…ちょっと決断が鈍るじゃないか。YES


『一度死亡した場合、PCは復活出来ません。再度作成し直す事になりますがシルバーカラーに本当に宜しいですか?』


YES…


『最終警告です。一度変更した場合、一ヶ月の間は途中でシルバーカラー設定を変更出来ません。また運営側も同意したと考え連絡を頂いたとしても変更は一切しません。本当に宜しいですか?』


YESで御願いします。


『確認しました。シルバーカラーに変更致します、プレイヤー『ハンニバル』様。』


HP・MPのゲージがインターフェイスから消えていく。やっちまったものは仕方ない。経験値の上昇率が増えるなら良いじゃないか…



【 ※パッケージ版やβテスターの方で土地を購入された皆様へ。シルバーカラーによる死亡はPCの削除として扱われ、全ての取得アイテムや権利が消失しますのでご注意ください。】



―――――――――やっちまったあああああぁ!!!! いいいいい生きねば、絶対に生きねばっ!!


おい、ちょっとあいつ殺したら復活しねんじゃね? 試そうぜってなったら本当にアウトだ。


やばい…見るモノ全てが敵に見えてしまう。し、視線が集まっているぅ!!?


み、みんな自分を殺そうとする殺人鬼にしか見えぬ!?







「………あっ。」






目立つ理由が分かりましたよ。だってインベントリが使用できなくなるんですからね。


広場の隅っこに居ても目立つよ…大量の枝と丸太が地面にどっさり落ちたんだから。


せっせと急いで【魔法の鞄】の中へと枝と丸太を収納し、町の外へと全力で逃げましたよ。


肉祭りで食テロしたかったのに…ちくせう。






(ヒはとてもアタタカーイ…ココロが、やすまりマース……)


エセ外人風に心の心境を語りながら、現在は町を守っていらっしゃる衛兵さん達が常駐している近くの石壁を背にして焚き火をしております。一般の皆さんはギルドホール前の広場に集合したり、ゲートを利用して他の都市に移動したりと様々な様子です。


自分ですか? 先程のやらかした出来事を記憶から忘れ去りつつ衛兵さんへと「お、お金が無くて……すいませんが、ここで夜が明けるまでの間、焚き火をしても構いませんか?」と何か可哀想な人を見るような感じで優しく接してくれました。いや、一応は作業で色々と木屑とか出るから。他の皆様に気をつかっただけですからね?


普通はマツの枝の生木を燃やすと煙がすっごい出るのだけど―――やっぱり出てきました。なので衛兵さんの一人が優しい顔で「これ使いな…何、いずれ稼ぐようになったら酒でも奢ってくれ。」超イケメンだこの人。どうしよう、惚れてしまうがな!? 流石は衛兵さん。装備も伊達に鉄装備一式じゃないですね。


――――――そして現在である。


時刻は初日の17時になりました。


まずは回収した丸太からせっせと木の皮を鉈をつかって剥いでいきます。




【鉈:鉄製】


林業・木工用の鉈。鉄製でそれなりに頑丈である。攻撃としても使用できるが切れ味は悪い。


ATK+7 制作ランク3




ダガー? いや、片手斧扱いなのか? 握った感触が軽い感じがする。多分、片手斧のスキル適応対象なのだろう。でもこれを武器として使うよりはスコップの方がリーチ的にも便利である。


木の皮は何かに使えなくは無いと思うけど焚き火の燃料として捨ててしまう。まずは一本…ノコギリで2mサイズに長さを調整して、余っている部分は今はそのままにしておく。


「まずは丸太だな…」


皮を落として丸太にする。ちょっと時間はかかったが綺麗に出来ている。水魔法に【脱水】という魔法があったので使用する。MPの表示が無いので体感で覚えるしかないが…少しくらい減ったかな?程度の脱力感だったので大丈夫だろう。


