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4/7

4 脳内シミュなら、死んでますよ?


俺は腰に差している、刃渡り12セイン(cm)のナイフをゆっくりと抜いた。

今は手が小さいので、これぐらいの長さと重みが一番しっくりくる。

ニュース姉との距離は10メイル(m)ほど。


ナイフはしっかりと握りつつ、手首には力を込めず柔らかに。

利き足を一歩下げて、膝を軽く曲げ、前足に6割ほど体重をかけた。

視線はニュース姉を見つめるのではなく、全体を見渡すようにする。

と、そうやって構える前に――


俺は右手を突き出し、ハンドガンを出現させた。

そのまま姉に向かって3連射する。

胸に2発、頭に1発。

これでニュース姉は無力化された。

あっさり終了である。


「何をやっているのサビィ。来ないならこっちから行くよ」


おっといけない。

脳内で秒殺シミュレートしてたら、ニュース姉を苛立たせてしまった。

でもねニュース姉。

本当なら、とっくにニュース姉は撃ち殺されているんだよ。


ニュース姉が剣を下げたまま、無造作に近づいてくる。

距離5メイル。

この距離でも圧倒的に俺の勝ち。

銃の敵じゃない。3連射で確勝ちエンド。


距離2メイル。

この距離だっていける。

ハンドガンを両手で包み込むようにして握り、銃のグリップを自分の胸に当てて、体にくっつけるようにして3連射で俺の勝ち。


距離2メイルで、ニュース姉がピタリと足を止める。

剣を持つ腕は下げたままだ。


「どうしたのサビィ、全く動かずに。

サビィの言い方だと、距離1メイル以下ではナイフが最強なのでしょう?

それは私も同意する。

確かにその距離だと、剣は振りづらいもの。

ほらサビィ、あと1メイル近づけば、サビィの距離よ。

自分の言葉を証明してみせなさい」


「くうっ」


俺が前傾姿勢で右の爪先に体重を乗せたとたん、俺の構えるナイフは、ニュース姉の斬撃で吹き飛ばされた。

親指の付け根がパックリと割れて、皮一枚を残し垂れ下がっている。


「熱っ」


俺は脇を締め、手首を強く握ってうずくまる。

ファー姉が俺の横にしゃがみ込み、手当をしてくれた。


「傷えし肉よ、命の輝きを燃やせ、ヒール・グリル」


ファー姉が呪文を唱えると、傷口が緑の光に包まれ、見る見るうちに塞がっていく。

流れ出た血はそのままで、手が血糊でべったりだ。

ニュース姉が、吹き飛ばしたナイフを拾って来てくれた。

ナイフをしげしげと見つめた後、手渡してくれる。


「またナイフを新調したの? 良いナイフね」

「参りました」

「参るだけじゃ駄目。どう? ナイフじゃ届かないでしょ?」

「うー」

「ちょっと待てサビィ、まだ諦めんな。次は私だからっ」


キリル姉に急かされて、俺はナイフを握り立ち上がる。

するとキリル姉はその場から動かず、目を爛々(らんらん)と輝かせた。


「ほらニュース姉より近いだろ? いつでも掛かってきな」


キリル姉との距離は、1.4メイルほど。

確かにさっきより近い。

キリル姉は、ニュース姉に対抗意識を燃やしていた。

いつもこうだ。


「いえ、ちょっともう……」


俺はやる気のない素振りをしてからの、キリル姉の喉を一突き――の前に、またナイフを吹き飛ばされた。

切られたばかりの親指は無事だったけれど、代わりに人差し指と中指が、ナイフと一緒に飛んで行った。

ファー姉が拾ってきてくれて、また手際よく治してくれる。

ファー姉が、姉たちの中で一番優しい子だと思う。


「どうだよニュース姉、私の勝ち」

「キリル、私たちの勝負ではないでしょ。さあサビィ立ちなさい、はいコレを持って」


俺が立ち上がると、ニュース姉は一歩下がり剣の柄に手を掛けた。

鞘からは抜いてない。距離は1.2メイル。

何も言ってこないけれど、第3試合カモンと、ニュース姉の全身から発するワクワクが俺を急かす。


またこれだ。

私たちの勝負じゃないとか言っといて、またこれだよっ。

1歳違いのニュース姉とキリル姉は、いつもこうやって競り合い始める。

俺なんて競り合うための、ただのダシでしかない。

俺はニュース姉とキリル姉から、3度ずつ切り飛ばされて、朝の自主練習を終えた。

またオモチャにされた。


「やっぱ、1メイル以内はツレー。サビィってナイフ馬鹿なだけあって、ナイフの扱いがウメーよな」

「そうね、躊躇(ためら)いなく目や首筋を狙ってくる。接近戦の鍛錬にはもってこいかも」


「おっ、ニュース姉もそう思う? サビィのくねくねしたナイフ捌きって、軌道が読みづらくてヤベーよな」

「本当、どこであの動きを覚えたのかしら、あの子。自分で編み出したと言っていたけれど……」


「やっぱサビィ、剣のセンスはあるんだよ。でもナイフに全フリだけどな」

「どうしてあんなに、ナイフに(こだわ)るのかしら?」

「なー、全然わっかんねえや」


自主練習の汗を流しに、井戸へ向かうニュース姉とキリル姉は、俺を褒めたり(けな)したりして笑い合っていた。

俺はその2人の背中へ口を尖らす。


「どうせ、くねくねしてますよ、ふんだっ」


俺は貧血で立てずに、まだ中庭の芝生に座り込んでいた。

ファー姉の回復魔法は、傷口を瞬時に塞いでくれるけれど、流れた血の量は直ぐには戻らない。

時間差で血液量が回復までの間、ファー姉がそばに寄り添ってくれていた。


「サビィ、くねくねは気持ち悪いけれど、悪い事じゃない。サビィはセンスある。私も褒めてあげる、いい子」

「ありがとうございます、ファー姉さま」

「サビィの動きは暗殺向きかも。それはそれで良いこと。強いから」


俺はファー姉に頭を撫でられながら、芝生で跳ねたバッタにつぶやく。


「暗殺かー」





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