1話
「ヒャッハー! 新鮮な伐採だぁ!!」
この林はもう茂らせねぇぞぉ! カコーンッ! カコーンッ!と、森林に響き渡る軽快な伐採音というか大体そんな感じ。
見渡す限りの大自然、試される大地とかどうとか…現状では東京エリアも森林+平原地帯とも言えるような環境であるので似たようなものだが。エリアに到着してすぐ………現実は非常であった。
何せ、ゲートをくぐり抜けて遭遇したプレイヤーの人数は両手の指で数えられる程度しかいなかったからである。焦った自分ってほんと馬鹿と軽く落ち込みつつも全力ダッシュで土地購入権利書で購入可能な有効エリアへと移動していった。
「この辺か……。えっと、リアルだと駅からは少し離れているけど。河は近くにあるな…良し。」
周囲4ヘクタール…見渡す限りの森林と川沿いには草原地帯。農業をするならもってこいの環境である。それに海にも徒歩で行ける距離なので釣りスキルさえ取得すれば…悪く無い立地条件である。
土地購入権利書をインベントリの中から四枚取り出して即座に使用――――――
『土地購入権利書を区画A-1へ使用します。宜しいですか?』YES
『土地購入権利書を区画A-2へ使用します。宜しいですか?』YES
『土地購入権利書を区画A-3へ使用します。宜しいですか?』YES
『土地購入権利書を区画A-4へ使用します。宜しいですか?』YES
「よしっ! 後はギルドに戻ってクエスト受注しておくか…」
北海道・道東エリアの初期の町がある場所はリアルの地理だと駅の中心という事である。ゲーム的な意味での開発と、プレイヤー達による開発が進めば発展するらしいが、今は人口にして数百…くらい?の町である。一応はNPCである町長さんを発見して御挨拶したが………
「私が町長です。」
うん、知ってます。御願いですから、ネズミの巣穴とかに案内しないでくださいね? このゲームのスタッフって意外と懐古趣味だったりするから、本気で将来的にイベント起こすかもしれないから怖い。オマージュとかにしても、生々しく体験したくは無い。
ゴア表現設定を弄ると……あら不思議、生々しい血肉表現満載の素敵ホラーに早変わりという事になる。そんなこんなで、この町にある土地を購入した事等を話して、これから宜しく御願いしますねと簡単な御挨拶。
軽い世間話をしてみると、娘さんがギルドに居るそうです。このゲームでの仕事の斡旋先というのはファンタジーで定番もののギルドという施設で、各都市の中央部に位置しており。その大きさはちょっとした城にも見える。
え? 町長との会話が薄すぎるって? だって、普通のおっさんと会話していて何が楽しいのか………後、人ってちょっと苦手です。ソロプレイメインなので。でもロールプレイを意識して爽やかな好青年っぽい雰囲気を出して会話しましたよ。
本来ならギルドホールにてチュートリアルを御願いしてスタートとなるのだが…そっちは後回し。開幕スタートダッシュしてSEISANをするのだ…
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。初めての方ですね?」
色白美肌の黒髪ロングストレートの笑顔の眩しい外見年齢16歳くらいの巨乳美少女ギルドの受付嬢。
おい、βテストだとおっさんだったぞ。どうしてこうなった。β時代はカウンター席に居たのは似たような顔のおっさんとおっさんとおっさんしか居なかったじゃないか!おっさんがトリプルだったんだぞ!?
これが時代なのか…流石に月額課金ともなればサービスは向上していらっしゃるようだ。
それなりに広いギルドホール内の多数あるカウンターにちょこんと座っていらっしゃる姿はまさに天使や…
ギルドの受付が全ておっさんから女性へとリニューアルされておる。
装備は布の服らしい…貫頭衣とか言うのかな? 下はスカート。改めて見ると、こう―――色々と危うい。脇チラとか横乳チラとかお父さんは許しませんよ。
もしもAIの入っていないNPCだったら迷わずスカートの中身をガン見してましたよ。谷間チラとかにも期待大。けしからん、まったくもってけしからん、もっとやれ。
誰の趣味ですか誰の!? 嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!ベネッ!
おそらくだが…この子が町長の娘なのだろう。よく考えてみると娘さんでこのレベルなら、お母さんも……ちくせう、町長なんて乙れば良いのに。
だが、そんな感情を剥き出しにせず。第一印象は大事なので意識を爽やか好青年モードに切り替える。PCの名前はちょっとアレですが…大丈夫ですよ?
