1 プロゲーマーの死と、適当な神様
Eスポーツ開始、30分前。
運動速度と精度を司る「小脳」を活発化させるため、幾つかの錠剤を飲む。
その錠剤の副作用で脳に血栓ができやすくなるので、それを抑制する注射を静脈に打っとく。
仕上げに「網膜」を過敏にさせ、動体視力を上げる点眼薬を目に差す。
こうして俺は「VRMMODGAWFSABTULS」ヴイ・アール・エム・エム・オー・ディガウーサ・ビートゥルスに臨んだ。
「VRMMODGAWFSABTULS」ってのは、
Virtual Reality Massively Multiplayer Online Death Game Arena With Featured Skills And Become The Ultimate Legendary Survivorの略だ。
簡単に言うと「皆で銃器なんか使って殺し合って、一人を決める没入体感型のゲーム」のこと。
俺はそのEスポーツ専門の、プロゲーマーだった。
プロと言っても、違法賭博のウラゲーマーだけどな。
俺のプレイに、N国中から何千万何億って金が賭けられるわけだ。
今回は、9人対9人のチーム対抗。
プレイ中には「AIカメラ」で厳重に見張られていて、一切のチートプレイは禁止。
AIカメラは完璧で、アリの這い出る隙間もありゃしない。
ゲーム外でも、俺のバイタルや行動履歴がチェックされているから、ワイロで八百長なんてできない。
けれど抜け道はあった。
ゲームでもチートは駄目だけれど、選手に対しての薬物は黙認されている。
だから俺は、チートを過剰摂取ギリギリまで使う。
命は多少削れるが、しょうがない。
それだけの大金が動くし、俺の懐にも入ってくるのだから。
俺はVRヘッドとスーツを着用した。
サポートAIが今回のフィールドの概要を俺に伝え、ゲーム開始のカウントダウンを始める。
ゲームが始まり、俺は広大なフィールドを駆けた。
暫くして俺は、廃工場の一角で急激な頭痛に見舞われる。
立っていられない。
そんな動きの鈍った俺を、敵がハチの巣にした。
ゲームプレイじゃなく、長年薬漬けにしていた脳の方にガタがきたらしい。
何とも情けねえ死に方だ。
キャラが死んでも、俺の意識はまだそこに留まっている。
しょっぱいプレイは俺の自業自得だが、一つ許せないことがあった。
俺を倒したヤツが、執拗に死体ゲリしてやがる。
こう言うヤツが、俺は一番嫌いなんだよ。
ゲーマーの風上にも置けねえヤツだ。
頭が割れるほどの痛みの中、俺は意識が薄れるまでそいつを睨み続けた。
今度会った時、絶対許さねえ。
絶対テメエを撃ち殺してやる。
絶対テメエを――
*
遥かなる高次元におわします、尊き御方。
転生を司る神が、今やさぐれていた。
従者の差し出すリストを濁った眼で見つめ、大いに不満を漏らす。
「なんだかなあ。N国って最近、転生先がゲームばっかりじゃない?
どいつもこいつもゲーム行きばかりって、つまんないっ」
「さあ、私に仰られても。創造神様のお考えは計り知れませぬ」
「ふんっ、こんな下っ端の事務方の神は、黙って仕事しろってこと?
それにしても何よこれ(指を差して)。
VRMMODGAWFSABTULSって何? 何の略?
いつもの、中世風の異世界ゲームじゃないの?」
「さあ」
「馬鹿みたいに長いし、厨二病な格好つけが鼻につくわ。
分からないそっちが無知なんですが、って顔をしているわ」
「顔ですか」
「字面よ字面、無駄に長くて鼻持ちならない。
私を馬鹿にしているわ。
こんなの、いつもの中世風異世界行きで良いでしょ」
*
ぬるりとした生温かさに、まとわりつかれて気持ち悪い。
あと血生臭い。
だけど俺は酷く眠たかったので、無視してそのまま眠り続ける。
そんな俺の尻を叩くヤツがいた。
なんだよ俺は眠たいんだ、ほっといてくれっ。
そう文句言おうとしたら、自分が息してないのに初めて気づく。
尻を叩くヤツは、俺に早く息をしろとせかしているらしい。
慌てて肺に空気を取り込んだら、吐き出すときに大声で泣いちゃった。
俺は32のいい年したオッサンなのに、恥ずかしげもなく、泣き続ける。
いや恥ずかしいんだよ。
俺としては恥ずかしいんだけれど、泣くのを止められねー。
目を開けたら、なぜかボヤけて何も見えなかった。
俺は一体どうしたんだ?
ぽげえええええ!
ほんげええええ!
うぎゃぎゃうあああ!
ぎゃっぎゃぎゅああ!
俺は泣き声が止められない。
すると誰かに優しく抱かれた。
柔らかな、ミルクのような匂いに包まれる。
あ、この女だと思った。
「この女が俺を産んだんだって」本能レベルで分かり、すっと腑に落ちて落ち着く。
意識に霞がかかり、俺はぐずって寝落ちした。
俺は今、赤ん坊だった。
うぎゅう。




