戦いの、その前
結構遅くなりましたが、更新です。
良い話かどうかは別です。
「ねえ、軍曹……」
不快感全開でアリサが話しかけたのは、グレンベルグで酒盛りをやってから3日程過ぎた日だった。
(何・で・私達・が・穴掘り・なんか・しないと・いけない・の・です・か)
ぎこちない手信号でそう示した彼女の足元にはシャベルが置いてあった。
(俺・が・知る・わけ・が・ない)
掘削装置やトロッコがうるさいので仕方なく手信号で返し、彼はこのことの顛末を思い出した
*
「では、ブリーフィングを始める。 必要があればメモを取るように」
そうクルーガーが言ったのは今日の午前、食事が終わってすぐだった。
「といっても出撃ではない。総員スコップを持って演習場に集合せよ、以上」
そこにいた大多数の人間―クルーガーと事情を知っている者以外―は首をかしげこそしたもの、すぐに演習場へ向かった。
そして移動した先ではまた話を聞く羽目になった。
「総員、聞こえるだろうか」
マイクを使って喋り出したのは同じ基地の大隊の工兵隊隊長である大尉―年齢40前後の妻帯者らしい―であった。
「これから諸君らにはこの基地を軽便な要塞にしてもらう」
その言葉がすべての始まりだった。
彼は分隊ごとの担当地域の都合上半数の人員を預かり、班長という肩書がついた。
「班長、第一連絡通路への連結が終了しました。」
先日配属されたアンドレイが報告に来た。
「御苦労。こっち側もあと10分位で第2塹壕予定地に到着だ。もう一回まっすぐかどうか確認してくれ」
「了解です」
測定機材のある中央側に消えていったのを確認して、彼はまたツルハシを振るった。
「三曹、どうでもいい話をしたいけど、良いか」
穴掘りの翌日の昼食時、唐突にフックスが話かけた。
「構わない、なんだ?」
「カールのこと、かな。あいつの弟が空軍にいるんだ」
「確かに至極どうでもいい」
「で、その弟はスピアー艦上攻撃機に乗ってて、敵撃破数300以上、うち戦車130、航空機8と普通じゃないエースなんだ」
「で、結局なんなんだ?」
「そんな弟を持ってるから、あいつはたまにカッチコチに固まっちまうんだ。あんたなら分かるだろ、アルべリヒ博士の息子さんよ」
確かに分からないわけではない。
フィデリオも高名な火器設計士の息子ということでたまに期待や好奇の目で見られることがままあった。その目線は忌避感を持つ程ではなかったが決して気持ちのいいものではない。
「了解。できるだけ善処するつもりだけどこの話は分隊長に回した方がいいと思う」
「あいよ。そうさせて頂きますよ」
そうとだけ言うといつの間にか空にした食器を片手にフックスは去って行った。
”
「では、ブリーフィングを始める。いつも言
うが必要があればメモを取るように」
クルーガーが朝食時に言ったのは要塞設営にかかって約1週間後、そろそろ防壁が完成し、
軽砲やロケット砲などが配置され始める頃だった。
「本日午前6時半頃、機甲第12師団より侵攻してきた敵の機甲部隊との戦闘に入ったとの連絡を受けた。その後機甲12は苦戦を強いられている。今回はその援護へと向かう。出撃は午前8時、各種装備のほか試験中の対戦車兵器および重火器を持っていくのを忘れるな。以上」
”
そのブリーフィングが終わり、現在移動中である。
「何でも良いから昔話をしないか?」
言い出したのは通信兵のブリアンだった。
「なぜに?」
誰かが聞いたがみごとにスルーされた。
「俺からで、良いか?」
沈黙を破ったのはヘルマンだった。
「そう昔じゃないが俺、いや俺らの過去の話だ」
そう言って彼は話し出した
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その時、俺が軍に入って2年ちょいだからちょうど開戦直後、その時俺らは独立歩兵第48連隊、通称リール部隊に所属してたんだ。
フィデリオなら知ってると思うがリールはコーネリウス北部の都市で人口8万うち学生1万。独立歩兵48と独立砲兵16それからリール試験航空隊の各部隊が駐屯、別名は学園都市って言って大学が複数あって主に工学が盛んなんだ。
そんな都市の軍だから基本的な仕事は学生の教練の相手や啓発なんかだった。
そんな部隊だからお世辞にも装備が良いとはいえない。
基本的にはデビットを全員が持ってることになってたが、半数以上がオリバーかその改造型のカーネル34か38、一部だが備品がボロいという理由で、民生モデルだったり払い下げを買い戻したカービンM99Lポールを装備した奴もいた。
ともかくそんな状態で共和国の侵攻が始まったから、みんな大わらわだった。
その時に学生の有志で義勇兵募集や非戦闘員の退避が行われた。
そして共和国が攻め込んできたんだ。
こっちの定数は歩兵48が1500名、砲兵16が500人に対し、10センチ野戦砲10門と15センチロケット砲が15門で、内非戦闘要員がどちらも20%程、試験航空隊は実用機と実験機合わせて180機、学生の改造機も含めると戦闘機が内50残りはもうよくわかんない機体だったな。
敵は機甲部隊および機械化歩兵だったから重火器が必須なんだけど、重機関銃や対装甲ライフル、速射砲なんかは絶対数が足りてなかったし、俺達第2重装遊撃中隊が装備してた狙撃砲……っていうと分かんないか。C-1935‐l、平たく言えば35ミリ歩兵がギリギリ運用できる大きくて邪魔だけどその破壊力には注目すべきバイク用エンジン搭載の一応狙撃用の速射砲。は重戦車相手には若干非力だ。
でも使い方と相手によっては十分で、装甲車と軽戦車の破壊や重戦車の足止めが主目標だった。
それで2,3日は持ったんだが、とうとう市街戦になった。
俺らは車両を他に任せて、大学の鐘楼からとにかく敵を撃った。指揮官、砲手、ライフルマン、色々だった。
そこから丸1日かけて攻防戦があり、けれど負けた。
でもな、撤退の途中で生き残りの学徒兵にこう言われたんだ。
『あなた方のおかげで僕らは研究の成果、大切な資料と安全地帯に戻ることができます。
ありがとうございました。』
俺はそれで思ったんだ。俺らはリールを落としてしまった。けど軍人だって事をな。護るべきものがいる。だから俺らは戦うんだってことも。
※
「俺らは護るべきものがいるだから俺は戦える。」
そう言って彼は話を締めくくった。
その時であった。
「な、何なんだよ……あんなの」
機関銃座に着いていたヴィルフリートの悲愴とも言える叫び声が聞こえた。
ヴィルが見たのは勘が良い人なら分かりますね、多分
更新はいつになるものか……今年中に書き上げなければ。