良い感じに水分が抜けていく…抜けた水分がポタポタと丸太から地面へと滲み落ちていった。これだったら最初に脱水しておけば良かったか。



【丸太:木製】


マツの木を丸太に加工した物。

脱水加工されており木の繊維が引き締まっておりそれなりに頑丈である。


ATK+25 制作ランク2




……流石は対吸血鬼用の決戦兵器だけはある。両手で持たなければならない程度には重量があるので確かに武器としては有効なのだろう。木の皮を削ぎ落としてから(かんな)をかけて形を丁寧に整えていく…




【丸太:木製】


マツの木を丸太に丁寧に加工した物。

脱水加工されており木の繊維が引き締まっておりそれなりに頑丈である。


ATK+26 制作ランク3




ちょっと変わった。表面を滑らかにしたので扱いやすい。サイズは2リットルサイズのペットボトルをそこそこ太くした程度のサイズにまで小さくなったが色々と扱いやすい。納屋の支柱くらいにはなるだろうか?


次の加工は手元をもう少し持ちやすい用に加工していく。両手持ち用に加工…お? 生産セットの中に滑り止め用なのかベルトのような革素材がある。これを蛮族の棍棒っぽくグリップ部分に巻きつけていく。鉄製の釘もあったのでグリップ部分を固定。



【丸太棍棒:木製】


マツの木を材料に両手槌として丁寧に加工した物。

重量があるので片手で扱うのは難しいがグリップがしっかりしているので持ちやすい。


ATK+30 制作ランク4



以外と良いじゃないか。モンスターが動いていない事が前提条件だが当てればそこそこのダメージソースになれる。問題は足止めだがどうするか…魔法が一番だろうか。召喚魔法という手もあるので行動パターンが広がる。


今の自分では前衛職は務まらないので後衛が無難だろう…杖を作ってみるのも一手か。


ちょっと試しに丸太棍棒をバッタースイングを意識して振る。


「重いな…突きっぽくしたら行けるかな?」


出来るだけ動作を小さく。牙突スタイルで片手で斜め下に先端が下がってしまうが、今の所 ここら辺で相手をする事になるのは兎と狼だけなので大丈夫な――――――



「た、助けてくれーーーーっ!!!」


「GAAAAAAA―――!!!」


「モンスタートレインだ! 横殴りは絶対にするなっ!!」「ひぃぃ!! 食われるっ!!」「誰かっ! あいつを助けて上げてっ!!」「駄目だっ! こっちにまでヘイトが…くそっ!! 来るな来るなっ!! うあああっ!!」「魔法で援護するっ! その間に町に入れっ!!」



………夜って賑やかですね。


松明を持った先頭のプレイヤーが今回の犯人。きっと初心者プレイヤーで、モンスターを引き付けれて全力疾走で町へと逃げていきます。


無理だよ、狼さんのスピードは人間より上ですから…南無三。先に逃げてきた仲間だと思われる人間へとパーティーメンバーが助けを求めますが……あ、大声駄目です。ヘイトが向いてしまいますよ?


流石は初日。プレイヤーの皆さんは夜も元気に狩りに出てますが、元気に皆さん死に戻りしていきます…ああ、また光の粒子となって円環の理に導かれてしまった。


ざっと狼が5匹…援護してくれる人が何人か見えるので狼は大丈夫。問題は後ろから大きな毛玉が見えますが、予想通りなら少し奥に行き過ぎてしまったプレイヤーがいたようです。


流石の緊急事態に衛兵さんは即対応。6人程が集合し、槍と盾持ちが三。弓兵が二。魔法使いっぽい軽装備が一という構成で町への出入り口を固めていく。


ちょっと危なそうなのでこっちは少し距離を開けて見守りつつ戦闘準備。武器は出来立てほやほやの丸太棍棒ですよ勿論。


「GAAAAAAAAA!!!!!!!」


「戦闘体勢! ウルフ5…4! ブラウンベアが1!!?」

「――――――ブラウンベアだっ!! ブラウンベアが来たぞぉ!!!」

「盾前へっ!! 弓はこのままブラウンベアを先に中央に引きつけ!! 範囲内に来たら足止めを頼むっ!!」

「「「おうっ!!」」」


【ブラウンベア】


ぶっちゃけヒグマです。体長は個体差があるようだが、今回のは2m超えと良いサイズ。武器スキルレベルが上昇していれば、補正効果もあって6人パーティーなら苦労はしないけど…初日じゃ無理だ。


