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9 年が変わり、俺ももうすぐ8歳だ


――四季が巡る。

年が変わり、俺ももうすぐ8歳だ。


のんびり育ちたいところだけれど、春になって、今年13歳になるニュース姉が家出した。

まったく迷惑な話だ。

そう、あれは3日前のこと。

家族で囲む夕食の席でのことだった。


飯を食いながらニュース姉と父上が、進学のことで喧嘩した。

父上のランバート・コード・コードウェルが、テーブルを激しく叩き、ワイングラスがぶっ倒れる。

ニュース姉はそんな父上を、赤い瞳で(にら)みつけていた。


「なぜですか、お父様っ」


「ええい、ならんと言ったらならんっ。

もうこの話は何度もしただろうが!」


「納得できませんっ」


「ニュースっ、お前はコードウェル家をしょって立つ跡取りだ。

ならば当然、入学先は王都の魔道学園に、決まっとろうがっ」


「それは私が決めますっ」


「子供の分際でなにを言うっ。

コードウェル家の者は。王都の魔道学園入学と決まっておる、愚か者が!」


俺はそんなやり取りを聞きながら、バターソテーされたアスパラガスを口に運ぶ。

あー野菜うまい、甘い。


「嫌ですっ、私は見栄えだけの学園なんて行きませんっ」

「ニュース!」


「だってそうでしょうっ。あんな貴族の社交場みたいな学園、お茶会の延長に過ぎません!

コードウェルの名に相応しいのは、本気で身に役立つ学び屋っ。

『バベルの魔道学園』の一択じゃないですか!」


「こいつめ、またそれを!」


ニュース姉と父上の争いを、黙って聞いていたコードウェル家の当主である母上。

ハーモニア・コード、コードウェルが、ナイフとフォークを静かに置いた。


「ニュース」

「何ですかお母さまっ」


「次期当主のあなたは、婿(むこ)を取り、このコードウェル家を守って行かねばなりません。

その婿探しに、王都の学園は打って付けではありませんか。

他の貴族の者と顔なじみとなり、縁を繋げていく。


当主の戦場は、闇の森ではありません。

当主の戦場は、貴族同士の社交の場なのです」


「辺境を守る実力がない者に、社交の場なんてっ」

「……ニュース」


母上の目がぎらりと赤く光った。

俺の正面に座っているキリル姉の癖っ毛が、ひょろりと萎えた。

魔力のない俺にも分かる。

母上からくる圧が凄い。


俺まで緊張して、食べているイナシル肉のグリルが、ぜんぜん味しない。

はあ~、勘弁して。

ニュース姉は、ぐぬぬと(うな)って(うつむ)いてしまう


そしてその夜遅く。

なぜか俺の部屋に、ニュース姉、キリル姉、ファー姉が、勝手に入り込んでくる。

カギを掛けているはずなんだけどなあ。

なんか、カギ開けの魔道具でも使ってんのかな。


弟のプライバシーってのを、この姉たちは何だと思ってるんだろう。

ベッドに寝そべって、ナッツを食べている俺の頭を、キリル姉がはたいた。


「こいつまた、厨房からくすねて食ってやがる」

「ごめんなさい、だってお腹が空くんだもの」

「サビィって本当に、いつもお腹が空いているわね」


ニュース姉が呆れた。


「手癖が悪い。将来が心配」

「へへへ」

「何照れてんだよ、バカ」


ファー姉に心配され、キリル姉にまたはたかれた。

俺はむっつりして尋ねる。


「いきなりなんですか、皆で部屋に来て」

「作戦会議よ」


ニュース姉がそう言って、俺のベッドの真ん中に陣取った。

キリル姉、ファー姉も座り、俺は小さくなる。


「サビィ、どうせリスみたいに、もっと隠し持ってんだろ。出せ」

「はーい」


俺はとっておきの、干しアンズと干し肉でおもてなしする。

ぽりぽり、むっちむっちむっち、もぐもぐもぐ。

俺の貯蔵食をつまみながら、ニュース姉は吠え、キリル姉、ファー姉が同調する。


「お母様はいつもあれだわ! 何も言わせないために魔力を浴びせて重圧をかけてくるっ」

「あれ止めてくんねえかなあ。ニュース姉だけじゃなく、私にもくんだけど」

「おなか痛くなる」


「ニュース姉どうする、入学まであと2週間だろ?」

「あきらめる?」


妹たちに問われて、ニュース姉は腕を組む。

口の中で干しアンズを転がしながら、静かに目を閉じた。


「王都の学園に入学したら寮に住んで、6年間は帰ってこれないわ」

「夏休みとか、年末帰ってこねーの?」


「キリルそういう意味じゃないわ。6年間、私は現場から離れるってこと。

その間、分家の子とかは、みんなバベルの学園に行く。

みんな分かってる。

王都で覚える事なんか、闇の森じゃ役に立たないって。


それなのに、どうして私だけ王都に行かなきゃいけないの?