「いえ、経験者です。ですが初級の訓練については後日受けさせてもらいます。今回は登録と常備クエストの受注と他に何か無いか見に来ました。」
下心を抑えつつ、にっこりと穏やかな笑顔を浮かべて丁寧に御挨拶を―――――すると、唐突にインフォメーションの音が響いた。
ぽーん
『《詐欺》のスキル条件が開放されました。』
やめておっ! インフォメーションひでぇ…げに恐ろしきはこっちの感情まで読み取ってくるシステムのなせる技か……
そんなこっちの気持ちとは裏腹に、ギルド嬢はにっこりと笑顔で返事を返してくれた。
「はい。では登録しますのでこちらの水晶に触れてください。また、現在の常備クエストとアナタが受注可能なクエスト一覧はこちらになります。」
カウンターテーブルの上に置かれた水晶に触れて直ぐに登録が終わると、ほぼ同時に空中にシステムウィンドウが浮かび上がる。
ギルドというのはハロワの斡旋所と同じで、基本はNPCだがプレイヤーからの依頼も受け付けている。現在あるのは本当に簡単な依頼ばかりであるが、現金収入は大切である。
登録すれば仕事を斡旋してくれる…そもそもプレイヤー全てが最初に登録する事になる。無論、退会も自由だが功績ポイントと呼ばれるものが設定されており。それが上昇すると上位の仕事を紹介してくれるというシステムだ。
一応、Sが頂点となるABCDEFのアルファベット方式のランク分けもされている。無論、最初はみんなFからスタートだ。
『薬草の納品 10個/100G』
『薪の納品 10本/200G』
『兎肉の納品 1匹/20G』
『狼の討伐 1匹/50G 素材は買取別』
今現在は全てNPCからの依頼。他にも色々あるが、時間制限の無いのはこれくらいだった。
「じゃあ、これで……そういえば、町長さんの娘さんですか? 丁度、この町の土地を購入したので町長さんに御挨拶をした時に綺麗な娘さんが居るって話を伺ったので。」
「ふふふっ、ありがとうございます。ハンニバル様は土地を購入されたという事は、これから長い間お世話になる事になるかもしれませんね。娘のルルと申します。」
眩しい…笑顔が眩しいです。こんな風に接してくれる女性なんてリアルに居るのだろうか…
ですけど、悲しい事に女性と長時間話題を提供し続ける事が出来る程にそっちのプレイヤースキルは皆無なのです。
「宜しく御願いします。いずれ畑で野菜が取れたら御裾分けに参りますね。」
ナンパとか無理。見た目だけはイケメンでも中身はただのコミュ不安定なおっさんです。
「本当ですか? 楽しみにしてますね。では、開墾頑張ってくださいね。」
ちょろいな自分…今ので心のMPが満タンになりましたよ。
ギルドホールを出た後、購入した土地へと戻っていく。時刻は午前10時30分。まだ日は高いがこれからの拠点準備を考えるとギリギリである。何せ、初日の宿泊費が無い。必要経費ではあったが、それは食糧を購入するので終わってしまった。ギルドホールについては24時間営業なので、最悪の場合は床で寝させてもらうという選択肢も彼は考えていた。
町に近いと言っても、夜間には魔物というか狼が出現するし。製品版となってからは、どのような事になっているか分からない。仮に死んだ場合のデスペナルティは一定時間のスキル効果の半減と、現金やアイテムの一部損失である。このゲームの初期段階では痛い授業料である。
人間に必要なのは衣食住。
衣は…ギリOK。食も当面は味さえ我慢すれば大丈夫。最大の的は住居だった。
「どうするかって、やるしか無いよな…」
四分の三はほぼ森林、残りは草ぼうぼうの草原。さぁ、どうぞと与えられたとしても最初は呆然としてしまう。
しかし計画はある。何もβが終わり、製品版となるまでの時間は暇持て余していた訳ではない。
さて………何からしようか。っと、その前に大事な『儀式』がある。
ここに来る前、町の近くにある小川から汲み取ってきた水を空き瓶に入れてあり。それで両手を洗い清め。インベントリの中から少量の食糧や塩、それに小さな小瓶に入れられているが市販されていた酒を用意していく。それらを地面の平坦な場所へと置いた後、二拝二拍手一拝の順に行っていった。その場でしばらくの間は頭を下げ続けて祈る。
所謂、『安全祈願』である。自分は信心深いとは言えないが、それでもこういうのは最初が肝心である。ゲームの中であったとしても、これからお世話になる土地であるのだから。
実際に工事現場でアルバイトをした時に最初にこういうのをやった覚えがある。かなり略式だったとしても、こういうのは気持ちの問題である。
祈りながらウィンドウを開き、ネットで祝詞を調べてそれっぽいのをチョイス…『祈念祝詞』とかで良いのかな?と文面に目を通しながらたどたどしい口調で祝詞を囁くように唱え出す。
「えっと……掛巻も畏き 諸神等の廣前に 恐み恐みも白さく…」
正直、他の人に見られたりしたら素人丸出しなので恥ずかしいかもしれない。ただ、一応はこういうのは必要である。
最後までブツブツと口の中で唱えていたら急に電子音が響いた。
ぽーん
『《信仰》のスキル条件が開放されました。』
ぽーん
『《神道入門》のスキル条件が開放されました。』
おや? 思わぬ所で開放されたけど……取得予定無いなーこれ。神道については見た事も無いのでレアっぽい。じゃあ、仏教とかはどうなるんだろ?