流石の衛兵さん達は慣れた様子で、熟練した連携を見せるように盾持ち三人が盾を構えて向かう撃つ。まずは弓兵二人が三人横に並んだ盾の隙間から熊にめがけて矢を連射して注意を引きつけてヘイトを稼ぐ。


狼の方は他のプレイヤーが慣れていたようでそっちにまずは三匹が向かっていき、初級の火魔法のファンタジーの定番のファイヤーボールを当てられて毛皮を焦がしていった。


問題はこっちに向かってくる狼である。弓兵二人が弓を乱射してウルフとブラウンベアの注意を惹きつける。運良く、ウルフの方は急所にでもあたったのかその場で倒れ。ブラウンベアのも矢が放たれていくが―――あ、結構突き刺さってる。衛兵さんって結構優秀に設定されているので以外に強い。


そう――――――だから、安心して寄s―――協力ができますね! 善良なプレイヤーは町を守る義務があるのです。(キリ


……けっして、高レベルのモンスターを安全に相手をして経験値うはうはとか考えてませんよ。


出来るだけ真剣味を帯びた雰囲気イケメンオーラを意識するようにしながら、覚悟完了している衛兵さん達に声をかけます。


「援護しますっ! 土魔法で足止め協力し、背後に回って攻撃しますね!!」


「頼むっ! 場所はあの少し窪んだ所に落とし穴だ!! 来るぞっ!!! 3、2、1!」


「【アースホール】!!!」


後衛の魔法使いが指示をくれた。初級でも落とし穴くらいなら土魔法で使用出来る。【アースホール】は名前の通りに落とし穴。MPの消費量は程々で深さは1m×1mと浅いが、ブラウンベアは距離にして10mまで迫った所で突如地面が陥没し、ブラウンベアは両前足が落とし穴にハマって足止めとなる。


ここで軽く魔法について触れておく。魔法を使うには条件がある。

発動方式その1、詠唱による発動方法。初級なら略式でも簡単に発動する。

発動方式その2、魔法陣の作成。地面や空中に魔力を込めて描くと発動する方式。

威力を上昇させるには、発動体と呼ばれる杖や指輪や本等が必要となる。特に威力を求めない場合は無手でもいける。


自分…棍棒しか無いっす。なので最低限の落とし穴しか作れないっす。


「良くやったぞっ!! 【ウォーターバインド】!」


続いて水魔法の拘束魔法【ウォーターバインド】こっちはレベルが上がると使用出来る魔法で、ブラウンベアは水で形成された数本の透明な頑丈なロープのようなもので身動きが阻害されてしまう。同時に盾持ち三人が槍を持ちながら突撃していく。


「突撃ーーーっ!!!」


連携に慣れているな…こういうのは勉強になります。暴れるブラウンベアに槍を持って突撃し、盾を構えたまま槍をチクチク突き刺していく。経験則だとゴリゴリ削れていく感じがしている。ちょっと待ってくださいよぉ!自分の分も残しておいてくださいっ!!


スキル【隠蔽】を発動。ブラウンベアの背後へと衛兵さん達が攻撃してくれる間に回り込む。さぁ―――楽しい撲殺タイムスタート。経験値っ!経験値っ!経験値っ!


「そおおぃ!!!」


ドゴッ!


背後から思いっきりブラウンベアの頭部めがけて振り下ろす。肉を殴打する生々しい感触であるが――盛り上がってきた。流石に頑丈だ…頭蓋骨を砕いたような感触は無いが骨くらいにヒビはいけたか? ブラウンベアというのは初期フィールドの敵の中では別格である。自分のスキルレベル平均が1なら相手は8から12レベル級。


初期フィールドに該当する登場するモンスターは以下の通りである。レベルに差があるのは個体差が設定されていて、サイズによってレベルの強さが変化する為である。このブラウンベアなら大体レベル9という感じだ。


【一角兎】レベル1~3【ウルフ】レベル3~6【ゴブリン】レベル5~9【ブラウンベア】レベル8~12


実は一番狩りが面倒なのはゴブリンだったりする。ゴブリンは一匹なら楽だが…集団で来られると面倒である。単体での戦闘力はブラウンベアが一番だが、直線でのスピードは速いが小回りは苦手だし集団での行動というのはしないモンスターである。足止めからの集団戦法でこうなってしまえばもう何も怖くない――――


ドゴッ!


