7 朝駆けを待たず、闇にうがつ銃声
俺はちらりと見る。食事中のイカを。
デス・テンタクルの触手に絡まれたゴブリンは、痺れて動けなくなっている。
だからすすり泣く。
今食われている仲間が胃袋に収まれば、次は俺なんじゃないかってな。
死の順番が耐えられなくて、泣いているんだ。
イカが飯を食うのは良いよ。腹減るもんな。
けどさ、なんで直ぐに殺さねえの?
殺しときゃ、すすり泣くこともないだろうが。
見せつけてやがるんだ、エサ共に食事を。
触手の毒が猛毒じゃないのも、そのためだ。
あのイカヤローは、捉えたエサをいたぶって殺すのが好きなんだな。
俺はムッときた。ムカムカした。
ふざけんじゃねーぞっ。
そんなの死体蹴りじゃねーか!
いたぶって何が楽しい?
俺はな、そういうプレイが一番嫌いなんだよ。
ギャラクティック・リーパーで、死体ゲリされた事を思い出す。
俺はハンターに尋ねた。
「ねえ、偵察はお前一人?」
「ぐ……そうだ」
噓はついていない。
「一人で任されるなんて、お前ひょっとしてそこそこ強いの?」
「俺はゴールドクラスのハンターだっ」
「ふ~ん」
俺はうつぶせのハンターとの融合を、推し進める。
「ちょっ、何を! 俺の中に何か入って!?」
「朝駆けの奇襲? そんなの待ってられるか。いいよ、ハンターが狩らないなら、俺がやってやる」
俺は完全に融合し、ハンターとなった。
その間、ハンターの意識は消え失せる。
ハンターに収まりきらない融合管が、何本も体から垂れ下がった。
ハンターの手を握りしめる。
丁度いいガタイだ。これなら「キラービー」が使える。
キラービーは、ガルド13の愛用するハンドガンだった。
7歳の小さな手じゃ、グリップもまともに握れない代物だ。
ネズミを殺そうと初めて出した、あの赤ん坊の日以来。
銃器の出し方にもコツがあった。
殺すと決めたなら、右腕を大きく後ろへ振って、一度視界から腕を消し去る。
そうして勢い良く前に突き出せば、その手にはいつの間にか、デス・インダストリー社製のハンドガン「キラービー」が握られているのだった。
「FPS」を一人称視点でやる感覚だ。
ゲーム画面の外にある腕を前に出すと、セレクトした銃器を握っている。
あの感覚に近い。
ずしりとした、ヴァルカニウム合金の塊。
うん。予想通り、ハンターの手に良く馴染む。
俺はハンターの声で呟く。
「体のキレはどうだ?」
俺は木の陰から出て、無造作にイカへ歩を進める。
ハンターは偵察していただけに、夜目の効く魔道具を装備していた。
俺がいきなり出てきたものだから、デス・テンタクルの咀嚼するアゴが止まり、大きな目玉がぎょろりと動いた。
その仕草が、昼間のようにはっきりと見て取れる。
デス・テンタクルの姿は、まさにデカいイカそのものだった。
ただ若干重力に負けて、横に平べったい。
足は優に、50本以上生えていた。
イカと言うより、逆さまにしたイソギンチャクと言った方が、近いかもしれない。
そのテンタクルが触手を鞭のようにしならせ、地面を叩く。
食事を邪魔され、苛立ったのかな?
「マズそうなゲソだな、おい」
俺は構わず歩を進める。
イカは目を剝き、手の空いている触手をしならせた。
真上から叩きつけられた触手を、俺は神速の、横っ飛び前転でかわした。
続けて2回、3回と、ナナメに向かって前転し近づいていく。
2撃目の触手も、バックステップを出してからの、横っ飛び前転でかわす。
するとハンターの骨格が軋んだ。
ガルド13の動きをそのままやって、生身の体が悲鳴を上げていた。
ゴールドクラスでも、ゲームの動きはキツイか。
俺はイカの腹に、銃口を向ける。
「お前はムカつくヤローだが、俺にいたぶる趣味はねえ。一発で楽にしてやるっ」
俺はキラービーを、フルオートにしてぶっ放した。
電磁加速された短針のスズメタル弾が、秒速900mで、デス・テンタクルのぶよぶよした黒い外套膜に突き刺さった。
スズメタル弾は体内に入った途端、肉の抵抗で8つの破片にバラけて、内臓をずたずたにする。
更にイカの水分に反応して、腐食ガスが発生。
ずたずたにした内臓を、トロリとしたピューレに変える。
青白い火花が散るが、キラービーの射撃音は「ブブブブブブ」と静かなものだった。
俺はそれが気に入っている。
全弾撃ち終わったあと、俺はぺろりと舌を出す。
「ごめん、1発じゃなくて24発だった」
デス・テンタクルは、急須の注ぎ口のような漏斗から、大量の青いピューレを吐き出していた。
俺の謝罪は聞こえただろうか?
俺は紫煙くすぶるキラービーをくるり回すと、ゲーム画面外(視野外)に戻し、見えないホルスターに収めた。
ぺちぺちぺちぺち。
俺はゴブリンたちに巻きつく触手を解き、小さな鬼種の頬を叩いた。
「おい、立てるか?」
「ぶ……ぶふっ……」
「駄目か、痺れて動けないか」
別に放っておいても良いんだけど。
「困ったな、夜明けになればハンターたちがやって来るぞ。
ばったり会ったら、こいつらは確実に殺される」
ゴブリンもハンターにとって、駆除の対象だった。
「せっかく助けたのに、殺られるってのもなあ」
何だか損した気分だ。
「しょうがないなあ」
俺はハンターの体から抜け出す。
融合管を一本、ハンターの背骨に残して、まだ気絶したままにしておく。
そうしておいて俺は動けないゴブリンたちに、順番に完全融合していった。
そうする事により、ガルド13の超回復がゴブリンに使える。
だがこれをやると……
ぐぎゅるるるるるっ。
俺は死ぬほど腹が減って、尻もちをついてしまう。
へろへろになりながら、ぼうっと突っ立ってるゴブリン20数匹に指示をだす。
「俺の言葉が、融合管を通して分かるだろ? もうこの村は捨てて森の奥へ逃げろ。
朝になればハンターが来るぞ」
あれ? 通じてないのかな?
へろへろだから、うまくリンク出来てないのか。
俺は殺意を込めて指示をだす。
「行けったら、行け!」
ゴブリンたちは体をビクッと震わせて、一目散に森の奥へと逃げて行く。
ぐぎゅるるるるるっ。
俺は腹が鳴きすぎて、仰向けに倒れた。
融合管は俺の体の一部だ。
超回復だって、凄くカロリーを消費する。
「なにか食い物、なにか……」
俺は知らず知らずに、隣で寝ているハンターを凝視してしまう。
こいつの気絶顔を見ていると、大量のよだれが出てくる。
「いや駄目だ。さすがにそれはヤバい。なにか他に食い物、食い物はっ」
俺の目がデス・テンタクルに釘付けとなる。
俺は青いピューレで汚れるのも構わず、どでかい死骸まで這っていった。
「ごめん、マズそうなんて言って。イカ最高、イカ最高!」