空中に浮かんでいるウィンドウに指を走らせ、早速だが検索していった。
「せっかくだし試してみるか…般若心経で良いのかな? かんじーざいぼーさーつ ぎょじんはんにゃはらーみったーじー……」
うぁ、私の般若心経下手すぎ…でも諦めずにウィンドウを開いたままで最後まで音読です。こっちは葬式とか出た時に耳にしていたり、お爺ちゃんが朝起きてぶつぶつ言っているのを何度も耳にした事があるのでどうにかいける。
ぽーん
『《仏教入門》のスキル条件が開放されました。』
行けた。じゃあ、他に何か開放されないかなと思って空中で 臨兵闘者 皆陣列在前と言いながら九字を切ってみたり。動画とか画像を見ながら印を結んでみたり―――難しいなこれ。だが失敗。特にインフォメーションさんからのお知らせは無し。潔く諦めると、小瓶に入っていた酒を周囲に散布して清めて終了と――――――
ぽーん
『《散布》のスキル条件が開放されました。』
薬品扱いかよ!と思わずツッコミつつ、このスキルはちょっと便利そうなので後で取得しておくかな。
安全祈願が終わると後片付けをしてまずは森林の方へと近寄っていく。時刻は11時を過ぎた頃…本当にどうしたもんかと唸ってしまう。木々は広葉樹と針葉樹が半々という感じでバランスは良い。
木々のサイズは両手で抱きかかえれないくらいに巨大なものから、ある程度細いのもちらほら。原始時代の大森林というイメージにも近い。こういう場所とかエルフとか居そうだなと思えるくらいにサイズが違う。
パッケージの中にある生産者セットの中には木こり用アイテムもきっちり用意されている。
『ハンドアックス:鉄製』
木こり用の普通の斧、戦闘にも使用可能だが目的はあくまでも伐採専用。
ATK+10 作成ランク3
『ノコギリ:鉄製』
木工用のノコギリ、戦闘には不向きである。
作成ランク3
今回使用するのはこちらである。これが三セットあるので問題は無いが…きっとすぐ壊れる。後、手入れをする必要があるが今はそんな道具はねぇ!
最初から大きな木を伐採すれば収穫はあるだろうが、採取するまでに今のスキルレベルなら時間がかかりすぎる。そんな訳で狙うのは細い木である。太さは大体、2リットルのペットボトル二つ分くらいの太さのヤツだ。太すぎず細すぎず手頃なサイズ。高さは10mは無いくらい……これだったらきっと伐採は素人でも簡単だろう。
太いヤツなら受け口とか色々とやらなきゃいけない事があるが、それも後の話だ。まずは片手に持ったハンドアックスを握り締めてこれから刃先を入れる部分に少し印をつけておく。
アシスト設定をしておけば楽だが、今はほぼ全てのスキルのアシストは完全にオフ状態。スキルに頼る場合は伐採の場合はスキルを選択して『スタート』とやれば、あとは指定された方向に力を込めるだけで自動的にやってくれる。
調薬等、ポーションを作成する場合にも作成工程の一部を省略してくれたりとアシスト様々である。無論、アシストに頼ればスキルは上昇しにくい。検証してみたが、個人差はあるだろうがレベル上昇の効率は二倍近くの差が出ていた。
数をこなすならアシストを多様しても良いが、それでも色んな意味で違ってくる。
ここでスキルと作成ランクについての話をしよう。
現在までに調べられた限りだと、例として同じスキル構成という条件でポーション作りをしたとする。Aさんはアシスト無し、Bさんはアシスト有り。
Aさんがポーションを5個作成し終わるタイムでBさんはポーションを10個以上作成していた。最初の品質はお互いに同じだが、その差は徐々に開き始めていた。作成ランクにまず差が出始め、効果についてもAさんがBさんを上回り始める。
数という点についてはBさんが圧勝しているが、レベル差が徐々に開き始める、無論Aさんが上回っている。そして、Bさんの生産量を上回る事は無かったが品質はそのままに作成スピードもAさんは上昇し始めていた。