「そぉい! そぉい!!」


ドゴッ! グゴッ! 


熊さん動かないでぬっころせない、背中に直撃してダメージがあんまり通った気がしないのでさらに――――――


「―――ぬおっと!!?」


暴れる熊公、やめてこっちは紙装甲なんだから一撃でも受けると死んでしまいます。咄嗟にかっこ悪いバックステップで緊急回避。熊と自分では差がありすぎて今の状態はスペランカー先生級に弱いのです。


衛兵さん達も盾でツンツンしているが、そろそろ水魔法の拘束の解除時間が迫っている。


「動くなっ! そぉい! そぉい!! そぉい!! そぉい!!」


ドゴッ! ドゴッ! グジャ!! グジュ!! グジュ!!


ブラウンベアの頭蓋めがけて連続で振り下ろされていく丸太棍棒の打撃音が変化していく。頭蓋を砕き、分厚い毛皮の奥から血液が溢れ出しても止める事は無かった。まるで祭囃子のような軽快なかけごいに合わせて振り下ろされる殴打武器。次第にブラウンベアの動きが悪くなり、十、二十、三十と振り下ろされていくたびに砕けたブラウンベアの頭蓋から赤黒い鮮血と共に肉片が飛び出てくる。




「やっ、やったか?」




ハンニバルはフラグ台詞を言ってみた…特に何も無かった。


ぽこぽこぺん


あ、違うのが来た。電子音で一気に気が抜けたわ…



『《初級槌Lv1》のレベルが上がりました。』


『《初級槌Lv2》のレベルが上がりました。』


『《身体能力強化Lv1》のレベルが上がりました。』


『《身体能力強化Lv2》のレベルが上がりました。』


『《身体能力強化Lv3》のレベルが上がりました。』


『《土魔法Lv1》のレベルが上がりました。』


『《土魔法Lv2》のレベルが上がりました。』


『《隠蔽入門Lv1》のレベルが上がりました。』


『《暗殺》のスキル条件が開放されました。』


『《ブラウンベア【人食い】》の初回討伐により20SPを入手しました。』



「色々上がり過ぎじゃ―――――…ない…のか? えっ、人食い?」


レベル1のスライムがいきなり初期ボスに挑戦するくらいの無理ゲー難易度の敵だったのは確かである。強い敵から得られる経験値が多くなるのは珍しく無いけど、それに人食いって何ですか? モンスターがブラウンベアである事に違いは無いはずなのに、名前の後がおかしい。


「はぁはぁはぁ、おいー。そっちは無事か?」


色々と考えていた所に盾持ちの衛兵さんの一人が声をかけてくれた、残りはまだ肩で息をしているが…あれ?


「ええ、大丈夫です。拘束と盾で引きつけてくれたおかげで一方的に攻撃出来ましたか…ら?」


よーく見ると…大きな円形の鉄盾が爪で切り裂かれてボロボロであった。大丈夫だったようだが…鍛えあげられているはずの衛兵さん達が疲れきっていた。以前ならHAHAHAHAHAと陽気に笑いながら、町にモンスターを引きつけて逃げてきたプレイヤーも一緒に瞬殺してきたはずなのに。


衛兵さんと会話しつつ掲示板をチェックしてみると…情報発見。


「手伝ってくれたおかげで助かった。かなり手ごわかったが落とし穴の背後からの援護感謝する。」


「いえ、自分は未熟故にそれしかできませんでしたが…このブラウンベアって、妙に強くありませんでしたか?」


下手をしたらスキルレベルの平均が20を超えていても…と考えると思わず身震いした。


「ああ、どうやら知らないみたいだな。最近になって増えてきたんだがな、普通でもブラウンベアはそれなりに気性は荒いんだが、実は以外と臆病でな。人の声や鈴の音さえ聞けば逃げちまう。だが、中にはこうして希に鈴を恐れずに人を襲うやつがいてな。こいつは道中で人間を食ったようだな…」


――――――嗚呼、徘徊型のフィールドボスでしたか。


徘徊型…何それ怖い。そんなボスを討伐する衛兵さん強すぎじゃね?


