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第5話 甘い香水と揺らぐ日常

 訓練を終え、汗を拭いながら屋敷へ戻ると、白い影が目に映る。


 振り向いたリリアは、なぜか少し距離を保ったまま立っている。


 ――いつもなら駆け寄ってくるのに。


 ん? 何かリリアの雰囲気が違う。


 近づいた瞬間、ふわりと甘い香りがした。

 

 「何か香水つけてる?」

 

 「あ……うん、よく気づいたね」

 

 「それに全体的に着飾っているような? 今日、何か行事とかあったか?」

 

 思い出そうとしても何も浮かばない。

 そもそも何もないはず。


 「いや、何もないよ。……今日はただのお試しで着飾っただけだから」

 

 「ということは何か予定あるのか? 何があるんだ?」

 

 「いや……えっと……その……縁談の予定があるの」

 

 「縁談!?」


 あまりの衝撃に大きく反応をしてしまう。


 リリアが縁談。

 思わず反芻してしまう。

 たしかに、実感は湧かないが貴族なら当たり前のことだ。


 ……理解できるのに、心がとてもざわつく。

 嫌な感じが胸の奥から消えない。

 

 「わざわざこんな忙しい時期にやるのか? もっと後でもいいんじゃ?」

 

 「うーん、むしろ今だからこそなの。

 こないだ作った薬が好評だったでしょ?

 貴族の注目が集まって、色々と縁談の話が来ているの。


 そして、縁談をするなら熱が冷める前がいいから」


 理由は説明してくれた。

 原因も。

 なのに、うまく呑み込めない。

 何か引っかかる。


 「ガルドは貴族同士の場とか苦手でしょ? ……だから、わざわざ言うこともないかなって。

 そういうことで色々準備があるから、じゃあね!」

 

 パタパタ、とリリアが走り去っていく。

 

 どんなやつが縁談相手なんだ?

 気になる……。


 俺はリリアを守る護衛だからな。

 その相手をしっかりと見定めなくては。


 そうと決まれば、親父の元へ向かおう。

 親父……ディエゴ兵士長はその役職通りに配属の裁量権を持っているのだから。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 


 親父に無理を言って、護衛にしてもらう。

 親父もやけに渋っていたが、そんなに問題を起こしそうか?

 たしかに否定はしきれないが。


 親父に相談した流れでそのままリリアにも報告すると――。

 

 「ええっ!? ガルドが縁談時の護衛になるの!?」

 

 「ああ、俺なら何かあっても守れる」

 

 「いや、縁談で何かあることなんてないのだけど……」

 

 「いいだろ別に」

 

 「いやいやいや、ガルドって貴族社会苦手だったでしょ!?」

 

 「そうだけど、まぁ慣れのためだ。……というか、ずいぶんと嫌がるな」

 

 「え!? ……うーん、なんていうか恥ずかしいというか……」

 

 「恥ずかしい? 貴族は見られるのも仕事だとか言ってたじゃないか」

 

 「そうだけど…………というか、縁談の相手は侯爵家だよ。本当に大丈夫なの?」

 

 侯爵家……。

 …………つい目を逸らしてしまう。

 

 「やっぱり分かってないよね……」

 

 軽くため息をつきつつも、説明してくれる。

 

 「爵位って言うのは、功労に応じて貰う称号なの。上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番ね」

 「そうだったな。フローレンス家は伯爵家だよな?」

 

 「そう、そこそこの領地は持っているけど、上には上がいる……そんな立場」

 

 「今回の縁談相手は侯爵家で、フローレンス伯爵家よりも位が1つ高い。

 

 侯爵という称号は、高い実務能力、人脈、政治感覚を積み上げた証なの。

 同時に、公爵家になるには少し実績が足りないってことだから、『自分たちの強い功績』をいつも探している。

 

 最近、私の開発した薬が大々的に成功したでしょう?

 今のうちに婚約すれば、次に生まれる成果は侯爵家の功績として差し出せる。

 ――だから、声がかかったの」

 

 「他の爵位は……まぁ説明しなくてもいいか」

 

 「……え? なんでだ?」

 

 「だって、混乱してるって顔に書いてあるよ。

 簡単に覚えるなら、爵位の順番ね。

 『フローレンス伯爵家は真ん中で、縁談相手はそれより上』、みたいな。


 ……それに、爵位が離れすぎた相手とは縁談しないだろうし」

 

 「ん? ……そうなのか?」

 

 「うん、そういうものなの」


 なんとなく、掴み切れていない気がする。

 ……が、リリアが「ということで」と言って思考を遮る。


 「今回の縁談相手は侯爵家。

 私よりも格上で、失礼な態度はしちゃいけないの。

 貴族というのは一挙手一投足を見るんだから。

 

 ……もし、本当に縁談に同席するつもりなら、『背景に同化する』みたいな気持ちじゃないとダメ。

 ……ね? 難しいでしょ?」

 

 「大丈夫だ、息を潜めるのはスラム生活の頃に学んだ」

 

 「……やっぱり来るのね。うう、何かドキドキする」


 リリアは落ち着かない様子だが、内心俺も落ち着いてはいない。


 縁談相手は、ちゃんとリリアを守れるやつなのだろうか?


 ――その相手と結ばれたとして、リリアは幸せになれるのだろうか?

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