検証はしばらく続き、何故かBさんの方はレベルが上昇しなくなり。Aさんの方はやや上昇率は落ちてきたがそれでも上がり続けていた。
最後は「もう…ポーションなんて作りたくないお…」と言っていたが結果として1から10ある作成ランクの枠組みを超え、作成ランク11という初期の材料だというのに回復率40%という超高性能ポーションを作り出す職人になってしまっていた。
個人の才能にも影響される可能性はあるのだが、それでもポーション職人は不器用な方だと本人談。予測される可能性というか、ゲームのシステムとしては努力させ積み重ねれば結果を残せるという事だ。
はっきり言って自分自身に才能があるとは思っていない。大学には行かずに高卒ですぐに就職、だがすぐに会社が倒産してニートとなり。それでも生きる為にバイト戦士として生活をしていたりと凡人以下である。
だが、ゲームの中ならヒーローにだってなれるのだ。何度も自分以外の自分に憧れた。TRPGの世界もPBCの世界でも満足出来なかった。でもVRMMOの中なら自由な自分という存在。それがようやく満たされると思うとワクワクしていた。
まだ日は高い。これから夜になるまでは伐採して伐採して伐採しまくるしか無いじゃないか。初日で出来る限りレベルを上げまくりたい。
「では…参る……… ヒャッハー! 新鮮な伐採だぁ!!」
初撃からテンションが上がってきた。立木の根元へとハンドアックスを何度も振っていく。感覚は現在100%を使用中なので、両手が痺れる感じがするが心地良い。ハンドアックスの刃先が3cmだけ食い込んでいく。
《林業入門Lv1》《木工入門Lv1》《初級斧Lv1》《身体能力強化Lv1》の効果が噛み合っているせいか、速度はかなり速いと思う。
スキルに備わっている補正効果だが、全てレベル1だったとしても林業に特化している組み合わせなので筋力的な意味での補正効果はかなり高いはずだ。通常であればこのサイズの木だったとしても全く刃が通らないだろうし、それにできたとしても時間はかなりかかるはずだ。
事実、《林業入門Lv1》なら苦労するが15分。《木工入門Lv1》だけなら20分以上で下手をしたら刃が通らないか弾かれる。《初級斧Lv1》だと30分くらいで耐久度が減りすぎる結果となる。
《身体能力強化Lv1》ではまるで駄目だが補正は入るという程度だと推察されていた。アシスト有りなら少しは速いが空腹度やスタミナが通常よりもかなり減るとの事。
カコーンッ!という軽快な打音が響き、一撃二撃と繰り返してから、今度は三角を意識して形を整えていく。これくらいの大きさでも問題は無いが、倒れる方向を意識して切り口を入れていった。
さらに反対側へと回って気合を入れてハンドアックスを振り回す。今だ、会心の一撃とばかりにラスト一刀。
「倒れるぞーっ!」
ミシミシと音を立てて倒れる木。方向は草原側の何も無い空間なので上で枝が引っかかるって事は無いから楽で良い。一応は倒れるぞーと声を出したんですが―――そりゃあ誰もいませんよね。
ドシンと倒れた木には枝があり、今度はそれを落とす作業となる。簡単に丸太が出来ると思ったら大間違いだ。スキルを駆使すれば枝落としも一瞬で可能だが、レベル上げも兼ねているのでハンドアックスとノコギリで下から落としていく。
リアルと違ってダニとかいないので本当にVR様々である。切り落とした葉っぱのついた枝も使用出来るのでインベントリの中に一括で収納。木の皮がついたままの丸太となった木は最初にノコギリで半分位にしてからインベントリの中に収納。
四次元ポケット状態でマジ便利です。生産者セットの中に魔法の鞄と呼ばれる四次元ポケット機能のついたアイテムボックス的なのもあるが今はスピード優先なので通常のインベントリの限界までこれから収納し続ける。
地面に落ちた枝がサクサクと収納されて消えていき、最後に枝を落とした皮付きの丸太を二本回収。
『皮のついたマツの丸太』×2