言い忘れておりましたが、モンスタートレインをなさる場合はご注意を。モンスターを引き連れたまま町の一定領域に一歩でも入れば、オレンジネームに変化します。先ほどのプレイヤーはその前に死んでいた事と、他のプレイヤーが助けようとして注意を引いたのでギリギリこっちに来てしまったのです。


「成程…人肉の味を覚えてしまったというわけですか。」


βから製品版になって仕様が変更されたようです。あ、熊って実際は臆病ですよ? このゲームでもそれっぽい設定になっていますが【人食い】って…ガクブルじゃないか。


「こうして町に降りてくる個体は多少の差はあるが、見た目が違わない上に他の個体に比べて強いケースが多い。いずれにしても先程死んだ彼らがパニックになるのも仕方ない。評価もせぬし、町に危険が及ぶ可能性もあったが…彼らもまた犠牲者である事には違いあるまい。」


「胸に刻んでおきます。」


他のプレイヤーの皆さんも要注意です。さて、どうやら残っていた狼も狩られたようで他のプレイヤーの皆さんはさっさと解体してアイテム化していきました。


わりーと、問題があるのはアイテムの分配。


普通のボスなら別に問題は無いんですが、フィールドボスでもレアアイテムとかって入手したら、プレイヤー同士のアイテム分配が問題となる。


「どうしようか…これ…」



ぽーん


『おめでとうございます。ブラウンベア【人食い】からレアアイテムを入手しました。』



ログに残るその表示。本来であれば嬉しいはずなのに実に喜べない内容であった。


最初に釣ってしまったプレイヤー達にはおそらく入手出来なかったはずである。結局、そのプレイヤー達は逃げてしまっていたし。それに衛兵の皆さんはNPC扱いなので入手は不可能となる。残っているブラウンベアの死体については今はちょっと考えないでおきたい。


結果、本来は分配されるだったはずであろうアイテムが一気に独り占め状態となり……多いな……今回入手したレアアイテムはこちらです。



『《食べかけの壊れた蜂の巣》』


ブラウンベアの好物である蜂蜜をたっぷり含んだ食べかけの壊れた蜂の巣。

素材として使用するのは難しいが、ブラウンベアをおびき寄せる事は出来る。


作成ランク:1



『《真新しい冒険者の食べ残し》』×2


新米冒険者と思われるブラウンベア【人食い】の食べ残し。

血に塗れた装備と付着した肉片の一部がある。


制作ランク:不明



『《汚れた森番の剣:鋼鉄製》』


ブラウンベア【人食い】に殺された森を守り歩く者が持っていた頑丈な鋼鉄製の片手剣。

血に汚れ錆びついているが、いずれまたその輝きが戻る日が来るのだろうか。


ATK+20(-20) 制作ランク:5



『《破損した森番の鎧:鋼鉄製》』


ブラウンベア【人食い】に殺された森を守り歩く者が持っていた頑丈な鋼鉄製の鎧。

血に汚れ錆びついているが、いずれまたその輝きが戻る日が来るのだろうか。


DEF+25(-20) 制作ランク5



『《白蛇の鹿角刺又杖:複数素材》』


鹿角を刺叉のように加工し、白蛇を絡みつかせ特殊な加工を施した杖。

鹿角の『生え変わり』・蛇の『脱皮』という二重の術的な再生の効果が杖本体に施されている。


ATK+25 MATK+80 自動修復 MP自然回復(中) 制作ランク8



『《モンスターの食べ残し》』×12


様々なモンスターのブラウンベア【人食い】の食べ残し。


制作ランク:不明



『《人間らしき古い食べ残し》』×12


年代が経過して判別出来なくなったブラウンベア【人食い】の食べ残し。

判別不明な装備と白骨化した人間と思われる骨が残っている。


制作ランク:不明




多いわ! そしてキ○ガイかこの製作者は!?


