4 脳内シミュなら、死んでますよ?
俺は腰に差している、刃渡り12セイン(cm)のナイフをゆっくりと抜いた。
今は手が小さいので、これぐらいの長さと重みが一番しっくりくる。
ニュース姉との距離は10メイル(m)ほど。
ナイフはしっかりと握りつつ、手首には力を込めず柔らかに。
利き足を一歩下げて、膝を軽く曲げ、前足に6割ほど体重をかけた。
視線はニュース姉を見つめるのではなく、全体を見渡すようにする。
と、そうやって構える前に――
俺は右手を突き出し、ハンドガンを出現させた。
そのまま姉に向かって3連射する。
胸に2発、頭に1発。
これでニュース姉は無力化された。
あっさり終了である。
「何をやっているのサビィ。来ないならこっちから行くよ」
おっといけない。
脳内で秒殺シミュレートしてたら、ニュース姉を苛立たせてしまった。
でもねニュース姉。
本当なら、とっくにニュース姉は撃ち殺されているんだよ。
ニュース姉が剣を下げたまま、無造作に近づいてくる。
距離5メイル。
この距離でも圧倒的に俺の勝ち。
銃の敵じゃない。3連射で確勝ちエンド。
距離2メイル。
この距離だっていける。
ハンドガンを両手で包み込むようにして握り、銃のグリップを自分の胸に当てて、体にくっつけるようにして3連射で俺の勝ち。
距離2メイルで、ニュース姉がピタリと足を止める。
剣を持つ腕は下げたままだ。
「どうしたのサビィ、全く動かずに。
サビィの言い方だと、距離1メイル以下ではナイフが最強なのでしょう?
それは私も同意する。
確かにその距離だと、剣は振りづらいもの。
ほらサビィ、あと1メイル近づけば、サビィの距離よ。
自分の言葉を証明してみせなさい」
「くうっ」
俺が前傾姿勢で右の爪先に体重を乗せたとたん、俺の構えるナイフは、ニュース姉の斬撃で吹き飛ばされた。
親指の付け根がパックリと割れて、皮一枚を残し垂れ下がっている。
「熱っ」
俺は脇を締め、手首を強く握ってうずくまる。
ファー姉が俺の横にしゃがみ込み、手当をしてくれた。
「傷えし肉よ、命の輝きを燃やせ、ヒール・グリル」
ファー姉が呪文を唱えると、傷口が緑の光に包まれ、見る見るうちに塞がっていく。
流れ出た血はそのままで、手が血糊でべったりだ。
ニュース姉が、吹き飛ばしたナイフを拾って来てくれた。
ナイフをしげしげと見つめた後、手渡してくれる。
「またナイフを新調したの? 良いナイフね」
「参りました」
「参るだけじゃ駄目。どう? ナイフじゃ届かないでしょ?」
「うー」
「ちょっと待てサビィ、まだ諦めんな。次は私だからっ」
キリル姉に急かされて、俺はナイフを握り立ち上がる。
するとキリル姉はその場から動かず、目を爛々と輝かせた。
「ほらニュース姉より近いだろ? いつでも掛かってきな」
キリル姉との距離は、1.4メイルほど。
確かにさっきより近い。
キリル姉は、ニュース姉に対抗意識を燃やしていた。
いつもこうだ。
「いえ、ちょっともう……」
俺はやる気のない素振りをしてからの、キリル姉の喉を一突き――の前に、またナイフを吹き飛ばされた。
切られたばかりの親指は無事だったけれど、代わりに人差し指と中指が、ナイフと一緒に飛んで行った。
ファー姉が拾ってきてくれて、また手際よく治してくれる。
ファー姉が、姉たちの中で一番優しい子だと思う。
「どうだよニュース姉、私の勝ち」
「キリル、私たちの勝負ではないでしょ。さあサビィ立ちなさい、はいコレを持って」
俺が立ち上がると、ニュース姉は一歩下がり剣の柄に手を掛けた。
鞘からは抜いてない。距離は1.2メイル。
何も言ってこないけれど、第3試合カモンと、ニュース姉の全身から発するワクワクが俺を急かす。
またこれだ。
私たちの勝負じゃないとか言っといて、またこれだよっ。
1歳違いのニュース姉とキリル姉は、いつもこうやって競り合い始める。
俺なんて競り合うための、ただのダシでしかない。
俺はニュース姉とキリル姉から、3度ずつ切り飛ばされて、朝の自主練習を終えた。
またオモチャにされた。
「やっぱ、1メイル以内はツレー。サビィってナイフ馬鹿なだけあって、ナイフの扱いがウメーよな」
「そうね、躊躇いなく目や首筋を狙ってくる。接近戦の鍛錬にはもってこいかも」
「おっ、ニュース姉もそう思う? サビィのくねくねしたナイフ捌きって、軌道が読みづらくてヤベーよな」
「本当、どこであの動きを覚えたのかしら、あの子。自分で編み出したと言っていたけれど……」
「やっぱサビィ、剣のセンスはあるんだよ。でもナイフに全フリだけどな」
「どうしてあんなに、ナイフに拘るのかしら?」
「なー、全然わっかんねえや」
自主練習の汗を流しに、井戸へ向かうニュース姉とキリル姉は、俺を褒めたり貶したりして笑い合っていた。
俺はその2人の背中へ口を尖らす。
「どうせ、くねくねしてますよ、ふんだっ」
俺は貧血で立てずに、まだ中庭の芝生に座り込んでいた。
ファー姉の回復魔法は、傷口を瞬時に塞いでくれるけれど、流れた血の量は直ぐには戻らない。
時間差で血液量が回復までの間、ファー姉がそばに寄り添ってくれていた。
「サビィ、くねくねは気持ち悪いけれど、悪い事じゃない。サビィはセンスある。私も褒めてあげる、いい子」
「ありがとうございます、ファー姉さま」
「サビィの動きは暗殺向きかも。それはそれで良いこと。強いから」
俺はファー姉に頭を撫でられながら、芝生で跳ねたバッタにつぶやく。
「暗殺かー」