針葉樹。育ちが悪いので細いが、加工すれば素材として利用出来る。
作成ランク1
『マツの枝』×30
切り落とされたマツの枝。加工すれば素材として利用出来る。
作成ランク1
まぁ、こんなもんだろ。ランクが低いのは当然なので、今は木材採取に専念してレベルアップを急ぐ。今の伐採時間は枝を落とすのに30分くらいかかって合計で40分くらい。
実際に一人で作業したにしてはかなり速いが、これは各種スキルの補正効果があるからだろう。流石に黙々と作業するのは淋しいので、ウィンドウを開いてフィールド音楽をオフにして適当な動画サイトから作業用BGMとして音楽のみを流しっぱなしにしている動画を選んで再生し、ウィンドウを最小化――――――作業再開の前に昼食タイム
『パン』
市販されているパン。ボソボソして味はあまり良く無い。腹持ちはやや少ない。
作成ランク2
『普通の水』
瓶に入った普通の水。素材として使用出来る他、飲む事で水分の補給が出来る。
作成ランク3
「……味がしないな。うん、我慢しよう。」
若干、空腹かなって感じていたので今の内に空腹を解消。水分も補給しておく。実に味気ないがしばらくはこの生活を続けるしか無い。
もしゃもしゃと口の中に押し込んで喉の奥に普通の水でパンを流し込む。食料問題は兎や狼をどうにかして狩ってからにするしかない。食べ終わったら作業再開である。
時刻は12時少し前…リミットは残り3時間。夜間は町に近いとしても狼に襲われる可能性があるので伐採は出来るだけ進めておきたい。
二本目……伐採だけなのでサクサクと終了。倒れるぞーとも言わずにただ木を切り倒す。二度目はあっさりと終わり7分で終了。βから下積みがあるので初回は戸惑ったが大体こんなもんである。今までβ時代にレベルが上がっていた分もあり戸惑ったが木を切るだけだし。
三本目……このゲームにはスキルに技が設定されている。斧のスキルを使用すれば伐採速度は上昇するが戦闘用向きでは無い斧の耐久値はマッハで消費されて壊れてしまうだろう。それでも今回は6分くらいで終了した。多分、このサイズだとこれが限界か?
四本目……大体自分の太腿サイズくらいの木だと、最大で6分から7分が限界っぽい。変に力を込めて斧が壊れても問題である。
五本目……レベルが上昇する気配は無し。そう簡単に上がるはずがねぇですよ…
六本目……無心だ!無心になれ!! ウッドマンになるんだ! ウッドマンの気持ちになるですよ!!
七本目……ダイナモ感覚!ダイナモ感覚!!
「……そろそろ枝落とし開始するか…にしても沸きエリアのエリアから微妙に外れてるかなこれ。」
βからの経験だと、町から離れていればいる程 モンスターとの遭遇率は高くなる。町の中心から軽く100m以上は離れているが…今の所、周囲にモンスターの気配は無いと思う。
NPCの生活圏内に近いので昼間だったら大丈夫という事なのだろう。初期段階からNPCがモンスターに襲われて死にまくりとかは無いはず。ついでにプレイヤーが増えてくれば勝手に探して狼を倒してくれるだろうから安全は夜間でも確保されるはずだ。
ウェブニュースの最新速報だと『都内各店舗でFGO完売のお知らせ。初回10万本全て売り切れ。』
だとしたら、いずれ道東エリアも人で溢れるだろう。けど、可能性としては大都市である東京や大阪エリアで人が群れてる可能性は高い。マゾゲーだもん…一人じゃ無理だからなぁ。
ソロプレイヤーは少なくは無いがパーティプレイが推奨されている。友達ですか? βだって勿論一人ですよ?………ちくせぅ
ぽこぺん
『《林業入門Lv1》のレベルが上がりました』
おや?レベルが上がった。枝落としの最中に聞こえた電子音。ちょっとだけ枝払いのスピードが速くなる。このペースならギリギリ15時までにどうにかなると思う。
ぽこぺん
『《木工入門Lv1》のレベルが上がりました』
また上がった。レベルアップラッシュ来るか?