だが無意味と思えるが…色々と思う所があるのでいくつかはちょっとゲットしたい。特に杖と最後のはゲットしておきたい。


かなりの悪趣味だが、最初のは死亡したプレイヤーが落としたアイテムの回収システム。数が多い残りは予想ではランダムでアイテムを入手する宝箱的な意味で設定したのだろう。だから6人パーティーに二つは入手出来るように十二個という数にしたはずである。


杖の方は…かなり高ランクかもしれないが………後になると、実はそうでもない。レイドボスが持っているレア素材を加工すると同じくらいのは入手可能だったりするのだ。この時点ではかなり貴重である事には間違い無いが。


――――――さて、衛兵さんの話し合いの結果。ブラウンベア本体の素材については折半となった。サクっと衛兵さんが剥ぎ取りナイフで突き刺して素材を回収。入手したのは牙、爪、毛皮、肉、骨、薬の素材となる肝と色々。骨は使い道が犬の餌くらいだって話なので全て回収それらをアイテムボックスに入れて、町の中へと戻っていく。


(さぁ、本番は此処から…どう『交渉』しようか。)


衛兵さん達と別れ、町の中に戻る途中でテンションを出来るだけ下げていく。


これから『交渉』する相手は先程のブラウンベアをトレインしてきたパーティーメンバーである。アイテムドロップの関連のごたごたは避けたいのは誰でも同じ。でもレアアイテムは欲しい…なら、じっくりと『交渉』しよう。


脳内で妄想してテンションを下げる。アイテムの一部は別の『魔法の鞄』に移動させ。やや俯き加減で、ちょっと歩く歩幅も小さく…



ぽーん


『《演技》のスキル条件が開放されました。』



……素でテンションが落ち込んできた。《詐欺》《暗殺》《演技》って自分のプレイがどれだけ酷いのか自覚してしまう。


(でも、即採用してスキル変更しますけどね! こういうの大好きです。)



SP3を支払ってスキルを採用、町へと通じる石壁を抜けてから頭上に表示されるプレイヤーネームを確認する。六人一箇所に固まっているプレイヤーの集団を確認。名前は…「月牙げつが」さんね。銀髪に主人公系のイケメン面がそれ。先程、逃げてきたプレイヤーの名前は「トオヤ」さんですか。その他にも男、女、女、男という感じである。


でもね……このゲームは性別は自由なのですよ……だから、美少女の中身が40代のおっさんも可能なのですよ…俺は何も信じねぇ!!このゲームでプレイヤーの女は絶対に信じねぇ!! でも、今は営業用な丁寧な御挨拶を。


「失礼致します。先程の…ブラウンベアの、パーティーですか?」


おっと、そんな怖い顔をしないでください―――漏らしますよ? 最初に声をかけてきたのはリーダーっぽい月牙さん。


「…何のようだ?」


「注意厨か…」「通報…?」「シルバーかよ…初心者か?」


こいつは未成年の臭いがぷんぷんする感じの中二ですね……高二病かもしれない。


「そういう面倒な事はしません。先程のブラウンベアはどうやら徘徊型のフィールドボス扱いだったので、一応はアイテムの分配に参りましたが…いらないなら失礼しますね。」


立ち上がってさっさと立ち去ろうとしたらすぐに慌て出すパーティーメンバー。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「アイテムの……」「え、アイテム貰えるの!?」


「このゲームの場合はNPCには人間と同等の知性と感情プログラム等も搭載されているので、先程の行為は褒められたものじゃありませんし。自分の方も結果として運良く倒せたしアイテムも入手出来ましたが、そちらにも色々と不愉快でしょう。」