6年間が無駄になるわ。

そんなの絶対に許せない、くやしいっ」


俺はナッツを齧りながら、天井に目を向ける。

まあ、ニュース姉の言ってることも、分からない訳でもない。

国境の街バベルってのは、全国から尖がった魔法使いとか集まって、ひしめいているからなあ。


そんな奴らが開いたのが、バベルの魔道学園らしい。

実力つけたいなら断然こっちでしょ。うん。


けれど俺は、母君の言っていることも分かる。

どうせコードウェル家のお姫さまなんか、最前線に出ないんだから。

だったらその分、王都との繋がりを強くして、コードウェルの領地運営を安泰にする。


こりゃ全く、前線とは別の戦い方だ。

これはこれで、立派だと思うけれどねえ。

つまんねえだろうけど。


キリル姉、ファー姉が膝でにじり寄る中、ニュース姉は目を開けた。

赤い瞳が燃えるように揺れている。


「決めた、私は家出するっ」

「え、本気か!?」

「ニュース姉、すごい」


「キリル、ファー聞いて、私は諦めない。

バベルの学園入学を許してくれるまで、家に帰らないわ」


「帰らないって、どこ行く気だよニュース姉?」

「バベル?」


「バベルは駄目。ハンターギルドがあるもの。

ギルド長の、デイルおじ様に捕まってしまうわ」


「じゃあ別の街?」

「違うわファー、これよ」


ニュース姉は腰のポーチから、(さや)に収まったナイフを取り出した。

鞘からゆっくり引き抜くと、黒曜石の刀身がきらりと光った。

俺はそれを見て、口からナッツを吹き出す。


「ぶー!」

「きたねえっ、何しやがんだコノヤロ!」


キリル姉の顔にナッツがもろに当たって、お返しに干し肉でビンタされた。

俺は頬をさすりながら、ニュース姉の手元をまじまじと見つめる。


「ニュース姉さま、それってまさかっ」

「あら知ってるのサビィ? そうよこれは転移のナイフよ」


「え、これが転移のナイフなのか、ニュース姉っ」

「はじめて見た」


転移のナイフと聞いて、キリル姉とファー姉が食いついてくる。


「昔まだ、ハンターギルドが無かったころ。

領地の軍が直接、闇の森の警備に当たっていたわ。

その頃に使っていた砦に、直接転移できるのが、黒曜石のナイフなの」


「すげー、これで部隊とか飛ばしてたんだろっ」

「ニュース姉、どうしたのこれ?」

「家の宝物庫から借りてきたの」


「借りてきたって、それ盗んできたんじゃ?」


俺がそう言うとじろりと睨まれた。


「失礼ねサビィ、盗んだんじゃないわ。()()()()()()

沢山あるんだから、一本ぐらいいいでしょっ」


「はい!」


「じゃあニュース姉、その砦に行くのかっ」

「そうよキリルっ」

「やっべすっげ、ニュース姉、私も家出するっ」

「私も行きたい」


「キリル、ファー、これは遊びじゃないの。

私は今思い付きで、家出するって言った訳じゃないわ。

もうずっと前から考えて、準備していたの。

このナイフも試して、ちゃんと使えるって実験済み」


「ニュース姉、私だって本気で行くよっ。

だってニュース姉が王都の学園入ったら、来年は私が入れられるんだろ? 冗談じゃねーや!」


「私も嫌、本気で家出する」

「キリルっ、ファーっ」


なんか3人で熱くなって、がっしり抱き合っていた。

俺は開いた口が塞がらない。

いやいやいや、遊びじゃないって言うけど、家出なんて遊びだろ?


「あの、闇の森の砦なんて危ないんじゃ?

そこってもう使ってなくて、廃墟になってるって聞いたことが……」


手をあげて、おずおず意見を言うと、姉たちに睨まれた。


「だから格好の、隠れ場所になるんじゃないっ」

「サビィ、お前ビビってんじゃねえぞっ。黙って付いてきな」

「いくじなし、男でしょう?」

「え~」


あれ? 俺も付いて行くことになってる?

勝手に、決めないで欲しいんですけどっ。


そんなもん付き合ってられるか。

王都のどこが悪いのさ?

多分、飯とか超ウマいぞっ。


俺は行きたくないと言おうとしたら、その前にニュース姉が首を横に振った。


「キリル、ファー、サビィは連れて行かない。足手まといになるから」

「あーそうだな、こいつ魔法使えねえし」

「なっとく」

「えっ?」


ちょっと待て、俺なしで行く気か?

ニュース姉たちはその後、夢中になって、家出計画を細かく立てていった。

俺はその間、ぽかんとしてしまった。


ここまで熱くなった姉たちを止める手立ては、サビィの俺にはない。

なにか言ったら百倍返しされる。


――そんな事が、3日前の夜に起きた。

そして今夜、闇に紛れて黒曜石のナイフを使い、3人の姉は家出していった。


「はあ~、まじかあ……」


俺は窓枠に頬杖をつき、何度目か分からない溜め息をつく。


「本当に行っちまった。俺が付いてなくて、あの3人大丈夫だと思う?」

「チュウ」


俺の頭の上のネズミが、一鳴きする。


「闇の森なめすぎだろ。そう思わない?」

「チュウ~」

「はあくそっ、悪いけど俺が出たら、また窓のカギ閉めといて」

「チュッ」


俺はネズミに戸締りを頼むと、屋敷の外壁をするすると登っていく。


「はあ~、めんどくせ~」




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