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2 授乳とネズミとハンドガン


(いや、そんな……困りますよ奥さん)うきゃう


俺は困りつつ、可愛い声を上げてしまう。

目の前にドでかい乳房があった。

俺は遠慮しようとするけれど、顔がにこにこしちゃう。


「あらこの子、もう目が見えているのかしら? 笑っているわ」


(まだぼやけていますが、見えていますよ奥さん、しっかりと。

それにしても、でかくて柔らかいっ。

人をダメにするビーズクッションか?

赤ちゃんスケールだと、何でも大きく見えるのも悪くない)


「おかあさま、サビィったら、すごいいきおいで、のんでいるわ」

「かおが、まっかになってる」

「ファーも……のみたい」


お乳を飲んでいる俺を、のぞき込む3人の少女がいた。

色々と聞き耳を立てて分かったことだが、この3人はどうやら俺の姉らしい。

そして「サビィ」ってのが、俺の名前らしい。


「かわいいわ」

「あかいね」

「ちいさい」


姉たちが俺の顔に顔を近づけてくるものだから、吸いにくいったらありゃしない。


(もしもしお嬢さん方、やめてくれないか。

こんなところを見ないでくれ。恥ずかしくて飲めない。

恥ずかし、はずか……ごくごくごくごくごくごくごくごく)


お腹いっぱいになったら、また眠る。

赤ちゃんは、寝るのが仕事なのだった。


夜になって、天蓋(てんがい)つきのベビーベッドでご就寝の俺。

赤ちゃん用とは思えない、豪華な部屋にぽつんと一人。


するとどこからか、チュウと鳴き声が聞こえてくる。

ネズミだ。ネズミが部屋を駆けている。

チチチと、爪で床を蹴る音が聞こえた。


ゴッキーよりはマシかと思えたけれど、心穏やかではいられない。

俺が短い手足をもぞもぞさせ、警戒していると。

ぽすんと、俺のベッドの上に乗ってきた。

闇の中でその気配を感じる。


「むー」


俺は「おーい、誰かあれ」と言う代わりに、可愛い泣き声をあげた。

ぽぎゃあ、ぽぎゃあ。

すると隣室で控えている、メイドが入ってきた。


「あらあらサビィさま、おっぱいですか」


違うのだそこにネズミが「おぎゃあ、おぎゃあ」

可愛い手で指を差したつもりだが、小さな腕をただぶんぶん振るだけで終わる。


「はいはい、お待ちくださいねえ」


メイドが俺を抱き上げて、自分のシャツのボタンを外し、胸をはだけていく。

違うって、そこにネズミが「あぎゃう」

しかし、ネズミの気配はもうそこに無かった。

メイドが入室した際に、ベッドから飛び降りたのだろう。


「はいどうぞ、サビィさま」


シャツからまろび出た乳房が、闇の中でも白く浮かび上がっているのが分かる。

甘い乳の匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。

違う、腹など減っていないっ。

そこにネズミが、ネズっ――「ごくごくごくごくごくごくごく」


俺は乳母を兼ねるメイドの誘惑に負けて、貪ってしまう。

まあ、なんと柔らかい。そして大きい。

幸せいっぱいになって、お腹も脹れて、また眠くなってきた。


いや駄目だ、今寝入ってしまったらっ。

けれど(まぶた)が抗えない。

すっかり閉じてうつらうつらとしていたら、乳を飲み終えさせた乳母が、部屋をでて扉を閉める音がする。


「はうあっ」


その音で俺は、辛うじて目をこじ開ける。

扉が閉じられた途端、ベッドの下からチュウと鳴き声が聞こえた。

ヤツだ。

当然のように、またベッドに飛び乗ってくる。


ネズミは、抵抗のできない赤子の顔を(かじ)るという。

ううっ、落ち着け俺っ。

あっち行け、このこのこのっ。


俺は手足をじたばたさせるが、激烈な眠気が頭脳を襲い、どんどん動きが鈍くなってくる。

もう一度泣いて、乳母を呼ぼうとしたが、うまく声が出ない。

俺の心と体が分離していた。


まるで金縛りのようだった。

気は張っているのに、体が睡眠モードに入っている。

まだ脳細胞と体の神経が、うまくリンクしていないためのバグなのだろう。


ネズミが悠々と俺の胸の上に乗り、毛づくろいを始めた。

こいつ、俺が動けないのを分かってやがるっ。

ふざけやがって。


俺は脳裏にVRゲームで撃ち殺されて、死体ゲリされた時の情景が思い浮かんだ。

動けない俺を執拗に蹴り上げたアノヤローと、ネズミの姿が被る。

くっそ、俺を(もてあそ)びやがってっ。


ネズミが俺の顔に近づき、唇の匂いを嗅ぎ始めた。

俺の唇には、たらふく飲んだ母乳の匂いが、たっぷり染み込んでいる。


冗談じゃねえぞこの野郎。こいつ殺してやるっ。

もう二度と動けない俺に、舐めた真似なんてさせねえぞっ。

殺してやる、殺して!


食われる恐怖が、噴き上がる殺意で塗り潰されたとき、俺の右腕が天井へ向けて突き出された。

その手には、どこからともなく現れたハンドガンが握られていた。

しかし小さな手で、重い拳銃を支えられるわけもなく、手から離れて俺の胸元へ落ちてしまう。


ネズミが驚き、ベッドから飛び降りた。

俺はネズミの事を忘れて、その黒光りする銃を凝視する。


(こいつは!)






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