大人しく頷くリーダーの月牙。他のメンバーはまだ耳打ちしたりパーティーチャットで話し合っているのだろう。


「ブラウンベア【人食い】の素材各種と、幾つかのレアアイテムが多数です。」


「確かに欲しいが……全部とは言えないな、要求は?」


「勿論あります。その前に、入手したブラウンベアの素材の半分については、共闘した衛兵の方が所持しております。私はご存知の通りシルバーネームですので素材を剥ぎ取るのに時間がかかります。剥ぎ取りナイフを使用したのは彼らですし、それでも半分は貰い受ける事が出来ました。それについてはご理解していただけますね?」


パーティーメンバーも納得した表情。周囲に居るプレイヤーも納得といった表情である。


「話を進めます。こちらがトレードの内容です、まずは肉に爪や牙、毛皮に骨や肝等です。初日で高レベルの素材ですので売値にしてもそれなりの価値があるとご理解ください。」


「爪が10、牙が15に毛皮は4、骨は…数が多いな? 肝も2個分だな。肉は30個か…」


「爪は片手と片足で10本。牙は大小合わせて15です。毛皮は4個扱い。骨が多いのは使い道は無いという事なので全て引き取らせていただきました。肝は薬草と組み合わせて効果が出るようです。肉は…まぁ、使い道は食べるくらいですよね。」


「不正は……無いな。確かに納得出来る。」


それぞれが納得して首を縦に振る。


「先にこちらの分配を済ませましょう。色々と生産職としては欲しいと言えば欲しいのですが、討伐クエストの証明として牙が必要になるはずです。クリアに必要な数は牙一個なので、まずはそれで。爪はネックレス等に加工するので一個と…そちらに骨素材を加工される方はいらっしゃいますか? 毛皮も数でもめるので遠慮します。肝は調合系がありませんし、肉の権利も破棄しますので骨だけ全ていただけますか? 肥料にもするので数が欲しくて。」


「少し待ってくれ――――――――――――… よし、問題無い。」


あっさり決まった。Wikiで調べてもブラウンベアの骨の使い道は普通は無いからな…


アイテムトレードの相手を指定し、『魔法の鞄』に触れるとウィンドウが浮かび上がる。まずは素材系のアイテムをトレードし、お互いに決定ボタンを押す。最初の商談成立である。相手の方はインベントリが正常に起動しているので自動的にアイテムが移動していった。


「次にレアアイテムの分配に参ります。」


自分の言葉に周囲もざわつく、そりゃあレアアイテムですから興味津々でしょう。


「その前にそちらでデスペナを受けてアイテムロストされた方はいらっしゃいますよね?」


「ああ、二人居るが…」


「《真新しい冒険者の食べ残し》ってアイテムが二つあるんですよね…」


その言葉に周囲のプレイヤー達も思わずうっと顔をしかめた。こっちだって気分が良いもんじゃないからね。


「食べ残し…た、多分、武器と防具をロストしたから…それだと思うが…」


「多分…洗えば大丈夫だと思いますよ?」


思わず視線をそらしました。


「次にモンスターの食べ残しも12個程あるんですが…ゴミ系のアイテムですかね。」


「あ、結構です。どうぞどうぞ」


即答されました。彼らも周囲も納得ですよねー…確かにゴミアイテムです。


「…こっちも畑の肥料にしておきますね。」


「みんな納得したから大丈夫だ。むしろ捨ててください。」


「では本題です。次にまた食べ残しシリーズで《人間らしき古い食べ残し》、そして本命ですが運良く出たのは《汚れた森番の剣:鋼鉄製》《破損した森番の鎧:鋼鉄製》 それぞれ価値はランク5で修理して使えば効果が上がるやつです。」


最初のにはぎゃーっとみんな顔を歪めました。だって、シルバーネームはゴア解禁ですから。想像したらすっごいですよね。後半のは露骨な笑顔、みんな分かりやすいな。


「人間シリーズの食べ残しは…これランダムボックスの扱いだと思います。数は12個、ランダムで同じシリーズの武器や防具を集めるんだとは思うんですが……確立は低めかなと…食べ残しって事は完全に壊れているだろうし。試しに一個出します?」