ぽこぺん
『《初級斧Lv1》のレベルが上がりました』
来た! 特化型で良かった、サクサク上がって来た。《初級斧Lv1》が最後なのは熟練補正が戦闘の方に若干比重が偏っているからだろう。他のMMOと比べると上昇率はかなり悪い方だ。NPCに弟子入りして適切な指導を受けても、それに補正がつくわけでは無いっぽい。βから仕様が変更された可能性もあるが、上昇率は悪く無い。
全ての枝落としが終わったのは14時をちょっと過ぎた時刻。この時間で終わった事は幸運だった。インベントリの中はもうパンパンである。合計で皮付きの丸太は14本に先端の細くなっている部分も合わせて3mが14本、1mくらいのが7本。切り落とした枝は250を超えていた。真っ直ぐに伸びていて矢の材料にも使えそうなのは40本くらいで、残りは何か別の用途に使用出来るだろう。
町へと戻る前に草原エリアにて草刈をしつつ見覚えのある薬草だけをまずは採取していく。普通の草に混じって、独特というか…普通では見慣れぬ種類の草がある。採取してインベントリの中に押し込めてから見てみると
『薬草』
調合用のアイテム。そのままでは意味が無い。
やっぱり薬草である。自分用には確保せず、今回はクエスト用として採取開始。まずはスコップを用意します。
『スコップ:鉄製』
作業用の剣先スコップ。実は戦闘にも使用可能であるが、基本は土木用。
ATK+12 作成ランク3
流石は塹壕最終兵器。斧よりも攻撃力が高いのは一つは理由がある。まず斧よりもリーチが有り、両手持ちだから。スコップさんマジぱねぇっす。固い地面を掘るという事もあって頑丈で剣先でと倍率ドン。突き刺せば槍属性、振り回せば斧であり槌になるという複数属性持ちなのである。
慎重に薬草の周囲の土を根ごと採取してから、軽く根っこについている土を払い落としてからインベントリに押し込んでいく。はい、駄目でした。仕方ないので『魔法の鞄』を取り出して中に入れていく。この魔法の鞄…食料品とかを入れると実は中に入れた荷物が腐らないんですよ。しかも温かい食料品を入れたら温かいままなのでバッチリなのです。薬草は腐らないと言っても劣化する可能性があるのでそちらに保存。さぁ、さくさくいこう。
五個目の薬草を採取した所で――――――
「んっ? 来たか……初戦闘かな。」
草むらの一部が不自然にガサガサと動く。姿は未だ茂った草むらの中に隠れて見えないが…それでも分かりやすくこちらに向かってくる。大きさと速度からして兎だと思う。時間帯的にそろそろモンスターが出てくる時間なのだろう…だったらさっさと倒して町に戻ろう。スコップを両手に構えて…当方に迎撃の用意あり。
「ピ「そおおいぃ!!」ギィィィ!?」
角の生えた兎がホッピンジャンプ→剣先スコップを正面に構えて兎の顔面へと突き出します→………グロい。ゴア表現をオンにしているので、ホラー一直線です。
剣先スコップに兎は突き刺さったままビクンビクンしたまま。HPのゲージは全損したらしいので多分大丈夫だろう。さぁ…剥ぎ取りである。リアル派のこのゲームの救済措置の一貫として、剥ぎ取りナイフというものが実装されている。
死体に突き刺すと素材のみが残るというシステムである。それも苦手な人にはインベントリの中に入れて解体ボタンを押すのも良し。ギルドにある解体屋に依頼し、一定の金銭を支払って素材を多く入手する方法もある。
自分で《解体》のスキルを覚えるのも手だが、それをすると自分で本当に死体を解体せねばならず色々と難しい。β時代には解体スキルを覚えていたので散々解体してきたので今更抵抗感は無いものの、スキル枠の都合上…今回は素直に剥ぎ取りナイフをインベントリの中から取り出して兎に突き刺してアイテムに変換させる。
【一角兎の肉】×2
生の一角兎の肉。生食には向いていない。基本的に素材として使用する。
ヒャッハー! 肉だ!新鮮な肉だぁ!! 今夜の夕飯はこれで決定である。生産セットの中に炭が入っていたはずなので、これで調理が出来る。さぁ、町にさっさと帰ろう。
よぉしっ、これで食うぞぉ 超食うぞぉ シェフ・ハンニバルがおみまいしてやるぞぉ。飯テロだ、肉テロだぁ。
スキル12/12
《農業入門Lv1》《林業入門Lv2↑1UP》《木工入門2↑1UP》《石工入門Lv1》
《料理入門Lv1》《鍛冶入門Lv1》
《身体能力強化Lv1》《隠蔽入門Lv1》《初級斧2↑1UP》《初級槌Lv1》
《水魔法Lv1》《土魔法Lv1》
スキル控え
SP 3