一応は先に剣と鎧は出して地面に置いて…物欲しそうに見られてるなぁ……


「い、いいえ…遠慮しておきます。それで分配はどうしましょうか?」


「確定ドロップしているレア二個は譲りますので、食べ残しの方をいただけますか? パーティーなら食べ残しの方は一人二個で当たるかは運次第。こちらは剣と鎧は使わないスキル構成なので問題ありませんので。」


「ちょ、ちょっとだけ待ってください…」


いる? いや、だって食べ残しだぞ? 武器が良くても一緒に食べ残しのがセットでついてくるとか―――なーんて、話し合いをしている感じです。


「本当なら此処で全て開封して――――――」


「「「「やめてーーーー!!!」」」」


おう。周囲の皆さんからも大拒絶です。


魔法の鞄の中から少し骨チラしただけなのに…髑髏ですよ!しゃれこうべ!あ、ちょっとドブ川みたいな臭いが……きっつい。


近くに居たパーティーの顔がものすっごく歪みました。


――――――あ、剣と鎧の臭いを確かめてほっとしてる。


「……これ、きっとこっちには臭いが………武器も…ああ、すいません。何でもありません。じゃあ、こちらは――――」


「いえいえいえいえ、パーティーのメンバーとも話し合った結果。これで大丈夫ですから!」


「それなら念の為にフレンド登録しておきましょうか。こちらの優先としては出るかどうか不明ですが、同じレアならもし斧・棍棒・弓・杖・服系統は貰います。剣や盾、鎧系統はそちらにという分配でいかがでしょうか? 通常の鉄系統の装備は…」


「フレンド了解しました。鉄装備は処分してください。」


パッケージ特典で武器を選べばついてくるからね。リーダーの月牙さんとフレンド登録をし終わり―――忘れてた。


「忘れてました。《食べかけの壊れた蜂の巣》というランク1のアイテムもドロップしていたので、そちらも渡しますね。」


食べかけと聞いて、思わず周囲からも拒否反応な顔を―――しかし、蜂の巣である。


「蜂の巣ですか? 効果は?」


「熊さんを呼び寄せるそうですよ…使い道も限られているので、リベンジする時にでもどうぞー。」


「ありがとうございます。ふぅ…アイテムを持ってきてくださりありがとうございました。」


「こちらこそ。ただ、衛兵の方に謝罪に行ったほうが良いかもしれないですね。」


「そうですね…そうします。」


「それでは、私はこのへんで…」


「はい、ありがとうございました。」「装備回収ありがとうございます。」「レア来た…うぁ、鍛冶とるかな…」「臭い…無いな。鎧着れるかな?」「感謝しまーす。」


平和に終わるって素敵ですよね。


少し離れると彼らの方には素材を売ってくれという生産者さん達や剣の性能教えてというプレイヤーさんがわんさか。一方、こっちには――――――来ないね! 誰だって食べかけの死体なんて見たくないわ。


ちょっと血まみれになった丸太棍棒には興味ありそうに見てるけど、近寄れない雰囲気満載です。



やっぱり、一番楽しいのは苦労して倒したボスからゲットしたアイテム分配の時間ですよね。


いやー、実に良い仕事をしました。公平って大事です。欲しかった素材も武器も手に入れたし、ホクホクですよ。


本当は内心、ビクビクものでした。出来る男風の演技って難しいものです。




ぽーん


『《交渉》のスキル条件が開放されました。』

『《演技入門Lv1》のレベルが上がりました。』



レベルも上がりましたよ。さぁ、21時になるまでの残り時間は衛兵さんの所に戻って。せっせと木工しながら畑の準備です。



 スキル12/12


 《農業入門Lv1》《林業入門Lv2》《木工入門Lv2》《石工入門Lv1》

 《鍛冶入門Lv1》《演技入門Lv2↑1UP》


 《身体能力強化Lv4↑3UP》《隠蔽入門Lv2↑1UP》《初級斧2》《初級槌Lv3↑2UP》

 《初級水魔法Lv1》《初級土魔法Lv3↑2UP》


 スキル控え


 《料理入門Lv1》


 SP 29

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